【ビッグデータとオフィス】データの収集・活用を自動で行う「コグニティブビルディング」の実現に向けて
ビッグデータをオフィスに活用する建物が少しずつ増える中、データを基に「自動で」環境を整える建物がすでに生まれようとしている。「コグニティブビルディング」と呼ばれるその建物実現までの取り組みを事例と共に紹介する。
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前編に続く、オフィスにおけるビッグデータの活用方法。データを基に人的にオフィスの改善を行う企業はこれまでも存在してきたが、ついにオフィス自体が自動的にオフィス環境を整える時代がやってきた。まるで人間のように考え動く「コグニティブビルディング」誕生に向けて取り組みを進める、Deloitte本社”The Edge”とオーストラリアのモナシュ大学の事例を本記事で紹介する。
スマートビルで世界を牽引するDeloitte本社
写真はRonald Tilleman
オランダ・アムステルダムにあるDeloitteの本社、The Edgeは「世界で最も自然に優しい建物」として、持続可能性における世界最高評価を獲得している。自然光をできる限り多く取り入れるデザインやソーラーパネルの活用、その他の数多くの工夫が施されたことで従来消費されていた電力の70%を抑制できているとのこと。エネルギー効率が高い、地球に優しい設計が世界で認められている。
また、この建物は最先端テクノロジーを駆使した「世界で最もスマートなオフィス」としても有名。約28,000ものセンサーを使い、15階延べ430,000ft²(約131064㎡)もある全オフィスの室内環境を徹底的に管理する。このオフィス用に開発された専用アプリを活用することで、社員は室温や照明の好みを事前に登録することが可能。あとは建物内のどこで仕事をしても、その登録内容に従って建物内のデバイスが環境の自動調節を行ってくれる。
さらに建物内センサーは従業員の居場所を把握し、広いオフィスビルの中でもどこに同僚がいるかすぐに教えてくれる。このシステムに活用されているのが、NBBJのヒューマン・エクスペリエンス・ツールキットだ。
NBBJが開発したヒューマン・エクスペリエンス・キット(ソースはNBBJ)
NBBJが進めるデータドリブンデザインとは
前編で紹介したWeWorkは、世界中で運営する数多くのスペースでデザインを施せる立場から、CASEとの協業を通じて豊富なデータを収集した上でデザインをブラッシュアップすることが可能だった。それに比べ、多くのオフィスデザイナーやデザイン事務所はデータ収集・分析を簡単には行えない環境にある。そこでビルディングデザインの評価を行うために自社独自のソフトウェア・アルゴリズムを開発したのが、世界的建築事務所のNBBJ Architectだ。
「建築家は最高の体験を提供するのに手間を惜しまない」こう語るのはNBBJのプロダクトマネージャーでデザイン・コンピューテーション・リーダーを務めるMarc Syp氏。彼はビッグデータの活用について「どのデザインが効果的なのか、何か測れる形で見せることができる。つまり、ただ『デザインする』というよりかは、『証明する』ということだ。実際にユーザーとなる人々のためのデザインをする時に役立つものである」と話す。
彼が社内ツールとしてデザインした「ヒューマン・エクスペリエンス・ツールキット」はデータのビジュアライズ化、そして分析を行う。同社建築家がデータを基にしたフロアプランの評価を行えるようにするだけでなく、自然光や動線、キッチンまでの距離等ありとあらゆる要素から新たなフロアプランを生成することも可能にする。まさに建築家にデータの力を与えるツールだ。
彼らのリサーチによると、室内の可視性、特に従業員1人が自分のデスクから他に何人の社員が目に入るか、そして自身の周りの25ft(約7.6m)の距離内でどれくらい広々としたスペースを見渡せるかという要素は人のつながりやコラボレーションを生み出す環境作りに影響するという。NBBJの建築士はツールキットを使ってスペース内の可視性を最大限に維持し、社員の交流が生まれるオフィス作りに向けたデザイン設計を行っている。同社ツールキットは、オフィスデザインにただ形や見た目だけでなく、ユーザー向けに「最良の体験」を与えられるようにするものなのだ。
Deloitteで使われているデータダッシュボード。「投資対効果が10年以内で得られるものは試す価値がある」という同社のフィロソフィーの下、システム導入も積極的に行ったという。
スペース毎の室温をビジュアライズ化している。社員の好みの室温に合わせ、おすすめのスペースを紹介する機能も付いているとのこと。(画像はDeloitte・Bloombergより)
NBBJのツールキットが作った実績
Deloitteではこのツールキットの導入により、最新の地理的そして生理学的なリサーチを基にフロアプラン評価が常に行われているという。アクションが取れるリアルタイムフィードバック機能は、最適なオフィス環境の整備に欠かせないものになりつつある。
NBBJ開発のツールキットを使い、実際にThe Edgeのデザインを担当したPLP Architectureのパートナー、Andrei Martin氏は語る。「オフィスワーカーにとって、彼らが重要視する居心地の良さや、できる限り効率よく仕事できる環境がある限り、オフィスの形状や作りは問題ではない」。実際に、従来の企業が全体フロアスペースのおよそ10%を共有エリアにしているところを、The Edgeではおよそ25%のスペースを、カフェやミーティングルーム等のコミュニティスペースに利用した。そのため全部で2,500人ほどいる社員に対し、個人デスクスペースは1,000人分しか確保されていない。社員へのアンケートや実際の働き方から得た豊富なデータを基にデザインを行った結果だ。
「Deloitteの希望は社員をオフィスに戻って来させることだった。」Martinが話す通り、実際にDeloitteはThe Edge建設後、オフィスで働く社員だけでなく、入社希望者を増やした。人々の新たなインタラクションとコラボレーションを促すことを目的に、データで裏付けしたオフィスデザインは着々とその結果を残している。
オーストラリア・モナシュ大学がついに「コグニティブビルディング」の建設へ
そして今、オーストラリアの名門大学であるモナシュ大学が包括的に室内環境の自動調整を行う建物の建設に向けて動き出した。建物へのシステム導入・管理を行うHoneywell Building Solutionsと先月5月14日に提携したと発表したのだ。
モナシュ大学はオーストラリア最大の大学であり、78,000人以上の学生と16,000人以上の大学教職員用を抱え、国内4つのキャンパスに150以上の建物を持つ。これらの建物の維持には当然膨大なエネルギーを消費してしまっている。同大学IT学部長のJon Whittle教授は「モナシュ大学のチームはHoneywellと協力することで、ビルディングパフォーマンスデータを分析し、様々なリスクを抑えながら、事業継続性を高め、オペレーションコストを減らすことにつなげられるだろう」と期待を膨らませている。
同大学は今後メルボルン近郊にあるクレイトンのキャンパスで、スマートフォンを通じてユーザーからデータを収集できるシステムを導入予定。学生や教職員によるキャンパスの各建物やスペースへのフィードバックの他に、どのような経路や動線でキャンパス内の移動が行われているか、問題点や改善点はないか、さらに報告や建物がいつどれくらいの頻度で使われたのか、ありとあらゆるデータを収集できるようにする。こうして建物とそのユーザーから集められたデータは、今までにない新たなレベルで大学の利用最適化を実現すると見られている。
データはキャンパス内の一部屋に設けられた、Honeywellのシステムが設置される”Future Control Room”に集められた上でビジュアライズ化される。エネルギー消費を抑え、かつ施設・セキュリティ管理機能を高めながら、ビルディングオペレーションチームに心地よい環境づくりを促すように情報を提供する。そしてキャンパスが自動的に施設環境を整えるシステムを将来的に構築する仕組みだ。
モナシュ大学は2030年までにエネルギーの自給自足を通じて二酸化炭素排出を減らす『Monash University Net Zero Initiative』を掲げている。今回の「データで自動制御されたキャンパス」の取り組みを通じて、その達成を目指しているところだ。
まとめ
オフィスへビッグデータを活用することの重要性は徐々に理解されつつも、それを行動に移す企業はまだほんの一握り。しかし、積極的に活用を進める企業や団体は次々にデータを集め、より良い環境作りのための活用を行っている。気付いた時には取り残されている企業もひょっとしたら近いうちに多く出てくるのではないだろうか。
今回の事例もビッグデータ活用のほんの一部だが、世界的に似たようなプロジェクトが進んでいるのは確か。ぜひこの記事が参考になれば幸いである。
<参考記事>
Office 2.0: Big Data is changing the design of our workplaces
The Architecture Firm Behind “World’s Smartest Building” Wants to Design Your Office
The Smartest Building in the World – Inside the connected future of architecture By Tom Randall (Sept. 23, 2015)
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