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男性が多い業界の「ジェンダー平等」- 女性の活躍を後押しする社内の意識改革

ジェンダー平等の実現が進まない日本。本記事では、男性が多いとされる第二次産業でジェンダー平等の意識改革にアプローチし、女性の活躍を推進している企業の取り組みを紹介する。

法改正で期待されるジェンダー平等の推進

企業経営においても注目されるSDGs(持続可能な開発目標)の目標5に、「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられている。しかし、既存記事「企業はジェンダー格差の問題にどう取り組む? 国内企業の先行事例」でも伝えている通り、日本における女性の社会進出は他の先進国に遅れをとっているのが現状だ。

2015年8月、女性が個性や能力を十分に発揮できる社会の実現を目指した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が成立した。この法律では、事業主に対して、女性の活躍状況の把握と課題の分析、具体的な数値目標を盛り込んだ行動計画の策定と公表を義務付けている。

2022年4月より、女性活躍推進法の適応範囲が「301人以上の企業」から「101人以上の企業」へと拡大される。それに伴い、今後、ジェンダー平等を含むダイバーシティ推進の取り組みが大きく加速することが期待されている。本記事では、なかでも男性の割合が高いとされる第二次産業に注目し、女性活躍推進に関わる企業の取り組みを紹介する。

ジェンダー平等の実現には、社内の「意識改革」が不可欠

男性の多い業界でジェンダー平等を実現するためには、人数の少ない女性従業員の立場を押し上げる必要があり、女性活躍推進への取り組みが不可欠となる。では、企業における実情はどうだろうか。

BIGLOBE株式会社が2021年9月に、全国の20代~60代の男女1000人を対象に行った「人権とジェンダー平等に関する意識調査」では、「日常生活でジェンダーによる差別や偏見を感じることがあるか」という質問に対し、5.8%が「よくある」、23.2%が「時々ある」と回答。そう答えた290人のうち、「職場で重要な/責任ある仕事をする機会」にジェンダーによる差別や偏見を感じると回答したのは男性が25.7%、女性が19.2%となり、「職場での重要な/責任ある役職に就く機会」においてそう感じるのは、男性26.4%、女性15.8%となった。実は男性のほうが、重要な仕事をする、あるいは重要な役職に就く機会に、ジェンダーによる差別や偏見を感じている状況が読み取れる。

​​また、公益財団法人21世紀職業財団の「男女正社員対象 ダイバーシティ推進状況調査(2020年度)」においても、「重要な仕事は男性と女性どちらが担当することが多いと思いますか」との質問に対して、総合職では、男女とも半数以上が「男性が担当することが多い」と感じていることが示された。

例えば、上司が女性と家庭を強く結び付けたイメージを持っている場合、女性に責任ある仕事を意図的に割り振らないケースも起こり得る。ジェンダー平等の実現に向けては、上司をはじめとする従業員全体の意識改革が不可欠であろう。

「なでしこ銘柄」選定企業に見る、女性活躍推進の取り組み

なでしこ銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で、女性の活躍推進に優れた上場企業を選定し、発表するものだ。2012年より実施されており、魅力ある銘柄として紹介することで企業への投資を促すとともに、女性活躍推進の取り組みを加速化することを狙いとしている。

選定は、東京証券取引所の「女性活躍度調査」をもとに行われる。一定のスクリーニング基準を通過した企業を対象に、女性活躍推進に関する採点基準に沿って評価し、「なでしこ銘柄」「準なでしこ銘柄」を発表。あわせて、女性活躍度調査に対する回答に基づき、特徴的な取り組みを行っている企業を「注目企業」として選出している。

2021年度の調査より、既存質問である「各職階の女性比率」に加え、「昇進における男女比率」を測る項目を新たに設定。調査のみで採点の対象外ではあるが、女性の役職者への登用を強化していきたい意向がうかがえる。

ここでは、「なでしこ銘柄」に選定された企業のなかから、社内の意識改革を推し進める3社の取り組みを紹介する。   

1.電気・ガス業:東京ガス株式会社

東京ガスは、その積極的な取り組みから、5年連続で「なでしこ銘柄」に選定されている。同社では、女性の活躍推進をダイバーシティ&インクルージョンの端緒として位置付け、「女性の活躍推進に関するアクションプラン​​」を策定。「2025年度の女性管理職比率11%以上」と「男女ともに仕事と育児の両立に関する制度利用率100%」を目標に、女性のキャリア開発支援やメンター制度の利用促進、柔軟な働き方の推進などを行っている。

なかでも女性のキャリア開発支援については、20代女性を対象とした「女性キャリアセミナー」や、育児休職から復職する前に受けられる「復職者セミナー」、復職から一定期間が経った社員を対象とした「復職後セミナー」といった多彩な学びの機会を創出。さらに、「育児期の部下を持つ上司セミナー」なども開催し、従業員の意識醸成や組織の風土づくりに努めている。

こうした取り組みの結果、2011年に4.6%だった女性管理職比率が、2021年には 9.2%と10年間で倍増。厚生労働省の「​​産業別女性管理職割合」​​における同業​​の平均と比較しても、2倍に近い数字となっている。また、育児休職取得者は男女ともに100%の復職率を実現している。

2.機械業:ダイキン工業株式会社

ダイキン工業では、「人を基軸におく経営」を掲げ、ダイバーシティを推進している。女性活躍推進に向けた本格的な取り組みは、2011年に発足した経営トップ直轄の「女性活躍推進プロジェクト」に始まる。当時、同社の女性基幹職比率が製造業の平均を下回る状況であったことがきっかけとなった。

プロジェクト発足後は、基幹職に対し、性別にかかわらず意欲のある人材には「期待を示して厳しく鍛える」「育児休暇復帰後の仕事の渡し方に遠慮しない」など、ジェンダー平等の観点をもって人材育成を行うよう求めてきた。7年連続の「なでしこ銘柄」選定は、こうした取り組みの成果と言えるだろう。

同社では、男女の違いや行動特性から浮かび上がる課題を洗い出し、それを踏まえたうえでの意識改革を行っている。具体的な取り組みとしては、女性に特化した育成課題を理解し、女性部下の育成・登用を行うマネジメントを身に付ける研修の実施や、男性の基幹職・リーダーを対象とした意識改革のための講演会を開催している。

​​女性基幹職の育成においては、女性を計画的に育成して管理職に登用する「女性フィーダー(育成)ポジション」を設置。さらに、部門を超えて先輩にキャリア相談ができる「メンター制度」の導入や、大阪大学などと共催する女性研究者・技術者の育成プロジェクト「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業」の実施などの取り組みを行っている。

3.建設業:住友林業株式会社

住友林業の女性活躍推進への取り組みは、全女性従業員を対象とした「女性社員意識アンケート」から始まっている。2013年に、社長自ら「女性活躍推進宣言」を全グループに向けて発信。同宣言では、女性が働きやすい環境を創出する、女性ならではの発想力を活かす、女性の活躍で新たなイノベーションを創り出す、という3つの軸を掲げている。

また、社内の意識改革を目的に、「女性部下を持つ管理職研修」を実施してジェンダーによる役割分担意識を払拭し、ダイバーシティ推進への理解を深める機会を創出。さらに、​​「メンター制度」を導入し、部長クラスの管理職をメンター(指導者)、女性の管理職や管理職候補の従業員をメンティ(被指導者)として、キャリアアップ支援を行っている。

女性が働きやすい環境づくりとしては、フレキシブルな働き方の整備とともに、キャリア形成のモチベーションアップにつながる取り組みを展開。2020年には、若手女性従業員向けのイベント「Women’s Conference 2020」を開催した。ロールモデルとなる女性役員や女性管理職の話を聞き、参加者同士がディスカッションすることで、長期的なキャリア形成への意識を高める機会となっている。

中小企業における取り組み

冒頭で触れた通り、女性活躍推進法の改正により、2022年4月からは労働者101人以上の事業主にも、女性の活躍に向けた行動計画の策定・届出などが義務化される。これを受け、中小企業においても、休職・退職者の職場復帰やキャリア形成支援などの女性活躍推進に向けた取り組みが広がっている。

中小企業で積極的な施策を進める企業として、高周波誘導加熱装置の設計・製造・販売​​、誘導加熱の受託加工​​を行う富士電子工業株式会社があげられる。ダイバーシティ経営を推進する取り組みが評価され、同社は2016年に経済産業省より「新・ダイバーシティ経営企業100選」の表彰を受けている。

かつては女性が男性の補助的な業務を担当するなど、男性中心の社内慣習も多かったという。3代目の社長に就任した渡邊弘子氏は、ダイバーシティ経営に舵を切るべく「企画室」を新設。企画室には女性や外国人従業員を配置し、課題となっていた海外顧客への対応や人材育成に注力した。

また、渡邊氏自身の経験も踏まえて、育児や介護などがハンディにならないように、短時間勤務制度の導入をはじめとするフレキシブルな勤務体制を整備。女性の平均勤続年数を5年で約1.4倍に伸ばすことに成功した。

社内の意識改革のための取り組みとして、外部から講師を招き、管理職と管理職前段階の従業員に対する研修を継続的に行っている。さらに、離職者の退職理由に「上司とうまくいかなかった」という意見が多かったことを受け、「倫理委員会」を設置するなど、きめ細やかな取り組みも実施している。

ジェンダー平等からダイバーシティの推進へ

これからの企業経営には規模の大小にかかわらず、ジェンダー平等、女性活躍推進、さらにはダイバーシティ経営へと、多種多様な人材が活躍できるフレキシブルな職場形成が求められる。

男性の多い業界において、こうした取り組みを実現するためには、社内の意識改革から着手し、段階的にステップを踏んでいく必要があるだろう。今回事例としてあげた企業では、女性を含む多様な人材が働きやすい環境を整備するとともに、キャリア形成に向けた育成や支援を充実させたことが着実な成果につながっている。こうした企業の経営努力によって、今後も多くの女性管理職や経営者のロールモデルが誕生すれば、さらなる女性活躍とダイバーシティ推進が期待できるだろう。

この記事を書いた人:Kaori Isogawa