テレワーク拡大で進む「都市型・郊外型サテライトオフィス」の導入と活用事例
コロナ禍のテレワーク拡大でオフィスのあり方が見直される中、サテライトオフィスのニーズが高まってきている。そこで都市型・郊外型に焦点を絞り、市場動向や導入事例を紹介する。
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コロナ禍でさらに広がる、サテライトオフィスの活用
パンデミックによるテレワークの拡大を経て、オフィスのあり方が再考されている。2020年5月の緊急事態宣言解除後に出勤を再開した企業は少なくないが、出社に伴う感染リスクも懸念される。その一方、自宅のみのテレワークで生じる課題も顕在化してきている。
そうした背景から、自社の施設内に、他事業所に所属する社員が立ち寄ったり、グループ企業に勤める社員が利用したりできるサテライトオフィスを設けるほか、フレキシブルオフィスを提供する事業者と契約し、サテライトオフィスとして社員が使えるようにするなどのケースが増えているという。フレキシブルオフィスとは、コワーキングスペースやシェアオフィスなど、よりフレキシブル(柔軟)な働き方を実現するワークプレイスのこと。コロナ禍がそのニーズを後押ししているとされている。
本記事では、サテライトオフィスの一般的な定義についておさえたうえで、都市型・郊外型サテライトオフィスに焦点を絞り、その市場動向や実際の導入事例を紹介する。
サテライトオフィスとは
1. サテライトオフィスの定義
総務省は、地方での雇用や新たな働き方の創出を推進するため、「お試しサテライトオフィス」事業に取り組んでいる。同事業を紹介するウェブサイトでは、サテライトオフィスについて、「企業または団体の本拠から離れた所に設置されたオフィス」と定義している。
この定義に沿うと、支社・支店・営業所などもサテライトオフィスに含まれることになるが、それらが「その地域を担当する部署のオフィス」であるのに対し、サテライトオフィスはそうした機能に限定されない。多くの場合、「本拠で行う仕事を別の場所でもできるように環境を整えたオフィス」という意味合いを持つ。
2. サテライトオフィスの分類
サテライトオフィスは、設置する地域により、「都市型」、「郊外型」、「地方型」の3つに大きく分けられる。
(1) 都市型
文字通り、都市に設置されたサテライトオフィスを指す。営業社員などによる出先での利用や、社内外の交流による新規事業創出などを目的としている。
(2) 郊外型
都市にオフィスがある企業の社員が自宅近くで仕事ができる、いわゆる「職住近接」を主な目的とする。郊外の鉄道駅近くに設置されることが多い。
(3) 地方型
都市部に本社をおく企業が、地方にサテライトオフィスを設けるパターン。地方型のサテライトオフィスは、近年、総務省が補助金などの施策で力を入れている。
都市型・郊外型サテライトオフィスの動向
1. コロナ禍が後押しするサテライトオフィスの新設・拡大
コロナ禍のテレワークに対応するため、大都市に拠点をおく企業が都市型および郊外型サテライトオフィスを新設・拡大する事例は少なくない。
株式会社ザイマックス不動産総合研究所が2020年8月に首都圏の企業1,372社を対象に実施した調査では、サテライトオフィスの導入状況について、「コロナ危機発生以前から導入していた」(26.6%)、「コロナ危機発生以前から導入しており、コロナを機に強化・拡大」(6.8%)、「コロナを機に導入し、現在も継続中」(8.7%)と、すでに導入している企業が4割を超える結果となった。
また、2020年6月に東京都が都内企業を対象に行った「テレワークの導入に関する実態調査」(回答数2,034社)によると、テレワークを「継続・拡大したい」と考える企業は40.6%、「継続したいが、拡大は考えていない」企業が39.8%と、継続の意向を持つ企業が8割を超えた。さらに、テレワークの定着・拡大のために必要なこととして、「サテライトオフィスなど自宅以外の場所でテレワークができる環境」と回答した割合が46.9%に及んでいる。
また、シービーアールイー株式会社のレポートによれば、フレキシブルオフィス市場は拡大傾向にあるという。野村不動産株式会社や三井不動産株式会社など、都市部を中心に展開する「法人向けサテライトオフィスサービス」の新規拠点開設の発表が続いていることからも、都市型・郊外型サテライトオフィスの利用が拡大している様子がうかがえる。
2. 今後予想される動き
前述のザイマックス不動産総合研究所の調査では、コロナ危機収束後の働き方とワークプレイスの方向性を問う項目に対し、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」と回答した企業が54.1%と最多で、半数を超える結果となった。
さらに、2020年11月に同社がまとめた『首都圏オフィスワーカー調査 2020』では、サテライトオフィスでテレワークを行っている割合は2019年の5.5%から15.3%へと上昇。また、コロナ危機収束後に希望する施策として、サテライトオフィス勤務をあげた割合は35.4%に及び、重視する条件を「自宅から近い」とする割合は63.1%となった。
新型コロナウイルス感染症の収束時期が予想できない中、カフェなどのパブリックスペースでテレワークを行うことによる情報漏洩リスクが取り沙汰されていることもあり、 社員の要望に応えるためにも都市型・郊外型のサテライトオフィス活用は今後さらに広まっていくと思われる。
企業における都市型・郊外型サテライトオフィスの活用事例
では、実際に各企業はどのような形でサテライトオフィスを活用しているのだろうか。さまざまな取り組みの中から、以下の3社の事例を紹介しておきたい。
1. 富士通株式会社
富士通は、2016年6月、従業員の声に応じる形で本社内に他事業所からの「出張者向けサテライトオフィス」を新設。2017年4月のテレワーク勤務制度の導入に伴い、複数の事業所内にサテライトオフィスを設置した。2018年2月からは、社外のコワーキングスペースやシェアオフィスの利用も開始している。
2020年7月には、「Work Life Shift」と命名した新たな働き方の推進を発表。国内グループ従業員約8万人の勤務形態はテレワークを基本とし、オフィスのあり方も見直していく。
2021年9月までにサテライトオフィスのスペースを拡張し、インフラ環境も整備する予定だ。
同じ電機業界では、株式会社東芝もコロナ禍による在宅勤務の拡大を受けて契約事業者を増やし、サテライトオフィスの拠点を従来の倍にあたる約180カ所に増やしたことが報じられている。
2. 味の素株式会社
味の素では、2017年4月より全従業員を対象に、セキュリティが確保され集中できる場所であればどこでも勤務できる「どこでもオフィス」制度を導入。自社の事業所内に11拠点、社宅に2拠点サテライトオフィスを設置したほか、サテライトオフィス業者と契約して全国約140 拠点の利用を可能にしている(2018年3月時点)。
2020年7月には、テレワークの日数制限を撤廃。サテライトオフィスにはWeb会議が可能なスペースもあり、今後も柔軟な働き方を推進していくという。
食品製造販売業では、キリンホールディングス株式会社が、2020年9月1日より首都圏を中心にシェアオフィスを本格導入することを発表。営業担当者が立ち寄って内勤業務を行うほか、内勤者も利用できるとしている。
3. 株式会社みずほフィナンシャルグループほか
株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社みずほ銀行、みずほ信託銀行株式会社、みずほ証券株式会社では、本社勤務の社員25%がリモートワークを行う体制を継続することを発表している。これに伴い、支店の空きスペースをサテライトオフィスとして活用できるよう整備するとのこと。
まずは2020年度中に首都圏9店舗で実施し、今度さらに拡大していく。ワークプレイスを整えることで、社員が自ら働き方をデザインするスタイルを後押ししたい考えだ。
都市銀行では、株式会社三井住友銀行や株式会社りそな銀行も、店舗の遊休スペースなどを活用してサテライトオフィスを設置している。また、2020年9月28日付けの日本経済新聞では、これら2行が「支店のレイアウトを見直し、捻出したスペースでサテライトオフィスを順次設ける方針」であることが報じられている。
サテライトオフィスの有効活用には、役割の明確化が重要
新型コロナウイルスの感染防止に限らず、多様化する働き方への対応や自然災害発生時のBCP(事業継続計画)などの観点においても、オフィスの分散にはメリットがある。
国や自治体のサテライトオフィス推進施策は地方創生関連のものが話題になりがちだが、厚生労働省は首都圏・近畿圏・中京圏でもサテライトオフィス事業を実施している。また、東京都は、都内の市町村部でサテライトオフィスを新設・運営する企業に対し、最大で2,000万円(保育所併設などの条件を満たす場合は2,250万円)を補助。2020年11月のテレワーク月間に合わせてサテライトオフィス利用の実証事業を行うなど、都市型・郊外型サテライトオフィスの活用を推進する動きも見られる。
サテライトオフィスを有効に活用するには、メインオフィス・サテライトオフィスそれぞれの役割を明確にすることが重要であり、それによりサテライトオフィスのデザインや外部サービスの選択も変わってくる。遊休不動産・スペースの活用の観点からも、今後も動向に注目していきたい。