コロナ禍のオフィス動向。「縮小」が多数派の一方で「拡張」する動きも
テレワーク普及などの影響でオフィス縮小を考える企業が多数ある一方、オフィスを拡張する動きも見られる。コロナ禍のオフィス市況を概観しつつ、縮小・拡張それぞれの事例を紹介する。
Facility
空室率UPに賃料DOWN、オフィス市況に陰り
オフィス市況は今、転機を迎えている。コロナ以前の日本国内では、都心を中心にオフィス物件のニーズが活況を呈していたが、その動きは反転しつつあり、解約や縮小移転に踏み切る企業も現れはじめた。
オフィスビル仲介大手の三鬼商事の調査によると、右肩下がりだった東京都心の5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の平均空室率は、2020年2月の1.49%を境に9カ月連続で上昇。2020年11月時点の平均空室率は4.33%と、高い割合を示した。
また、緊急事態宣言後も依然として緩やかな上昇傾向にあった都心部の賃料は、2020年7月の23,014円/坪をピークに下降へ転じ、11月時点で22,223円/坪と4か月連続で下落している。地方都市の変動は緩やかであるものの、やはりオフィス需要には総じて低下傾向が見られる。
テレワークの普及などにより、「オフィス縮小」が多数派に
コロナ以前は、多様な機能を集積したオフィスがトレンドの一つでもあった。従業員一人ひとりにデスクを割り当てた執務空間や、大小のミーティングルーム、「企業の顔」を表すエントランスデザイン、社員間の交流を育むラウンジスペース。工夫を凝らした仕様が、個人の作業効率を高め、チームワークを育み、ブランディングに寄与し、企業文化の醸成にも貢献してきた。
こうした機能集積型のオフィスを志向すると、床面積は当然大きくなる。実際に、ジョーンズ ラング ラサール株式会社は、2018年1月から2020年3月にかけて収集した移転事例の集計で、オフィス移転の理由として「業務効率化」「拡張」「集約・統合」が上位を占めたことを示し、「床面積の拡大」こそオフィス戦略の主流であったと語っている。
一方、株式会社ザイマックス不動産総合研究所が取引先企業に対して行った調査で、ワークプレイスについて現在取り組んでいる項目を尋ねたところ、「オフィス面積縮小(減床、移転、分室解約等)の検討」(21.8%)が、「オフィス面積拡張(増床、移転、分室開設等)の検討」(3.1%)を大きく上回ったことが明らかになっている。縮小の理由として、「テレワークによる必要面積の減少」(85.2%)が最も多く、「オフィスコスト削減」(74.2%)、「レイアウトの見直し(オフィススペース効率化)」(39.8%)がそれに続いた。
オフィス縮小を進める企業の事例
国外に目を移しても、やはり縮小化の動きが見られる。そもそも欧米ではコロナ以前からテレワークの普及が進んでおり、パンデミックが縮小傾向をさらに後押ししたとも言えるだろう。
実際に、会計・経営コンサルティング会社のKPMGが公表した調査結果でも、企業のCEO(最高経営責任者)315人のうち70%近くが、今後オフィスの縮小を想定していると答えている。英国でもその傾向は強く、アキュムレート・キャピタルの調査では、決定権者の73%が「来年1年間で多くの企業がオフィスを縮小する」と考えていることが報告されている。
では、日本国内ではどのようにしてオフィス縮小が進められているのだろうか。2社の事例から具体的な取り組みを紹介したい。
1. 富士通株式会社
2017年よりテレワーク制度を正式に導入した富士通は、コロナ禍での出勤率を最大25%程度に抑える働き方を目指すなど、ドラスティックな取り組みで注目を集めている。2020年7月には、新たな働き方「Work Life Shift」の推進を発表。従業員が自由に働く場所を選択できる勤務形態を整え、全席をフリーアドレス化することで、2022年度末までにオフィス面積を現状の50%程度に最適化することを明らかにしている。
2. 株式会社コロプラ
コロプラは、2020年8月に行われた決算説明会で、11月までにオフィス規模を約60%に縮小することを発表。Web会議などに利用できる1人用の個室ブースを5カ所に設置し、在宅勤務者向けに「Amazonビジネス」の利用を開始するなど、新しい働き方に向けたハード面の最適化をいち早く進めた。
また、感染拡大に備え、全従業員が在宅勤務を行う「ZZ(ゼット・ゼット)プロジェクト」を導入。全社在宅勤務の終了後に実施したアンケートでは、回答者の88%から「滞りなく業務ができた」との感想が寄せられたという。
オフィス拡張に動く企業が求めるものは?
前出の調査でオフィス拡張の理由としてあがったのは、「ソーシャルディスタンスの確保」(61.1%)が最も多く、次いで「人員増加への対応」(44.4%)、「快適性向上」(33.3%)であった。海外ではAmazonが3,500人の雇用を創出するため、米国内のオフィス6カ所(ダラス、デトロイト、デンバー、ニューヨーク、フェニックス、サンディエゴ)の拡大に14億ドルを投じることを明らかにしている。これは、ポストコロナを見据えた動きと言えるだろう。
また、Facebookは在宅勤務制度を拡大し、コロナ収束後も従業員の半分は在宅勤務になるとの予測を立てながらも、ニューヨークで大規模なオフィスの賃貸契約を結んでいる。一見矛盾しているようにも思えるが、こうした在宅型と出社型のどちらも選択できる「ハイブリット型」への移行を進める動きは、GoogleなどのIT系企業を中心に見られる。
一方、日本国内でも、少数派ながらオフィス拡大を進める企業はある。その中から、2社の事例を紹介しておきたい。
1. 株式会社Legaseed
人材コンサルティング会社のLegaseed(レガシード)は、2020年9月にあえて本社を拡大移転。新オフィスを通して発信するのは「オフィスの∞(無限)の可能性」というコンセプトであり、オフィスの構造も「∞」を表現している。
Legaseedの新オフィス(画像はLegaseedのプレスリリースより)
コロナ禍で全社員がリモートワークに移行した中、オフィスのグレードを落とすことも検討した同社であったが、同時にオフィスのメリットも強く感じたという。そうした経験を踏まえて完成した新オフィスは、ただ仕事をするのではなく、訪れた人に希望やインスピレーションを与える場となるよう、初めて見る人を驚かせる仕掛けが随所に施されている。洞窟やオアシス、水の流れるカウンターバー、オンラインイベント用のスタジオ、会員制のラウンジなど、新しい発想で生み出された空間は、多機能集積型オフィスの進化版とも言えるだろう。
2. 株式会社10X
ネットスーパーの立ち上げ支援を行う10X(テンエックス)は、2020年11月、以前の3倍の面積を持つ新オフィスへの移転を発表した。
10Xの新オフィス(画像は10Xのプレスリリースより)
今後の事業・組織の拡大を見越しての増床だが、10Xも春先に一度縮小を検討し、その後一転して拡大へ踏み切っている。パンデミックを機にリモートワークに移行し、そのメリットを感じる一方で、「同じ場所で働くことによるインタラクションの速さ」や「雑談から生まれるアイデアの重要性」など、オフィスならではの価値を再認識しての決断だった。
リモートとオフィスの価値が共存するオフィスを目指しており、週1回原則出社の「オフィスデー」を設けることで、社内コミュニケーションの活性化も図っている。
縮小と拡張、それぞれに企業の経営戦略が垣間見える
今後のオフィス動向を見通す上でひとつの参考材料となるのが、渋谷区のオフィス市況である。渋谷区は、IT企業を中心に有力なスタートアップ企業が集まるエリアであり、景気変動の影響を受けた意思決定のスピードも早い。実際、平均賃料は4月から下落傾向にあり、渋谷のオフィスバブル崩壊の兆しを報じる記事を目にすることもある。
その一方、オフィス拡張を進める企業では、ハイブリッド型のオフィス運営を視野に入れた動きも見受けられる。パンデミックという特殊な環境下で、各企業が自社オフィスについてどのような展開を考えるか、そこにその企業の長期的な経営戦略が垣間見え、今後も注視したいところだ。
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