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ウィズコロナ時代の新様式。「キャンプ」を活用したワークプレイス、ワーケーション事例

近年、日本国内でキャンプ熱が高まっており、キャンプの要素をワークプレイスにも取り入れる動きが見られている。今回は4つの事例に注目し、活用法や期待されるメリットを紹介する。

コロナ禍でアメリカのキャンプ市場が急拡大

アメリカの市場調査会社・NPDグループが2020年8月に発表したレポートによると、アメリカにおけるキャンプ用品の6月の売上高は、前年の同時期と比べて31%増加したという。新型コロナウイルスの感染拡大で外出が制限されるなか、自宅の庭などにテントを張って屋外で時間を過ごす人が多かったことがその理由としてあげられている。

アメリカはもともとキャンプが盛んな国で、アウトドアを積極的に楽しむ文化的土壌が整っている。コロナ禍でソーシャルディスタンスを確保できるキャンプが注目がされたのは、必然とも言えるだろう。

日本国内でも高まるキャンプ熱

日本においても、近年、キャンプ人口は増加傾向にある。株式会社矢野経済研究所が2020年6月~8月、国内アウトドア用品メーカーや卸売業、小売業などを対象に実施した調査によると、2019年の国内アウトドア市場規模は、販売金額ベースで前年比103.2%の5169億4000万円と推計されている。なかでも、キャンプが属するライトアウトドア分野の伸びが堅調だ。

アウトドア市場スタイル分野別市場規模推移(画像は株式会社矢野経済研究所のプレスリリースより)

同研究所は、ソロキャンパーが増加するなど、キャンプが多様な楽しみ方のできる「古くて新しいレジャー」として再認識されていると指摘。2020年3月以降、感染拡大の影響が不安視されるなかでもキャンプは引き続き注目されており、「野外」「家族」「一人」など、感染リスクが低いとされるキーワードがすべて入っている数少ないレジャーであると伝えている。今後についても、感染拡大の状況で一時的にマイナス成長へ転じることはあっても、数年は堅調な伸びを示す見通しを明らかにした。

一般社団法人日本オートキャンプ協会が発行した「オートキャンプ白書2021」を見ても、1年間で1回以上キャンプをした人の数(オートキャンプ人口)は、2019年まで7年連続で増加している。コロナ禍の自粛などの影響を受け、2020年の国内旅行の延べ旅行者数は前年と比べて半減した一方で、オートキャンプ人口は30%減に留まっており、依然として注目されている様子がうかがえる。

キャンプの要素を取り入れたワークプレイス、ワーケーション事例

そうしたなか、最近ではワークプレイスにキャンプの要素を取り入れたり、ワーケーションにキャンプを活用したりする動きも見られている。ここでは、4つの事例をもとに新たなアイデアを探ってみたい。

1.キャンプ場をサテライトオフィスにする「Office to go パーソナル」

キャンプ場の企画・運営を手掛ける株式会社Recampは、全施設でのポータブル電源とポケットWi-Fiの提供を可能にし、キャンプ場内に「働く」環境を整備。オフィスをキャンプ場に持ち出すことを提案する、アウトドアサテライトオフィスサービス「Office to go パーソナル」を開始した。

RECAMPしょうなんでのテレワークの様子(画像はRecampのプレスリリースより)

同社は、キャンプ場という非日常空間で「働く」ことにより、新たな発見が生まれる、オープンな雰囲気で自由に意見交換ができる、自然のなかで気分転換することで集中の質が上がるなど、様々な好循環が生まれるとしている。

サービスの開始に先駆け、2020年7月に「RECAMPおだわら」(神奈川県小田原市)と「RECAMPしょうなん」(千葉県柏市)で行われた個人向けテレワークプランのトライアルでは、「また利用したいと思いますか?」の問いに利用客の87%が「ぜひ利用したい/利用したい」と答えている。また、キャンプ場だから仕事がしにくいことは特になかったようで、「自然のなかでリラックスしながら仕事をすることができた」「次回は、同僚・チームメンバーなど複数人で体験したいと思った」などの感想が寄せられたという。

2.ビジネス利用に特化した「ムービングオフィスカー」

キャンピングカーのレンタル事業を行うキャンピングカー株式会社は、ビジネス利用に特化したオリジナル車両「ロビンソン V95」を開発し、2020年4月よりレンタルを開始している。働き方改革を背景に、かねてよりキャンピングカーのビジネス活用について企画・開発を進めていた同社。コロナ禍の影響でテレワークを行う人が急増したことから、「ムービングオフィスカー」の市場への投入が急務と判断し、一気にリリースまで進展したという。


ロビンソンV95の内部(画像はキャンピングカーのウェブサイトより)

今回開発した「ロビンソン V95」は、大人数の会議にも対応するコの字型のラウンジソファをはじめ、吊り下げ型モニターやサブバッテリーを搭載。エンジンを停止しているあいだも電力を使用できるようになっている。宿泊を伴う出張や、建設現場などでの休憩所としての利用も想定して、後部座席はフルフラットへの変更が可能。「移動できるサテライトオフィス」としての活用も期待される。

3.キャンプの概念をオフィスに反映した「CAMP」

三井物産株式会社は2020年5月、東京・大手町に本社を移転した。新本社の大きな特徴は、「CAMP」と名付けられたコミュニケーションエリアが、オフィスのある16階から28階までの各フロアの中央に配置されているところにある。

キャンプの語源はラテン語の「campus」であり、平らな場所、広場という意味を持つ。同社は、こうしたキャンプ本来の概念をオフィスのコンセプトに取り入れ、多様な「個」が社内外の多くの人材と知的化学反応を起こすことで、新たな価値を創造する「場」となることを期待している。

「CAMP」には、オープンな雰囲気で自由な意見交換を促す「SOCIAL」、プロジェクト単位で戦略を練り上げるのに適した「CO‐WORK」、個人が集中し思索を深める「FOCUS」、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組む「d.space」の4つの場を設置。ワーカーは、それぞれの仕事の状況や目的に応じて最適な場所を選ぶことができる。


コミュニケーションエリア「CAMP」(画像は三井物産のウェブサイトより)

「CAMP」という親しみやすいネーミングが、移転プロジェクトの目的やコンセプトを会社全体に浸透、共有させるのに一役買っているようだ。

4. 自然を感じられる非日常空間を提供する「キャンピングオフィス」

アウトドア関連事業を展開する株式会社スノーピークは、2016年7月、ITを活用した企業向けコンサルティングを行う株式会社ハーティスシステムアンドコンサルティングと合同で、株式会社スノーピークビジネスソリューションズを設立した(2019年3月に合併)。同社は、企業や地域の活性化に向けたITソリューション事業を継続しつつ、アウトドアやキャンプをビジネスに活用する「キャンピングオフィス」事業にも取り組んでいる。

例えば、「アウトドア研修」では、キャンプフィールドなどのアウトドア空間で企業研修を行うことを提案。自然のなかでの活動を通して、「リラックス」「思考の深まり」「クリエイティビティの向上」「共感性の高まり」などが得られ、「コミュニケーション」「チームの絆」「状況判断」「行動力」といった効果が期待できるという。


アウトドア研修(画像はスノーピークビジネスソリューションズのウェブサイトより)

また、同社では、オフィス什器にキャンプ用品を用い、自然音響や香り、植栽などを組み合わせたオフィス空間の提案も行っている。テレワークが急速に普及し、オフィスにコミュニケーションやチームワークを醸成する場としての機能が求められるなか、キャンプ場にいるかのような開放的な空間は、自然な会話や新たなアイデアを生み出すきっかけともなり得るだろう。

ウィズコロナ時代のオフィスには、キャンプが好相性

今回は、物理的にキャンプ場をオフィスに活用した事例、キャンピングカーをオフィス化する事例、キャンプの概念をオフィスのコンセプトやデザインに反映させた事例を紹介した。

なかには、コロナ禍や働き方改革などの切実な問題から生まれた提案もあるが、オフィスにキャンプの要素を取り入れることにより、コミュニケーションの促進やイノベーションの誘発につながる可能性は大いに期待できる。ウィズコロナ時代のオフィスにおいて、キャンプは型破りな提案ではなく、相性の良い新様式と言えるのではないだろうか。

この記事を書いた人:Rui Minamoto