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健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【前編】

利用者の健康面に配慮した建築の評価基準「WELL Building Standard(WELL認証)」。その誕生の背景と、2020年に公開されたv2のコンセプトを紹介する。

WELL認証とは

近年、ワークプレイスの設計基準として注目されている「WELL Building Standard」。2014年にアメリカで開発された建築物の評価システムのことで、WELL認証とも呼ばれる。評価の視点として、その空間で過ごす人々の「健康」や「ウェルネス」を取り入れているのが最大の特徴だ。

以前より、「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)」という環境性能にフォーカスした評価基準は存在していたが、ウェルネスへの関心の高まりを背景にWELL認証は誕生した。この記事では、まずLEED認証の基本情報をおさえたうえで、2020年に発表されたWELL認証の最新版「WELL v2」の10のコンセプトについて、前後編に分けて紹介する。

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環境性能を評価するLEED認証

LEED認証は、環境にやさしい「グリーンビルディング」を広める目的で1998年につくられた、建造物に対応する評価基準だ。立地の選定から設計や建設方法、運営、改築、解体に至るまで、環境と資源にできるだけ配慮し、よりサステナブルな社会を目指すことの重要性を世界に広めてきた。

LEED認証の評価項目(画像は一般社団法人グリーンビルディングジャパンのWebサイトより)

評価は、建物の種類(病院、ホテル、学校、オフィス、倉庫、ショップなど)と、改築状況(新築、内装のみの改築、メンテナンスなど)に合わせて、それぞれ異なる基準で行われる。上記の評価項目の必須条件を満たしたうえで選択項目のポイントが加算され、取得したポイントの合計をもとに、「標準認証」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」のうちどの認証レベルになるかが決定する。

LEED認証が環境に与えた影響

この基準の導入による環境への影響は大きい。LEED認証を開発、運用しているU.S. Green Building Council(以下、USGBC)の記事によると、LEED認証の建造物はそうでないものに比べ、以下のように環境負荷の低減に貢献しているという。

・CO2排出量:34%減少
・エネルギーの消費:25%減少
・水の消費:11%減少
・廃棄物量:8000万トン減少

世界の取り組み

LEEDプロジェクトはアメリカを中心に、世界中で取り組まれている。USGBCが発表した2021年のランキングによると、アメリカを除いた実施件数は、中国、カナダ、インド、韓国、スペインの順に多い。また、2024年までにさらにグリーンビルディングのプロジェクトが増えることが、USGBCとDodge Data and Analyticsの調査により示されている。環境に配慮した建物の設計は、もはや当然のこととなりつつある。


2009年、LEEDによるプラチナの再認証を受けた最初のビルとなった、サンフランシスコのAdobe SF 601 Townsend。リモデル後、蛇口・シャワーヘッドの交換や水を使わずに排水を行うトイレの導入で、オフィス全体の水の使用量は62%以上削減された。ゴミの仕分けやリサイクル製品の使用により、オフィスの廃棄物のリサイクルや堆肥化率は23%から98%に上昇。また、緑を増やし、オフィスの清掃を日中に行って電気消費を減らしたほか、環境にやさしい通勤方法を奨励するために自転車ラックや電気自動車の充電場所なども設置した。同オフィスに限らず、Adobeでは従業員の7割以上がLEED認証を受けた施設で働いているという。(画像はU.S. Green Building CouncilのWebサイトより)

日本におけるLEED認証の導入状況

一方で、LEEDの日本での普及率は低いのが実情だ。一般社団法人グリーンビルディングジャパン(GBJ)によると、2022年3月時点でのLEED認証建造物の数はアメリカが7万6603棟、中国が3765棟、カナダが1486棟にのぼる一方、日本はわずか201棟にとどまる。

画像は一般社団法人グリーンビルディングジャパンのWebサイトより

しかし、推移を見ると2016年10月の82棟から5年弱で201棟へと2.5倍近く増えており、日本でも着実に建物の環境性能への配慮が進んできていると言えるだろう。

利用者のウェルビーイングを重視するWELL認証

このように、LEED認証は、地球全体の課題である「環境資源の持続性」について建物設計の観点から取り組んできた。そして、近年はそれに加え、「人の健康」に対する関心も高まっている。環境資源だけではなく、人の持続性、つまり入居者が健康でありつづけることこそ、これからの建物に必要だと認識されはじめたのだ。そこで誕生したのが、WELL認証である。

WELL認証の提唱者でDELOSのCEOを務めるポール・シャッラ氏は、人が日々の生活の9割を屋内で過ごすことから、健康とウェルネスは建築物における最重要課題だと考え、WELLの開発に至ったという。大半の人は起きている時間の多くを仕事に費やすため、特にワークプレイスにおいて広く導入されている。よりストレスの少ない働き方や健康が見直されている現代に、合致した基準と言えるだろう。

WELL認証を受けるには、書類審査と現地調査により、必須項目を満たすことが求められる。認証レベルは、加点項目の合計点数で分けられた、「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」の4段階。認証取得後も継続的な環境維持が求められるほか、3年の有効期限を過ぎると再認証が必要になるなど、厳格な基準が定められている。

また、2020年5月には新型コロナウイルスの感染拡大を受け、建物の健康と安全性について評価する「WELL Health-Safety Rating」が発表された。時流に合わせた対応が即座にとられている点も、WELL認証が世界的に認められている所以だろう。

関連記事:【WELL認証を取るには?】ゴールド認定を受けたオフィス3事例

WELLv2の10のコンセプト

WELL認証については、2014年のv1、2018年のv2pilotを経て、2020年にWELL v2が発表されている。v1は7つのコンセプトで構成されていたが、v2では以下のように10のコンセプトに変更された。「入居者に与える影響要素」を対象としているため、LEED認証と比べて評価カテゴリーがよりわかりやすいのも特徴の一つ。本記事では、オフィスで活用されることを想定しながら、Air(空気)、Water(水)、Nourishment(食物)の3つを紹介したい。

WELL v2の10のコンセプト(画像は一般社団法人グリーンビルディングジャパンのWebサイトより)

Air 空気

WELL認証の管理団体であるInternational WELL Building Institute(IWBI)は、「Air(空気)」をコンセプトに入れた理由として、換気が不十分な建物内の空気は頭痛や鼻水、喘息などの健康問題を起こす可能性があることや、室内の大気汚染ががんや呼吸器疾患のリスクになることなどをあげている。

WELL認証では、生産性、幸福、健康の観点から、良質な空気を維持し、有害な汚染物質への暴露を最小限にとどめることを評価基準として定めている。そのため、認証を受ける建物には、計画的な換気屋内禁煙の徹底などを含めた管理が求められる。


WELLでゴールド認証を受けた、オーストラリアにあるMirvacの本社オフィス。換気や汚染空気のフィルタリングは当然ながら、「SAMBA(Sentient Ambient Monitoring of Buildings in Australia)センサー」というテクノロジーを用いて空気の質を常にモニタリングしている。(画像はInternational WELL Building InstituteのWebサイトより)

Water 水

空気に次いで、重要なコンセプトに位置付けられているのが「Water(水)」だ。その背景には、きれいな飲料水は健康維持に欠かせないものという考えがある。

全米医学アカデミーは、1日に摂取すべき水分量(飲食物からの摂取も含む)として、成人女性で約2.7リットル、成人男性で約3.7リットルを推奨している。一方で、飲料水の品質への懸念を持つ人ほど水の摂取が不十分となり、砂糖入り飲料の摂取が増える傾向があるという研究結果をIWBIは示している。また、産業、農業、製薬業などの工業廃水が世界各地で水質に影響をもたらす可能性も高まっているという。

これらへの懸念から、適切な水分補給と健康リスクの低減などを目的として、WELLでは安全な飲料水の提供や水質管理ウォーターディスペンサーの設置などを求めている。


世界初のWELLプラチナ認証を受けたCenter for Sustainable Landscapes。新鮮な飲み水の確保はもちろん、雨などの自然水を利用して飲用以外の水も供給できるようになっている。(画像はPhippsのWebサイトより)

Nourishment 食物

Nourishment(食物)」は、従業員が健康的な食生活を送れる環境かどうかを評価するもの。健康的な食事は高血圧や糖尿病などの疾患を予防する効果が期待できる一方で、不健康な食事は心身にネガティブ影響を及ぼすとされている。

WELLは、食事の質と食生活のパターンを改善するためには、包括的なアプローチが必要であることに着目。果物や野菜はとりやすく、高度に加工された食品はとりにくい環境を設計し、健康的な食生活をサポートすることも評価項目としている。


ゴールド認証を受けた、ロンドンにあるCundallのオフィス「One Carter Lane」。カフェスペースを充実させ、健康的な食事がとりやすい環境を用意している。(画像はInternational WELL Building InstituteのWebサイトより)

以上が、WELL v2の10のコンセプトのうちの3つである。後編では残りのLight(光)、Movement(運動)、Thermal Comfort(温熱快適性)、Sound(音)、Materials(材料)、Mind(こころ)、Community(コミュニティ)の7つのコンセプトについて見ていきたい。

この記事を書いた人:Worker's Resort Editorial Team