グローバルで成長する企業がオフィスに「和テイスト」を取り入れる理由
近年、グローバル企業を中心に、和の要素を採用するオフィスが登場している。和を取り入れたオフィスの事例を紹介しながら、オフィスにおける「和テイスト」の効果を考察する。
Design
グローバル企業が注目する和テイストなオフィス
米ITベンダー・salesforce.comの日本法人、株式会社セールスフォース・ジャパンは、最上階に和室を設置した新オフィスで「2022年度 第35回日経ニューオフィス賞 ニューオフィス推進賞」を受賞した。
画像は一般社団法人ニューオフィス推進協会のWebサイトより
同社は、salesforce.com初の海外オフィスとして2000年4月に開設。2022年2月に社名をセールスフォース・ジャパンに変更し、「Salesforce Tower」と名付けられた新オフィスに移転した。Salesforce Towerは世界で6番目、アジアでは初となる。
この社名変更と移転は、これまで以上に日本市場に根ざしながら、グローバルな展開を強める決意の現れのように映る。日本に法人を立ち上げて20年以上になる同社が、満を持して新設したオフィスに、和のテイストを強く推し出している点は興味深い。
同様に和テイストを感じさせるのが、多国籍のワーカーが働く世界的IT企業・Googleの東京オフィスだ。六本木ヒルズ森タワーにある同オフィスでは、ポップな印象のインテリアの中で、畳の作業スペースなど日本らしい空間が際立っている。
画像はGoogleのWebサイトより
世界で 60 以上の国にオフィスを構えるGoogle。世界展開する企業だからこそ、現地法人はその国の特色を強く発信することで、現地出身のワーカーはもちろん、海外の優秀なワーカーの気持ちを掴みたいという企業戦略があるのだろう。
オフィスインテリアにおける「和モダン」と「ジャパンディ」
企業がオフィスに和のテイストを求めるのは、日本の魅力を取り入れることはもちろん、「グローバル市場で戦える企業に成長したい」、「海外の優秀な人材を獲得したい」という思惑があるものと思われる。そんなグローバル企業の日本法人、あるいはこれからグローバル市場で成長したいと考える日本企業におすすめしたいのが「和モダン」なオフィスだ。
和モダンとは、日本の伝統的な和のスタイルと現代的でスタイリッシュなデザインを融合させた様式を指す。具体的には、近代的なオフィスに、紙や竹、畳、提灯といった和テイストの素材や家具を取り入れるだけで表現することができる。
また、近年浮上してきた「ジャパンディ(Japandi)」と呼ばれる、和と北欧の要素をミックスしたスタイルも、オフィスインテリアに活用しやすいかもしれない。
「和テイスト」を取り入れたオフィス事例
ビジネスのグローバル化を背景に、存在感を増している「和テイスト」なワークプレイス。ここでは4つのオフィス事例から、和の要素がオフィスに与える効果について考察したい。
1. 「漢字」をデザインに取り入れ、和モダンな空間を実現:武田薬品工業株式会社
グローバル製薬企業の武田薬品工業は2018年10月、武田グローバル本社を東京都中央区日本橋本町に開設した。
画像は武田薬品工業株式会社のWebサイトより
まさに「和」と「モダン」が統合された印象を受ける。同空間のクリエイティブディレクションを担当したのは佐藤可士和氏だ。
佐藤氏は「常に患者さんを中心に考える」という同社のバリューを受けて、人間の「生きる力」をクリエイティブの原点に据えたという。そこから、生、水、光、土、木、人、絆、未来の8つの漢字をモチーフとしたアートワークを空間に施している。
漢字の「木」をモチーフにした壁面のアートワーク(画像は武田薬品工業株式会社のWebサイトより)
それぞれの漢字をモダンに解釈し、「和」を感じさせる表現でありながら現代的なデザインに落とし込んでいるところが特徴だ。抽象的なテーマを、漢字をモチーフとして表現したことで、洗練された世界観を実現している。
2. 和モダンで信頼感や重厚感を演出し、採用強化を狙う:ナレッジスイート株式会社
営業・業務支援のクラウドサービスを展開するナレッジスイートは、中堅・中小企業の働き方改革を支援するサービスの拡大に伴い、2018年5月、東京都港区虎ノ門へオフィスを移転した。
画像はナレッジスイート株式会社のWebサイトより
新オフィスは、日本の企業が成長していく過程を想起させることを意図した、和モダンをベースとしたデザインを採用。また、「起承“展”結」をキーワードに、働き方改革を推進する機能が多く実装されたワークスペ―スで構成されている。一人ひとりが働きたい環境を選択して働ける空間づくりを行うことで、営業活動における機動力強化、業務の効率化、生産性向上とあわせて、優秀な人材の採用を加速させたい考えだ。
画像はナレッジスイート株式会社のWebサイトより
和を前面に打ち出すのではなく、信頼感や重厚感を演出し、落ち着いた空間づくりを行うために和モダンを取り入れた一例である。
3.地元産の素材にこだわり、地域との協創を発信:株式会社ドリーム・アーツ
大企業向けのシステム開発やコンサルティングを手掛けるドリーム・アーツ。東京に本社を構える同社は2016年、広島を「第二の本社」とすべく広島本社を開設した。
世界遺産・原爆ドームの東隣りにある複合ビル「おりづるタワー」内に新設したオフィスは、広島県産の素材をふんだんに使用し、「2017年度 第30回日経ニューオフィス賞」を受賞している。
平和記念公園を一望することができるバルコニーには、備後絣(びんごかすり)のクッションが使用されている。(画像は株式会社ドリーム・アーツのWebサイトより)
執務デスクやエントランス、バルコニーのテーブルなどに広島県産木材を使用。会議スペースや小上がりスペースの壁には、広島県内で唯一、手すき和紙の伝統をつなぐ「大竹和紙」を使用している。
画像は株式会社ドリーム・アーツのWebサイトより
日本のオフィスで什器に和のテイストを採用する場合、自ずと国産素材、それも地元産の素材を用いることが増える。地産地消は環境負荷が軽減できるうえ、オフィスにローカリティを打ち出すことにもつながる。グローバリゼーションが進むなか、地域色は相対的に存在感を高める効果が期待できるだろう。
4.シェアオフィスに和室を取り入れ、若者にも訴求:PORTAL POINT SHIBUYA
オフィスに和のテイストを取り込む流れは、グローバル企業や大企業に限ったものではない。株式会社リアルゲイトが運営するシェアオフィス「PORTAL POINT SHIBUYA」は、地下にドローイングルーム(応接室)として和室を設けている。
画像は株式会社リアルゲイトのプレスリリースより
創作意欲を掻き立てる新たなクリエイティブスペースを謳うPORTAL POINT SHIBUYA。共用設備として、渋谷の中心街を見下ろすことのできるルーフトップテラスがあるところも魅力だが、地下に小さな日本庭園と縁側を備えた和室の応接室があることが大きな特徴だ。和室にはモニターを備えており、プレゼンテーションや打ち合わせなどに利用できる。
画像は株式会社リアルゲイトのプレスリリースより
海外からも注目される「禅」の心と「おもてなし」の精神が体現された空間は、ワークプレイスに特別な時間を演出するはずだ。都心に集う感度の高い若者たちの好奇心を刺激するだろう。
「和テイスト」なオフィスでグローカルな成長を
近年、注目されている言葉に「グローカル」がある。グローバル(global)とローカル(local)を掛け合わせた造語で、地球規模の視野で考え、地域の視点で行動するという考え方を指す。グローバルに企業を成長させたいと考える日本企業が、オフィスに和のテイストを取り入れるのは、まさにグローカルを体現する姿勢といえる。
企業がグローバル戦略を掲げる際、世界に目を向けて新たな感性を取り入れることも重要だが、日本のもつ独自性に改めて目を向けることこそ有効なのかもしれない。