フロア間の交流を活性化!「内階段」でつなぐオフィスデザインのアイデア
複数フロアに分かれたオフィスでは、フロア間の交流が希薄になりやすい。その解決手段として有効な「内階段」について、ユニークな事例を通して効果的な取り入れ方を探る。
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オフィス内の自然な交流を促す「内階段」
複数フロアにまたがってオフィスを構える企業の悩みとして、「フロア間でのコミュニケーションの分断」があげられる。わざわざエレベーターに乗って、別のフロアにいる同僚のもとへ行くのは少し手間がかかる。この小さなハードルが、雑談やちょっとした相談、質問などを通じてコミュニケーションをとる機会を遠ざけてしまう。
では、「内階段」のあるオフィスの場合はどうだろうか。フロア内に設けられた内階段は、エレベーターやセキュリティ付きドアを介さず、上下階の執務空間をダイレクトにつなぐ。その存在は「コミュニケーションの架け橋」とも言えるだろう。内階段により、オフィス内を水平移動するのと同じ感覚で、フロア間を行き来することができるようになるのだ。
とはいえ、ただ単に階段を設ければよいわけではない。内階段の効果をより高めるには、コミュニケーションを生み出すための工夫が必要となる。本記事では内階段を設けたオフィス事例を通して、そのアイデアの数々を紹介する。
内階段にコミュニケーションスペースを併設した事例
そもそも階段の設計においては、考えるべきことが多数ある。直階段、折り返し階段、螺旋階段といった昇降スタイルの違いだけでなく、箱型やスケルトンのような見た目、踊り場や手すりの配置、勾配や階段幅など、利用者の使い勝手に影響を及ぼす要素についても配慮する必要がある。
最も重要なのは、上り下りの際に安全であることや疲れにくいことだが、内階段では、無意識のうちに利用したくなるストレスのない設計も大切な要素となるだろう。
例えば、途中に踊り場のない直階段は、一気に上り下りしなければならないため少し疲れるかもしれない。急勾配の階段は、安全性の観点から、ノートPCなどを持って移動するのには向かない。また、螺旋階段は最も省スペースとなり、意匠的にもインパクトがあるが、階段の幅や奥行きに制約があるため人がすれ違うのは困難だ。そうした利便性も踏まえた検討が必要となる。ここからはどうすればワーカーが積極的に利用する階段となるのか、事例をあげて見ていきたい。
1. 株式会社エービーシー商会
2020年6月、建材の開発・製造や輸入・販売を行うエービーシー商会の新本社ビルが竣工した。この新本社ビルには、1階から最上階にかけての窓側に、各階をつなぐ内階段が設けられている。閉鎖的な空間になりがちな階段室に自然光を取り込み、開放的な空間としているところに大きな特徴がある。
画像は株式会社エービーシー商会のWebサイトより
同社はこの内階段を「コミュニケーション階段」と名付け、窓側の通路にはデスクを配置するなどしてコミュニケーションスペースを設けた。そこは、日差しが明るく降り注ぎ、外の景色も一望できる特等席となっている。階段、コミュニケーションスペース、通路が一体となり、上下階の交流を誘発する仕組みだ。
2. 株式会社ミクシィ
ミクシィは2020年3月、渋谷スクランブルスクエアの28~36階に本社を移転した。シブヤ経済新聞の記事によると、この移転で同社は、もともと渋谷エリアで5棟に分散していたオフィスを一カ所に集約。約900人の社員がひとつのビルで働くことになったという。
新オフィスのコンセプトは「For Communication(全てはコミュニケーションのために)」。事業ドメインを「コミュニケーションサービス」と定める同社は、まずは社員同士のコミュニケーションのあり方から設計する必要があると考えた。
画像は株式会社ミクシィのWebサイトより
各フロアは内階段で結ばれている。内階段は広々としたオープンスペースに面しており、そこにはミーティングや休憩用のテーブルがいくつも設置されている。移動中に鉢合わせした同僚と話し込んだり、アイデアを共有したりすることも可能だ。やはりここでも、内階段とコミュニケーションスペースをセットにすることがポイントになっている。
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内階段そのものに役割を持たせた事例
ここまで、内階段にコミュニケーションスペースを併設した事例を見てきたが、今度は内階段そのものに別の役割を持たせた事例を紹介したい。内階段を「座れる大階段」にした事例と、「移動をエンタメ化する滑り台」にした事例である。
1. 小柳建設株式会社
2021年3月、新潟県で建設業を営む小柳建設は新社屋へオフィスを移転した。社員が仕事の内容により働く場所を自由に選べるワークスタイルである「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」を採用したオフィスには、印象的な内階段が設置されている。1階と2階を結ぶ大階段だ。
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画像は小柳建設株式会社のパンフレットより
階段幅のおよそ3分の2は「1段飛ばし」。つまり、ひな壇席のように座るためのスペースとなっている。階段を上り下りする際に偶然会った同僚と、ちょっとした雑談を楽しむこともできるだろう。この開放的な空間には大型プロジェクターが設置され、会議はもちろん、100人規模のイベント会場としても利用できるという。
この大階段以外にも、ルーフバルコニーの螺旋階段や執務空間のスケルトン階段など、造形的にも美しい内階段がオフィスに点在。上下階のコミュニケーションを誘発する仕掛けとして機能している。
2. CIC Tokyo
2020年10月、起業して間もないスタートアップ企業を支援するイノベーションセンター「CIC Tokyo」が、虎ノ門ヒルズビジネスタワー内にオープンした。世界9都市に展開するCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)のアジア初の拠点である。内装設計を担当したのは株式会社小堀哲夫建築設計事務所だ。
入居企業を中心として、グローバルなイノベーションコミュニティの構築をめざすCIC Tokyoでは、プライベートオフィスやコワーキングスペースといったワークスペースに加え、300人収容可能なキッチンスペース兼イベントスペースを中央に設置。その正面に大階段を設けている。
画像はCIC TokyoのWebサイトより
例えば、ここで開催されるスタートアップ向けピッチイベントでは、登壇者のプレゼンを、大階段に座る多数の出席者が聴講する。イノベーション創出に向けた重要局面の演出を、この大階段が担っているのだ。
3. 株式会社エイチーム
ゲームアプリの開発などを手掛ける総合IT企業のエイチームは、名古屋駅前のシンボルとして知られる大名古屋ビルヂングの30〜32階に本社を構えている。オフィスにはジャングルジムやブランコのような椅子、ボルダリングスペースなどが設置され、遊び心にあふれているところが特徴だ。各フロアは内階段で移動でき、上下階の部署間でのコミュニケーションもスムーズに取れる設計になっている。
画像は株式会社エイチームのWebサイトより
ユニークなのは、31階と32階を結ぶ内階段に「滑り台」が併設されている点だ。フロアをつなぐ滑り台は、街の公園にあるものよりも高さがあり、大人にとっても少々スリリングだろう。下のフロアへ移動する行為そのものをエンターテインメントに変え、リフレッシュや話題づくりに一役買っているものと思われる。
内階段にプラスアルファの工夫を
通常、オフィスビルの階段と言えば、エレベーターやトイレ、配管などとともに集約して配置されるケースが多い。そのため、ワークスペースから切り離された、閉鎖的な空間となりがちだ。当然、フロア間の交流を促す手段とはなりにくい。
本記事で紹介した事例のように効果的に内階段を配置すれば、コミュニケーションを活性化する手段となり得るだろう。しかし、ただフロア間をつなぐだけでは心もとない。例えば、すぐそばに休憩スペースを設けたり、自然と足が向くような解放感のある吹き抜け空間にしたり、あるいは内階段自体に人が集まる工夫を取り入れたり。そうしたアイデアを盛り込めば、コミュニケーションを誘発する効果はよりいっそう高められ、フロア間の交流を活性化するという目的を達成できるのではないだろうか。