働きがいの獲得にむけて。自己実現と貢献実感を意識した働き方「コンシャスワーク」| WORK STAGE TREND2023
ニューノーマル時代の働く環境を表す新概念「ワークステージ」をキーワードに、未来の働き方やオフィスの環境づくりについて提言を行う連載企画。第6回は、自己実現や貢献実感を意識した働き方「コンシャスワーク」について解説する。
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自己実現と貢献実感を意識した働き方「コンシャスワーク」
2019年以前、オフィスは主に「作業を行う場」としての役割を果たしていた。新型コロナウイルスの流行をきっかけにテレワークが普及すると、オフィスには「コミュニケーションの場」という新たな機能も求められるようになる。
本連載の第3回で紹介した「ファンスペース」や「オンラインコミュニティ」、第4回で紹介した「フィジタルコミュニケーション」などのコミュニケーションを活性化するためのスペースやツールを導入する企業も現れている。
また、働く場所や時間、雇用形態の多様化が加速する中、「何のために働くのか」をあらためて考える機会も増えている。これからのオフィスは、コミュニケーションの場としての機能に加え、「働きがい」を生む場としての役割を担うようになるだろう。
今回の記事では、働きがいを構成する要素として、仕事を通じた「自己実現」や、組織やコミュニティに対する「貢献実感」を取り上げる。自己実現と貢献実感を意識した働き方を、私たちは「コンシャスワーク」と名づけた。コンシャスワークを実現できる環境や機会を提供することでワーカーの満足度は高まり、企業にとっては生産性や競争力の向上につながるはずだ。
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「働きがいを生む場」としてのオフィスに求められる要素とは
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは「欲求5段階説」で、人間のさまざまな欲求を5つの階層に分けて解説した。この理論は、現代でもビジネスや教育などさまざまな分野で幅広く応用されている。オフィスが提供する環境や機会について、欲求5段階説を参考に階層化したのが、以下の図だ。
まず、作業を行う物理的な場所としてのオフィスには、デスクやPC、空調などの家具や設備がそろっていること(基礎環境)と、セキュリティ対策や災害時の備え(安心と安全)などが求められる。
ベースとなる環境が整い、コミュニケーションの場として機能を拡張したオフィスに必要な要素は何だろう。まず求められるのは、所属する組織やコミュニティへの理解を深める機会があり、オープンなコミュニケーションの環境が整っていること(所属と関わり)だ。次に、メンバーが互いの個性や意見を尊重しあい、成果や成長に対して正当な評価が受けられること(尊重の獲得)。最後に、自分の考えや行動に自信を持ち、働き方を選択できる環境(自己肯定感)となる。
もう一歩先へ進んで、働きがいを生む場としてのオフィスはどんな機会を提供するべきだろうか。1点目は「自己実現」。自己肯定感を育んだうえで、「成長に役立つアドバイスを受けられる」「やりたいことに対する支援を受けられる」「知識を身につけ能力を伸ばしていく」など、ワーカー一人ひとりが最大限に能力を発揮できるような施策を行うことが望ましい。
2点目は「貢献実感」だ。「自身の仕事が社会の役に立っていると感じられる」「社会や他者を意識して働く」「これまでにない新たな発想や価値を見出す」など、仕事を通じて大きな目的や意義に貢献しているという感覚が、ワーカーの生産性や創造性を高めることにつながる。
コンシャスワークを実現できているワーカーは、テレワーカーのおよそ半数
2022年4月、フロンティアコンサルティングでは、テレワークを活用しているテレワーカーと、活用していないノンテレワーカーを対象に、独自のアンケート調査を実施した。
「ご自身が働くなかで社会や他者への貢献ができている事を実感していますか」という質問に対し、「実感している・やや実感している」と回答した人は、テレワーカーの約半数、ノンテレワーカーでは33.7%にとどまっている。ノンテレワーカーよりもテレワーカーのほうが、社会や他者への貢献を実感している人が多いという結果になった。
また、「働くなかで社会や他者への貢献をより身近に実感したいと思いますか?」という問いについては、テレワーカー・ノンテレワーカーともにおおよそ6〜7割の人が「実感したいと思う・やや実感したいと思う」と回答。貢献を意識した「コンシャスワーク」を、多くのワーカーが求めていることがわかる。
「働きがい」を高める鍵は自己実現と貢献実感
自己実現や貢献実感を意識したコンシャスワークは、組織やオフィスに対する満足度にどの程度影響するのか。
前述の調査では、オフィスが提供する環境や機会の7階層について、さらに細分化した質問を用意し、それぞれの設問について、「現状にどの程度満足しているか(満足度)」「どの程度重要だと考えているか(重要度)」をそれぞれ回答してもらった。同時に、自身が働く環境やそこで提供される機会に対する総合的な満足度も尋ねている。
この結果についてポートフォリオ分析を行い、「各項目の満足度」を縦軸に、「回答者自身が判断した各項目の重要度(顕在的重要度)」を横軸にプロットしたものが、このグラフである。
左側はノンテレワーカー、右側はテレワーカーの重要度を表しており、満足度、顕在的重要度ともに、全体としてテレワーカーのほうが高くなっていることがわかる。
重要度については、上記の顕在的重要度だけでなく、「それぞれの項目の満足度と、総合的な満足度との相関の強さ(潜在的重要度)」についても分析を行った。この指標では、ワーカー本人が重要であると意識しているかどうかにかかわらず、働く場所や環境に対する総合的な満足度により大きな影響を与える要素をあぶり出すことができる。
特にテレワーカーについて、顕在的重要度(左)と潜在的重要度(右)をそれぞれプロットしたものが、下記の図である。
左右のグラフを比較すると、顕在的重要度と潜在的重要度の配置が反転している。散布図のうち、グレーで示された「基礎環境」や「安心と安全」の項目は、ワーカー自身が「重要度が高い」と判断しやすい傾向があるが、総合的な満足度に与える影響はそれほど大きくない。一方、緑色で示した「自己実現」や「貢献実感」の項目は、ほかの項目に比べて満足度が低い傾向にあるにもかかわらず、総合的な満足度に大きな影響を与えている。
ワーカーが「働きがい」を感じる上で、自己実現や貢献実感は重要な要素となっている。にもかかわらず、コンシャスワークの重要性に気づいている個人はまだ少ないという結果が読みとれる。裏を返せば、企業が自己実現や貢献実感を意識して働ける環境と機会を提供すれば、ワーカーの働きがいが大幅に高まる伸びしろがあると言えそうだ。
コンシャスワークの機会提供が重要
働き方が変われば、オフィスに求められる機能や役割も変化する。物理的な場所であるのみならず、働きがいを感じる「機会」をワーカーに提供する「WORK STAGE(ワークステージ)」 へと進化していく必要があるのだ。
ワーカーの働きがいを実現するために欠かせないのが、自己実現と貢献実感を意識した働き方「コンシャスワーク」である。一人ひとりが自身の能力を生かし、成長を実感しながら、組織や社会への貢献を意識して働くことで、個人のキャリアはより充実したものになるだろう。少子化と人材不足が進む現代にあって、コンシャスワークを実現できる環境を整えることは、企業が優秀な人材を採用する上でも重要な鍵となる。
「ワークステージトレンド」最終回となる第7回の記事では、これまでの連載で紹介してきたワークステージの全体像を俯瞰する。その上で、コンシャスワークを実現するために企業が提供するべき場所と機会について考察したい。