ログイン

ログイン

EUでは義務化の「勤務間インターバル制度」| 日本でも普及は進む?

働き方改革の一環として、事業主の努力義務とされた「勤務間インターバル制度」。働きすぎの解消が期待される同制度について、欧州での先駆的な取り組みと国内の導入事例を紹介する。

勤務間インターバル制度とは

近年、厚生労働省が推進している働き方改革。2020年にデロイト トーマツ グループが一般社団法人at Will Workと共同で実施した「働き方改革の実態調査2020」によると、国内企業277社のうち89%が働き方改革に取り組んでいるという。その施策として95%の企業が検討しているのが、「長時間労働の是正」だ。

同じく2020年に、株式会社ワーク・ライフバランスが全国の20代以上のビジネスパーソンを対象に行った「第2回働き方改革に関するアンケート」では、「働き方改革の成果として従業員満足度が向上した」と回答した人の割合が51%にのぼった。さらに、働き方改革がうまくいったと答えた人のうち12%が、労働環境面での働き方改革の取り組みとして「勤務間インターバル制度」が導入されていると回答している。

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、翌日の始業時間まで一定時間以上の「休息時間(インターバル)」を設けることで、 ワーカーの生活時間や睡眠時間を確保するものだ。先のアンケートでは、勤務間インターバル制度を導入した結果、従業員満足度が向上したと答えた人は64.3%、離職率が低下したと答えた人は35.7%にのぼっている。注目したいのは、これらの割合が、「有給休暇取得率向上」や「基本給・賞与の増額」「在宅勤務」などの施策よりも高い結果となっている点だ。

退勤から翌日の勤務開始までにしっかり休息をとることは、従業員のウェルビーイングの向上につながり、満足度を高めると考えられる。本記事では、先んじて勤務間インターバル制度を導入している欧州の取り組みと、国内での導入事例を紹介する。

EU諸国では勤務間インターバルを義務化

欧州連合(EU)では1993年に「EU労働時間指令」を制定し、すべての労働者に対して、24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与することを定めた。EU諸国はこれに基づき、国内法を定めることが義務化されている。ここでは、欧州における取り組みについて、ドイツ、フランス、イギリスの現状を見ていきたい。

①ドイツ
「労働時間法」第5条第1項で、労働者は一日の労働時間の終了後、原則として最低11時間の休息時間をとることが規定されている。確保できない場合は、代替日に繰り越すことができる。

②フランス
「労働法典」L3131-1条で、労働者は2労働日のあいだに少なくとも連続11時間の休息時間をとる権利を有することが規定されている。確保できない場合は、代替日に休息時間を繰り越すことができる。

③イギリス
2020年にEUを離脱したイギリスだが、労働時間指令の国内法である「労働時間規則」第10条で、労働者は、少なくとも11時間継続した日ごとの休息時間を与えられなければならないことが規定されている。確保できない場合は、労働者が取得できなかった休憩時間に相当する「補償的休憩」期間を提供しなければならない。

いずれの国も管理職や軍隊、警察など、立場や職種によって除外が認められる特例はあるものの、最低11時間の休息時間をとることが定められている。また、確保できない場合は、繰り越しや補償が必要とされる。

国が休息時間の確保を義務付けることで、ワークライフバランスのとれた働きやすい環境づくりの大きな一助となっているのは間違いないだろう。

日本国内における導入状況

日本国内でも、普及に向けた動きは進んでいる。2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき改正され、2019年4月1日に施行された「労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)」では、勤務間インターバルを確保することが事業主の努力義務として規定された。しかし、厚生労働省が国内の民間企業4127社から回答を得た「平成31年就労条件総合調査」では、2019年1月時に勤務間インターバルを導入していた企業は3.7%、導入を予定または検討している企業は15.3%と、依然として導入率が低い現状が明らかになっている。

そこで国は、2021年7月30日に、過労死を防ぐための国の対策をまとめた「過労死等の防止のための対策に関する大綱(過労死等防止対策大綱)」の改定版を閣議決定した。新たな大綱では、勤務間インターバル制度の導入促進を掲げ、2025年までに同制度を「知らなかった企業割合を5%未満にする」こと、「導入している企業割合を15%以上にする」ことを設定した。今後さらに、周知と導入支援に力を入れる考えだ。

勤務間インターバル制度を導入するメリット

そもそも、勤務間インターバル制度にはどのようなメリットがあるのだろうか。企業側、労働者側、それぞれで次のようなメリットが考えられる。

①企業側のメリット
働き方改革推進支援助成金が受けられる。
・企業価値やイメージの向上につながる。
・従業員の健康とワークライフバランスが確保できる。
・残業代や電気代などの必要経費を削減できる。

②労働者側のメリット
・生活時間や睡眠時間を確保でき、ウェルビーイングの向上につながる。
・ワークライフバランスを保ちながら働き続けられる。
・会社に対する満足度の向上につながる。
・所定外労働時間(残業)の減少につながる。

③企業側および労働者側のメリット
・生産性、やる気の向上につながる。
・離職率の低下につながる。

勤務間インターバル制度を導入した国内企業の事例

国内では、大手企業を中心に勤務間インターバル制度を導入している事例が見られる。ここでは、そのなかから3社の取り組みを紹介する。

1. 住友林業株式会社

住友林業では、特に住宅・建築事業本部において、注文住宅の販売・施工を行う際に顧客との密なコミュニケーションが欠かせず、長時間労働に陥りやすいという課題があった。そこで、長時間労働の削減と生産性向上を目的として、2017年にフレックスタイム制度や勤務間インターバル制度を導入。フレックスタイム制度では、担当者間の業務引き継ぎや社内の打ち合わせは原則コアタイム内で行い、各自が始業・終業時刻を調整できるようにした。

そして、勤務間インターバル制度では、終業から勤務開始までに11時間の休息時間を設定。休息時間が始業時刻またはコアタイムに及ぶ場合は、勤務を免除して働いたものとみなす。さらに、時間外労働時間をみなし労働時間制から実カウント制へと移行し、時間あたりの生産性評価も導入した。時間によるコスト意識を高めて長時間労働を減らし、仕事の質と生産性を向上させることがその主な目的だ。

こうした多角的な取り組みにより、2020年度には、2013年度比平均所定外労働時間削減率が▲38.7%となり、大幅な残業時間の削減につながっている。

2. サッポロビール株式会社

2009年から働き方改革に取り組んできたサッポロビール。2017年には「働き方改革2020」と銘打ち、従来の目的であった生産性の向上に加え、チャレンジしようと思える気力・体力が持てる環境の整備や、仕事とプライベート双方の充実という観点も含めて、その取り組みを加速させている。

ノー残業デー、テレワーク、時間有休、コアタイムのないスーパーフレックスタイムに加え、2018年に導入されたのが勤務間インターバル制度だ。酒類の営業部門は顧客への対応が深夜あるいは午前中の早い時間帯となることがあるため、休息時間はテスト運用を経て10時間に設定。休息時間中は、担当者の携帯電話にかけても代表電話に転送される仕組みを整えた。

勤務間インターバル制度の達成率は、導入年ですでに98%にのぼり、2020年には100%を実現。また、2017年に2088時間だった年間労働時間を、2020年は1944時間にまで減少させることに成功している。

3. ソフトバンク株式会社

ソフトバンクはITやAIを活用し、全従業員がスマートに楽しく仕事をすることで企業としての成長を目指す「Smart & Fun!」をスローガンに働き方改革を行ってきた。

2017年から、スーパーフレックスタイム制度や在宅勤務制度の拡充、副業許可制度などを導入。AI・RPA(ロボットによる業務自動化)を活用した業務改革にも取り組んでいる。
2019年には就業時間中の禁煙とあわせて、勤務間インターバル制度が導入された。

正規雇用・非正規雇用、職種を問わず全従業員を制度の対象とし、10時間以上の連続した休息時間をとることを義務付けた。ただし、緊急の対応を要する業務や時差がある海外企業への対応など、やむを得ないと上長に認められた場合は例外となる。

同社の制度の特徴は、休息時間を確保するために様々な対策を施しているところにある。その一つが、勤怠管理システムにおけるアラート機能だ。従業員が勤怠管理システムに終業時刻を入力すると、仮登録されている翌日の勤務開始予定時刻までに10時間満たない場合にアラートが表示される。

また、休息時間を確保できなかった日数が1カ月で5日を超えると、本人および上司に自動でアラートメールが配信される。上司への注意喚起と本人の産業医面談を案内するもので、業務計画や業務量などを調整する動機付けともなっている。

現在、10時間の休息時間を確保できていない従業員はほとんどおらず、こうした取り組みの結果、過去10年で所定外労働は約半分ほどに減少したという。

努力義務化によって、国内でも制度の普及は進む?

欧州で義務化されている勤務間インターバル制度が、ようやく日本でも努力義務となった。導入企業はまだ少ないものの、テレワークやフレックスタイム制度など、働き方改革に関連する取り組みとあわせて導入することで、残業時間を大幅な削減にもつながるだろう。

ワーカーのウェルビーイング、ワークライフバランスが重視される今、欠かせない取り組みの一つとも言える勤務間インターバル制度。日本でどのように導入が進んでいくのか、今後の動向に注目したい。

この記事を書いた人:Ayumi Ito