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【遊ぶように働く】仕事と私生活を連動させるワーク・ライフ・インテグレーションとは

ワークカルチャーの最先端をゆくサンフランシスコで実際に働き方改善に取り組むbtraxのCEO、ブランドン・ヒル氏が仕事と私生活を連動させる「ワークライフインテグレーション」の考え方について語る。

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「残業ほぼナシ」「勤務時間自由」「リモートワークOK」「有給無制限」そんな夢のようなホワイト企業があるだろうか?と思うかもしれないが、実はこれ、ここシリコンバレーやサンフランシスコ周辺では結構当たり前になってきている勤労習慣である。

と、いうのもむしろそうでもしないと人材の獲得&維持がしにくいレベル。高い給料を払うのは当たり前で、それ以上にどのようにスタッフにFlexisibility (柔軟性) を提供できるかが優れた人材を獲得し、強いチームを作り上げるもう一つの勝負となる。おしゃれなオフィスや高い給料に加え、一緒に働くスタッフに、いわゆる「お金で買えない価値」も提供する事がこの辺の企業のスタンダード。実は我々btraxのサンフランシスコオフィスでも上記のほとんどの仕組みを取り入れている。

どうやら最近のニュースによると人材確保に苦労をしている日本企業も少なくないと聞く。働き方改革がどうこうというトレンドもあるらしい。そのわりには日本は就労規則を含め、現場での働くことに対しての変革スピードはまだまだ追いついていない気もする。

今後人材不足は深刻化するし、海外からの人材の獲得どころか、このままだと優秀な人材はどんどん海外に行ってしまう可能性もある。その一方で、経営側からするとあんまりユルイ仕組みにしてちゃんと結果が出るのか?との疑問があるのも当然。

実際のところ、上記のような仕組みを採用している企業でもゴールを達成し、しっかりとした結果を出している会社もたくさん存在する。では、従業員に対して恵まれた環境を与えているアメリカ西海岸的働き方ではどのようにして結果につなげているのか?その秘密は「ワーク・ライフ・インテグレーション」にあった。

ワーク・ライフ・バランスの達成は実は非常に難しい

「残業や週末出勤だからけでプライベートの時間が全くない」どこかで聞いたようなセリフである。働く時間を少なくして、より個人の時間を取れるようにすることを目標にするのが、いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」のコンセプト。

しかしこのやり方だと企業側が無理やり労働時間を削ることでしかゴールを達成する事ができず、むしろ限られた時間に成果を求められ、スタッフのストレスは上がる一方である。そもそも「ワーク」と「ライフ」を天秤にかけている時点でちょっとした比重のズレでそのバランスは不安定になりやすく、この仕組みは危うい。もっと安定した仕組みが欲しくなる。

ワークライフバランスは実はバランスが悪い

今の時代、プライベートと仕事をきっぱり切り分けること自体が不可能

スマホ、ノートブックパソコン、メール、ワークチャット、オンライン会議システム。別にオフィスにいなくてもある程度の仕事はこなせる今の時代、仕事とそれ以外の時間を区別する事自体が実はナンセンスであり、もし企業がそうしろと言ったとしても、建前でしか無い。

どれだけオフィスを消灯し、メールシステムを遮断したところで、仕事をする人は自宅なりから、LINEやFacebookメッセンジャーなどを活用していくらでも仕事をする。理由は単純で、したいし、しなければならないから。そもそもスマホから仕事に関する情報の表示を遮断する事は不可能である。

ちなみに2017年のGallup社によるアメリカの国内調査によると、43%の人がオフィス外でも仕事をしているという結果が出ている。日本と比べ残業が少ないのに、労働時間はアメリカの方が多いのはこの辺が理由かもしれない。

むしろ結果を求められているのであれば、無駄な「働き方改革」的仕組みを導入するのではなく、違ったアプローチから取り組む必要がある。オフィスに来なければ、人に会わなければ仕事にならない時代はとっくに終わり、各種ツールが発達した現代は、いつでもどこでも仕事ができてしまう。だからこそ、労働時間を無理に規制するのは逆効果でしかない。この辺は便利なシェアリングエコノミーを無理に規制しているのと同じロジック。日本に住む友人の中にも「仕事がしたいのにさせてもらえない」と嘆く人もいる。この辺は、北風よりも太陽式のワークシステムが求められるだろう。

であれば、仕事と私生活を無理なく連動させちゃおう

仕事が人生で人生が仕事。自分を含め、そんな感じの人も少なくないだろう。そうなってくると、むしろ分けられると困る。仕事が楽しいし、この遊びをもっと続けたいとも思うから。逆に言うと、分けたいと思うって言うことはその仕事が楽しく無い or 一緒に仕事をしている人が嫌である、的なネガティブな感じになっており、根本的な問題がある。

労働時間に関しても、アメリカで働いている人の実に63%がこれまで一般的な9-5時の勤務形態はもう古いと感じている。(Careerbuilder調べ) 従って、仕事を楽しいと思っている人が多い企業であれば、むしろ仕事と私生活を無理なく連動させる仕組みを提供してあげた方がお互いのメリットに繋がるのである。

仕事をしたい時にできる、休みたい時に休めるほうがストレスは少ない。もし可能であれば、アメリカ西海岸のスタートアップがイノベーションを生み出す要素の一つとしている「遊ぶように働く」事ができる環境を提供してあげられるとより良いだろう。(参考: 日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント)

クリエイティブな時代にこそ求められるワーク・ライフ・インテグレーションを

結果を労働時間で測る時代はとっく終わった。長時間働く。徹夜しまくる。めっちゃ頑張ってる。これらの「体育会系」的考え方は果たして素晴らしいのであろうか?

この問いに対しては、シリコンバレーを代表する企業の一つである、Netflix社のCulture Code (行動規範的なもの) に記載されている一つの項目を紹介したい。

“Aレベルの頑張りでBクラスの結果を出す従業員と、Bレベルの頑張りでAクラスの結果を出す従業員がいたとしたら、我が社は迷いなく後者を優先し、前者を続けるとクビになる可能性もあります。”

なるほど、どれだけ短い時間で楽をしたとしても、結果を出す人に対しては、徹夜で頑張っても結果が出なかったスタッフは評価の面で勝てないということになる。なかなかシビアな表現であるが、ある意味、単純作業よりもユニークなアイディアや発想、そして新しいアプローチが求められる今の時代にあっているのかもしれない。

同じことを繰り返しているだけで仕事になる時代だったら、「仕事 || プライプライベート」と分けることもありだったかもしれないが、これからの時代は、プライベートの交友関係が仕事にも繋がるし、仕事以外の時間の使い方が仕事の結果に繋がることも珍しくはない。バブル期には「5時まで男、5時から男」なんて言葉があったらしいが、これからは仕事とプライベートを分けること自体が意味がなくなってくるだろう。

関連記事:ワークとライフの両方を楽しむ!宿泊できるホテル併設型のコワーキングスペース特集 2018年国内編

キーワードは「自主性」と「プロダクティビティ」

では、この「ワーク・ライフ・インテグレーション」とやらを実現するには、結局どのような仕組みと考え方が必要なのであろうか?

まずはテクノロジーであるが、これは冒頭にもある通り、最近のスマホやオンラインシステムの発達で、仕事とプライベートを連動させることがすでに可能になっている。その裏付けに、アメリカでの調査によると92%の人たちがワークライフインテグレーションを可能にした背景には、インターネット、モバイル、そしてオンライン会議のテクノロジーの発達が影響していると答えている。

続いて考え方の面であるが、スタッフそれぞれに自主性を与え、細かくマネージメントしすぎないこと。結果を重視するべきであるが、ワークスタイルや勤務時間などにフォーカスしすぎると無駄なストレスと時間が生まれてしまう。日本企業にありがちな日報やタイムカード、出張報告書などは、自主性を育むという点においては、弊害にしかならない。

そして、最も重要なのが「プロダクティビティ」である。これはクリエイティブな発想や、物事を効率的に進める方法論など、より結果に結びつく仕事の仕方の「質」の部分を言う。ちなみに、プロダクティビティを日本語に訳すと「生産性」となるが、「生産」と言う言葉がいかにも”製造”っぽすぎるので、まだピッタリくる単語が見当たらない。

例えば、長い時間だらだら働いて、質の低い結果を出すよりも、短時間でもすごいモノを作り出した方が良いと言う考え方。どのように働くかよりも、どんなアウトプットを出せるかに比重がおかれる。そのためには、仕事中に遊ぶのも全然ありだし、むしろ楽しんでいる時間が増えれば増えるほど、プロダクティビティ (生産性) がアップする。また、リラックスしている時の方が面白いアイディアが思いつく (シャワー浴びている時にひらめく系) ので、リラックスできるスペースを設置するのもありである。(参考: デザイン思考型の企業カルチャーをつくる3つの観点 〜今すぐ喫煙所を廃止しキッチン設置しよう〜

楽しさを重視して定期的にルーフトップでミーティングをするbtrax Japan スタッフ

ワーク・ライフ・バランス vs ワーク・ライフ・インテグレーション

これまでのワークライフバランスのコンセプトと、今回説明しているワークライフインテグレーションの違いをより明確にするために、いくつかの例を紹介する。(A. ワーク・ライフ・バランス, B. ワーク・ライフ・インテグレーション)

A. 学校に子供を迎えに行くために5時に仕事を切り上げる
B. 学校が終わったら子供が会社に遊びに来る

A. 顧客対応のために長時間オフィスに残る
B. 早めに家に帰り、ディナー後に顧客対応をする

A. 昼休みに家に戻り犬の散歩をする
B. 犬を会社に連れて来る

A. 会社でスタッフにランチを提供する
B. 会社のキッチンでスタッフ同士が料理を振る舞う

A. 仕事終わりにスタッフと飲みに行く
B. オフィスでワインの飲み比べをする

A. 週末にオフィスで仕事を終わらせてからバンドの練習をする
B. オフィスを練習スタジオとして利用する

A. 仕事のストレスを解消するために家に帰ってゲームをする
B. オフィスでスタッフ対抗マリオカート大会を開催する

A. 頑張って有給をとって家族と旅行に行く
B. 会社で家族同伴OKのチームビルディング活動を行う

実際にその仕組みを導入してわかってきた事

この「ワーク・ライフ・インテグレーション」のコンセプトは、我々btraxでも積極的に取り入れている。で、その結果はどうなのか。軽く紹介したい。

例えばサンフランシスコオフィスで採用している「有給無制限」制度。これは業務に支障がければ年間に何日でも有給休暇を取れる制度で、最近サンフランシスコ周辺のスタートアップを中心にアメリカで流行り始めている。好きな時に好きなだけ有給休暇を取れるので、休みを取れるように普段から自主性を持って仕事に取り組むようになるし、チームメンバーもそれぞれのバケーションのために上手に仕事を回す仕組みを作り始める。

そして、実際に休暇中であったとしても、スマホやパソコンなどで、サクッと仕事をこなすことも可能なので、業務に支障が出ることが少ない。むしろ、出張と有給をうまく混ぜ合わせることで、本人にとっても会社にとってもメリットが生まれることが多々ある。統計的に見てみても、アメリカで働く人の実に91%は休暇中でもメールなどで仕事の連絡が取れる状態であると答えている。会社側から考えてみても実にありがたい状態である。

オフィスの環境も「自宅っぽさ」を生み出すために、スタッフ同士が交流しやすいキッチンや、寝転がって仕事のできる部屋もある。なるべく「仕事っぽさ」を消し去ることに重点をおいている。こうすることで、より柔軟な発想や、プロダクティビティの向上を図っている。

リラックスして仕事のできるbtraxのオフィススペース

「デザイナーは24時間仕事をしている」の裏に隠されたメッセージ

イタリアのとあるデザイン会社の創設者がある時「デザイナーは24時間しなければならない」と語ったことがある。これはもちろん24時間働き続けろ、と言う意味ではない。

彼が言わんとしていたことは「仕事中は主にアウトプットを、プライベートや休暇を含めたそれ以外の時間は新しいことやインスピレーションをインプットするための時間であり、仕事にも大きな価値が得られる」である。単純作業よりもクリエイティビティが求められる今の時代に照らし合わせてみると、この考え方はおそらくデザイナーだけではなく、どのような職種にも当てはまるであろう。

厳密には仕事をしていない時間だって、何かしら仕事につながる情報や、人脈、そしてインスピレーションを得るための財産になる。仕事とプライベートを無理に分けようとすること自体が無意味なのだ。

これからは仕事とプライベート、どっちとも優先できる会社を目指そう

仕事が楽しくてやりがいがあれば、プライベートを”犠牲”にする必要はない。だからこそ、時代遅れでナンセンスな働き方改革などを進めるよりも、いっそのこと、仕事とプライベートを上手に混ぜ合わせることのできる会社作りをしたい。それも両方を優先できる状態に。だって両方とも大切だから。

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

*本記事はfreshtraxより転載いたしました。

この記事を書いた人:Brandon K. Hill

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