働きたい母親に活躍の舞台を THE MOM PROJECTが伝えるママの社会復帰サポートに必要な5つのこと
育児と両立しながら社会復帰を希望しつつも、不安で諦める女性は多い。そんな母親を支えるシカゴのスタートアップ、THE MOM PROJECTの取り組みを参考に、女性の社会復帰支援に必要な5つのことを紹介する。
Culture
近年のMeToo運動やTHE WINGのような女性専用コワーキングスペースの誕生など、働く場において女性の声を届ける動きがグローバルで活発になる一方、女性がぶつかる壁として「ママの産休・育休後の社会復帰」が未だに大きな問題となっている。
全国で24時間スマホで呼べるベビーシッター・家事代行サービスを運営する株式会社キッズラインの『職場復帰・復職に関する調査レポート(2019年調査)』によると、96%のママが職場復帰・復職に不安を感じているという結果となった。その理由には「保育園の送迎や病児の対応」「遅刻早退や欠勤などで職場に迷惑をかけないか」「体力がもつか」「子どもに寂しい思いをさせてしまうのではないか」など多岐にわたる回答が挙がる。
さらに内閣府男女共同参画局は2003年に「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%に引き上げる」とする目標を掲げていたが、帝国データバンクが2019年に行った「女性登用に対する企業の意識調査」によると、企業の管理職に占める女性比率は僅か平均7.7%程度だった。またイギリスの経済紙「The Economist(エコノミスト)」が、収入や労働力参加率、出産・育児休暇の取得率などのデータを考慮し算出する『女性が働きやすい国ランキング(2018年調査)』で、日本はワースト2位にランキングしており、世界的に見ても女性が働きにくい環境が多く残ることは否めない。
ママの社会復帰を応援するにはどのような動きが必要なのか。今回取り上げるアメリカ・シカゴを拠点とするスタートアップ『THE MOM PROJECT』はまさにこの領域の取り組みで注目を集めている。彼らの取り組みを参考に、日本社会においてママの社会復帰をサポートする為に必要なことを5つにまとめる。
THE MOM PROJECTとは?
THE MOM PROJECTは、産休・育休でしばらく仕事から離れていた女性の社会復帰支援を目的とした求人マッチングサイトである。
イメージ: THE MOM PROJECTウェブサイトより
2015年当時、Pampers社に勤めていた創設者兼CEOであるアリソン・ロビンソン(Allison Robinson)は産休をとっており、心身共に母になる準備が進むその間、自分の中で大切なものの優先順位が変わっていくこと、そして、その想いとキャリアを両立していく事の難しさに気づいたという。アリソンは2015年に息子を出産した後、「家族の時間とキャリアの両立」を普遍的な事実にしたいという想いから、2016年にシカゴを拠点としTHE MOM PROJECTをスタートさせた。
THE MOM PROJECTのサービス内容は非常にシンプルだ。応募者は無料でプロフィールページを作成し、産休・育休後の復職に理解を示す2,000以上の企業の求人情報を見ることができる。また、企業側も無料で求人を掲載し、150,000人を超える応募者の中からより企業のニーズに見合った人材を探すことができる。
イメージ: 応募者向けページ / THE MOM PROJECTウェブサイトより
イメージ: 企業向けページ / THE MOM PROJECTウェブサイトより
THE MOM PROJECTの資金はGrotech VenturesとInitialized Capitalを含む7社以上のベンチャーキャピタルから調達し、その総額は2018年時点で1,100万ドルになった。また、Procter&GambleやBP、Miller Coors、AT&Tなど大手企業を含む2,000以上の企業が参加したことで、THE MOM PROJECTへの期待や注目度の高さが伺える。
社会が見落としていたママのもつ「高学歴なバックグラウンド」と「働くことに積極的な姿勢」
THE MOM PROJECTが注目されることで明らかになったのは、どれほど社会全体がママのもつポテンシャルの高さ、そして彼女達の社会に対する積極的な姿勢を見落としていたか、ということだ。アメリカでは学士号を取得する大卒者の60%以上が女性だが、2004年にCenter for Work-Life Policyが行った調査によると、働く女性の43%は家庭の事情でキャリアを終えている。
THE MOM PROJECTは設立以来、積極的にママのキャリアパスに関するリサーチや、応募者と企業の双方からのフィードバックを続けており、ママがどれほど優秀な人材かを社会に伝えている。
グラフ: THE MOM PROJECTレポート(2019年)より
THE MOM PROJECTの応募者(現在雇用されている人とそうでない人を含む)から検出した結果を見ても、ママが持つバックグランドは十分に魅力的なことが分かる。94%の女性が学士号を取得する大卒者であり、更に40%の女性が修士号、又は博士号を取得している。また、休職、もしくは離職するまでに8〜10年のキャリアを積んでいる。THE MOM PROJECTに登録する72%の女性は既にフルタイム、またはパートタイムで仕事をしており、積極的な社会復帰の姿勢が窺える。
日本でも働きたいと思うママは多い
ママのアクティブな姿勢はアメリカ米国に限られたことではない。日本でも大半の女性が社会復帰を果たしたいと考えている。
株式会社キッズラインによる『ママのスキルアップとキャリアに関するアンケート(2017年調査)』では、87.7%もの育児中の女性が育休中にスキルアップしたいと考えており、実際の育休中に過半数近くの43.5%のママがスキルアップに励んだとの結果が出ている。また、3人に1人のママが管理職になりたいと考えており、育休後の職場復帰や復職に向けた意識の高さと共に、キャリアアップに対しても積極的な意見が見受けられる。
実質的な女性の社会参画を推進し多様性を確保する目標を果たすには、ママになった女性の能力や社会復帰の難しさを理解し、それをサポートする社会全体の取り組みが必要のようだ。
ママの社会復帰をサポートする為に必要な5つの事
1. フレキシビリティ
柔軟な働き方は女性だけでなく、全ての働く人たちにとって重要なトピックと言えるだろう。働き方の柔軟性は、ライフスタイルに合わせた就業時間に加え、自宅やコワーキングオフィスなど、必要に応じて働く場所を選択できる環境を意味する。
グラフ: THE MOM PROJECTレポート(2019年)より
THE MOM PROJECTが行ったリサーチによると、38%の女性が、週20〜30時間の労働時間を希望しており、現在フルタイムとされている週40時間労働を望む女性はわずか9%という結果になった。この背景には、残業や時間外の電話やメール対応など、実質の就業時間が週40時間に収まらないという懸念があるようだ。家族のスケジュールに対応した労働日数や時間、そして働く場の柔軟性がママにとって最も重要であるのは明らかな事実だろう。
2. リスペクト
働く母親にとって会社の柔軟な働き方に対する敬意、すなわち、上司や同僚の理解や協力も重要だ。THE MOM PROJECTのリサーチでは、75%の女性が、会社全体が「ワークライフバランス(生活と仕事を調和させることで得られる相乗効果)」に対する十分な理解があり、かつサポート体制が整っているかどうかを職業・企業選択の際に重要な判断基準として考えているとのこと。子どもが体調を崩した時や学校の行事の時などに休暇を取れるかどうか、また、在宅ワークが認められるかなど、家族のスケジュールに合わせた働き方が受け入れられる環境が必要である。
イメージ: THE MOM PROJECTウェブサイトより
また、リサーチ対象となった女性はフルタイムやフリーランス、パートタイムなど様々な形態で社会復帰を果たしているが、職場でのリスペクトをあまり感じないという声がある。特にパートタイムで働く母親は、就業時間が短い分、仕事内容や扱われ方に違いを感じ、疎外感を感じることが少なくないという。
働く母親のなかにはフルタイムで働きたくても、ライフバランスを考慮した結果パートタイムを選択する場合も多いなかで、その雇用形態故に目に見えないスティグマが生まれてしまう。この問題を排除するには、書面上のポリシーだけでは不十分であり、具体的な取り組みや実例、また、一緒に働く人たちの理解や協力が必要不可欠なのだ。
3. ベネフィット
出産・育児休暇は今や当然の福利厚生となりつつあり、その他の子育て支援制度も企業によってどのように整備されるか注目されている。例えば、メルカリでは社員の家族を含めた環境の支援として、2016年に導入した『merci box(メルシーボックス)』と呼ばれる人事制度がある。「産休・育休中の給与の100%保障」や「妊活支援(不妊治療の費用を会社が一部負担)」、また、「病児保育費の支援(子どもが病気になった際、臨時で保育施設に預けたりベビーシッターを利用した場合の費用を負担。利用時間の制限なく1時間あたり1,500円を支給)といった制度が充実している。
さらに、2017年には認可保育園と認可外保育園の保育料差額を負担する「認可外保育園補助」制度を新たに採用するなど、あらゆる場面に適応したサポートを行い、社員の不安を軽減し思い切り働ける環境を充実させている。メルカリでは「merci box」導入以降、2017年時点で、育児休業取得率が95%(男性:92.1% 女性100%)に達するなど、多くの社員が育児と両立しながら仕事を続けている。
4: オープンなコミュニケーション
上司や同僚とのオープンなコミュニケーションは、働く母親に限らず、どの社員間においても信頼を築く上で大切と言えるだろう。上司が「何か質問や懸念事項がある時はいつでもどうぞ」という姿勢を示してくれることで、働く母親は安心して働くことができるのだ。
以前筆者が働いていた会社では、時折社員の子ども達が夕方頃から職場に来ることがあり、親の隣に座って宿題をしていた。その職場ではごく自然な風景であり、たまに子ども達と話したりお菓子をシェアしたりしていた覚えがある。今改めて振り返ると、オープンなボスとの関係性により、こういった柔軟な職場環境や同僚からの理解が生まれていたのだろうと思う。
5. イベント不参加への理解
働く母親にとって時間の使い方は予想以上に限られている。朝の準備から始まり、仕事、お迎え、帰宅後の家事から寝かしつけまで、毎日があっという間に過ぎていく、という人が大半だろう。そのため、参加したい、したくないの意思とは関係なく、自動的に勤務時間外のイベント参加は難しいことが多くなってしまう。「イベントの不参加=参加の意思がない、コミュニケーションを図る意思がない」と紐づけることのないよう、上司や同僚の理解が必要である。
またこのことを配慮して、以前紹介したBearTailのように、ランチ時間や勤務時間の一部を使って社内イベントを行う企業が今増えている。イベントを通じて同僚や上司との交流を深めるのも円滑に仕事を進める上で重要なことと考える企業は多い。であれば、ママも参加できるように勤務時間の一部にイベントを組み込むことも今では効果的な時間の使い方と言えるだろう。
ママが望むかたちで社会復帰を果たせる環境づくりに向けて
2019年に内閣府男女共同参画局が発表した『男女共同参画社会に関する世論調査』では、「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」といういわゆる就業継続を支持する意見が初めて60%を超え、今日における育児中の女性の就業継続を支持する考え方へのニーズの高まりが窺える。
日本の社会が抱える潜在的なママの社会復帰の足枷を断ち切り、多くのママがもつ働きたいというニーズを汲み取るには、各企業が社員の家族を含めた環境を整える必要がある。女性社員の離職理由として特に多い、妊娠・出産・育児のライフイベントを中心に福利厚生や各制度を見直すことが、女性社員の離職率を下げ、また、ママが本来望むかたちで社会復帰を果たせる環境づくりに繋がるだろう。