サーキュラーエコノミーの視点を取り入れた、サステナブルなオフィスのつくり方
サステナブルな社会を実現するための新たなビジネスモデルとして「サーキュラーエコノミー」が世界的に注目されている。サーキュラーエコノミーの視点を取り入れたオフィスづくりのポイントとその事例を紹介する。
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サステナブルな視点をオフィスにも
環境問題の深刻化を受け、世界的にサステナブルな社会の実現へ向けた取り組みが広がっている。企業に対しても、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした経営からの脱却が求められている。こうした動向を受け、日本でも多くの企業がSDGs(持続可能な開発目標)やESG(※)を経営戦略に取り入れるようになってきた。なかでも積極的な企業は、オフィス計画にもサステナブルな視点を採用している。
本稿では、サステナブルな社会を実現するための新たな経済モデルとして注目されている「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」について解説し、サーキュラーエコノミーの視点を取り入れた、サステナブルなオフィスづくりのポイントを事例とあわせて紹介する。
※ESG:環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字をとった言葉。企業が取り組むべき課題として、投資家もESGの観点を重視する傾向がみられる。
サーキュラーエコノミーとは
原材料から製品をつくり、使用後は廃棄するという従来型の経済モデルは、リニアエコノミー(線型経済)といわれる。こうした経済活動により、私たちは経済成長や豊かさを享受してきたが、同時に地球環境に大きな負荷を与えてきた。
画像は環境省の「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」より
気候変動のほか、海洋プラスチックごみ問題や生物多様性の損失なども深刻化しており、これらの問題を解決し、サステナブルな社会を実現するための経済モデルとして、「サーキュラーエコノミー」が注目されている。
サーキュラーエコノミーとは、製品や資源の使用を循環させ、廃棄物の削減や環境負荷の軽減を図るものだ。サーキュラーエコノミーでは廃棄物の削減や再利用を考えるのではなく、モノやサービスの設計段階で廃棄物が出ないようにデザインすることを提案している。
サーキュラーエコノミーは、SDGsの目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」を実現する手段となる。また、企業や投資家がESGを重視するなかで、サーキュラーエコノミーの考え方が社会的責任を果たすビジネスモデルとして注目されている。
サーキュラーエコノミーの3原則
サーキュラーエコノミーの促進と実現をめざす国際的な非営利団体エレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation)は、サーキュラー・エコノミーの3原則として以下を挙げている。
①廃棄物と汚染物質をなくすこと
②製品や材料を(最も価値の高い状態で)循環させること
③自然を再生させること
サーキュラーエコノミーは、再生可能なエネルギーと材料への移行によって支えられる。エレン・マッカーサー財団は、その概念図としてバタフライダイアグラムを提示している。サーキュラーエコノミーを日本の企業に浸透させようと取り組む一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンでは、このバタフライダイアグラムを下図のように日本語に翻訳して紹介している。
画像は一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンのWebサイトより
サーキュラーエコノミーの視点を取り入れたオフィスづくりのポイント
では実際に、サーキュラーエコノミーを考慮したオフィスづくりを行うには、何に取り組めばよいのか。具体的なポイントは次の通り。
環境負荷の少ない素材を選ぶ
オフィス内で使用される家具や設備などは、できる限り再利用可能な素材からつくられたものを選ぶようにする。たとえば、リサイクルプラスチックや再生木材を使用した家具、再利用可能なLED照明器具など。
修理交換・分解・リサイクルしやすい設計にする
建築や内装などを、組み立てやすく、分解や再利用がしやすいようにモジュラー化して設計する。これにより、建物や内装が長期にわたって使用される場合でも、修理や改修を容易に行うことができ、資源の無駄を軽減できる。また、床材、天井材、壁材などを同じ素材で統一することで、補修やリサイクルを効率化することも可能だ。
サーキュラーエコノミーの視点を取り入れたオフィス事例
実際にサーキュラーエコノミーを意識したオフィスづくりをしている企業では、どのような工夫を行っているのだろうか。ここではいくつかの企業事例を取り上げ、具体的な取り組みを紹介したい。
1. 株式会社淺沼組「名古屋支店」
総合建設会社の淺沼組は2021年に、「人間にも地球にも良い循環を生む」というコンセプトを掲げ、築30年を経過した自社ビルである名古屋支店のリニューアルを行った。
改築にあたっては、既存の躯体を最大限活用しながら、新たに加える素材はできるだけ自然素材を採用。建物が寿命を迎えたときには「土に還る」ことが意識されている。特に同社と縁があるという奈良県の吉野杉がふんだんに使用された。
ガラス張りのオフィスから吉野杉の丸太とグリーンが印象的な外観に(画像は淺沼組のnoteより)
また、約12トンの建設残土を壁土として再利用したり、廃棄プラスチックを利用した建材や家具を使用するなど、廃棄物のアップサイクルも積極的に行われた。旧社屋のエントランス床面に使われた石材タイルは、トイレの内装材に転用したほか、端材については細かく砕き、家具のデザインとしてあますところなく使用されている。
旧社屋で使用されていた石材タイルの端材をアップサイクルした椅子とテーブル(画像は淺沼組のnoteより)
廃材のアップサイクル品であっても、色調やバランスを工夫すれば、オフィス空間に違和感なくなじむことがわかる。
さらに、このオフィスで特筆すべきは、アップサイクルの工程に従業員が関わっている点である。建設残土を使用した土壁を塗るワークショップや、端材を使用した家具づくりなどに従業員が参加。土壁には従業員が指でなぞることで生まれた模様がそのまま刻まれている。
サーキュラーエコノミーの実現だけでなく、従業員のオフィスへの愛着や会社へのエンゲージメント向上にもつながる取り組みである。
2. 日清食品ホールディングス株式会社「NISSIN GARAGE」
日清食品ホールディングスの「NISSIN GARAGE」は、創業者の安藤百福氏がチキンラーメンを開発した研究小屋をイメージしてリニューアルされたオフィスだ。人・空間・仕組みが自律的に変わり続けることを目指して設計されている。
同オフィスの特徴は、固定化されがちなミーティングスペースや収納エリアを単管パイプで組み立てて構成しているところ。パイプを抜いて組み換えれば、スペースを自在に変化させられる。
単管パイプで構成された、遊び心あふれるミーティングスペース(画像は日清食品ホールディングス株式会社のWebサイトより)
工事用の単管パイプという入手しやすい部品を用いることで、組み立てやすく、分解や再利用も容易にした。これにより、将来的に組織改編や人員の増減があったとしても、大掛かりなリニューアル工事を必要としない、柔軟に変化し続けることができるオフィスが実現した。
用途に応じてレイアウトを変えられる、キャスター付きの可動什器を採用(画像は日清食品ホールディングス株式会社のWebサイトより)
前項の、サーキュラーエコノミーの視点を取り入れたオフィスづくりのポイントで挙げた「修理交換・分解・リサイクルしやすい設計」に該当するものだが、同社はこれが「現状に安住せずに、クリエイティブな発想の展開に貢献」するものになっているとしている。
同オフィスは、国際的なデザイン賞である「レッドドット・デザイン賞2021(Brands & Communication Design部門)」をはじめ数々のデザイン賞を受賞。その創意工夫が国内外で高く評価されている。
3. リコージャパン株式会社「萩事業所」
リコージャパン山口支社は、2021年10月に萩事業所をリノベーションした古民家に移転した。建物は醤油会社が明治43年に設立した元店舗だ。
城下町の風情を残した外観。道路側のスペースではコーヒー専門店が営業している(画像はリコージャパン株式会社のWebサイトより)
美しい欄間や梁はそのままに、古民家の雰囲気を残しながら、社員が働きやすい環境を整備した。最新のICTの技術を導入し、デジタルワークプレイスとして活用している。
古民家の雰囲気を生かしながら、社員が働きやすい環境を実現した(画像はリコージャパン株式会社のWebサイトより)
古い建物を生かすことにより、廃棄物を出さず、新築用の材料を削減している。また、地域の町並みの保存にも貢献しており、地域との共生や移住促進にもつながるという意味でも、循環を生む取り組みとなっている。
サーキュラーエコノミー実現の第一歩をオフィスから
2021年に横浜市が実施した「環境に関する企業意識調査」では、環境への取り組みを⾏う⽬的を尋ねた質問に8割以上の企業が「社会的責任」と答えている。また、事業活動を継続するうえで、重要と考える環境課題については、「廃棄物の削減・循環経済の確立」が最も多く、7割強に及んだ。
その一方で、SDGsへの貢献の視点をもった経営、事業活動を行っていますかとの問いに対し、「行っている」と答えた企業は3割に満たなかった。意識はあるものの実際の行動には移せていない企業が多いという実態がうかがえる。
サーキュラーエコノミーを実現するのに必要なのは、なにも製品やサービス、サプライチェーンの再構築といった大規模な施策だけではない。まずはオフィスからサーキュラーエコノミーの視点を取り入れてみてはどうだろうか。