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ウィズコロナ時代の社内外コミュニケーション ― オンライン化する社内報、採用、IR

コロナ禍により、社内外のコミュニケーションもオンライン化が進められている。本記事では、社内報、採用、IRのオンライン化に関する事例を紹介し、そのメリットと課題について考察する。

コロナ禍でコミュニケーションのオンライン化が加速

企業の活動は、さまざまなステークホルダーとの関係に支えられている。2020年初頭に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、「ステークホルダー資本主義」が強調された。そこでは、株主や投資家のみならず、あらゆるステークホルダーが利益を享受できるよう、企業は十分に配慮する必要があることが改めて提唱されている。

SDGsやESG経営へのコミットが求められる今の時代、社内外のコミュニケーションの精度を高め、ステークホルダーの声に耳を澄ますことはもはや経営課題の一つと言える。そして、その精度の向上には、コンテンツの内容はもちろん、時流に合わせた「手段のアップデート」も欠かせない。

コロナ禍をきっかけに、あらゆる分野で「オンライン化」が進められたが、社内外のコミュニケーションにおいても同様の動きが見られる。本記事では、社内報、採用、IR(投資家向け情報)のオンライン化に関する事例を紹介し、そのメリットと課題について考察したい。

Webのメリットを活かしたオンライン社内報

企業にとって、社員は最も身近で重要なステークホルダーと言える。公益財団法⼈日本生産性本部が2021年4月に行った調査によると、「新型コロナウイルスの影響で、勤め先の業績(売上高や利益)に不安を感じるか」との質問に対し、「かなり感じる」「どちらかと言えば感じる」と回答したワーカーは全体の60%以上に及んだ。さらに、「勤め先への現在の信頼の程度」について「あまり信頼していない」「信頼していない」と回答したワーカーは40%弱であり、働く環境への不安をぬぐえない状況が見て取れる。

一方で、パンデミックのタイミングで社員エンゲージメントが向上した企業もある。株式会社リンクアンドモチベーションの調査によれば、新型コロナウイルスの流行前後で社員エンゲージメントが向上した企業において、従業員満足度の上昇幅が大きかった上位5項目は、「外部環境の変化の共有」「全社的な連帯感」「適切な採用・配置」「職場の一体感」「多様な働き方」であった。

それらのうち、「外部環境の変化の共有」「全社的な連帯感」「職場の一体感」を高めるツールとして役立つのが「社内報」だ。社内報には、経営方針やビジネスプロジェクト、事業拠点の最新情報など、組織のタテとヨコのつながりを強化するコンテンツを掲載できる。従来は紙で制作されていたが、近年、オンライン化する事例も増えている。

1.紙とWebの併用でターゲットに届ける
例えば株式会社ブリヂストンは、2015年という早期からWeb社内報(グループ報)を整備している。その目的は以下の4つ。

①経営トップ方針の伝達、浸透
②会社、グループの経営や事業に関わる情報のタイムリーな伝達
③社員や経営者に刺激をもたらし、考え学ぶ機会の提供
④グループ一体感の醸成

すべてのターゲット読者において上記を実現するため、同社は紙とWebを組み合わせて社内報を運用している。具体的には、ベーシックなトピックスはWebに委ねて情報量を増やし、工場勤務者などデジタル端末を持たない一部の従業員を対象に、オンライン記事をダイジェストにした冊子を配布しているという。

2.オープン社内報で、社内外をシームレスにつなげる
株式会社SmartHRでは、2019年から「誰でも読める社内報」と銘打った「SmartHRオープン社内報」を公開している。緊急事態宣言への対応方針から新商品プロジェクトの紹介、年末調整書類の提出期限といった業務に必要な情報まで、会社にいなくても、ひいては社員でなくても閲覧できる。社外の人も記事に対してリアクションするという、社内報としては珍しい双方向のコミュニケーション機能も備えている。

また、エン・ジャパン株式会社の「en soku!(エンソク)」も、オープン社内報の先駆的存在だ。サークルの掲示板のようなカジュアルなタッチで、更新頻度が高い。専属ライターや担当者を置かず、社員がレポーターとなって多彩な記事を発信している。SNSのシェア機能や写真の多用は、採用ツールとしての活用も意識してのことだろう。

こうしたオープン社内報は、リモートワークを導入した企業においても、社員同士のつながりや帰属意識を高める上で効果的に働く。さらに、社員へのきめ細かいケアや風通しのよい企業文化を社外にアピールすることができ、リアリティのあるPRツールにもなり得る。

3.パッケージサービスで、オンラインならではの解析機能を活用する
社内報のオンライン化をサポートするパッケージサービスも増えてきている。例えば、株式会社スタメンの「TUNAG(ツナグ)」やウィズワークス株式会社の「社内報アプリ」は、イチからWebサイトを立ち上げる場合に比べ、低コストで導入できる。担当者の手元で記事を編集、投稿できるCMS機能のほか、コメントやリアクションなど双方向のコミュニケーション機能、ユーザーの閲覧傾向をデータ分析する機能も提供されており、社内報の効果判定や改善に有用だ。

常態化しつつある採用活動のオンライン化

コロナ禍の前から、採用活動ではすでにオンライン化が進められていた。エン・ジャパンが行った「オンライン選考」に関する調査によれば、3割の転職コンサルタントが「半数以上の企業が最終面接を含め、すべてオンラインで実施している」と回答している。かつては求職者が何度も通って実施していた採用面接も、オンライン化によって、距離を気にすることなく気軽にファーストコンタクトが取れるようになった。この流れはコロナ禍で決定的となり、すでに常態化しつつある。

オンライン化で自由度が増した採用活動だが、新たな課題も生まれている。それは、自社に興味のある人を集める段階で、いかにマッチング率を上げておくかということだ。オンラインの場合、求職者はオフィスの雰囲気や同僚の人となりなどの判断材料を入手しにくく、採用後にミスマッチを起こしやすくなってしまう。

それを防ぐためには、ウォンテッドリー株式会社が提供する企業訪問アプリ「Wantedly Visit」のようなプラットフォームを使い、より“自然体の”企業の姿を知ってもらうことも重要だ。まずはカジュアルに情報交換した上で、興味があれば職場に来てもらう。リラックスしたコミュニケーションを通して少しずつお互いを理解することで、ミスマッチのリスク低減が期待できるだろう。

オンライン統合報告書でスムーズに情報を開示

オンライン化のメリットである「即時性」と「更新性」は、株主・投資家とのコミュニケーションにおいても有利に働く。実際に、上場企業はIRサイトを設け、情報の適時開示に努めている。なかでも注目したいのは、財務情報と非財務情報をまとめた「統合報告書」のオンライン化だ。

日本では2000年以降、アニュアルレポート(年次業績報告書)や環境報告書の発行がトレンドとなった。KPMGジャパンの調査によれば、2020年に統合報告書を発行した日本企業は579社、一部の平均ページ数は73ページとのこと。仮に一冊の重量を250gとし、各社が日本語版・英語版を合わせて毎年2000部を印刷するとしたら、単純計算で毎年290トンもの紙が消費されることになる。

同調査によると、発行のタイミングは6カ月後が最も多く、制作に半年以上を要するという。3月決算企業の場合、5月に発表する決算内容を踏まえると、冊子の発行は早くても初夏になる。これは、そろそろ第一四半期が終わり、業績が更新される時期。生まれながらにして、冊子の情報はすでに古くなってしまうのだ。

一方、ターゲット読者である投資家の大半は、デジタル端末で株価や業績を追っている。また、投資家に情報を提供するアナリストは、分析の精度を高めるために面談で生きた情報を入手することもあり、統合報告書には開示スピードを求めている。発信側の苦労と受け手側のニーズにギャップがある現状を解消するのが、近年広がりつつある「オンライン統合報告書」だ。以下に、特徴的な事例を紹介する。

1.株式会社資生堂「オンライン 統合レポート2020
資生堂では、2017年度からアニュアルレポートをオンラインベースで発信している。Webサイトならではの動的な効果を用い、アトラクティブなレポーティングサイトを構築する先駆的企業だ。2020年度からは中期経営戦略「WIN 2023」の開始に合わせてデザインを一新し、さらに力強いビジュアルを展開。ブランディングサイトさながらの訴求力を発揮している。

2.株式会社電通グループ「電通グループ統合レポート2021
電通グループの統合報告書は、シンプルかつわかりやすいコンテンツ設計が特徴だ。忙しい投資家が迷子になることなく、すぐに必要な情報を入手できるような工夫が施されている。例えば「一目でわかる電通グループ」のページは、タイトル通り重要な情報を一目で確認できるページ構成になっており、ユーザビリティへの配慮がうかがえる。

3.ロレアルグループ「L’OREAL RAPPORT ANNUEL 2020
ロレアルグループのレポーティングサイトは、群を抜いた美しいデザインが光る。2020年度版は「レジリエンス」「ビューティーテック」「地球環境」「ダイバーシティ」を大きなテーマに据え、紐づくトピックスでブレイクダウンしていく形式を採用した。記事をパラグラフ単位でSNSにシェアできたり、次期CEOのメッセージを動画で見れたりと、Webならではの発信方法を追求している。

オンラインコミュニケーションのメリットと課題

ここまで、社員、求職者、投資家とのオンラインコミュニケーションの事例を見てきた。まとめると、オンライン化のメリットは以下の5つに総括できる。

①導入時・運用時のスピードアップ
②双方向性の獲得
③ユーザーとの接点の拡大、長期化
④多彩なビジュアル表現
⑤リアクションのデータ化

オンライン化により、コミュニケーション手段の可能性は飛躍的に広がる。ただし、その一方で新たに浮上する課題もある。そこで最後に、オンラインコミュニケーションを実務に用いる上で心得たいことについて触れておきたい。

1.プッシュ型の仕掛けを考える
Webサイトは、いわば「大都会で個人商店を開いている」ようなもの。店舗を構えて商品を陳列するだけでは、人は集まってくれない。店の存在を知ってもらい、集客の仕掛けをつくることが重要だ。そのため、例えばメルマガ配信やQRコードが入ったチラシの配布など、ときにはアナログの力も借りて総合的にプランニングする必要がある。

2.パートナーシップで最新のITリテラシーを身に付ける
オンラインツール・サービスは日々多様化しており、覚えた知識がたちまち古くなってしまうことも少なくない。自分の過去の知識や経験にこだわることなく、最先端のサービスを展開する企業とコンタクトを取るなど、パートナーシップを活用して知識をアップデートしていきたい。

3.コミュニケーション戦略の策定に注力する
オンライン化のメリットとして、リアクションのデータ化をあげた。これを活用してPDCAをこまめに回すことが、オンラインコミュニケーションの要となる。

社内報であれば、どの記事が、どの属性の社員に、何曜日の何時ごろに読まれているか。採用活動においては、求人掲載と応募のタイミングに相関関係があるか。投資家は、どのページを遷移して離脱しているか。

彼らが欲している情報を精査し、仮説を立て、常に改善していくことで、より実効性の高いコミュニケーションを築けるだろう。大量の情報をやみくもに発信するのではなく、半年〜1年程度の中期的な目標を立て、戦略を実行することにリソースを投下し、より鋭い訴求となるよう意識したい。

社内外コミュニケーションにおけるオンライン化の流れは、まさに今、加速している。重要なのは、オンライン化そのものよりも、情報の受け手の行動や気持ちをいかにリアルにイメージすることができるかだ。彼らの日々に寄り添い、必要な情報を必要なときに、好ましい強さで提供すること。それこそが、ニューノーマル時代のコミュニケーションに必要な姿勢ではないだろうか。

この記事を書いた人:Mayuko Yamagami