週に1日の「ノー会議デー」がもたらすメリットとは?
不必要な会議の増加を受け、一部の企業で「ノー会議デー」が取り入れられている。そのメリットや会議の代わりに講じるべき対策について、企業の事例を踏まえて考察する。
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「ムダな会議」がもたらす大きな損失
Web会議の普及により、かえって会議やミーティングが増加したと感じている人も多いのではないだろうか。
実際に、マイクロソフト社がMicrosoft 365の利用動向を分析したところ、Microsoft Teams を使った会議に費やされる時間は、2020年2月と比べ2021年2月では2.5倍に増加していた。Web会議は離れた場所にいながら会議が行える、今やなくてはならないツールだ。しかし気軽に設定できることから、いわば「ムダな会議」が増えている可能性がある。
2022年9月、Otter.ai社とノースカロライナ大学シャーロット校のSteven Rogelberg教授は、「不必要な会議出席のコスト(The Cost of Unnecessary Meeting Attendance)」と題したレポートを公表した。このレポートでRogelberg教授はさまざまな業界で働くワーカー632人に調査を調査。その結果から、不必要な会議がワーカーに負担をかけるだけでなく、企業の収益の妨げにもなっていることを指摘している。同教授がインタビューした企業では、社員が不必要な会議に出席することで1人あたり年間で平均約2万5000ドル(約350万円)の損失を生じていたという。
こうした事態を避けるため、「ノー会議デー」を設ける企業が出てきている。ノー会議デーとはその名の通り、社内会議を一切行わない日を設定すること。欧米では「no meeting day」と呼ばれ、週4日勤務、リモートワークなどと並んで、転職希望者にとって魅力的な要件となっている。
本記事では、ノー会議デーを導入した企業の事例を取り上げ、そのメリットや会議の代わりに講じるべき対策について考察する。
「ノー会議デー」を導入した企業の取り組み事例
海外で先行するノー会議デーだが、日本でも導入する企業が少しずつ増えている。ここでは特徴的な4社の事例を紹介したい。
全社一律で実施し、忙しい社員の休暇取得を可能にした「コマツNTC株式会社」
工作機械の開発と製造を手がけるコマツNTC(富山県南砺市)。同社は、年次有給休暇の取得を促進するための取り組みとして、部門内で週1日、ノー会議デーを設定している。設計・製造部門をもつ同社では、部署によって休日に出勤しなくてはいけない場合や、突発で出社する場合もあり、時間外労働が増える傾向にあったことが導入の背景にある。
同社では、ノー残業デーを設定すると同時に、会議の抜本的な見直しを実施。すべての会議について実施時間、回数、参加者、コストなどをリスト化し、「ムダな会議をなくす」「回数を減らす」「1回あたりの時間を短くする」「参加者を減らす」などの改善策を実行した。
そのほかにノー残業デーの設定や管理職への教育なども行い、一連の取り組みの結果、時間外労働が減り、年次有給休暇の取得日数が増えるなど労働環境が大幅に改善したという。
同社のように、同じ部門であっても、休める人と休めない人とのばらつきがみられる場合、全社一律で行うノー会議デーが、忙しい社員の休暇取得に効果的であることがうかがえる。
不要な作業を削減し、成長意識の高いワーカーに訴求する「株式会社IHI」
総合重工業メーカーのIHI(東京都江東区)は2021年4月、働き方改革を進めるため新たに「スマートワーク推進部」を発足した。日本経済新聞の記事によると、在宅勤務など、働き方のニーズが多様化したことを受けて立ち上がった同部では、社内決裁などの管理業務の削減に取り組むとともに、社内会議を一切行わないノー会議デーを設定した。
加えて同社では、これまで人手をかけていた単純作業にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用するため、デジタル関連に数億円単位で投資すると発表している。これらの取り組みには、社員が付加価値を高める仕事に集中できるようにする意図があるという。
不要な作業を削減した先には「人でしかできない仕事がある」というポジティブな姿勢は、仕事を通して成長したいと考える社員に強い訴求となることだろう。この事例からは、ノー会議デーの導入が、「人が本当に携わる必要のある仕事(会議)であるか」を改めて考えるきっかけにもなることが読み取れる。
国際競争力向上のため、専門性の高い社員の能力発揮を狙う「ルネサスエレクトロニクス株式会社」
2022年8月、大手半導体メーカーのルネサス エレクトロニクス(東京都江東区)は8月中すべての金曜日に会議や打ち合わせを開かないようにする「Focus Fridays」を導入した。日本、アメリカ、イギリスなどのグローバル全社員が対象で、同時に8月12日を特別休暇にする「Renesas Day」も導入された。
同社ではこれまでも「専門性を有する社員が、オンオフのバランスを取りながら自らの能力を最大限発揮できる企業風土づくり」を行ってきた。その一環として、在宅勤務制度やコアタイムのないフレックス制度などを導入し、柔軟な働き方を推進してきたという。
今回新たに導入された、海外拠点とも足並みを揃えてのノー会議デーや特別休暇は、さらに働きやすい環境を社員に提供するものだ。同社のような需給が逼迫する業界のグローバル企業では、これらが福利厚生の一つの目玉となり、厳しさを増す人材獲得競争に有効に働くだろう。
ワークライフバランスのため、週に半日集中できる時間を創出する「株式会社デンソー」
国内最大手の自動車部品サプライヤーである株式会社デンソー(愛知県刈谷市)。同社は社員のワークライフバランス実現へ向けた取り組みとして、毎週水曜日の午後に「ノー会議・ノーコールデー」を実施している。働き方を見直すためには、まず時間に関する意識改革が必要との考えからだ。
ノー会議・ノーコールによって創出された時間は、自身の業務に集中したり、上司とじっくり相談するための時間にあてられているという。さらに同社では、業務の効率化を推進する専任組織が、会議やメールなどのルールづくりも行っているそうだ。
デンソーは、真のグローバル企業として成長するため、女性をはじめとする多様な人材が活躍できる組織づくりに取り組む、ワークライフバランスの実現に意識的な企業だ。実際に、女性社員の育児休職取得率は8割を超え、出産後もほとんどの女性社員が働き続けながら、自分に合った勤務形態を選択しているという。
週に半日でも自分の作業だけに集中したり、業務改善のための時間をつくれたりすることは、長期的な視点でのワークライフバランスの実現につながる。会議もない、電話もかかってこない状況であれば、休暇も取りやすいだろう。仕事とプライベートの両方を充実させるためにも、ノー残業デーなどとともに、半日でもノー会議デーを設定することの重要性を考えさせられる一例である。
時間を限定した「オフィスアワー」の設定も
会議は、メンバー間の情報共有や意思決定のために重要なものだ。一方で、参加者の時間を不必要に奪ったり、仕事を中断させたりするデメリットも併せもっている。また冒頭で述べた通り、企業側に大きなコストとなっている点も見逃せない事実だ。
ノー会議デーはこれらの課題を解決するだけでなく、必要な会議とそうではない会議を振り分けることにつながる。また、ノー会議デーによって創出された時間をオフィスワーカーは何にあてるべきか、限られた会議のなかで何を行うべきかを改めて考える機会となり、業務の本質を明確にするというメリットもある。
ノー会議デーで削減される全体会議の代替案として、「オフィスアワー」を設けるのも有効だろう。一般的に大学などの教育機関で採用されている方法で、その時間帯は教員が必ず研究室に在室し、学生が自由に訪ねて質問や相談ができるものだ。企業においては、ある時間帯をオフィスアワーとして設定しておき、話し合いたいことがある場合は先着順でアポイントを入れていくといったような仕組みがよいかもしれない。
ただ受動的に会議のスケジュールを入れるのではなく、自ら能動的に話し合いの場をつくっていく。このマインドセットの変化が、オフィスワーカーにどのような創造的な変化を及ぼすか。国内外の動きを注視していきたい。