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社内図書館が出社率を高める? 効果的なライブラリースペースのつくり方

出社やコミュニケーションのきっかけとして、オフィスに社内図書館を設ける動きが広がっている。実際に導入している企業の事例と社内図書館づくりのアイデアを紹介する。

社内図書館に期待されるメリットとは

近年、快適な社内空間づくりやコミュニケーション創出の一環として、社内図書館が注目されている。社内図書館とは、オフィスに設置される図書館やライブラリースペースのこと。その会社の従業員であれば自由に蔵書の閲覧や貸し出しができる。社内図書館をつくるには、それなりのスペース・備品・運営にかかる予算が必要となるが、以下のようなメリットが期待できる。

・知識を共有できる
社内図書館では、業務関連の書籍や話題の業界情報誌など、従業員の自己啓発や知識の習得に役立つ書籍を並べることが多い。本を読んだ人の自己研鑽につながることはもちろん、書籍から得た知識や情報を部署やチーム内で共有すれば、多くの従業員のスキルアップや生産性向上も期待できる。

・本を介したコミュニケーションが生まれる
チームのメンバーで読むべき資料や話題の本、おすすめの本などを紹介し合えば、年齢や立場にかかわらず共通の話題が増え、会話が盛り上がる。新入社員や中途入社の社員ともコミュニケーションが活性化しやすい。

・出社のきっかけになる
快適なワークスペースがあれば、自然とオフィスで働くモチベーションが高まる。カフェスペースやライブラリースペースのような付加価値の高い空間を備えることで、働きたくなる自慢のオフィスとして、企業ブランディングにも貢献するだろう。

・自社のビジョンを表現できる
社内図書館は、その会社を訪れる社外の人に対して、自社のブランディングを表現する手段ともなり得る。ライブラリースペースの雰囲気や書籍のラインナップを目にすれば、自然とその会社のカルチャーが伝わるものだ。それは同時に、インナーブランディングにも貢献する。

・アイデアの創出を促進できる
社内図書館で偶然、手にした本から思わぬ着想や知識が得られ、アイデア創出のきっかけとなることも。また、図書館での偶発的な人との出会いやコミュニケーションからひらめきが生まれることもあるだろう。

このように、社内にライブラリースペースを設けることは、ただ本を読んで知識を蓄積するだけではなく、さまざまな効果が期待できる。本記事では、社内図書館を導入した企業の事例や社内図書館づくりのアイデアを紹介する。

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社内図書館を導入したオフィス事例

図書館といっても、大規模なものから小さなライブラリースペースまで幅広い。何を目的にどういったスペースをめざすのか、コンセプトによってさまざまなスタイルがある。ここではオフィススペースを活用した社内図書館の事例を中心に紹介する。

1. 株式会社ユニクロ有明本部「READING ROOM」

過去の記事でも紹介しているが、ユニクロは2017年に有明本部を開設し、既存の本部機能の大半を移転・集約した。現在は、1~3階を同社の物流拠点となる倉庫スペース、4階を撮影スタジオ等、5階をジーユー本部・PLST本部、6階をユニクロ本部として使用している。

約5000坪の巨大なワンフロアすべてをオフィスとした6階のユニクロ本部「UNIQLO CITY TOKYO」には、社員専用オフィスライブラリー「READING ROOM」が設置された。ファッション・アート・カルチャー・ビジネスなど、国内外で出版された約3000冊の書籍や雑誌が揃う。

画像は株式会社ひらくのWebサイトより

「READING ROOM」はブックディレクターが常駐し、社員のニーズやトレンドを感じ取りながら、週に一度おすすめの書籍や雑誌を更新している点が特徴だ。同オフィスでは、社内の複数箇所に異なるコンセプトの小規模ブックコーナーも展開している。

2. 株式会社CARTA HOLDINGS渋谷オフィス「OASIS」

デジタルマーケティング支援などを行うグループ企業20社以上を束ねる「CARTA HOLDINGS」。同社は、「セレンディピティ(偶然の出会いや思いがけない発見)」を生み出す場所としてオフィスづくりにこだわっている。

気分に合わせて好きな場所で働けるよう、さまざまな空間が用意されているのが特徴で、社内バーのAJITO、靴を脱いで仕事ができるBEACH、アウトドア空間のHILLなどと並んで、ライブラリー空間「OASIS」が設けられている

画像は株式会社CARTA HOLDINGSのブログより

同社には技術系社員が多いことから技術書が多いが、ビジネス書のほか漫画のラインナップも充実している。実用的でセンスに溢れる空間が、企業のカルチャーやブランドの醸成にもつながっている。

3. LINE株式会社「LINE Library」

コミュニケーションアプリを展開するLINE株式会社では、一部を除く各オフィスに社内カフェ併設のライブラリースペース「LINE Library」を設けている。「LINE Library」の蔵書は、社内のリーダーが影響を受けた本やおすすめの本で構成され、推薦者がPOPに推薦の理由や仕事においてどのようなヒントが得られるかをわかりやすく紹介している。

ジャンルはビジネス書から小説、漫画まで幅広く、同社がスポンサードしている映画の原作や、LINEマンガの新刊も並ぶ。2カ月に一度更新されるため、最新のトレンドや情報を手軽に入手できる場となっている。

画像はLINE株式会社のオウンドメディアOnLINEより​​

「LINE Library」の特徴は、読書中に重要と感じた一文に直接マーカーで線を引いたり、メモを書き込んだりしてもよいとされていること。次に読んだ人がその一文に共感したり、新たにメモを書き足したりすることで、知識をシェアするきっかけになることを期待している。

4. 株式会社エイジェックスカンパニーズの「ちえ蔵」

京都府に本社を置き、Webコンサルティング事業を展開するエイジェックスカンパニーズ。同社では従業員のインプットを重視しており、その促進のため2009年に社内ライブラリー「ちえ蔵」を開設。2017年に大きくリニューアルをしたことで、利用者を伸ばしている。

画像は株式会社エイジェックスカンパニーズのブログより

「ちえ蔵」の本棚には約4000冊の蔵書があるが、​​「みんなでつくる」というコンセプトのもと、メンバーが良いと思った本やみんなにおすすめしたい本だけを集めたセレクトショップ型の社内図書館となっている。

社内システムでいつでもセルフ貸し出しができ、Web上で蔵書検索や社員によるレビューの閲覧が可能。レビューの閲覧や投稿はスマートフォンでもできるため、手軽にコメントを読んだり書いたりすることができる。これが「あの本読んだよ」といった会話につながり、従業員間のコミュニケーションの活性化に貢献している。

5. 株式会社Speee「SpeeeLibrary」

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援などを手掛けるSpeeeは、2010年に福利厚生として社内図書館「SpeeeLibrary」の運用をスタートした。同社のラウンジの壁一面を本棚として、ビジネス書・自己啓発本・技術書・デザイン関連の書籍などさまざまなジャンルの本が約3000冊並ぶ。

同社には、もともと社員の書籍購入費を月1万円まで負担する社内制度が整備されており、「SpeeeLibrary」​​はその進化版ともいえる。目的は「知識の蓄積と共有の促進」であり、それを企業文化にまで昇華させることだ。

画像は株式会社Speee代表取締役CEO大塚英樹氏のブログより

書籍は社内システムで管理・運用されており、Slackを通知プラットフォームとしている。レビューの投稿・書籍購入依頼など、多くの操作が Slack 上で完結。「SpeeeLibrary」 用の Slack チャンネルでは、書籍に関するディスカッションが活発に行われているという。

同社は2022年、貸し出し機会の減った本を寄贈し、その買い取り金額を寄付しており、SDGs(持続可能な開発目標)達成へ向けた取り組みともなっている。

6. 上林建設株式会社「まちライブラリー@宍粟」

上林建設は、創業100周年の節目に新社屋を建設。地元・兵庫県産の木材や宍粟杉、宍粟桧をふんだんに使用し、従業員が快適に働ける環境を整えた。また、大会議室を地域に開放し、「まちライブラリー@宍粟」として私設図書館活動を行っている。

画像は上林建設株式会社のWebサイトより

まちライブラリー」とは、まちの喫茶店や病院、お寺などに本棚を設置し、本を持ち寄って交換しながらまちのコミュニティをつくる取り組みで、全国に約800カ所開設されているもの。地域に開かれた「まちライブラリー@宍粟」は、社内図書館の新しい試みといえるだろう。

社内図書館づくりのアイデア

ここまで、社内図書館のメリットと導入企業の事例をみてきた。では実際、自社に導入するにはどこから着手すればよいだろうか。オフィスの新設やリノベーションをきっかけとして、新しくライブラリースペースを設置する企業もあるが、小さなライブラリースペースなら現状のオフィス空間を工夫してつくることも可能だ。社内のちょっとした空きスペースやカフェスペース、休憩スペースに小さな書棚を設置するだけでも社内図書館はスタートできる。以下に社内図書館づくりのアイデアを紹介したい。

・空きスペースに本棚を置きミニマムに始める

ミニマムな事例として、メディフォン株式会社の社内図書館をあげたい。同社はもともとオフィスに設置されていた台の下にカラーボックスの本棚を設置。段ボール等に入れたままになっていた書籍を並べ、おすすめの本を台の上に並べて社内図書館としている。運用もリストなどはつくらず、「お好きな本を借りていってください」とだけ記し、自由に借りたり、置いたりするラフなスタイルだ。大掛かりな場所や備品の調達を必要とせず、最も手軽に始められる方法といえる。

画像はメディフォン株式会社のnoteより

・プロによる選書サービスを活用する

ただ棚に本を置いておくだけでは、導入時は注目されたとしても、徐々に形骸化するおそれがある。そこで重要になるのが、目的やニーズに合わせた選書と定期的な書籍の入れ替えだ。以下のような社内図書館向けの選書サービスを検討するのもよいだろう。

【サービス紹介①】青山ブックセンター「ブックコンサルティングサービス」
青山ブックセンターでは、企業図書館やマンション内ライブラリーのコンセプトに合わせて、確かな選択力で書籍をカスタマイズする「ブックコンサルティングサービス」を提供している。その場所のコンセプトや活用方法に沿った本を選定し、魅力的な空間づくりを行うほか、定期的に本・雑誌を届けるランニングサービス、本の面白さを紹介するコメント付きPOPの設置、本を使った勉強会の提案などもしてくれる。

【サービス紹介②】株式会社メディアジーン「BOOK LAB TOKYO」
Webメディアを複数運営するメディアジーンによるオンライン書店「BOOK LAB TOKYO」では、自社メディアやグループ会社事業との連携を強みとした企業向け選書サービスを行っている。具体的には、運営する10個のWebメディアとの連携により、テック・ビジネス・インテリア・ヘルスケア・SDGsなど、希望のテーマに特化した選書が可能。また、イノベーション事業創出支援を行うグループ会社との連携で、「対話を生み、価値を創る」 イノベーション視点の選書を実現している。読書体験をひらめきや発想のきっかけにつなげたい企業に注目のサービスといえる。

【サービス紹介③】株式会社情報工場「SERENDIP」
さまざまな分野から厳選した書籍のハイライトを10分程度で読めるダイジェストにして配信する「SERENDIP」を提供している情報工場。同社では、SERENDIPで培ったキュレーションと編集の力を生かし、オフィスライブラリーのプロデュースも行っている。特徴は、自宅からもライブラリーの本をチェックできるよう、SERENDIPサービスを活用し、リモートワークの社員にも対応している点だ。自社の歴史や事業、ビジョンを表現する選書に加え、本の紹介POPやパネルの制作までトータルプロデュースを依頼することもできる。

画像は株式会社情報工場のWebサイトより

・チャットツールの活用などでコミュニケーションを促す

社内図書館の長期的な運用を考えると、幅広く従業員を巻き込んでいく仕掛けが必要となる。求められるのは、偶発的なコミュニケーションを創出する工夫だ。例えば、従業員が所有する本を置いて感想を交換できるようにしたり、誰がどの本を読んで、どういったレビューを投稿しているかを知ることができたりするとよい。具体的には、Slackなどのビジネスチャットツールを活用する、社内システムを構築する、推薦者のコメントを付箋やPOPで提示することなどで、本を介したコミュニケーションを促進できる。

コンセプトの設定と継続のための工夫を

社内図書館は、使い方や運用次第でさまざまな効果が期待でき、出社のモチベーションにもなり得る。どのような本を置くかはライブラリースペースを設ける目的によって変わるため、設置の際はコンセプトの設定が重要になる。また、長期的に安定した運用を行うためには、継続につながる仕掛けをあらかじめつくっておく必要がある。

この記事を書いた人:Kaori Isogawa