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研究データから見る、LGBTQインクルージョンが企業にもたらす6つのメリット

より多様性に富んだ人材獲得・活用を目指して、LGBTQインクルージョンに注目する企業が増えている。そのような企業が今後も増えていくことを願い、企業がLGBTQに目を向けることで得られる6つのベネフィットを紹介する。

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異なる国籍や人種、性別、バックグラウンドを持つ多様な人材を適材適所で包括しようという意で「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を耳にすることが日本で徐々に増えている。それと同時に「LGBTQインクルージョン」が注目されているが、これはアメリカ企業にの間では新しいコンセプトではない。

2017年のGallupによる世論調査では、アメリカ国内の成人、推定約1000万人が自らをLGBTQのレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、またはクイア・クエスチョニング(自身の性自認や性的指向が定まっていない、または定めたくない)のいずれかであるとの認識を持っているとしている。この数値はアメリカ人口の5%に満たないものだが、都市ごとの調査結果を見てみるとサンフランシスコ、シアトル、アトランタといったテクノロジー中心地(テックハブ)の値が国平均の2〜3倍に及ぶLGBTQ人口を反映していることがわかる。

今日ではアメリカだけに留まらず、世界の多くの国でワークプレイスを中心に、LGBTQの個人を尊重する文化を確立していこうとする流れが見られる。またLGBTQの自己認識を持つ人口の拡大に伴い、多くの世界的企業がダイバーシティ&インクルージョンの文化醸成に注力している。Human Rights Campaign(HRC)が発表するCorporate Equality Index(企業平等指数) 2018では、会社としての総合方針や福利厚生、ビジネスにおける日常的取り組みから雇用主の平等性を評価しており、609の企業が100%の評価を獲得。Fortuneがランク付したトップ20の企業のうち15企業が100%評価を得ている。

企業平等指数 2018年の企業平等指数ランキング

サンフランシスコのようなテクノロジー中心地(テクノロジーハブ)では、様々な業界団体や独立組織がLGBTQの従業員のためのポリシーや待遇改善に日々取り組んでいる。GoogleやAppleを始めとしたシリコンバレーの企業はアフィニティグループ(従業員数十人から時に数百人規模にもなる活動集団)を形成している。非営利団体のStartOutはLGBTQの起業家支援を行っており、一方Lesbians Who Techthe National Organization of Gay and Lesbian Scientists and Technology Professionalsといった団体は、LGBTQコミュニティのメンバーにビジネス関連のネットワーキングの機会を提供していたりもする。

企業におけるLGBTQインクルーシブプログラムの設立支援やその熱気の拡大はサンフランシスコやシリコンバレーの企業間で始まったばかりの話ではなく、すでに一般的なものとなっているのだ。それでは、一体このインクルージョンはワークプレイスに何をもたらすことなのかーその鍵となるのが「オープンネス」である。

インクルージョンの鍵となる「カミングアウトすること」と「オープンになること」

社員の多様性を受容する企業は信用とコミュニケーションで満たされた環境を作り上げており、これはビジネスの成功においてどの部分にも必要とされるもの。Stonewall UKは、職場で自身のLGBTQを公表している従業員は同僚とより良好な関係性を築いていると報告している。

同社は、オープンネスが職場における他社員との交流度合いに関連していることを発見した自社研究について言及。気楽に自分自身でいれること、そして自身の職場がそれを後押ししてくれていると知ることは、従業員エンゲージメントの鍵になるという。Stonewall UKは研究結果の中で、調査対象となったLGBTQのビジネスリーダーのうち92%が「職場でのLGBTQ公表は同僚との関係性改善に繋がる」と回答した、と報告している。

オープンネスが育まれている企業では、LGBTQの社員達がコミュニティ支援を目的として社内グループを形成している。その一例が、GoogleのLGBTQ従業員グループ「Gayglers」 だ。彼らはLGBTQの従業員への支援を表すために立ち上げられた社内グループで、アメリカの主要都市で毎年行われるプライドパレード等の外部イベントやカンファレンスへの参加、またコミュニティアウトリーチを通じてその活動を行っている。

airbnb プライドパレードプライドパレードに参加するAirbnbのスタッフ

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LGBTQフレンドリーな職場環境が受ける6つのベネフィット

LGBTQインクルージョンと従業員パフォーマンスの切っても切り離せない関係性は社員のエンゲージメントという形で表される。Gallupでは社員のエンゲージメントと企業のパフォーマンスを全業界にわたって計測、その結果エンゲージメントの高さは非常に高い生産性と利益創出を促すことが明らかになっている。それもあってか、オープンにLGBTQの人材を受け入れる企業は「すべての個人が自分らしくなれる自由があるという前提で尊重され、またそれに対する努力や貢献は大いに歓迎される」と明白な意思表示を全社員に送っている。

企業平等指数における100%ランクを達成したことは、世界中にいる我が社の社員の幅広いニーズに応えようという我々の弛まぬコミットメントを証明しています。私たちはインクルージョン&ダイバーシティが深く評価され享受されるワークプレイスを作り上げることこそ、キャリア・私生活共に社員を成功に導くものだと信じています。– Marilu Marshall, Chief Inclusion & Diversity Officer at The Estee Lauder Companies

LGBTQフレンドリーなワークプレイスを持つことは、ただ自身をLGBTQと判断する個人が働きやすい社会環境を用意するというだけではなく、それを整備する企業側にとってもベネフィットとなる。今回は数多くある中で6つを紹介する。

1. 人材の獲得・流出防止

世界的企業の多くは、LGBTQにフレンドリーな職場環境が最適な人材を惹きつけるのに重要な
役割を担っていることを理解している。インクルージョンを達成しようとする姿勢は、企業が先進的でオープンであることの強い証でもあるのだ。

Starbacks本社はゲイプライド月間を祝福するためにシンボルのプライドフラッグを掲げる

The Intelligence Groupによると、ミレニアル世代の88%が自らのキャリアの中でワークライフインテグレーションを求めているという。LGBTQインクルージョンはワークライフインテグレーションに対する企業の前向きな姿勢を示すもので、優秀な人材が個人の生活とキャリア両方を上手に織り交ぜながら、より良い人生を過ごせると企業に期待を抱く要素の1つになる。この考え方は、アメリカ国内で最もLGBTQ人口の高いサンフランシスコ・ベイエリアで特に当てはまるものだ。実社会のLGBTQ人口の割合を社内人材にも反映している企業は、LGBTQ社員とそうでない社員両方にとって偏見のない過ごしやすい環境を生み出すのである。

この傾向は人材のリテンションに注力する企業ほど当てはまる。どの職における従業員の離職も企業にとっては痛手になるもの。実際にLevel Playing Field Instituteは、LGBTQにおける差別は企業内における社員の自主退職を大幅に増やす主要因の1つだと報告している。ゲイの男性と女性が職場における不公平な扱いを原因として離職する率は、ストレートの白人男性の2倍にも及ぶという。

一方、インクルージョンが浸透している環境では、全体的な自主退職率は下がる。職場で積極的に多様性を管理することは企業の離職率を減らし、しっかりと管理の行き届いたワークプレイスだと示す指針にもなるようだ。

HRCの企業平等指数におけるパーフェクトスコアはLGBTQコミュニティに対する企業のコミットメントについて多くを説明してくれます。14年連続のパーフェクトスコアは持続した当社のコミットメントの何よりの証拠です。役員会から第一線に立つ従業員まで、私たちは全社員のための多様性と平等を追求します。– Corey Anthony, SVP & Chief Diversity Officer at AT&T

2. 高いエンゲージメント

インクルーシブさを追求していくことは平等で多様性に富む労働環境を促すもの。自分がいかに企業文化に合っているかという「カルチャーフィット」の意識は全社員の満足度を左右するもので、実際にTinyPulseは彼らのレポートにおいても従業員エンゲージメントについて触れている。彼らの研究によると、オープンでインクルーシブな労働環境があると、従業員個人は企業やその文化の中でオーナーシップを感じ、その結果彼らの満足度は上がるという。LGBTQのメンバーが企業文化の一部であると、企業に対する誇りの意識が芽生え、企業全体に広がるというのだ。

関連記事:LGBTが「仕事の生産性」を上げるために、企業が心がけたいこと

3. 活発なコラボレーション

メンバー間の互いの理解や良好な関係性の構築はチームのパフォーマンスに必要不可欠な要素だ。特にサンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップ文化では、企業構造的に縦社会の安定したものではなく、横のつながりを重視した早い動きと適応性が求められるものであるため、チームへの信頼がより求められる。よってチームの機能性やチーム作りの成功度合いはこれらの企業におけるビジネスパフォーマンスを決定づける重要な要素となるのだ。

通常チームが異なるスキルやバックグラウンドを持つ人員で構成されると、創造性や生産性が上がると言われている。研究結果もそれを後押ししており、Deloitte Universityのレポートでは、ダイバーシティ&インクルージョンがより活発なコラボレーションに寄与すると報告されている。多様性を育てる文化はチームメンバーが互いに気持ちよく交流し貢献し合うようにしてくれるものなのだ。

サンフランシスコのゲイプライドパレードに参加するFacebookのCEO、マークザッカーバーグ氏

4. 高いモチベーション

経済・ビジネスにおけるLGBTQインクルージョンの事例を紹介しているOpen for Businessによると、生産性の向上は企業がLGBTQポリシーを採用する主要な理由となっている。従業員は公平に扱われていると感じるとモチベーションを増し、逆に自身が職場で受け入れられていないと感じるときは下がるという。

研究者たちはさらに「関連性」もモチベーション促進の鍵だという。要は同僚に受け入れられている、または理解されているという深い関係性を感じられる人は職場においてより高いモチベーションを持つ傾向があるというのだ。

これらの要素は全従業員に当てはまるもので、よってインクルーシブな文化がモチベーションの高いチーム作りに繋がるというわけだ。この事実はまた同時にLGBTQの人々がモチベーションを下げる背景に、いかにこのような要素が影響しているかという流れも説明している。企業はこの事実を把握した上で、インクルーシブな企業ポリシーを作り、モチベーションの少ないワークプレイスができてしまうリスクを最小限に抑えている。

5. 問題解決力の向上

LGBTQを享受する企業は同時に高いコミュニーション文化を育んでいることが、Deloitte Universityの研究で示されている。インクルージョンは、従業員が何か問題に直面した時に自由に意見を出し、問題解決に貢献する環境を作り出すのに重要なものだ。

LGBTQメンバーは既存の枠にとらわれない独創的な解決策を出せるポテンシャルを秘めている。Stonewall UKが行ったGay people and productivityにおける調査によると、従業員が自らの性別・性的指向を職場で隠し通さなければいけないのは彼らの創造性やイノベーションレベルを下げる一方、公表しオープンになることは新しいアイデアを共有する自信の向上につながるという。

プライド月間にLGBTQへの支援を示すGoogle

6. イノベーションの向上

イノベーションも、他社との競争を優位に運ぶために維持しなければならない、企業にとって必要不可欠な要素だ。サンフランシスコの企業はこれを強く意識しており、このイノベーション文化醸成のためにダイバーシティ&インクルージョンの企業ポリシーに特別な注意を払っている。

Deloitte Universityの研究が示しているように、自らの企業が多様性を追求していると感じる従業員の83%はその企業が「イノベーティブな解決策の創造ができている」と考える傾向が強い。これはイノベーションの中心地として日常的にその取り組みが行われているベイエリアに特に当てはまる特徴だ。

さらにWilliams InstituteのEconomic Motives for Adopting LGBT-Related Workplace Policiesにおける研究では、Fortune 500のトップ50に入る企業の多くが「自社は多種多様な特徴や経験を持つ労働力を活かしてより良いアイデアを生み出すことができる」と自信を持って回答した。インクルージョンポリシーを持っておくことは人材多様性を促し、新しくフレッシュなアイデアとより良い決断力に繋がるのである。

企業のインクルージョンポリシーでは、多様性のあるグループがそれに欠ける同種的なグループよりも新たな視点を通じて良いパフォーマンスを発揮すると明記されている。その背景には、多様性に富んだ異なるバックグラウンドやマインドセットを持つ個人が集まることでより注意深い情報処理が行われるからだという。数多くの視点で揉まれたアイデアが最終的にチームとしての揺るがないアウトプットになる流れは想像に難くない。

多様性に欠ける「同種的な環境」の欠点

多様性やオープンネスのポリシーがないワークプレイスでは、多くの従業員が自身の性別や性的指向という重要な部分を隠す必要があると感じてしまう問題が起きる。この現象はLGBTQコミュニティ内で「カバーリング」と呼ばれている。HRCのThe Cost of the Closet and the Rewards of Inclusion研究によると、他人に非難される可能性のある個人のアイデンテティを意図的に隠すことは非常の多くの労力とストレスを生み出すという。

これが悪化すると、やがて彼らの仕事に対する注意力は散漫になり、自らの素性がバレることへの懸念にエネルギーが浪費され、最終的にモチベーションや生産性が低下するという結果に陥ってしまう。同研究は従業員エンゲージメントにおけるその悪影響を裏付けており、LGBTQの従業員の20%が自らのアイデンテティを隠すことに時間と労力を費やし疲弊していると報告、さらに30%がそのような否定的な労働環境のせいで手元の仕事に集中できないと答えている。

カバーリングThe Cost of the Closet and the Rewards of Inclusionより。カバーリングの実情とそのコストがわかる

職場における差別の実際のコストを見てみると、the American Civil Liberties Union (ACLU)はLGBTQにおける差別が毎年1.4億ドル(約150億円)のアメリカ国内のビジネス損失につながっていると報告。この算出値はゲイやレズビアンの従業員の生産性低下に繋がるような否定的な労働環境の影響も考慮している。

Appleの事例

シリコンバレー発の巨大企業、世界的なイノベーター企業としても有名なAppleはインクルージョン尊重に長年にわたり揺るぎない評価を得ており、HRCのCorporate Equality Indexでも15年連続で100%の評価を獲得している。同社のポリシーはLGBTQに限られたものではなく、同社Inclusion & Diversityに明記されているようにすべてのマイノリティを対象としたものである。彼らのインクルージョンに対する姿勢と理解は非常に強く、同社は「Inclusion Inspires Innovation(インクルージョンはイノベーションを引き起こすもの)」という企業信念も持っているほどだ。

アップル パレードサンフランシスコのプライドパレードで大きな存在感を示すApple社員

AppleのCEOであるTim Cook氏が2014年に自身はゲイであると公表した際、それは他の企業経営者のみならず、LGBTQコミュニティ全体にとっても強いメッセージ性のあるものだった。Harvard Business Reviewの記述によると、Cook氏は自身の人生における周りの人々やAppleにおける同僚に対してついにオープンになったわけだが、彼は世界全土に対してカミングアウトした訳ではなかった。彼の公表は「カバーリングは経営者として成功するのにもはや必要なものではない」という、インクルージョンに取り組んでいるすべての企業を支持する、非常に強い声明だったのである。

まとめ

ワークプレイスにおいてインクルーシブな環境を採用することによるベネフィットはたくさんあり、この記事で触れたこと以外にもまだ数多く存在する。これまで多くの研究がそのベネフィットを裏付けるために行われ、今日の企業はその研究結果をもはや無視できない段階にある。

多様性とオープンネスの文化を育むことで、すべての社員がより高いレベルでパフォーマンスを発揮できるようになる。こういった環境が社会標準となった時、従業員のエンゲージメントやコラボレーション力、モチベーションや問題解決力を促すスペースの基礎が形成され、やがてワークプレイス全体に影響を与えるはずだ。

チームと個人のパフォーマンスは、カバーリングや不寛容さの悪影響をなくして上がるべきものだ。すべての従業員が自分らしくなり、どんな幸福を追求できるような企業文化が醸成された時、ビジネスに高いパフォーマンスをもたらすはずだ。それはやがて、今日多くの企業が求めるイノベーション創出につながるだろう。

※日本語文責:Worker’s Resort編集部

この記事を書いた人:Wilmer Balmocena

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