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「健康経営」の基礎知識 ー 業績向上につながる具体策とは

企業が経営戦略を語るうえで重要なキーワードとなる「健康経営」。この手法の目的やメリットについて、実際に導入している6社の事例を交えつつ解説する。

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企業が経営戦略を語るうえで、もはや欠かせないキーワードとなっている「健康経営」。政府も後押しするこの取り組みの目的やメリットについて、なんとなくわかっているようで把握できていない部分もあるのではないだろうか。

そこで今回は、なぜいま健康経営が重要な課題となっているのか、従業員の健康を守ることがどのような経営効果をもたらすのかなど、気になるトピックについて実際の事例を交えつつ解説する。

従業員の健康管理はコストではなく将来への投資

そもそも「健康」とは何を意味するのか、まずはここからおさえておきたい。議論はあるが、現在広く用いられているのは、1947年に採択されたWHO憲章の「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること(日本WHO協会訳)」という定義だ。

少子超高齢化が進む日本では、心身ともに自立して健康的な生活を過ごせる期間、すなわち「健康寿命」の延伸に向けた取り組みが国策として進められており、健康経営もそのひとつに当たる。

では、健康経営とはどのような経営手法を指すのだろうか。経済産業省は、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と説明している。そして、健康経営に期待されるメリットとしては主に以下の点が挙げられる。

・従業員のパフォーマンスが上がり、労働生産性が向上する
・企業が負担する従業員の医療費を削減できる
・企業のブランドイメージが向上する
・就職希望者が増える、離職率が下がるなど労働力の確保につながる
・企業内での組織力が強化される  など

以前は、従業員の健康管理はコストとして捉えられていたが、健康経営では「将来に向けた戦略的な投資」と考える。これは、企業理念に沿って従業員の健康維持・増進に投資することで従業員の活力や生産性が向上し、結果としてその法人の業績や価値の向上につながるという考えに基づくものだ。人手不足が深刻化する中、従業員がいきいきと働ける環境を企業が提供することは、そのまま優秀な人材の確保につながるとされている。

健康経営に関する取り組みを「見える化」する顕彰制度

健康経営データ

健康経営の導入により社外的なメリットを引き出すためには、わかりやすい形で取り組みを公表していく必要がある。

そこで、経済産業省は顕彰制度として2014年度に「健康経営銘柄」を、2016年度に「健康経営優良法人認定制度」を創設し、健康経営に関する法人の取り組みの「見える化」を図っている。この制度は、選定された企業が従業員はもとより、就職希望者や関係する企業、金融機関、株式市場などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価されることを目的としている。

それぞれの顕彰制度の概要は以下の通り。

健康経営銘柄

東京証券取引所の上場企業を対象にしたもの。「健康経営が経営理念・方針に位置づけられているか」「健康経営に取り組むための組織体制が構築されているか」「健康経営に取り組むための制度があり、施策が実行されているか」「健康経営の取り組みを評価し、改善に取り組んでいるか」などの観点から評価される。

健康経営優良法人

経済産業省が設計し、日本健康会議が認定する制度。規模の大きい法人が対象の「大規模法人部門」と中小規模の法人が対象の「中小規模法人部門」に分けられ、大規模法人部門のうち上位500法人は「ホワイト500」として認定される。2020年度以降は、中小規模法人部門の中でも特に優れ、地域において健康経営の発信を行う企業として上位500法人が「ブライト500」に認定される予定になっている。

健康経営銘柄は、東京証券取引所との共同で選定されるため、長期的な目で企業価値を見定める投資家にとって重要な判断材料にもなり得るものだ。経済産業省の『健康経営の推進について』でも、企業が就活生に向けた会社案内や有価証券報告書、CSR報告書などに健康経営銘柄に選定されたことを盛り込むなど、積極的に情報発信していることが報告されている。

また、健康経営優良法人制度へのインセンティブ措置が増加傾向にあることにも触れておきたい。具体的には、地域の中小企業を対象に金利・補助金を優遇する都道府県や市町村が見られるほか、地方銀行や信用金庫による事業資金融資の金利優遇、保険会社による保険料の割引などが挙げられる。

健康経営を導入している企業の事例

健康経営事例

では、すでに健康経営を取り入れている企業は実際にどのような取り組みを行っているのだろうか。健康経営銘柄や健康経営優良法人として顕彰された企業の中から6社の事例を紹介する。

健康経営銘柄

株式会社ワコールホールディングス
・禁煙タイムの拡大や禁煙支援プログラムの実施
・多様な健康啓発セミナーの実施
・ウォーキングイベントやインセンティブの付与など、健康増進を楽しく継続するためのサポートプログラムの展開
・各事業部にロコモ度をチェックできる器具(ロコモ台)を設置  など

TOTO株式会社
・社内食堂でヘルシーメニューを提供
・ウォーキングや社内運動会の実施
・全国の事業所に在籍する産業医・保健師・健康管理担当者で健康管理やメンタルヘルスの取り組みについて共有・意見交換
・イントラネットで健康管理や健康相談Q&Aなどの情報を発信  など

健康優良法人 大規模法人部門(ホワイト500)

サントリーホールディングス株式会社/サントリー食品インターナショナル株式会社
・法定項目を超える詳細な健康診断の実施
・産業保健スタッフによる面談の実施
・ウォーキングやラジオ体操などの取り組み、年休取得・健診受診などに対してポイントを付与し、貯まったポイントは賞品に交換できる「ヘルスマイレージ」の導入
・海外のグループ会社も含めたウォーキングイベントの実施  など

株式会社サイバー・コミュニケーションズ
・社内健康イベントの実施
・長時間労働の対策や多様な働き方に対応した人事制度を整備
・メンタルヘルス研修、マインドフルネスセミナーの実施
・ヘルスリテラシー向上につなげる研修・セミナーの実施  など

健康優良法人 中小規模法人部門

土山印刷株式会社
・年金に関するセミナーの開催
・腰痛対策に関する健康講座の実施
・全社でラジオ体操を実施
・従業員の健康や満足度向上に向けた取り組みを推進する「かがやきサポートセンター」を設置

株式会社オノコム
・3部署以上の人が集まって開かれた食事会や飲み会に対し、3,000円のコミュニケーション手当を支給
・文化活動やスポーツ活動に対し、施設利用料などを補助
・全社員にストレスチェックを実施
・自動販売機は低糖、低カロリー、特定保健用食品を中心にラインナップ  など

コロナ禍でのイベント開催は難しいと思われるものの、イントラネットでの情報発信やストレスチェックなど感染予防に配慮しながら取り組めるものもあり参考にしたい。

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コストを抑えてできることから始めてみる

パンデミックの影響を受けて健康への意識が一段と高まるとともに、今後は少子化が進んでますます企業の人手不足が深刻化することが考えられる。

東京商工会議所発行の『健康経営ハンドブック2018』では、コストを抑えてできることとして次の10項目を例に挙げている。

・加入の健保組合などへ40歳以上の従業員の健診データを提供
・ストレス、メンタルヘルスに対する正しい理解の促進
・階段使用、社内でのストレッチの実施
・職場での感染症対策(インフルエンザ、予防接種の費用負担など)
・社員食堂、弁当で栄養バランスのとれたメニューを提供
・ノー残業デーや有給取得促進の仕組みを導入
・保健師や管理栄養士による生活習慣改善指導
・分煙環境整備や禁煙プログラムの導入
・睡眠とアルコールに関する正しい知識の習得
・社長や健康づくり担当者から定期健診や再検査の受診勧奨

健康への取り組みは結果が出るまでに時間がかかるものだが、まずは健康経営について知ることを第一歩に、無理なく導入できることから検討してみてはいかがだろうか。

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この記事を書いた人:Yukie Fujita

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