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社内コミュニケーションを活性化する「チルアウトエリア」のつくり方

オフィス内で社員が心地よく過ごし、リフレッシュできる「チルアウトエリア」というスペースが注目されている。社内コミュニケーションの活性化につながるとされるチルアウトエリアの効果や設置のポイントを紹介する

チルアウトエリアとは?

社員のストレス軽減や社内コミュニケーションの活性化、生産性の向上が期待できるとして、オフィスの「チルアウトエリア」が注目されている。チルアウトエリアとは、社員が仕事から一時的に離れ、心地よく過ごしてリフレッシュできるスペースのこと。「リフレッシュエリア」や「リフレッシュスペース」と呼ばれることもある。

オフィスにチルアウトエリアを設置する目的は大きく2つある。ひとつは、従業員の気分転換や休憩といったリラックスのため。もうひとつはコミュニケーション活性化のためだ。普段あまり話す機会のないメンバーと言葉を交わすことで新しい発想を得たり、チームで利用することで一体感が生まれたりすることが期待されている。

本稿では、オフィスにチルアウトエリアを導入することのメリットや設置のポイントを紹介し、実際に導入した企業の事例から効果的な運用方法を考察したい。

なぜオフィスにリラックスできる環境が必要なのか

「チルアウト」は欧米の若い世代を中心に広まった英語のスラング表現だ。本来、チルには「ひんやりする」「冷たい」という意味があるが、転じて「ゆったりする」「落ち着く」といった意味で使われるようになった。この言葉が普及した背景には、近年の若者たちがエネルギーを発散するよりも、リラックスできる時間を過ごすことを重視するようになった傾向があると考えられる。

日本でも若者言葉として、チルを形容詞化した「チルい」という言葉が使われるようになり、出版社・三省堂の辞書編纂者が選ぶ「今年の新語2021」の大賞にも選ばれた。その選評でも「安楽を求めたい気持ちから使われることばであり、ストレスフルな今の状況をよく反映している」と述べられている。

ストレスについては、海外の研究において、ストレスが生産性低下の最も強力な予測因子のひとつであることが示されている。また、別の研究においても、欠勤には至っていないが健康問題が理由で生産性が低下している「プレゼンティーイズム」という状態において、最も生産性低下に関連する要素はストレスであることが報告されている。

オフィスにチルアウトエリアの設置が進みつつある背景には、ストレスフルな現代社会において、できる限り気持ちよく働きたいというワーカーの思いと、それを叶えて生産性を向上させたいという企業の思いとの両面があるといえるだろう。

チルアウトエリアを設置している企業は約35%

現在、チルアウトエリアを設置している企業はどれくらいあるのだろうか。オフィス家具の製造・販売を行う株式会社オカムラの2021年のデータによると、社内にリフレッシュルームを設置している企業の割合は34.8%。3社に1社が導入しているという状況だ。

一方、株式会社ザイマックス不動産総合研究所が2022年10月に実施した「首都圏オフィスワーカー調査2022」によると、コロナ禍収束後にオフィスにあってほしいと思うものとして、現状よりも最も大きくニーズを伸ばしたのは「リフレッシュスペース」であった(14.3ポイント増)。なお、固定席は8.8ポイント減となっている。

画像は株式会社ザイマックス不動産総合研究所のレポートより

オフィスにチルアウトエリアを設け、社員がリラックスしたり、交流したりする状況をつくり出すことは、オフィス回帰を促したい企業にとっても重要な要素であるといえる。

コミュニケーションが生まれるチルアウトエリアのつくり方

決まった執務スペースから離れ、チルアウトエリアでリラックスしながらコミュニケーションをとることで、チームの一体感が醸成され、新しいアイデアの創出が期待できる。コミュニケーション活性化のためのチルアウトエリアづくりにおいて大切なポイントを以下にまとめた。

・人がよく通る行きやすい場所に設置する
執務している部屋から遠い場所にあると、行くのが面倒ということにもなりかねない。実際、チルアウトエリアを設置したものの、あまり活用されていないことが課題となっているケースもある。オフィスに入ってすぐの場所やオフィス全体の中心など、従業員の動線上にある、足を運びやすい場所に設置することが望ましい。

・自然光や緑を取り入れる
可能であれば、窓が多く日当り良好な場所を選びたい。窓の外に空や緑、街の風景が見えるなど、眺めのよい場所は気持ちを解放させてくれる。また、植物を設置するのもよいアイデアだ。大きな観葉植物は目隠しとしても活用できる。オフィス内で育てやすい観葉植物には、パキラ、サンスベリア、ポトス、ゴムの木などがある。

・執務スペースとは違う雰囲気にする
執務スペースと同じテイストの空間ではなく、ガラリと雰囲気を変えて、仕事との切り替えがしやすくなるようにするとよい。ナチュラルで緑の多い空間にする、壁や椅子に赤や黄色といった明るい色を使う、アート作品を飾る、ローテーブルやソファを配置する、靴が脱げるスペースをつくるなど、さまざまな工夫が考えられる。

・多目的に利用できる場所にする
大きめのモニターやホワイトボードなどを準備して、個人の仕事や会議、時には社内イベントができるような空間にしておけば、仕事やチームミーティング、来客の対応などさまざまな用途に活用することができる。この場合、ランチタイムには食事する人を優先する、飲食できる場所を限る、人数が多くなる場合は予約制にするなどの運用ルールをつくっておくとよいだろう。

・利用しやすい雰囲気づくりをする
「サボっていると思われるのではないか」という不安が生まれると、せっかく設置した場所を利用しにくくなってしまう。チルアウトエリアで休憩したりコミュニケーションをとったりすることは仕事の一環なのだという認識を社内で統一したい。上司も積極的に使う、チームミーティングに活用するなど、会社全体で利用しやすい雰囲気づくりに取り組むことが求められる。

以上、チルアウトエリアのつくり方のポイントをみてきた。もし新たに設置する余裕がない場合は、社内の休憩エリアや会議室の一室に、ゆったりしたソファやアームチェアと観葉植物を置くだけでもリラックスできる空間づくりが行える。まずは取り入れることのできる部分から始めるとよいだろう。

チルアウトエリアを取り入れた国内企業の事例と工夫

チルアウトエリアを設置する企業は少しずつ増えている。ここでは実際にチルアウトエリアを導入した企業の事例を紹介しながら、それぞれの目的や工夫について考察する。

1. 東急不動産株式会社

東急不動産は、2019年の本社移転にあたり、いつでもどこでも働ける時代だからこそ、わざわざ行きたくなるようなオフィスをつくりたいと考え、「本社が呼んでいる」という想いを込めて新本社を「Call(コール)」と命名した。このCallには、コミュニケーションの活性化と生産性向上を目的としたさまざまな仕掛けがなされている。

画像はすべて東急不動産株式会社のWebサイトより

例えば、「COLABO!」という交流スペースは、グループ従業員がコワーキングスペースや打ち合わせスペースとして自由に利用することができる。また、東急ハンズのプロデュースによる「ハンズカフェ」には、コーヒー、ラテ、紅茶マシーンを設置。ドリンクを無料で提供し、リラックスタイムを支援している。

そのほか、靴を脱いでくつろげる人工芝のスペースや、仮眠室も設置されており、気分によって複数人でも個人でも利用できる、フレキシブルなチルアウトエリアを構築している。

2. 株式会社アーシャルデザイン

アスリート・体育会学生のセカンドキャリア支援を行うアーシャルデザイン。同社が2022年7月に拡張移転した新オフィスは、「働く以上に集う場所」をコンセプトに、働くと遊びを融合させたオフィスとなっている。

テーマに「オフィス×キャンプ」を掲げ、フラットにコミュニケーションがとれるキャンプ場の空気感が表現された。「キャンピングオープンスペース」と名付けられたエリアには、アウトドア用チェアや焚火を模したテーブルなどが置かれ、遊び心と開放感にあふれている。

画像はすべて株式会社アーシャルデザインのプレスリリースより

社内面談の際もこのスペースを利用しているという。同社は、コロナ禍で集うことの意味を再確認したことで、コミュニケーションの場、新たな発想が生まれる場となることをこのキャンピングオープンスペースに期待している。

3. NHN PlayArt株式会社

スマートフォン向けゲームの開発・運営を行うNHN PlayArtでは、「Park+Museum」をキーワードに、遊び心と好奇心を感化するオフィス空間を構築している。社員にとってオフィスは1日のうち最も長い時間を過ごす場所だ。だからこそ同社では、オフィスを社員一人ひとりにとって最も居心地がよく、最も集中できる「セカンドホーム」にするために細部にまで工夫をこらしている。

画像はすべて設計を担当した株式会社トラフ建築設計事務所のWebサイトより

執務スペースは東西南北でエリアが分けられており、各エリアの中間に社員間のコミュケーションを活発にするためのスペースが設けられた。このコミュニケーションエリアは、場所によって、丘、花壇、水辺という異なるテーマが設定され、そのイメージに合ったファブリックやカーペット、家具がセレクトされている。

また、社内にはカフェスペースのほか、国内外の雑誌や書籍を100種類近く取り揃えたライブラリースペースを設置。さらにマッサージ師が常駐しており、予約をすれば就業時間内でもマッサージを受けることができるという。ゲーム開発という根を詰める作業の多い業務内容だからこそ、従業員のリラックスやクリエイティビティ創出を強く意識したオフィス環境を用意していることがうかがえる。

4. 株式会社マネーフォワード

法人や個人向けに金融系のWebサービスを提供しているマネーフォワードは、2023年3月にオフィスを拡大し、新フロアに「Connect Area」という交流エリアを設置した。同社にはコロナ禍にも多くのメンバーがジョインしており、それゆえ「出社しても知っている人がいない」という意見が出たことが、交流エリア設置のひとつのきっかけになったという。

画像はすべて株式会社マネーフォワードのWebサイトより

企業の規模によっては、交流のための場所だけを用意しても、初対面の人が多くコミュニケーションをとるのが難しい場合がある。そこで同社では、イベントを開催するなどして、ハード・ソフトの両面からコミュニケーション活性化を促進している。

また、平日の18時以降はアルコールも含めたドリンクを提供し、「1杯飲みながらちょっと話そう」というニーズにも対応している。

チルアウトエリアはブランディングや人材獲得にも貢献する

チルアウトエリアについて、コミュニケーション促進を中心に紹介してきたが、設置によるメリットは他にもある。まずは社員の満足度が高まることだ。社内に居心地のよい空間があることで「会社が働きやすい環境を提供してくれている」と感じ、定着率が高まることも期待できるだろう。

さらにはブランディング効果も挙げられる。チルアウトエリアの充実は社外に向けたアピールポイントとなり、企業イメージが向上して、新卒・中途を問わず採用にも良い影響を与える可能性がある。

オフィス回帰が進んできた昨今、オフィスに新たな価値を生み出すために、チルアウトエリアの設置を検討してみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Miki Ikeda