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“良い会社”って何だろう? 次なるスタンダード「B Corp認証」で目指す企業のあり方

公益性の高い、“良い会社”に与えられる「B Corp認証」。世界で取得する企業が増えているB Corp認証の概要と取得のプロセス、日本における実態について解説する。

社会的な責任を果たす企業に ー 「B Corp認証」とは

現在、多くの企業や団体、個人が取り組むSDGsは、社会にとっての責任ある行動を示したものである。SDGsは義務ではなく、「Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標」とあるように、あくまで努力目標だ(もちろん、その目標は達成されるべきである)。

今回取り上げる「B Corporation(以下、B Corp)」は、公益を追求し、社会的な責任を果たしている営利企業に与えられる、世界標準の認証制度である。B Corp認証を受けた企業をごく簡単に表現すると、“良い会社”と言うことができる。

日本ではまだあまり馴染みのないB Corp認証について、制度の概要から、認証取得の流れ、国内での実態まで見ていきたい。

“良い会社”の世界標準

B Corp認証を受けた企業は、“良い会社”と言われる。それはなぜだろうか。

B Corpの「B」は「benefit」の頭文字であり、benefitには金銭的な「利益」という意味のほかに、人や社会の幸福につながる「便益」や「恩恵」といった意味がある。認証を受けるには、認証組織が定めた高い評価基準をクリアせねばならず、さらに認証を受けつづけるには3年に1回の更新が必要となる。

評価基準では、社会や環境に配慮した事業活動が問われるため、B Corp認証を受けた企業は“公益を追求する企業”であることが証明される。このことをより伝えやすく言い換えたのが、世界標準の“良い会社”ということになる。

B Corp認証を運営する組織は、アメリカ・ペンシルベニア州に本拠を置く「B lab(Bラボ)」というNPOで、2006年に設立された。設立後しばらくは、アメリカ国内の企業に向けた認証制度だったが、徐々に国外の企業、主にヨーロッパの企業にも認知されるようになった。

2021年11月現在、世界77カ国で153の業種、4000社を超える企業が認証を取得している。そのなかには、アウトドアブランドのパタゴニア(アメリカ)や、食品メーカーのダノン(フランス)、アイスクリームブランドのベン&ジェリーズ(アメリカ)のほか、イギリスの大手新聞社であるガーディアンといったメディア企業なども名を連ねる。認証取得企業は、製品にB Corpのロゴを表記することが可能だ。

世界の多くの企業が認証取得を目指す理由はどこにあるのだろうか。B labのWebサイトでは、B Corpについて次のように書かれている。

B Corp Certification is the most powerful way to build credibility, trust, and value for your business.
(B Corp認証は、ビジネスの信頼性、信用、価値を構築するための最も強力な方法です。)

「最も強力な方法」と打ち出すには、それなりの根拠がある。B Corp認証を受けるためには、B labが作成した評価「Bインパクト・アセスメント」を企業自らが行い、一定の基準を満たさなければならない。Bインパクト・アセスメントには、ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、顧客という5つの分野で約200の質問があり、200ポイント中80ポイント以上を取得しなければならないのだが、合格率は一桁台と難易度は高い。

さらに、認証を更新するには、3年に1回、Bインパクト・アセスメントを行わねばならず、継続して評価基準についてコミットしていく必要がある。こうした手続きを経て得られるB Corp認証は、世界標準における「最も強力な方法」と言えるのだろう。

B Corp認証の評価基準と認証プロセス

B Corp認証の取得に際してまず行う「Bインパクト・アセスメント」は、B labのWebサイトから無料で受けることができる。先述の通り、5つの項目について約200の質問に答え、合計で80ポイント以上を取得する必要がある。

日本でB Corp認証を取得した企業のうち、ダノンジャパン株式会社が、自社サイト内の「B Corpとは?」のページで、その5項目について簡単に説明しているので参考にしたい。

1.ガバナンス(ミッションとエンゲージメント、倫理と透明性、ミッションの締結)
2.従業員(経済的安定性、従業員の健康とウェルネスと安全、キャリア開発、エンゲージメントと満足度)
3.コミュニティ(多様性、公平性とインクルージョン、経済的影響度、市民参加と支援、サプライチェーン・マネジメント)
4.環境(環境マネジメント、大気と気候、水、土地と生物多様性)
5.顧客(顧客管理)

この5つの項目に対して、どのような質問項目が並ぶのだろうか。世界のサステナブルな情報を掲載しているサイト「ELEMINIST」で、具体的な質問が紹介されている。

・従業員に企業の財務状況が公開されているか?
・業界における社会や環境基準改善に向けて取り組みをおこなっているか?
・管理職における女性、マイノリティ、障害者、低所得コミュニティーなどの割合は?
・企業における省エネ率は?
・企業で消費する再生可能エネルギーの割合は?
・事業で排出される廃棄物量を記録しているか?
・従業員の有給休暇・病気休暇などは年間何日?
・従業員の学びの機会に対する、経済的なサポートの割合は?

質問項目を見てみると、具体的かつ、質問の意図が明確なのがわかる。このBインパクト・アセスメントで80ポイント以上のスコアを出すことができれば、認証取得をB Labに申請し、審査を受ける。審査は、アセスメントを裏付けるデータや資料も交えて行われる。

そして、企業の定款をB Labの定める内容に改定し、The B Corp Declaration of Interdependence(B Corp相互依存宣言)に署名して、ようやくB Corp認証を取得することができる。なお、こうした一連の手続きはすべて英語、もしくはスペイン語で行う必要がある。

SDGsとの高い親和性

Bインパクト・アセスメントの質問項目を見ていくと、その内容とSDGsで掲げる持続可能な開発目標とが、近い関係にあることに気付く。

社会に貢献する公益企業であることを目指すB Corpと、持続可能な社会を目指すSDGsは、両立することができる。さらに言えば、数値的な目標のないSDGsに対し、B Corpは3年に1回の更新も含めて常に企業評価が数値化されることから、外部機関にとっては明確な評価基準ともなる。ESG投資(※)に対しても、一定の評価対象となるのではないだろうか。

※ESG投資:資産運用において、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)の要素を考慮する企業へ投資を行うこと。

そこで改めて、B Corp認証が企業にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。B LabのWebサイトでは、次のように書かれている。

People want to work for, buy from, and invest in businesses they believe in.
(人々は、自分が信じるビジネスのために働き、そこから購入し、投資したいと思っています。)

この一文を紐解いてみると、まず自分が信じる「ビジネスのために働き」とは、企業活動に共感する人材の雇用につながるということだ。企業の社会的な責任に注目するZ世代にも訴求することができる。

「そこから購入し」とは、エシカル消費が取り上げられる現代にあって、消費者から支持され、新たな顧客の獲得にもつながるということ。「投資したい」とは、すでに述べたことだが、ESG投資をはじめとした、投資対象としての評価が期待できるということだ。

日本企業のB Corp認証取得を阻む壁

さて、ここまでB Corp認証取得のメリットをあげてきたが、日本企業の取得は、2021年11月現在では7社にとどまっている。ここ1、2年でのSDGsへの取り組みの熱心さに比べて、その数はかなり少ないようにも思える。

その理由について、長野県で古本の買取販売を行う株式会社バリューブックスの取締役・鳥居希氏が、慶應義塾の機関誌『三田評論』の記事「【演説館】鳥居希:B Corpムーブメントの希望」で、「言葉の壁」をあげている。

Bインパクト・アセスメントも英語ならば、認証取得の手引書『The B Corp Handbook』もすべて英語だ。加えて、アセスメントには日本にない概念の言葉もあるため、それが壁となり、日本企業は認証取得に一歩踏み出せずにいるのではないか。

鳥居氏は、自らがB Corp認証取得に向けた取り組みを行うなかで、こうした現実に気付いている。そして今、バリューブックスでは、出版事業の第一弾の書籍として、『The B Corp Handbook』の日本語版を出版する計画を進めているという。日本語版が出版されれば、バリューブックスのWebサイトでも告知があるだろう。

SDGsについてこれだけ熱心に取り組む日本企業にとって、B Corp認証の取得は持続可能な“良い会社”という世界標準のお墨付きとなる。Bインパクト・アセスメントを行うことで、自社の事業を世界標準に照らし合わせたときに、何が足りないのかが見えてくるのではないだろうか。『The B Corp Handbook』日本語版の出版も待たれるが、まずはB LabのWebサイトにアクセスしてみることをおすすめしたい。

この記事を書いた人:Naoto Tonsho