新入社員の遅刻をどう注意する? 職場での良好な人間関係を育むアサーティブ・コミュニケーションとは
慣れない環境にストレスを抱えやすい新入社員と、どのようにして関係を構築していくか。今回は、そのヒントとなる「アサーティブ・コミュニケーション」の概要と実践法を紹介する。
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新入社員と、どのように関係を構築する?
新年度が始まって新たな社員が加わり、フレッシュな雰囲気に包まれている職場も少なくないだろう。その一方で、気候や気温、環境が大きく変化するこの時期は、昔から心身ともに体調を崩しやすい時期とも言われてきた。
特に、仕事を覚えつつも新たな人間関係を構築していこうという新入社員は、不安やストレスを抱えやすい。上司や先輩社員のような目上の人と、社会人として関わった経験がまだ少なく、コミュニケーションのとり方にとまどうこともあるだろう。新しい環境になんとか慣れようとがんばって無理を重ね、体調を悪化させてしまう可能性もある。
テレワークやフレックスタイム制などの働き方が広がりつつあるが、そうした柔軟なワークスタイルは、ときに不調やストレスを招く原因ともなり得る。そもそも、周囲の目が届きにくい自宅での仕事は、知らないうちに長時間労働になりやすい。また、職場での人間関係がまだ十分に構築できていない段階では、疑問があっても気軽に質問できず、不安をため込みやすい状況にあるだろう。
では、仕事や職場にまだ慣れていない新入社員に対して、周囲にはどのようなコミュニケーションが求められるのだろうか。そのヒントとなるのが、対立せずに自分も相手も尊重しながら意見を伝える「アサーティブ・コミュニケーション」というコミュニケーション手法だ。今回は、その概要と具体的な実践方法についておさえたうえで、新入社員との関係性構築に活かす方法を考えたい。
円滑な対人関係を生む「アサーティブ・コミュニケーション」
相手に伝えたいことがあるときに、自分の意見をどのようにして主張するかは悩ましいところだ。強い表現を使うと相手との関係に悪影響を及ぼしかねず、かといって柔らかすぎると自分の意図が伝わりにくい。
「アサーティブ・コミュニケーション」は、相手の気持ちや意見を尊重しつつ、自分の主張を適切に相手に届けるコミュニケーション方法だ。上司や先輩社員が意見を一方的に押し付けることがないため、新入社員も臆せずに自分の考えを伝えやすくなる。
アサーティブが意味するもの
英語の「Assertive」は、「積極的」「断定的」「自己主張の強い」といった意味を持つ言葉だ。特定非営利活動法人アサーティブジャパンによると、アサーティブ・コミュニケーションの「アサーティブ」とは、「自分の表現する権利と相手の表現する権利を大切にしたコミュニケーションの方法論」であり、「私たちの『感じる権利』『考える権利』『表現する権利』が、すべての人の基本的人権であるという考え方」なのだという。
もともとは、1950年代に、アメリカで行動療法として用いられたことを発端に発展した。現在は、日本においても、行動療法をはじめ企業のマネジメントや新人教育、管理者研修、医療従事者の研修などで広く活用されている。
アサーティブ・コミュニケーションに期待される効果
Government of Western Australia(西オーストラリア州政府)のDepartment of Healthは、アサーティブ・コミュニケーションを実践することで以下のことが可能になるとしている。
・対立を最小限に抑えられる。
・怒りをコントロールできる。
・自分のニーズをより適切に満たせる。
・友人、家族、そのほかの人たちと、より良好な関係を築くことができる。
多様化する社会では、相手の権利を侵害しないように配慮しながら、自分の考えや気持ちを率直かつ適切に伝える姿勢が求められる。そうした時代にフィットするアサーティブ・コミュニケーションは、職場においても今後さらに存在感を強めていくだろう。
アサーティブではないコミュニケーションとは?
ここまで、アサーティブな言動について考えてきたが、アサーティブに当てはまらないコミュニケーションとして「攻撃的(aggressive)」もしくは「受動的(passive)」な言動があげられる。攻撃的なコミュニケーションでは、大声を出したり自分の意見を一方的に押し付けたりして、相手の権利を侵害する。そして、受動的なコミュニケーションでは自分の意見を言わず、本当は嫌だと思っていることも断ることができない。
アサーティブ・コミュニケーションを実践するうえでは、まず自分のコミュニケーションスタイルを知ることが重要となる。ここで、職場での自分を思い返してみてほしい。例えば、退社後に予定がある日の終業間際に、同僚から突然仕事を頼まれたとする。あなたはどう答えるだろうか。
<返答例>
・「急に言われても困るよ! 君はいつもそうだね。」(攻撃的)
・「今日は何も予定がないから大丈夫だよ。」(受動的)
・「申し訳ないけれど、今日は予定があるからその仕事はできない。明日でよかったら引き受けられるよ。」(アサーティブ)
攻撃的な言動が、ネガティブな印象を招くのは明らかだ。相手からの提案に対しても否定的で、良好な関係は築きにくい。
では、受動的な言動についてはどうだろうか。一見、相手の気持ちを尊重しているようにも思えるが、自分の意見を伝えることを避けるため、一方的にストレスを抱え込んだり不満を持ったりして関係がこじれやすい。自分の意見を言わずに引き受けるため、頼んだ側はその裏にある不満に気付けない。そうした状況では、信頼関係は生まれにくいだろう。
アサーティブ・コミュニケーションの実践
前述のアサーティブジャパンによると、アサーティブにはベースとなる考え方があるという。それが、以下の4つのマインドだ。
・「誠実」:自分自身に正直になることで、相手にも誠実になれる。
・「率直」:遠回しではなくストレートに、相手に“伝わる”言葉にする。
・「対等」:上から目線でも卑屈でもなく、態度も心の中も対等に向き合う。
・「自己責任」:言った責任、言わなかった責任は、自分が引き受ける。
この4つの柱がしっかりしていれば、言動は自然にアサーティブになるのだという。
そして、アサーティブ・コミュニケーションを実践するための方法としてあげられるのが、「DESC法」だ。以下の4つのステップを踏んでセリフを考えることで、アサーティブな言動が可能になる。
・「Describe」:事実を描写し、客観的かつ具体的に伝える。
・「Express/Explain/Empathize」:相手の行動やそのときの状況に対する自分の気持ち、考えを表現する。
・「Specify」:相手にしてほしいことや、打開策、妥協案を提案する。
・「Choose」:相手が肯定的な場合と否定的な場合の両方を予測したうえで、それに対してどう行動するかの選択肢を示す。
さらに、「I statement」もしくは「I message」という、「私」を主語にして伝える会話法も有効に働く。「みんながこう言っている」「普通はこう考える」ではなく、「私はこう思っている」と自分自身を主語にすることで、表現が柔らかくなり相手に伝わりやすくなるのだ。
では、実際に起こり得るシーンを想定して、アサーティブなコミュニケーションのとり方を考えてみたい。
ケーススタディ「新入社員の遅刻を注意する」
例えば、新入社員が打ち合わせに度々遅れる場合、上司や先輩社員はどのように注意すればよいのだろうか。「君はいつもそうだ!」と大声で注意するのは攻撃的であり、アサーティブな態度とは言えない。「いつも」という表現も曖昧かつ大げさで、新入社員を萎縮させてしまう。
アサーティブな表現を意識して、まずは「君が打ち合わせに遅れたのは、これで3回目だ」といった客観的な事実を述べるのが望ましい。そして、「開始が遅れて打ち合わせの時間が長引くので困っている」などと自分の気持ちを伝え、「間に合うように仕事を調整することが大切だ。どうしても難しい場合は必ず事前に連絡してほしい」といった提案をすると、対立を抑えつつ自分の意見を適切に伝えることができるだろう。
フラットに意見を交わせる職場づくりのために
このように、アサーティブ・コミュニケーションでは、新入社員、先輩、上司といった立場に関係なく、事実に対して明確で率直な表現を心掛けることがポイントとなる。アサーティブ・コミュニケーションを上手に活用すれば、相手に意図しない誤解を与えることがなくなり、自分の考えをスムーズに伝えられるようになる。
新入社員は社会経験が少ないこともあり、対人関係から自尊心を損ねたり、自信を喪失したりしやすい。アサーティブ・コミュニケーションを職場全体で活用し、コミュニケーションが円滑になれば、対人関係のストレス軽減が期待できる。結果として、新入社員や若手社員だけではなく、管理者のストレス軽減やメンタルヘルス不調の回避にもつながるだろう。
しかしながら、これまでのコミュニケーション方法をすぐに変えることは難しく、アサーティブ・コミュニケーションについても実践を繰り返して定着させる必要がある。社員研修や管理者研修で、実際に上司役と新入社員役を割り振って、ロールプレイする機会を設けてみてはいかがだろうか。
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