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<現地レポート>フランスの働き方アンケートを徹底分析! いまオフィスに求められることとは?

オフィス回帰を促す企業が増えるなか、フランスのワーカーはオフィスに対し何を求めているのだろうか。フランス企業で働く1200人を対象にしたアンケート結果をパリ在住のジャーナリストが分析する。

オフィスでの生活の質についてアンケートを実施

2005年にフランスの家具メーカーFrench Furnitureによって設立された「ACTINEO(アクティネオ)」は、オフィスでの生活の質に関する研究所だ。その活動目的は、管理職に対し、オフィスのレイアウトと従業員のパフォーマンスや幸福感に密接な関係があることを認識してもらうことである。

ACTINEOは2023年4月28日~5月9日、調査企業ObSoCoの協力により、フランスの企業で働く1200人を対象にアンケート調査「2023年ACTINEO調査:オフィスにおける生活の質」を実施した。その結果から、フランスのワーカーが働き方やオフィスに求めることについて、5つの項目に分けて紹介したい。

1. オフィスはコミュニケーションの場

同調査ではまず、ハイブリッドワークの現状について質問している。その結果、56%が「オフィスで対面のみで仕事をする」と回答しており、44%が「オフィス以外でも仕事をする」と答えた。後者の内訳は、在宅勤務42%、ホテル・レストラン・カフェ15%、クライアント先14%、公共交通機関13%、コワーキングスペース7%である。

また、「オフィスに来たときの和気あいあいとした雰囲気、共感や創造的な時間が最も重要」との考えに、70%もの人が賛成していた。

「私生活と仕事のメリハリをつけることが苦手か」との問いには、64%が苦手ではないと回答。一方で、メリハリをつけるのが苦手と回答した36%のうち、53%がマネージャークラスの役職だった。組織のマネジメントを担う立場の人のほうが、仕事とプライベートの境界を分けることが難しいようだ。

また、勤務場所別にみると、メリハリをつけることが苦手とした人が「オフィス以外で頻繁に仕事をする」群で45%、「代替オフィスやオフィス外で仕事をする」群で41%であったのに対し、「ほとんどオフィスで仕事をする」では32%と低かった。オフィスで仕事をする人のほうが、仕事とプライベートの境界を保ちやすいというのは想像しやすい。

なお、現在のオフィスについて、固定デスクのないフレックスオフィスと回答した人が、2017年の調査では6%のみであったのに対し、今回の調査では21%に増えており、個々のデスクを廃止する企業が増えていることがわかる。

こうした現状で「いまオフィスに不可欠な空間とは?」との問いに対する回答のトップ3は、コーヒーコーナー(54%)、庭・テラス・グリーン空間(48%)、インフォーマルな交流のための空間(43%)であった。オフィスにコミュニケーションを期待する人が多いことの表れと言えるだろう。

2. ワーカーは自由を求めている

続いて、テレワークの現状について尋ねている。その結果、「月に1日は自宅で仕事をする」人は42%であり、うち36%は「毎週テレワークを行っている」と回答した。また、月に1日は自宅で仕事をする人の88%が「自宅で仕事をすることが好きだ」と回答している。

職種別にみると、月に1日は自宅で仕事をすると回答した人は、経営者や幹部など職業階層の高い人で70%、地方在住者で38%、250人以上の大企業に勤務している人で55%であった。

なお、「ときどきオフィス以外の場所で仕事をする」人は、2017年には48%だったが、2023年には72%までに増加した。平日に少なくとも3カ所以上の場所で仕事をすると回答した人も9%いた。また、今後の希望として、現在オフィス以外で仕事をしている人は、平均週2日のテレワークを週2.5日に増やしたいと考えていることがわかった。

オフィスと自宅との違いについて、「オフィスにいるとき、自分のタスクに集中できる」と79%が回答している一方、「自宅で仕事をしているとき、タスクに集中できる」と回答した人が85%にのぼり、オフィスよりも多い傾向がみられた。

そのほか、オフィスや自宅以外のサードプレイスで週1日は仕事をする人が36%いることも明らかになった。サードプレイスとしては、多い順に、クライアント先(14%)、公共交通機関(13%)、テラスや公園などの屋外(12%)、レストランやカフェ(12%)、ホテル(7%)などが挙げられた。なお、ホテルと回答した人の72%は出張時の利用であり、場所としてはホテルの部屋(82%)、会議室(17%)、ラウンジ(13%)とほとんどが宿泊する部屋で仕事をしていたということだ。

一方、作業環境に対する満足度は、室温や照明については、自宅で80%、コワーキングスペースで72%、オフィスで64%、ホテルで60%だった。家具の品質やレイアウトへの満足度は、オフィス・自宅ともに69%、コワーキングスペース66%、ホテル55%となった。書類等の収納スペースについての満足度は、オフィスが73%、自宅が70%、コワーキングスペースが60%、ホテルが50%という数字が並ぶ。人間工学的な快適さについては、コワーキングスペース68%、自宅66%、オフィス62%、ホテル46%であった。

テレワークに魅力を感じるワーカーが多いなか、企業がオフィスに従業員を呼び戻したい場合は、オフィスの作業環境の質を上げる努力が必要だろう。

フランスバスク地方ビアリッツに2021年9月にオープンしたサードプレイス・Le Connecteur。コワーキングスペースやシェアオフィス、会議室、大規模イベントスペースのほか、ジムやレストランも備えている。陽光がふりそそぐ天井の高い空間にはグリーンが随所に配置され、ポップなデザインの家具が採用されている。(画像は2点とも©Stéphane Muratet)
Le Connecteurでは屋上にも仕事や打ち合わせ、雑談ができるスペースが設けられている。(画像は©Stéphane Muratet)

3. ワーカーは幸福を求めている

次は現在の仕事に対する認識についてだ。「仕事でストレスを感じる」と答えた人は50%であり、2019年に比較して4ポイント上昇している。仕事でストレスを感じている人の内訳で50%を超えたのが、35〜44歳の年齢層(60%)、人口密度の高い街で働いている人(54%)、250人以上の大企業で働いている人(56%)、マネージャークラス(56%)だった。

また、「数カ月後に離職を検討しているか」について、30%もの人が「はい」と答えた。35〜44歳では36%と、55歳以上の22%よりも高い。また「仕事に没頭しておらず、求められたことしかしない」に対し、42%が「はい」と答えている。その内訳についても、18〜34歳が47%、55歳以上が30%と若い年齢層で多い傾向がみられた。

仕事の満足感に影響する要素として、「雇用者が従業員の健康を気にかけている」「上司が話を聞いてくれている」「利用できるワークスペースがニーズに合っている」「オフィスで使用できる空間に満足している」が上位に挙がった。前半2つが組織に関するもので、後の2つはオフィスに関する要素である。

また、作業環境の人間工学的な快適さ(座席、視覚、音響、温度など)について、従業員の57%が「とても重要」と回答しているのに対して、十分に努力している企業は13%にとどまっており、見解に大きな差があることがうかがえる。

「オフィスに来ると、集中しにくいと感じる」人は37%にとどまり、63%はそう思わないと回答した。集中するための静けさへの満足度は、自宅79%、ホテル67%、コワーキングスペース60%、オフィス53%とオフィスでは低い。「オフィスに来ると、集中しにくいと感じる」と回答した人の43%がオープンスペースの利用者であり、オフィスに静かな執務スペースを設けたり、ワークブースを設置したりする施策が有効と考えられる。

4. オフィスは企業のブランディングに貢献する

「雇用主が従業員の健康を気にかけていない」と思う従業員は45%にのぼり、55歳以上で53%と高かった。また、「従業員がオフィスで働きたくなるには、自宅より優れた空間を企業が提案すべきである」には72%が同意しており、「現在の仕事を選択する際に、オフィス環境が影響した」に39%が同意した。

「リサイクル素材の使用など持続可能性や環境への配慮を重要視する」ことに77%が賛成していたが、雇用主側でそれを重要視していたのは44%に留まっていた。同じく、「リサイクル家具や中古家具を使用する」ことへの関心が従業員では72%と高い一方で、雇用主側は38%であり、見解の差が見受けられる。

このように、従業員のウェルビーイング推進やサステナブルへの配慮に対するワーカーのニーズは高い。一方で、積極的に取り組んでいる企業がまだ少ないことから、人材獲得に有力な施策となるだろう。

eコマースのトレンドから解析を担うMédiaperformances社がテナントとして入居している環境配慮型不動産のタワービルの事例。執務空間には個人デスクを配置し、共有空間には緑化デザインやリユース素材を採用して、企業理念を反映させている。(画像は2枚とも©Jared Chulski)

5. これからの働き方に期待すること

これからの10年間を考えたときに、「オフィスでの対面の仕事に100%回帰し、テレワークは例外になる」未来について、52%が望ましくないと回答した。特に毎週テレワークをしている人では62%にのぼった。

逆に、「従業員は自分の選んだ場所で自由に仕事ができる」未来に対して、66%が望ましいと回答した。18〜34歳では71%がそう答えている。また、「従業員自ら週の勤務時間を調整する(拘束時間をなくし、平日と週末という概念をなくす)」未来を55%が望ましいと回答。18〜34歳では61%、35〜44歳では63%がそう考えていた。

さらに「週4日(32時間)勤務が普及する」未来に68%が望ましいと回答している。フランスのワーカーは、働く場所も時間も自由度が高く、自分の裁量で選択できる未来を望んでいるようだ。

日本企業にも大いに参考になる内容

ACTINEOの調査から、フランスのワーカーの働き方の現状やオフィスへのニーズについて、以下のことが明らかになった。

・パンデミック以来、テレワークが定着し、サードプレイスで働く人も増えている
・オフィスへの出勤には、コミュニケーションを求めている
・テレワークをしている人はその日数を増やしたいと考えている
・作業環境についてオフィスに対する満足度は低い
・若い年齢層で特に仕事のストレスが増加し、モチベーションが低下している
・従業員は企業に対し、ウェルビーイングや持続可能性への取り組みを期待している
・魅力的なオフィス環境は企業のブランドになる
・今後は場所も時間も自分で選択できる自由な働き方が望ましい

フランスはコロナ禍より前にテレワークの導入が進んでおり、また日本よりも「普通の生活」に戻るのが早かった。そんなフランスのワーカーがオフィスに求めるものは、日本企業にも大いに参考になるのではないだろうか。