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ポジティブ派? ネガティブ派? 学生たちの「ワーク・ライフ・バランス」論争

「仕事を通じての成長」「家事・育児など仕事以外に果たすべき義務」「個人の時間」。自分にとってこれらの最適なバランスは何で、どんな働き方がそれを実現するのか、学生が思い描く姿を聞いてみました。

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「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が一般的になって久しいが、現在は主に「企業による残業時間削減」のような意味で使われていることが多いという印象だ。「残業時間削減」はあくまで「ワーク・ライフ・バランス」を達成するための一手段であるはずなのだが、いつの間にかそれ自体が目的化し、中には「残業時間偽装」が暗黙の了解になっているケースもあることは以前『若手社員が入社後感じた「こんなはずでは…」な働き方』でご紹介した通りだ。

一方「ワーク・ライフ・バランス」とは企業側だけが取り組むものではない。個人も残業時間のみに注目するのではなく、各自の事情や環境に応じて「仕事を通じての成長」と「家事・育児など仕事以外に果たすべき義務」、そして「個人の時間」の最適なバランスを自分で見極め、それを実現するための働き方を選択していかなければならない。しかし今それが出来ている社会人はどのくらいいるのだろうか。

そこで今回はまだ働いたことがなく真っ新な状態の学生6名に、現時点で彼らが思い描く「ワーク・ライフ・バランス」についてインタビューを実施した。すると意外なことに2名がそもそも「ワーク・ライフ・バランス」に対してネガティブなイメージを持っていることがわかった。彼らにとって理想の「ワーク/ライフ」とは何なのだろうか。

ワークとライフを分ける必要性とは

「ワーク・ライフ・バランス」に対してネガティブ派の意見を見てみると、企業による「残業時間削減強硬策」がネガティブイメージを形成しているケースがあるようだ。インターン経験のある女性(私立大4年生)は「パソコンを強制終了とか、オフィス消灯時間が決まっているなど、ワークとライフを強制的に分けて意欲を削ぐイメージがある。業務時間内で集中できないときもあるし、逆に業務時間外でやる気が出るときもあるのに、一律に時間を決めてその中でやらされるのは自分に合っていない」と語る。

別の女性(私立大4年生)は「暇さえあればバイトを入れるタイプ」だそうで、「睡眠時間と食事の時間以外は仕事をしていたい」という。彼女にとって仕事とは「社会的な自己承認を得る場」であり、ワークプレイスとは「自分の居場所」だそうで、「仕事≒生活」のようなイメージだ。「ライフと分けたいような仕事だったらやらなければいいのにと思う」とさえ彼女は言う。

Working dad and a mom taking care of their kid in a park

彼女たちに共通するのは「ワークはライフの一部なのになぜそれを天秤にかけるのか?」という発想だ。実はこの疑問はポジティブ派からも出ていて、「自分は仕事の時間とプライベートの時間は分けたいが、そもそもワークはライフの一部なので『ワーク vs ライフ』というのには違和感がある」(男性・国立大大学院2年)。

一方別のポジティブ派からは、「子供の頃、家族で出かけていても父親が仕事の対応でずっと携帯を手放せないのが嫌だった。自分はオンとオフをしっかり分けたい」(女性・国立大大学院1年)という声もあった。ちょうど今の学生が子供の頃、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がまだ一般的ではないなかで、その親世代が仕事に携帯電話を使い始めたことを考えると、このような体験を持つ学生は多いのかもしれない。

関連記事:スタートアップは残業をしまくるのか?ーサンフランシスコ・ベイエリアのワーク・ライフ・バランス事情

半数が「ワーク・ライフ・インテグレーション」支持

ネガティブ派が支持するのが「ワーク・ライフ・インテグレ―ション」という考え方だ。テクノロジーが発達し、デバイスとwifiがあればどこでも仕事ができてしまうようになった今、仕事とプライベートで時間を分けることを止めてしまおうという考え方である。オフィスの外でも仕事をするが、オフィスでも仕事だけをするのではなくリラックスしたりエクササイズしたりする。そのような考えに基づいたオフィスは西海岸のテック系スタートアップを中心に広がりつつある。

「ワーク・ライフ・バランス」に対してネガティブ派の私立大4年生の女性は「自分はメリハリをつけるのが苦手。たとえば友達とカフェでおしゃべりしていても、何か作業をしたくなったら『ちょっと待って』と言い合ってお互いが自分の作業を始めることもある。仕事もそれと同じで、決められた時間内にいつも集中できるとは限らない。勤務時間に関係なく集中したいときにする、そんな風に働いたほう合理的」だという。ではたとえば旅行中に仕事のメッセージが届くのは構わないのか彼女に尋ねると、「全然構わない。むしろ自分が返信をしなくて仕事が大丈夫なのか心配するほうがストレスになる」そうだ。

「睡眠と食事以外の時間は仕事をしていたい」と言っていた私立大4年生の女性は「自分はワーク・ライフ・インテグレーションで働きたいが、周りには『ワーク・ライフ・バランス』ポジティブ派が居てほしい」という。なぜなら彼女は「暇さえあれば仕事をしたいタイプだから、ワーカホリックにならないようストッパーになる人が必要」だからだそうだ。

Working by the pool side during vacation

ここで気を付けたいのは、ワーク・ライフ・インテグレーションを個人で実践するのはよいが、それを他者に強制し始めると問題になるということだ。現に「いつでもどこでもつながる」状況に対して労働者を守るため、ヨーロッパでは数年前から「つながらない権利」が導入され始め、現在はアメリカのニューヨーク市でもその権利が検討されている。今回話を聞いた彼女たちはあくまでも自分がパフォーマンスを発揮するうえで「インテグレーション」がよいと語っており、周りもそうすべきと言っているのではない。それに「もし本当にリフレッシュしたいときは『つながりません』と事前に周りに告知するつもり」だそうだ。

同様の考え方はポジティブ派の中にも見られた。国立大学4年生の男性は、「『ワーク・ライフ・バランス』に対するイメージはポジティブだが、1日のなかで時間を分けるというより、ワークとライフを期間で分けたい。仕事中心の期間は『ワークライフインテグレーション』でいい。でも1年のうち何度か1週間程度のまとまった休みを取って、その間はつながらないでおきたい」という。彼の場合、「ワーク・ライフ・インテグレーションで働く期間」と「つながらない1週間」を繰り返すのが理想の「ワークライフバランス」のようだ。

ポジティブ派とネガティブ派で異なる仕事観

興味深いのは、「あなたにとって仕事とは?」という質問をしたときの答えが、「ワーク・ライフ・バランス」ポジティブ派とネガティブ派で分かれたことだ。

この質問に対してポジティブ派が最初に言った内容は「自分に欠けているスキルを得るための手段」「生きるための手段」「お金を得るための手段」。このあとに「人の役に立ちたい」「日本企業のグローバル競争力を上げるのに貢献したい」「やりがいを満たしたい」などと続くのだが、前提としては仕事を「得たいもの得るための手段」として捉えている。

一方ネガティブ派は「自己実現」「社会的な承認欲求を満たすもの」など「仕事=自分の存在に関わるもの」という考えだ。そのため、ワークがライフと切り離せないという考え方になるし、「ワーク・ライフ・バランス」について考えるときにも、最初のセクションで紹介したようにワーク部分に軸足を置いて考えるのだろう。

家事・育児はワークの一部?

ポジティブ派とネガティブ派で「ワーク/ライフ」の定義も異なる。ネガティブ派は「ワークとは労力を使うもの、ライフは自分がやりたいこと」「ワークは義務が伴うもので、ライフは義務が伴わないもの」という考えだ。従って「家事・育児」はワークに含まれるのだという。

実はこれは立命館大学の筒井淳也教授も唱えている考え方だ。また数年前に話題になった漫画『逃げるは恥だが役に立つ』において「家事=労働」という問題提起がなされたこともまだ記憶に新しく、この考え方が徐々に学生の中に浸透していることが興味深い。

一方ポジティブ派の意見を紹介しよう。私立大4年生の女性、また国立大4年生の男性はともに「ワークとはそもそもお金をもらうもの。家事・育児はお金をもらわないのでライフ」という定義だ。国立大大学院2年の男性は「自分の時間を誰かに捧げるのは一番幸福なこと」という価値観で家事・育児をライフだと捉えている。

面白い考え方として「家事はライフ、育児はワーク」という人もいた。国立大大学院1年の女性は「家事をやらなくても生きていける。しかし育児はやらないわけにはいかない。そのため育児をワークと捉え、育児中は仕事をセーブしたい」という。

終わりに

個人にとって最適な「ワーク・ライフ・バランス」はそれぞれだ。1日ごとに働く時間の上限を決めたほうが良い人もいれば、「ワーク・ライフ・インテグレーション」が一番働きやすい人もいる。「いつでもつながる期間」と「つながらない期間」を分けたい人もいる。さらに、先日公開した『従業員ニーズの理解が次世代のオフィスづくりのヒントに – WORKTECH LA・NYCレポート』でご紹介したように「ワーク・ライフ・ジェンガ」という新たな考え方も出てきている。それぞれの性格や働く目的、仕事に対する捉え方によってそれぞれ最適な働き方があるのだ。

だからこそ、個人個人が企業や周りに流されるのではなく、自分にとって最善の方法を考えて選択する必要がある。また企業側も、ただ残業時間抑制に終始するのではなく、様々な個人が各自に合った働き方を選択できるよう、多様な選択肢を用意しておくのが理想だろう。もちろん最近「多様な働き方」に注目が集まってはいるが、それも時間や場所のフレキシビリティに留まりがちだ。「ワーク/ライフ」に対する多様な考え方を実現するの制度とは何なのか、考えてみてもよいのかもしれない。

この記事を書いた人:Yuna Park

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