オフィスにおける「ウッドデザイン」の効能は? 木を生かした建築、家具、サブスク事例
木を使ったデザインの力で社会課題の解決をめざす「ウッドデザイン」。今回は「ウッドデザイン賞2022」の受賞作のなかから優れたオフィス事例を紹介し、期待される効能について考察する。
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注目の集まるオフィスへの木材活用
近年、木材を利用した建造物を評価する動きがみられている。例えば、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)が運営し、一般財団法人日本不動産研究所が評価を行う「DBJ Green Building認証」は2021年8月、日本の不動産の環境認証制度として初めて、不動産における木材利用の取り組みを評価する仕組みを導入した。
その背景としてまず、パリ協定をはじめとする世界的な脱炭素施策の進展が挙げられる。不動産においても、建物の利用時のみならず、資材の製造過程や廃棄時を含むライフサイクルを通して発生するCO2を削減することへの機運が高まっているのだ。
樹木は大気中のCO2を取り込み炭素として貯蔵するため、木材として活用されている間は炭素が排出されず貯蔵されつづけることになる。また、鉄やコンクリートなどの資材に比べて製造や加工に要するエネルギーも少ないため、木材の建築利用は不動産のライフサイクル全体におけるCO2の削減につながることが期待されている。
さらに、オフィスへの木材利用について公益社団法人国土緑化推進機構は、「単に一企業の利益にとどまらず、採算がとれないなどの理由で放置され、少子高齢化と揶揄されるような不健全な状況となっている日本の人工林の現状を改善することにも貢献」すると指摘している。
日本では、戦後に植林された人工林が60年以上経ち、伐採の適齢期の木が次第に増加している。高齢化した木はCO2の吸収量が低下するといわれている。つまり、成熟した木を伐採し、新しい木に植え換えていくことも脱炭素化につながることから、国産木材の活用も重要な視点となっている。
「ウッドデザイン」とは何か?
このように、オフィスも含めた建造物に木材の活用が求められる機運を受けて誕生したのが「ウッドデザイン」という概念だ。一般社団法人日本ウッドデザイン協会では、ウッドデザインを「木を活用した社会課題の解決をめざす取り組み」と定義している。
2015年には、林野庁補助事業として「ウッドデザイン賞」が創設された。同賞は、木の良さや価値をデザインの力で再構築することを目的として、木を活用した優れた取り組みを毎年、表彰している。建築物の木造化や、内装や外壁等に木材を用いる木質化にとどまらず、木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトまでを幅広く対象にしているところが特徴だ。
本記事では、2022年12月に発表された「ウッドデザイン賞2022」の受賞作品のなかから、オフィス分野におけるウッドデザインの事例を紹介し、期待される効能について考察したい。
「ウッドデザイン賞2022」を受賞したオフィス事例
1. 銀座の中心に誕生した日本初の12層木造架構「HULIC &New GINZA 8」
今回、最優秀賞(国土交通大臣賞)に輝いたのが、株式会社竹中工務店らが手がけた、オフィスも入居する商業施設「HULIC & New GINZA 8」だ。同施設は東京・銀座中央通りに位置し、アップルストアの建て替えにあたり仮店舗として利用されていることでも話題となっている。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
木造と鉄骨造のハイブリッド建築である同施設は、日本初となる12層の木造架構により約60mの高さを実現した。耐火木材を用いて、さまざまな木造・木質技術が活用されたほか、外装材にも木材を使用し、都市の風景にぬくもりと奥行きを与えている。ちなみに、日本最古の木造建築である奈良の法隆寺・五重塔の高さが約33mである。このモダンな商業ビルに至るまでの木造技術の進化を思うと感慨深い。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
同賞では特に、福島県産材を構造材の多くに使用し、「地方の森林と都市のつながり」を体現した点が評価された。多くの人が行き交う場所に、最新技術を駆使した高層木造建築がそびえることで、今までにない新たな都市景観を創出し、鮮烈な魅力を発信している。
2. ウェルビイーングな働き方をサポートする、天然無垢風のビッグテーブル「silta(シルタ)」
次に紹介するのが、今回、最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞した、株式会社イトーキによるオフィス空間向けのビッグテーブル「シルタ」だ。製品コンセプトは、オフィス空間に一体感をもたらす無垢1枚板の風合いを再現し、ワーカーのウェルビーイングな働き方をサポートするビッグテーブル。“木の心地よさ”と“ロングスパンの美しさ”を兼ね備えた製品となっている。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
大型天板のテーブルは中間に脚を設けるなどして強度を確保するのが一般的だ。しかし同テーブルは、芯材としてペーパーハニカムパネルとアルミ押出材を天板内に収納。軽量化と強度の確保を実現したことで、機能性と本物の無垢の木の質感を味わえるデザインを両立している。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
受賞にあたっては、木のぬくもりがワーカーのストレスを軽減したり、集中力を上げたりする効果を実証実験で裏付けたことが評価された。この実験結果は、木製家具のオフィス導入が健康経営にもつながることを示唆するもので、同賞はこれがオフィスの木質化促進に貢献することを期待している。
ワークプレイスに「木の家具がある」ことによって、ウェルビーイングな働き方にどのようなポジティブな価値をもたらすのか。 ウッドデザインとウェルビーイングな働き方との関係性にますます関心が高まる事例だ。
3. 天竜スギ無垢材のサステナブルなパーテーション「Grove(グローブ)」
ウッドデザインには、現代のオフィスニーズを反映したものもある。今回、奨励賞(審査委員長賞)を受賞した、パーソナルスペースを生み出すサステナブルな素材でできたパーテーションもそのひとつだ。株式会社ワイス・ワイスと株式会社マルホンが手がけた「Grove」は、吸音性に優れたリサイクルフェルトと、環境に配慮したFSC®森林認証の天竜スギ無垢材を用い、ウェルビーイングなワークブースをつくることができる。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
同プロダクトは、木という自然素材がオフィス空間に柔らかさを与えることに加え、軽量で一人でも組み立てやすい点が評価された。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
日本古来の襖(ふすま)をモチーフに、木の要素を融合することによって、高いデザイン性を達成している。オフィスにおける木材利用の促進には、同プロダクトのように、ハードとしての美しさと扱いやすさへの配慮も重要であると感じる。
4. セカンドオフィスとしても利用可能な木造キャビンのサブスク「SANU 2nd Home」
株式会社Sanuが手がける「SANU 2nd Home」は、“自然の中にあるもう一つの家”を提供するセカンドホーム・ サブスクリプションサービスだ。月額5.5万円のサブスクに登録することで、都心から好アクセスな自然立地にある環境配慮型の木造キャビンを自由に選んで滞在できる。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
受賞にあたっては、木と調和した保養滞在の魅力を訴求し、キャビンに国産材を使用した点が評価された。また、ペレットストーブで自然エネルギーを使用したり、できる限り釘やビスを使わない解体しやすい建築方法を採用したりといった環境負荷低減への取り組みも評価されている。
さらに同サービスでは、収益の⼀部で植林を⾏っている。キャビンが増えるほど森が豊かになる、環境再生型の事業である点も特徴だ。
画像はウッドデザイン賞受賞作品データベースサイトより
また、スマホひとつで「都市から自然に繰り返し通い、生活を営む」という新たなライフスタイルを提案している点にも新規性がある。ユーザー目線では、セカンドオフィスやワーケーション利用としても魅力的な選択肢といえるだろう。
木製家具がワーカーの集中力と発想力を高めるとの研究結果も
今回は、オフィスにおけるウッドデザインの事例を紹介した。それぞれワーカーの身体、メンタル、人間関係などに好影響がありそうだが、最近ではオフィスに木を取り入れることの効能について実証実験を行う企業も増えてきた。
「シルタ」の事例で株式会社イトーキは、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所および東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究により、「無垢の家具がオフィスワーカーに与える木の効果の研究」を実施している。
実験では、実際のオフィス空間で、クリ無垢材・木目メラミン・白色メラミンと材質の異なる3 種の大型天板テーブルを使用。それぞれの天板使用時におけるワーカーの集中力や発想力、生理・心理面に及ぼす影響について科学的に検証し、クリ無垢のテーブルを使用した際に最も集中力・発想力が向上し、ストレスや不安感が抑えられるという結果を得ている。
今後、木の効能についてのエビデンスが蓄積されていくことによって、新たにウッドデザインを取り入れるオフィスが増えていくことだろう。ますます機運の高まるウッドデザインに今後も注目していきたい。