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「音」の効果で仕事がはかどる! オフィスの音環境デザインのポイント

適度な音のある環境が仕事によい影響を与えることがいくつかの研究で示されている。音がワーカーにもたらすポジティブな効果と、オフィスに適度な音を導入する際のポイントについて紹介する。

オフィス環境のトレンドは「静寂」から「適度な音」へ

オフィスや自宅よりも、カフェやファストフード店、コワーキングスペースなどのいわゆるサードプレイスオフィスのほうが仕事がはかどると感じている人も多いのではないだろうか。この現象は「the coffee shop effect」と呼ばれ、適度な雑音が関係しているといわれている。

こうした背景から、近年はオフィスの環境設計においても、静寂な空間づくりではなく、適度な音を取り入れる試みが行われ始めている。そこで本記事では、音がワーカーにもたらすポジティブな効果について解説し、適度な音をオフィスに導入する際のポイントを紹介したい。

音のある環境は何がよいのか

適度な音が仕事によい影響を与えることは、いくつかの研究が明らかにしている。
学術雑誌「Journal of Consumer Research」に2012年に掲載された研究では、周囲の騒音が低レベル~中レベルの場合、創造的なタスクのパフォーマンスが向上することが示されている。また、神経生理学の領域では、適切な量のノイズが人の感覚入力を改善する「確率共鳴」という現象が知られており、実際に人を対象とした実験で、適切な量のノイズが意思決定を強化することがわかっている。
冒頭で紹介した通り、カフェなどの喧噪による効果は「the coffee shop effect」と呼ばれているが、そのほかに自然界の音がポジティブな効果をもたらすという研究結果もある。
コロラド州立大学、カールトン大学、ミシガン州立大学、米国国立公園局の研究者らは、自然音を聞くことの効果についてのこれまでの論文を調査し、自然音に痛みの軽減、ストレスの軽減、気分の改善、認知能力の向上などの健康上のメリットがあることを明らかにした。
なかでも水の音はポジティブな感情や健康促進に最も大きな影響を及ぼし、鳥の鳴き声はストレスやイライラの軽減に最も大きな効果を発揮していた。

コロラド州立大学のニュースリリースによると、この研究に参加した同大学教授のジョージ・ウィッテマイヤー氏は、「自然がもたらす健康へのプラスの影響とストレスの軽減は、人々の不安やメンタルヘルス問題の増大を相殺するのに役立つ」と語っている。自然音をオフィスのBGMとして取り入れることは、従業員のメンタルヘルスへの配慮ともなり、生産性の向上のみならず企業価値の向上にも有効と考えられる。

オフィスに取り入れたい快適な空間音響

空間の音環境については、2021年頃から「空間音響(Spatial Audio)」がトレンドのひとつとなっている。空間音響とは、シンプルなBGMではなく、立体的な音声により聴覚から臨場感を再現する技術の通称である。
CDより高解像度な音質のハイレゾ音源や、壁の反射を利用した全方位スピーカーなどを用いて再生するものだ。音そのものや聞こえ方のクオリティを高めることで、音に包まれるような居心地のよい空間を創出できる。

この空間音響をオフィスに取り入れることで、オフィスワーカーの生産性向上やリラックス効果などが期待されている。株式会社JVCケンウッドが自社の提供するハイレゾ空間音響デザインソリューション「KooNe(クーネ)」を用いて行った調査によると、自然音やギター等によるヒーリング音源を用いたハイレゾ空間音響により「アイデアが浮かんだ人」は25%から50%へ増加し、「いつもより集中できた人」は38%から50%に増加。「いつもより集中できた人」も38%から50%に増加していた。

こうした空間音響をすでにオフィス空間に取り入れている企業もある。三井不動産株式会社はオフィス移転の際に複数のリフレッシュスペースを設け、そのリフレッシュスペースと会議室にハイレゾ音響システムを導入して、自然環境音を流している。

ハイレゾ音響システムを導入した三井不動産株式会社のリフレッシュスペース(画像は音響設計を担当した株式会社ソニカ ソラソレ堂事業部のWebサイトより)

流す音源にはオリジナルコンテンツが使用されている。長野県蓼科にある三井の森内で、約半年間をかけて実際の森の音や鳥の声を収録したものだ。

画像は音響設計を担当した株式会社ソニカ ソラソレ堂事業部のWebサイトより

マイクなどの収音機器からレコーダー、オーディオプレーヤー、スピーカーに至るまで、いずれもハイレゾ仕様にすることで、自然の音がもたらす恩恵をオフィスで享受できるようにこだわっている。シェアオフィスを全国約150拠点に展開する三井不動産ならではの、オフィスの音環境に対する先駆的な取り組みだ。

適度な音のあるオフィス環境構築のポイント

ハイレゾ技術をはじめとする空間オーディオ技術の進化と普及は、今後も続くことが予想される。​​高機能化もさることながら、小型化や低価格化といった波も訪れるだろう。導入コストが低くなることでオフィスの音環境にもいっそう注目が集まり、空間音響が広く普及する未来もそう遠くはないかもしれない。もちろん現状のオフィス環境でも、工夫次第で「適度な音のある空間」は導入できる。ここでは大きなコストをかけずに適度な音をオフィスに取り入れる方法を紹介したい。

・ワークゾーンごとに音響デザインを変える

仕事内容や個人のニーズに合わせて、場所ごとに異なる音響デザインを採用する。静かなエリアと、わずかに雑音があるエリアに分ける手法である。もしフリーアドレスであれば、オープンエリアでは小鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえ、ワークスペースではカフェミュージックが流れている、というように各環境に合わせた音源を採用すると効果的だろう。人の移動が難しいオフィス環境であれば、時間帯によって変えてみるのも一案だ。

・音量や音源を個人で選択できるようにする

社員が自分の好みに合った環境を選択できるような自由度の高いオフィスをめざすのもよいだろう。ZoomやGoogle Meetなどを利用したWeb会議が普及した影響もあり、オフィスでもノイズキャンセリング機能やBluetooth対応などの高性能ヘッドフォンを利用することが珍しくなくなった。近年は、イヤホン着用可を福利厚生とする企業も出てきている。プレイリストを社内で作成したり、共有したりすればコミュニケーション促進にも役立つ。静かに仕事をしたい人、音楽があるほうが仕事がはかどる人、単純作業のときだけ音楽を取り入れたい人など、個々の好みや状況に合わせて柔軟に運用できる点がメリットだ。

・自然音に特化した配信サイトやアプリを活用する

森から聞こえる自然音をライブ配信しているサイト「Forest Notes」を利用すれば、個人のパソコンから気軽に自然音のある環境を構築することができる。同サイトでは、北は北海道から南は宮崎県まで、日本各地の四季折々の音が無料でライブ配信されている。水の音や鳥のさえずりといった自然音を、いつでも気軽に聞くことができるため、サテライトオフィスやリモートワークといった一時的な環境でも対応可能だ。スマホ向けアプリもリリースされているので、まずは気軽に試してみるとよいだろう。

画像はForest NotesのWebサイトより

音の環境もアップデートを

適度な音がある空間が働く人にとって多くの良い影響をもたらすことは、いくつもの研究で立証されている。オフィスにおける適度な音の活用は、集中力アップやリラックス効果、ストレス軽減、生産性の向上といったさまざまな効果が期待できる。空間の居心地がよくなれば、コミュニケーションが活性化し、クリエイティビティや生産性が向上する可能性もあるだろう。

なかでも自然音は、気持ちが落ち着き、職場における心の健康づくりにも貢献してくれる。すでにBGMを流しているオフィス環境であれば、自然音を取り入れた環境にアップデートしてみてはどうだろうか。快適なオフィス環境をめざすために、ぜひ音の設計にも取り組むことをおすすめしたい。