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シンガポールが取り組むリアルテックイノベーションと、プロダクト開発における環境選択の必要性

研究開発に注力するシンガポールが行なっているスタートアップ支援の取り組みや施設の紹介と、訪れて感じたプロダクト開発における環境選択の必要性についてお伝えしていきたい。

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Worker’s Resortではアメリカ西海岸の情報を中心にお伝えしているが、もう少し幅広く色々な情報をお届けしたいと考えていた今日この頃。そんなときにシンガポールを見て回る機会があったので、今回はその中で見て回ったインキュベーション施設や、オープンイノベーションへの取り組みについて、いくつか紹介していきたい。

そもそもシンガポールとはどんな国?

これまでにシンガポールへ観光で訪れた事がある方は、読者の中でも結構いるのではないだろうか?イメージとしては「街がキレイ」「罰金ルールなどが厳しい」そして「マーライオン」・・・でもこれらがシンガポールのほんの一部であることは、今更述べることでもないだろう。

国立公園であるガーデンズ・バイ・ザ・ベイのスーパーツリーグローブ

歴史を簡単に振り返ると、シンガポールは1965年にマレーシアから独立したが、独立当初は目立った資源もなく、人口も少ない国だった。そんなシンガポールが建国53年になる現在、ここまで偉大な発展を遂げたのにはリークアンユー(初代首相)の存在があった。

リークアンユーは地の利を活かして、他の国から資源や人材を誘致し、安定した生活を送れる国を作ることに力を注いだ。急激な成長のための施策実施は、結果として「明るい北朝鮮」と呼ばれるような厳しい管理国家という一面も持つようになるが、ビジネス環境世界2位(Doing business 2018より : http://www.doingbusiness.org/rankings)・イノベーションランキングアジア1位(世界5位 Global Innovation Index 2018 : https://www.globalinnovationindex.org/gii-2018-report#)という今日の地位を築くためには思いきった施策も欠かせなかったと言える。

製造業のハブから始まったシンガポールは、それぞれの時代背景に合わせて、何のハブになるかということを常に見直し、継続的な発展を遂げてきた。そして現在シンガポール政府が注力している分野の一つが研究開発であり、その分野における支援組織がどのようなや施設構築と運営を行なっているかを確認するのが今回の目的である。

シンガポールは経済の発展と自然環境を両立させた都市計画により、グリーンシティとも呼ばれる。

Platform E

まず初日に訪問したのが、Singapore institute of management(SIM:シンガポール経営学校)発のインキュベーターであるPlatform E(https://platforme.asia/)である。Platform Eでは起業を目指すアーリーステージ人材に対するトレーニングプログラムを提供しており、コワーキングスペースも併設されている。施設の見学とあわせてHead of EducationのWong Kee Meng氏より取り組みの紹介をしていて頂いた。

Head of EducationのWong Kee Meng氏

ロビーに置いてあるピアノには遊び心が

Focustech Ventures & CoSpacePark

次に訪れたのが、CoSpacePark(http://cospacepark.com/)というコワーキングスペースだ。こちらではシンガポールのベンチャーキャピタルで、IT系からハードウェア系まで投資育成を行なっているFocustech Ventures(http://www.focustechventures.com/)のKelvin Ong氏から組織紹介や取り組み、彼らが支援するスタートアップによるピッチに参加した。

Focustech VenturesのKelvin Ong氏

中にはカフェも併設されており、その時の気分に合わせてドリンクを選ぶことができる。

InnoSparks

翌日午後には、ST Enginneringのインキュベーター施設であるInnoSparks(https://www.stengg.com/en/innosparks/#/)へ足を運んだ。ST Enginneringは1967年に設立されたシンガポールの重工業企業で、22ヶ国44都市で100を超える子会社と共にビジネスを展開している。InnoSparksでは、プロダクトの企画から社会実装までを18ヶ月で行うプログラムを組んでいる。実際に説明してもらった中には、開発中のプロダクトの実証実験を公共性の高い施設が受け入れているケースもあり、新しく何かを生み出すことに社会全体が積極的で、リアルなスピード感を肌で感じることができた。

こちらはInnoSparksで開発されたマスク。シンガポールでは隣国インドネシアが行う野焼きの煙害(ヘイズ)による大気汚染が深刻で、その対策としてマイクロファン付きのこのようなマスクが開発された。

こちらもInnoSparksで開発された屋外冷房システム。バス停や観光施設に導入されているとのこと。この写真は筆者が国立公園であるガーデンズ・バイ・ザ・ベイで見かけたもの。

Block71

3日目にはBlock71(http://www.blk71.com/)というシンガポール政府およびNUSの主導で設立された東南アジア最大のインキュベーション施設で、日本人のAkira HIrakawa氏が代表を務めるRed Dot Drone(https://reddotdrone.com/)など4社のスタートアップとの交流を行なった。

Block71には250社以上のスタートアップと30社以上のアクセラレータやベンチャーキャピタルが入居しており、隣接するBlock73・Block79と合わせて、まるでスタートアップ団地のようだ。

敷地内にはスポーツなどを楽しむスペースも設けられている。

施設内のフードコートのようなスペース。多くの人たちが昼食のために集まってくる。

Red Dot Drone代表のAkira HIrakawa氏

Block71を運営するNUS EnterpriseやSingTel Innov8らはサンフランシスコのSoMa地区にもBlock71 San Francisco(https://www.block71sf.com/)を開設しており、シンガポールと米国両国のスタートアップ支援と関係性の強化に取り組んでいる。またインドネシアのジャカルタ、中国の蘇州市にもBlock71はそれぞれ開設されている。

リアルテックのスタートアップや支援組織との交流を通して

複数の施設やスタートアップとの交流と通して感じたのは、やはりスピード感の違いだ。日本とシンガポールを同じ土俵で語るつもりはもちろんないが、シンガポールでは社会が「新しく便利なもの」を生み出すために好意的であり、非常に協力的だ。それが開発における仮説検証やプロダクト改善を協力に後押ししているといえる。

その理由の一つには建国53年という歴史の短さもあるのだろう。歴史が長ければその分、多くの問題や挫折に直面しており、それが確実に正確なものを創造するための経験やノウハウとして蓄積されていく。しかしそれらは時として開発における時間と手間の増加にもつながる。時間と手間だけであればまだましな方かもしれない。組織が必要とするリスク回避のための手続きや、理解を得るための根回しの煩わしさは、個々が抱いている好意的な見方や協力的な姿勢を挫いてしまうこともある。

逆に歴史が短かければノウハウの蓄積もないし、そもそも回避しなければならないリスクも把握できていない。そのためまずはやってみよう、結果から改善していこうという意識になる。

同じことの繰り返しになるが、2つの国を比較してどうこうではなく、今後のプロダクト開発はそれぞれの地域特性をしっかり見極め、状況や求められているスピード感にあわせて、開発者が環境選択を自ら行っていく必要があるということだ。

働き方は文化人類学

行政の政策・地域の伝統文化・教育・生活習慣・家庭環境など、ワークカルチャーは個々を取り巻く環境によって異なる。今回のシンガポール視察では、世界の中のその1つと接する良い機会になったし、今後も訪れた国や地域の情報を積極的に発信していきたいと思う。

この記事を書いた人:Shinji Ineda

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