パーパスを実現するためのワークプレイスづくり。8つのポイント
ワーカーの働きがいを高める一つの方法が、個人のパーパスと企業のパーパスをすり合わせることだ。パーパスを起点に働く環境を整える「パーパス・ドリブンワークプレイス」の概念と8つのポイントを紹介する。
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パーパス・ドリブンワークプレイスとは
ビジネスシーンで近年よく使われるようになった「パーパス」という言葉をご存じだろうか。パーパス(Purpose)は「目的」や「意図」と訳される英単語だが、経営戦略やブランディングにおいては「企業としての存在意義」を表す言葉として使用されている。
かつては企業の存在意義について、CSR(企業の社会的責任)やCSV(共有価値の創造)といったキーワードで語られていたが、2015年頃から「ブランドパーパス」という言葉が使われはじめ、近年は「パーパス・ドリブン」という言葉がトレンドになりつつある。
パーパス・ドリブンとは、直訳すれば「目的に突き動かされた状態」。ビジネスにおいて「ドリブン」は、データを起点として戦略を練るデータドリブンや、顧客を起点にその声を事業に生かすカスタマードリブンなどという使われ方をするため、「〜を起点とした」と訳すこともできる。つまり、パーパス・ドリブンとは、その企業が「何のために事業を行うのか」というパーパス(存在意義)を起点として、すべての企業活動を展開することを意味する。
このパーパス・ドリブンを本当の意味で実現するためには、ワーカーが自社のパーパスに共感し、その実現を常に希求する姿勢を持つことが求められる。その実現を促すオフィスづくりが「パーパス・ドリブン ワークプレイス」である。
ワーカーは「働き方」と「働く場所」に何を求めているか
かつてワークプレイスは単に作業を行う場所だった。しかしコロナ禍により多様な働き方が認められるようになったことで、ワーカーの「働き方」への意識は大きく変化した。
2020年12月に、Worker’s Resort編集部が500名を対象に実施したアンケート調査では、74%の人が「新型コロナウイルスの流行がこれからの働き方を考えるきっかけとなった(現在学生の方については、就職後)」と答えている。
また、「今後、就職または転職を行うとしたら、何を優先するか」を尋ねたところ、1位に「働き方」を選択した学生が22%と、社会人の11%の2倍という結果となった。特に若い世代で「働き方」が強く意識されており、魅力的な「働き方」を打ち出していくことが優秀な人材を確保することにつながると考えられる。
「働き方」は今、企業が用意した働き方にワーカーが取り組む時代から、ワーカーが求める働き方を企業が提供する時代へとシフトしている。こうした意識の変化に伴いワークプレイスに求められる役割も変わってきた。単なる作業の場ではなく、「コミュニケーションの場」と捉えられるようになり、さらに「働きがいを生む場」としての役割を担っていくことが期待されている。
なぜなら、ワーカーは自己の可能性を拓く働き方を選択しやすくなったことで、自己実現の欲求を高めているからだ。ワーカーの「安心や安全」や「尊重の獲得」などを満たす環境と機会が「働きやすさ」だとすると、「自己実現」や「貢献実感」が得られる環境と機会が「働きがい」である。
これまでも多くの企業が「働きやすさ」に配慮したオフィスづくりに取り組んできたが、今後は「働きがい」、すなわち自己実現や貢献実感が得られるワークプレイスを提供していくことが求められている。
そのためのひとつのアプローチが、企業のパーパスと個人のパーパスをすり合わせ、その実現を両者共通の目標としていくことだ。パーパスを起点として働く環境を整える「パーパス・ドリブン ワークプレイス」はまさに、企業との協働によりワーカーの自己実現と貢献実感を叶えるオフィスといえる。
パーパス・ドリブンワークプレイスを実現するための8つの環境要素
パーパス・ドリブンワークプレイスを実現するために、企業はワーカーに向けてどのような機会を提供すればよいのか。以下に、8つの環境要素を紹介する。
1. 企業パーパスを語り、共感を生む
企業には幅広いステークホルダーのための奉仕が求められる。その核となるのが会社の目的や使命となる企業パーパスである。ワーカーがその企業パーパスを語り、様々なステークホルダーの共感を得られるワークプレイスをつくることがまずは重要だ。
ワークプレイスの利用を通じて、経営陣だけでなくワーカーも企業パーパスを深く理解し、自分の価値観の一部として捉えるようになれば、自ずとクライアントや協力会社、株主など、会社を訪れた人々に語る機会も増える。その内容が個人のパーパスとも近く、広く社会から支持されるものであれば、共感を生もうとするワーカーの使命感もより高まりやすい。
パーパスへの共感は、企業に対する信頼感を高め、クライアントや株主と長期的に良好な関係を築くことにつながるだろう。また、協力会社など外部パートナーの共感を得られれば、より協調して事業の推進を図れる。多くのステークホルダーの共感を得ることは、ワーカーの幸福度や生産性のアップ、ひいては働きがいの実現に不可欠な要素なのだ。
2. 個人パーパスをデザインする
個人パーパスとは、人生やキャリアにおいて目指すべき目的や意義のことを指す。個人パーパスは、その人物の価値観や興味、スキル、夢などに基づいて決定され、これをデザインし、自分の目指すものが明確になることによって、仕事への充実感も上がる。個人のパーパスを確立するためには、下記のような方法が挙げられる。
・自分が重視することや望むことは何か、自己の価値観を明確にする。
・自分のスキルや興味を把握する。
・長期的な目標や夢を設定し、それに向かって努力する。
・信頼できる友人や家族からフィードバックを受け、自分自身の認識を深める。
個人パーパスをデザインするためには、ワーカーが自らの特技や趣味、興味のある分野などのパーソナリティーを語り、解放する場面が必要となってくる。上司との1on1ミーティングや定期的な社内ワークショップの開催によって、対話しながら自身の考えやパーソナリティを見つめ直すことが有効だ。
3. 企業と個人のパーパスをすり合わせる
社員一人ひとりのパーパスと会社のパーパスが近づくほど、より仕事に意義ややりがいを感じられるようになり、パフォーマンスも向上する。そのためには、彼らのコアバリューや目的と企業のパーパスに共通点を見つけてすり合わせる必要がある。
ワーカーのパーソナリティーを企業の活動と組み合わせ、ステークホルダーとどのような関わりがつくれるのかを模索することは、それによって生まれた企画や活動を新たなビジネスへつなげられるかを考える場にもなる。他者との対話を通じて企業と個人のパーパスをすり合わせる機会を創出し、企業とワーカーのパーパスのギャップを埋めることによって、仕事への活力が向上し、経験豊富なワーカーの離職率を低下させることにもつながるだろう。そのためには、誰もが利用できるカフェスペースを設けるなどの方法がある。こうしたスペースには自ずと人が集まり、リラックスしたなかで同僚や上司部下と自己開示性の高いコミュニケーションが行えるからだ。
4. パーパス実現に必要な学習ができる
パーパスの実現のためにワーカーの学習をサポートすることも大切だ。学びを後押しすることで、ワーカーは自身の志や「仕事を通じて実現したいこと」について、改めて考えることができ、仕事のモチベーション向上にもつながる。パーパス実現に必要な学習として、以下のようなものが挙げられる。
・自身のパーパスに関連する業界について知識を深めること。
・専門的または必要なスキルを習得すること。
・パーパスに関連する人々とコミュニケーションをとり、ネットワークを構築すること。
上記を実現するためには、社内にパーパスに関するライブラリーを設置し、企業パーパスに合ったカテゴリーの選書をすることもひとつの手である。ライブラリーはメンバーとコミュニケーションをとる場所としても活用でき、個人パーパスを語り、実現するためのスタートに最適な場所にもなる。
5. 自律性を獲得する
組織がパーパスを実現するためには、自律的な選択をして活動ができる社員を育てていく必要がある。テレワークが浸透し、適切な判断をできる上司が常に傍らにいるわけではないため、シーンごとに適切な判断を社員一人ひとりが行っていかなければならない。また、もし上司の判断がパーパスに基づかない場合は、その判断が適切であるかどうか、パーパスの実現に向けてワーカー同士がよく議論することが求められる。
このような自律性はワークプレイスや働き方の中で培うことができる。フレックスタイムやフリーアドレスの導入により、働き方に自由度をもたせてワーカーの自律性を育てていく方法だ。ワーカーはその日の業務内容や必要なコミュニケーションに応じて、利用する場所を選択し、自分が選択したことを責任をもって遂行していく。こうして自律性を養うことが、パーパスに基づいた活動や判断を行う習慣につながっていくことになる。
6. 外部のコミュニティ活動を支援する
ビジネスへの貢献実感は収益だけで決まるものではなく、社会との関わりも大きく影響する。企業やワーカーが接点を持つ外部コミュニティを支援するためのスペースを社内に確保することで、ワーカーは事業以外での貢献感を直接的に得ることができる。
またそれがワーカー個人のパーパスに紐づくコミュニティであれば、支援ができる喜びを実感し、この環境に長く身を置きたいと、会社への帰属意識が芽生えるきっかけにもなる。企業としても、事業で直接的に接点のないコミュニティとの関わりが新たな社会課題やビジネス創出への気づきになる可能性もあるだろう。
そのためには、ワークプレイス内にリアルな関わりを生むセミパブリックなスペースを確保することも一案だ。こうした空間を使えば、外部コミュニティへの場の提供を通じて、様々な社会活動を支援することができる。
7. ステークホルダーと協働する
企業パーパスの浸透を通じてステークホルダーとの関係性を深め、協働することができれば、事業だけでなくパーパスに紐づく取り組みも拡大することが可能になる。そのためにはステークホルダーと定期的に対話を行い、彼らのニーズを理解して共有価値を創出することが必要だ。
ステークホルダーと共同でプロジェクトを推進することで、企業は彼らの意見や専門知識を取り入れることができるようになる。またステークホルダーも、プロジェクトの成功に向けて積極的に貢献することで、企業とより良好な信頼関係を築き、コミュニティの一員としての貢献実感を得ることができるだろう。
8. 個人では成し得ない達成感を得る
企業は自社が掲げるパーパスにワーカーを巻き込みながら、ワーカー個人では成し得ない達成感を提供することが大切だ。組織との関わりにより生まれた達成感は、企業への熱量やエンゲージメントを高め、帰属意識や関係を深める動機となる。企業は、次のような観点でワークプレイス環境を整えるとよいだろう。
①所属組織のパーパスや事業・取り組みへの支持や共感
パーパスはもとより、自社の事業やCSR活動などを紹介できるようにワークプレイスを設る。社内案内を通じて来客者の企業理解が深まり、事業や取り組みの支持や共感を得る機会につながる。そのような体験は利益以外の喜びをワーカーに提供する。
②社会的な意義やクライアント、働く仲間への貢献
社会課題への取り組み、クライアントや仲間からの感謝の声などをワークプレイス内で見える化する。自分の仕事が社会的な意義を持ち、クライアントや働く仲間への貢献を果たしていると感じることができる。
③組織の成長とそれを支える自身の存在
企業の成長やステージの変化を感じることは、組織成長やそれを支えた自身の存在を強く認識する機会となる。ワークプレイスの移転や改修はそのようなイベントとして大きな意味を持つ。
パーパス・ドリブンワークプレイスがサステナブルな働き方を実現する
働き方が多様になったことで、ワーカーの働き方への意識は変わり、ワークプレイスの担う役割は大きく変化している。今後、ワーカーの「自己実現」や「貢献実感」といった働きがいに関する欲求を満たせる環境と機会が、ワークプレイスに求められるようになっていくだろう。
本記事では、働きがいを創出するアプローチのひとつとして、パーパスを起点に働く環境を整える「パーパス・ドリブンワークプレイス」の概念と8つのポイントを紹介した。パーパス・ドリブンワークプレイスを構築することで、パーパスの実現を動機とした社内外の関わりが促進され、個々のソーシャルキャピタルの醸成やウェルビーイングの向上も期待できる。つまりパーパス・ドリブンワークプレイスには、企業とワーカー、そして社会にとってもサステナブルな働き方を実現する可能性があるのだ。
これから主流になっていくであろう「パーパスドリブンワークプレイス」を意識したオフィスづくりを進めてみてはいかがだろうか。