生産性パラノイアを解消。部下の生産性を疑う上司が見直すべき1 on 1の方法
ハイブリッドワーク下で、上司が部下の生産性を過度に心配する「生産性パラノイア」が問題となっている。その解消に役立つと考えられる効果的な1on1ミーティングの方法を紹介する。
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上司と部下の間で「生産性の認識」に大きな差
テレワークやハイブリッドワークを導入する企業が増え、今や就職や転職の際の重要条件ともなっている。一方、テレワーク下では、上司が部下の働く姿を目にすることができないため、部下の仕事ぶりを疑問視する上司が増えているという。
Microsoft社は2022年9月、「Hybrid Work Is Just Work. Are We Doing It Wrong?(ハイブリッドは仕事の一形態に過ぎない。私たちは間違っていないか?)」と題したレポートで、ハイブリッドワークにおける「生産性パラノイア」の問題を指摘した。
パラノイアとは「偏執」を意味し、何かに固執している状態を表す。生産性パラノイアとは、上司が「部下が生産性高く仕事をしているか」を過度に心配することを指す、Microsoft社が生み出した新しい言葉だ。同社はこの生産性パラノイアに、ハイブリッドワークを持続不可能にするリスクがあると警告している。
同社が行った、11カ国2万人以上を対象としたアンケート調査によると、「自身のチームの生産性に確信を持っている」と答えたリーダーはわずか12%にとどまった。一方で、「仕事において生産的だと感じている」と答えた従業員の割合は87%にのぼり、両者には大きな隔たりがみられた。
画像はMicrosoft社のWebサイトより
多くの従業員が仕事の生産性を主張する背景には、パンデミック以降に生じた、過剰なデジタルワークによるマルチタスク状態があると考えられる。Microsoft社はMicrosoft Teamsユーザーの週当たりの会議数が、パンデミックにより150%増加したと報告している。それだけでなく、会議のダブルブッキングがここ1年で1人あたり46%も増加しており、会議参加者の42%が会議中にメールやメッセージを送信し、複数のタスクを同時に行っているというのだ。
こうした現状を踏まえると、上司がとるべき行動は、部下が十分に働いているかどうかの心配ではないことがわかるだろう。上司には、部下が最も重要な仕事に集中できるよう優先事項を整理し、環境調整やサポートを行うことこそが求められている。
そこで本記事では、生産性パラノイア解消に役立つとされる、ハイブリッドワーク下で生産性を高めるための1on1ミーティングの方法を紹介する。
生産性パラノイアを解消する1on1の方法とは?
1on1ミーティングとは、上司と部下による1対1の定期的な面談のことだ。株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2022年1月、従業員100名以上の企業に勤める人事担当者936名を対象に行った調査によると、1on1ミーティングを導入している企業は約7割にのぼり、その約6割が3年以内に導入していることがわかっている。
1on1ミーティング導入の効果については、60.1%が「上司と部下のコミュニケーションの機会が増えた」、46.5%が「部下のコンディションを把握できる」と回答した一方、課題として47.2%が「上司の面談スキルの不足」、44.6%が「上司の負荷が増大」を挙げている。導入はしたものの、その質や運用に課題を抱えている企業も多いようだ。
では、生産性パラノイアの解消をめざす場合、どのように1on1ミーティングを行えば良いだろうか。前出のMicrosoft社のレポートでは、1on1ミーティングで部下の話を十分に聞き、「OKR」「NO-KR」を活用することを提案している。
「OKR」とは「Objectives and Key Results(目標と成果指標)」の略称で、目標の設定とともにその達成度を測るための成果指標を設定する目標管理手法である。Google社が導入していることでも有名で、目標を定めて取り組むことで従業員のパフォーマンス改善につながるとされる。また、目標の難易度を上げて明確なゴールを設定したほうが、達成に向けて従業員のエンゲージメントが一層向上すると考えられている。Google社ではOKRを次のように説明している。
【OKRの概要】
・目標は、場合によっては若干気後れするくらいの高いレベルに設定する。
・成果指標は、数値化して測定し、簡単に評価できるようにする(Google社では 0~1.0 の範囲で設定)。
・OKRは組織の全員に公開し、誰もがお互いの作業状況を確認できるようにする。
・OKRでは目標の60~70%の達成率が理想的。逆に達成率が常に100%の場合は、より野心的な目標を立てる必要がある。
・OKR は従業員を評価するためのツールではない。
・OKR は社内共有のタスク管理ツールではない。
一方で「NO-KR」とは、従業員が「何をすべきでないか」を設定しておくというMicrosoft社が社内で取り入れている取り組みだ。より重要な仕事を達成するために、実行しないタスクとプロジェクトを特定し、明確化して部下と共有するものである。
1on1の方法を見直してみよう
OKRとNO-KRを踏まえ、改めて実際の1on1ミーティングの実施方法をみていきたい。ニッセイ情報テクノロジー株式会社の杉原秀保氏は、「ニューノーマル時代のチームビルディングに関する提言-1on1による心理的安全性確保と組織生産性について-」と題した研究報告書で、1on1ミーティングを「指導型」と「共感型」に分けて紹介している。
指導型1on1とは、上司や先輩が部下に指導やアドバイスを行うもので、共感型1on1とは役職にかかわらず同じ立場で会話をし、共感力を養うものと定義されている。多くの企業が採用している方法が、前者の指導型1on1だろう。以下に指導型1on1の実施方法と注意点を紹介する。
【指導型1on1の実施方法】
・週に1回、もしくは隔週ごとに15〜30分程度実施する。
・部下の業務体験や課題、悩み、将来のキャリアを上司と共有する。
・上司は以下の3つの観点でフィードバックし、部下の成長を促す。
(1)コーチング:話し相手のコミュニケーションタイプを見分け、タイプに応じて関わり、本人が答えを見つけるためのサポートをする。
(2)ティーチング:知識やスキルを教えてサポートする。
(3)フィードバック:問題点を客観的に見て、良かった点や改善策を伝える。
【指導型1on1の注意点】
・まずは部下の話を聞き、話の腰を折ったり、自分の話をしたりしない。
・話を聞く姿勢や表情、相槌、理解を示す言葉が重要。
・互いにメモを取り、特に重要なポイントはメモから次回につなげる。
・急な予定が入った場合でも中止せずに必ず再スケジュールを行う。
ここにOKRとNO-KRの設定を追加し、「力を入れるべきこと」と「すべきでないこと」を整理するとともに、部下がやるべきことに注力できる環境調整やサポートをするとよいだろう。
指導型1on1では、部下が自分の失敗体験や成功体験を振り返る習慣が付き、仕事の過程で取り組むべき課題が明確になること、経験学習サイクルが身につくことなどが期待される。こまめな目標設定とフィードバックを行うことで、業務の効率化から生産性の向上につなげるものだ。一方で共感型1on1は、相手の承認欲求を満たし、心理的安全性を確保することを目的とし、その結果として生産性の向上を期待するものである。共感型1on1の実施方法と注意点は次の通りだ。
【共感型1on1の実施方法】
・話し手の好きなテーマで15分会話する。
・聞き手は話し手の話を笑顔で受け入れる。
・聞き手はときどき相槌や興味を示す質問を交えながら共感する姿勢を示す。
・終了後、良かった点を中心にフィードバックを伝え合う。
【共感型1on1の注意点】
・聞き手側の表情・態度を含めた場(雰囲気)づくりが最も重要。
・最後に共感できた内容や相手の反応など、お互いに良い部分を伝え合う。
・今後の学びにつなげる意識を持つことと、常に相手に最大限の敬意を払い尊重する姿勢
で接することが重要。
共感型1on1は、新たなコミュニケーション施策として杉原氏が提案しているもので、職場における心理的安全性の重要性が高まるなか、期待が寄せられる手法である。
これからのマネジメントに求められる「すべきでないこと」の明確化
多くのワーカーがハイブリッドワークを支持するなか、生産性パラノイアによりハイブリッドワークが持続困難になることは、人材獲得競争においてマイナスとなるおそれがある。ハイブリッドワーク下のマネジメントで重要なことは、部下の生産性を疑い仕事ぶりを監視することではなく、部下との対話であり、「力を入れるべきこと」と「すべきでないこと」の明確化である。部下の生産性に不安があるならば一度、1on1ミーティングの方法を見直し、OKRに加えNO-KRを設定してみるとよいだろう。
- 参考記事:職場における心理的安全性の作り方