オフィスを魅力ある場所にするには? 明るく楽しい「プレイフル」なオフィスのつくり方
オフィスを従業員が自然と出社したくなるような魅力的な場所にするにはどうすればよいだろうか。本記事ではそのひとつの方法として、明るく楽しい雰囲気でワーカーをポジティブな気持ちにする「プレイフル 」なオフィスづくりを提案する。
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出社したくなるオフィスとは
コロナ禍からの脱却が進み、ゆるやかながらワーカーのオフィス回帰が始まっている。しかし、リモートワークに慣れた従業員をオフィスに呼び戻すのはそう容易ではない。通勤時間をかけてオフィスに足を運んでもらうには、オフィスにそれにふさわしい価値や魅力が必要だ。オフィスが自宅よりも快適に楽しく働ける環境であれば、従業員は自然と出社したいと感じるだろう。
そこで本記事では、オフィスを魅力的な場所にするひとつの方法として、明るい色彩を活用した「プレイフル」な空間づくりを提案する。海外のオフィス事例を参考に、ワーカーの活力や創造性を引き出すためのプレイフルなデザインについて考察したい。
プレイフルなオフィス空間のつくり方
プレイフル(playful)という言葉には、「遊び心に溢れた」「明るく楽しい」といった意味がある。プレイフルな要素のあるデザインには、人々を自然と明るい気持ちにさせたり、活力を与えたりして、ポジティブな変化をもたらすことが期待できる。
自宅に閉じこもりがちな生活が続いた反動からか、アフターコロナでは比較的明るい色彩や装飾が好まれる傾向にあるようだ。では、プレイフルなオフィスを実現するには、どのようなことに気を付ければよいのだろうか。以下にそのポイントを紹介する。
①空間の目的に合わせた「カラー計画」を立てる
カラー計画はオフィスの雰囲気を左右し、ワーカーの気分にも影響を与える。プレイフル なデザインにおいても、空間の目的に合わせた「カラー計画」が重要だ。執務エリアや休憩室にどのような機能をもたせるかによって、採用する色を考えるべきである。
②創造性を刺激する環境づくり
独創的でデザイン性の高い空間に身をおくことは、インスピレーションを高めることにつながると考えられる。アート作品やユニークな造形の植物を配置するなど、創造性を刺激する要素を効果的に取り入れたい。
③コミュニケーションを活性化するオープンデザイン
異なる部署やチームの人たちが自然と交流できるよう、オープンエリアを設けることも重要だ。コーヒースタンドやラウンジ、ゲームやスポーツを楽しむファンスペースなど、多様な人が気軽に立ち寄れる場があれば、コラボレーションに発展する可能性が高まるだろう。
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プレイフルな要素を取り入れた海外オフィスの事例
海外ではテック系企業やスタートアップを中心に、多くの企業でプレイフルなデザインが導入されている。以下にその事例を紹介していく。
1. Adobe(アメリカ/サンノゼ)
アメリカのデザインソフト大手のAdobeは、1994年以降、カリフォルニア州サンノゼのダウンタウンに本社を置いている。同社は事業拡張に向け、2023年に既存の3つのタワービルに加えて、新しい18階建てのタワービル「Founders Tower」を完成させた。
この新しいオフィスは、「創造性」「持続可能性」「包括性」を重視したデザインにより、魅力的で活気にあふれた空間を提供している。
画像は建設設計を手がけたGensler社のWebサイトより
Founders Towerの内部は、Adobeのカラーパレットのなかから、色彩心理と目的を考慮したカラーで彩られており、エリアごとに異なる色使いがされているところが特徴だ。
「青」は集中力、「緑」はコラボレーション、「オレンジ」はつながりやコミュニティを促す色であるといい、利用者がそれぞれのニーズに応じて自然としっくりくるスペースに導かれるような仕掛けがなされている。
「フォーカスルーム」「コラボレーションゾーン」「チームネイバーフッド」「ドロップインデスク」「アドベンチャールーム」など、約400種類の異なる空間が用意されており、従業員はそれぞれの目的に合わせて利用することができる。
集中力を高める場所としてデザインされた「フォーカスルーム」
シームレスな連携を可能にする「コラボレーションゾーン」(画像はすべて建設設計を手がけたGensler社のWebサイトより)
多彩な色づかいは、全体の空間にポジティブな雰囲気をもたらし、従業員の活気を高める役割を果たしている。今後は、4つのビルを結ぶ歩道橋にユニークなアートインスタレーションが登場する予定だという。Adobeのプレイフルなワークプレイスはさらに進化していくことだろう。
2. Canopius (イギリス/ロンドン)
イギリスの保険会社Canopiusは、2022年にロンドン金融街に位置する高層ビル「22 Bishopgate」内にオフィスを開設した。この新しいオフィスには、柔軟な働き方を支援するための多目的な空間が備わり、プレイフルなデザインが随所に取り入れられている。
同社のオフィスは、ビルの29階と30階を利用しており、受付周りの広々としたオープンエリアが印象的だ。特に注目したいのが、鮮やかなレッドの螺旋階段。この階段は上下階をつなぐだけでなく、オフィスの象徴的なオブジェとしての役割も担っているように見える。明るく大胆な色彩が、訪れる人を自然と明るい気分にさせてくれる。
画像は内装を手がけたhlwのWebサイトより
このオープンエリアの壁面には個性的なアート作品が飾られ、窓際には高層階からの景色を楽しめるスペースが用意されている。こうした環境に身をおけば、従業員の創造性も自然と高まることだろう。
一方、「集中スペース」には、落ち着いたカラーが採用されている。完全な個室ではなく、適度にクローズドな空間となっており、人の気配を感じながらも仕事に打ち込むことができそうだ。冷たい印象にならないよう、銅製のメッシュスクリーンとファブリックの壁紙を組み合わせるなど、あえて異素材が使用されている。
画像は内装を手がけたhlwのWebサイトより
このようにワーカーの気分を明るくし、自由な発想を喚起する魅力的なワークプレイスは、従業員のオフィス回帰を促す一助となるだろう。
3. Spotify(アメリカ/ニューヨーク)
音楽配信サービスを提供するSpotifyのオフィスは、ニューヨークの「4 World Trade Center」内にある。同社では、オフィスを「仕事」だけの場所ではなく、「休息」と「遊び」のための場所でもあると位置づけているとあって、約37万8000平方フィートの広大なオフィスはプレイフルな工夫に満ちている。
画像はすべてSpotifyのWebサイトより
「オフィスは単なるスペースではなく、インスピレーションを感じ、サポートされる場所」と同社が定義する通り、このオフィスは自由な発想と音楽文化に触発されたデザインが特徴だ。
オフィスのどの場所からでもニューヨークの素晴らしい景色を眺めることができ、コーヒーバーではバリスタがいれる特別な一杯を楽しむことができる。さらに、金曜日には社内でナイトライブが開催されるなど、「仕事」「休息」「遊び」が密接な関係にあることがわかる。
バリスタのいるコーヒーバーの天井には、ヘッドフォンを模したユニークな照明がある(画像はSpotifyのWebサイトより)
実際に、素晴らしいアイデアのいくつかはテーブルサッカーを行っているときに浮かんだのだという。このオフィスではそのほかにも、卓球やウェルネススタジオでワークアウトクラスを楽しむことができる。
「リスニングルーム」や「リサーチラボ」「ワークショップスペース」では、来訪者とのコラボレーションによる創作も可能。オフィス全体が創造性とインスピレーションを刺激する場所として機能しているのだ。こうしたプレイフルな魅力あふれる環境であれば、従業員の足は自然とオフィスへ向くだろう。
ワークプレイスの構築に「プレイフル」の要素を
自宅でのリモートワークは自由度が高い反面、コミュニケーションの機会が制限されやすい。他者との偶発的な出会いが生まれるのは、オフィスならではの魅力といえるだろう。
オフィスが明るさや楽しさを感じさせるプレイフルな環境であれば、ワーカーの気分やモチベーションが高まりやすく、その結果としてコミュニケーションやコラボレーションの活性化が期待できる。
空間に合わせたカラーリングやアート作品の展示などは比較的、導入のしやすい取り組みだ。ワークプレイスの構築に「プレイフル」の要素を意識してみてはいかがだろうか。