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ペットフレンドリーな職場が持つ可能性 – 愛犬・愛猫がリモートワーカーにもたらす影響とは

ここ数年、リモートワークの増加を背景に、ペットを飼う人が増えている。本記事ではペットの存在が人に与える影響と、ペットフレンドリーな職場づくりを行う企業を紹介する。

ペットを新たに飼い始める人が2020年以降、増加傾向

ここ数年、日本では新規ペット飼育数が増加している。一般社団法人ペットフード協会の調査によると、犬や猫を新しく飼育し始めた人の数は、2019年に比較して2020年、2021年ともに増加傾向にあることがわかった。

2019年の新規飼育犬数が約35万頭だったのに対し、2020年は約42万頭、2021年は約40万頭と増加。猫の場合はさらにその傾向が強く、2019年の新規飼育猫数が約39万頭だったのに対し、2020年は約46万頭、2021年は約49万頭となっている。その飼育理由としては、「生活に癒やし・安らぎが欲しかったから」との回答が犬について29.8%、猫について27.9%と上位にあり、孤独を紛らわせたい人々の思いが垣間見られる。

ペットを飼育することで、実際に心理的な変化はあるのだろうか。同調査によると、犬と猫のどちらを飼っているかで飼い主への影響は微妙に変わるようだ。ペット飼育の効用についてたずねた質問に対し最も多かった回答が、犬の飼育者の場合は「心穏やかに過ごせる日が増えた」であり、猫の飼育者では「毎日の生活が楽しくなった」であったのだ。いずれにしても、ペットと暮らすことで人の心は良いほうに変化するようだ。

画像は一般社団法人ペットフード協会の令和3年全国犬猫飼育実態調査結果報告より

また、いくつかの研究成果により、ペットによる飼い主のメンタルヘルス改善効果が示唆されている。地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所の池内朋子氏らの研究によると、東京都内の高齢者を対象とした調査で、社会的に孤立した高齢者において、犬を飼っている、あるいは過去に飼っていた人に比べ、飼育経験のない人では、メンタルヘルスの低下を訴える傾向が1.22倍も強いことがわかった。

さらに、東京都立大学の星旦二氏らの研究では、全国 16 市町村の高齢者を対象に調査を行い、犬猫を飼育し、さらに実際にその世話をすることが、その後の生存日数の延伸につながることが示された。いずれも高齢者を対象にした研究ではあるが、犬猫の飼育や接触が、人のメンタルヘルスや寿命にもポジティブに影響することがわかってきている。

堅調なペット関連支出とその背景

ペットと人の関係の強化は、消費活動にも表れている。経済産業省のレポートによると、ペットやペット用品の販売額は、緩やかな右肩上がりの傾向にあったが、2020年以降その伸び率は急増している。

画像は経済産業省のWebサイトより

家計におけるペット関連の支出も緩やかに上昇中だ。特に2019年から2020年は前年比で2割ほど増加。2020年から2021年はその反動でわずかに減少しているものの、長期的なトレンドは継続中なのだ。

なお、前出のペットフード協会の調査でも、同様の変化が示されている。2020年から2021年にかけて、犬に関する支出総額は月1万2020円から1万3843円に増加。猫に関する支出も月7252円から8460円に増加している。また、支出の中心を占めるペットフードについては、おやつやウェットフードなど、ペットとの交流やペットの楽しみを目的としたタイプの給餌頻度が増加していることも特徴的だ。栄養補給だけではない、ペットとのコミュニケーションを求める飼い主の心理的変化が読み取れる。

ペット関連の支出が増えた背景について、前出の経済産業省のレポートは、リモートワークの浸透により人々の在宅時間が増え、ペットと接する時間が増えたことを挙げている。また、人との交流が減少したことで、ペットに癒やしを求めたのではないかとも指摘している。

リモートワークの増加は、本当に人々のメンタルヘルスに影響を与えているのだろうか。

リモートワークの増加で起きたメンタルヘルスの変化

過去2年で急速に広がったリモートワークの文化は、2022年に入りさらに進化を遂げた。2022年7月から主要グループ会社でリモートワークを基本とし、全国どこからでも働けるようにしたNTTグループや、交通費の片道上限を撤廃し、出社手段として飛行機や高速バスも認めたヤフー株式会社の事例が報道されたことも記憶に新しい。

一方で、リモートワークが一般的になってきたことで、その弊害も指摘されている。内閣府が定期的に実施している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、テレワーク経験者に対しそのデメリットをたずねている。その結果、「社内での気軽な相談・報告が困難」「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」などコミュニケーションに関する回答が上位を占めた。

特に「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」については、第1回(2020年6月21日発表)から第4回(2021年11月1日発表)と、調査回数を重ねるごとに27.1%、28.2%、28.4%、30.3%と回答者が増加している。

2020年にパーソル総合研究所が行った調査でも、テレワーカーの約3割が孤独を感じていることがわかっている。また、テレワークの頻度が高くなるほど孤独感が強くなっており、同僚や上司と顔を合わせないことが、労働者のメンタルヘルスにネガティブな影響を与えていることが推察される。

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こうした結果から、リモートワークの浸透と孤独感の増加、そしてペットの新規飼育の増加には相関関係がありそうなことが見えてきた。不安や孤独を感じやすい現代において、ペットと過ごす環境をつくることはメンタルヘルスの維持や、ひいては仕事の成果にもつながりそうだ。

ペットフレンドリーな環境づくりを行う企業事例

ペットと暮らすワーカーの増加を受け、働きやすい職場環境づくりの一環として、ペットフレンドリーなオフィスづくりやペットに関連する福利厚生制度を導入する企業も出てきている。独自の取り組みを行っている企業をいくつか紹介していく。

事例①マースジャパンリミテッド

チョコレート菓子の「SNICKERS®」や「M&M’S®」、キャットフードの「カルカン®」で知られる米企業・マース インコーポレイテッドの日本法人・マース ジャパンリミテッドでは、10年以上にわたりペットフレンドリーなオフィス環境づくりを実践している

同社はペットケア事業の使命として掲げる「ペットにとってのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)」を実現するため、社員が飼っている犬や猫をオフィスに連れてきて、一緒に働くことのできる環境を整えている。

画像はマース ジャパン リミテッドのWebサイトより

社内には犬の散歩ルートや猫の遊び場が設けられ、社員が新しいペットを迎え入れる際には10時間の有給休暇を取得することも可能だ。

事例②株式会社SARABiO温泉微生物研究所

大分県別府市で温泉に生息する微生物を研究し、機能性食品や化粧品、ペット用品などの開発を手掛けるSARABiO温泉微生物研究所。同社は2022年4月に日本初の役職「最高動物福祉責任者(Chief Animal-welfare Officer:CAO)」を設置した

ペットのライフスタイル事業を展開する同社では、持続可能なより良い未来のためには、人と動物の共存、アニマルウェルフェアの概念が重要と考えている。CAOはその社内における啓蒙と、働きながらペットと暮らしやすい就業環境づくりを担う。また同社は、CAOの設置と同時に、以下のようなペットに関する福利厚生制度を導入した。

・ペット死亡時の忌引き休暇
・ペットの病院付き添い、介護による有給休暇取得
・ペット関連資格の取得支援

同社は、こうしたペットに関する福利厚生導入のメリットとして、従業員の離職率の低下やストレスの軽減、年休取得率の向上、採用率の向上、飼えなくなってしまうリスクの回避(殺処分や飼育放棄防止につながるCSR活動の一貫)、動物と生きることに対するリテラシーの向上を挙げている。

事例③株式会社バイオフィリア

犬猫用の手作りフレッシュフードの製造・販売を手掛ける株式会社バイオフィリア。「動物の幸せから人の幸せを。」を企業理念とする同社は、家族である動物たちが快適に過ごせるよう同伴出社を認めている

オフィス自体もペットフレンドリーな環境設計だ。例えば、動物の足腰の負担を減らすためクッションフロアを敷設。動物たちが安心安全に歩き回れるよう、机の足は少なめにし、足元のコードレス化も行っている。また、ペット関連の福利厚生制度も魅力的である。

・うちの子忌引き制度:ペットが亡くなった場合、遡って亡くなる前日から特別休暇が取得可能
・うちの子扶養手当:ペットと一緒に暮らしている社員に対し、1匹につき月2000円の扶養手当を支給。保護施設などから引き取った場合は3000円を上乗せする
・出社とリモートワークのハイブリッド型勤務を導入:ペットの体調が悪い時には自宅で様子を見たり、動物病院にも連れて行きやすい環境づくり
・動物ボランティア休暇:動物ボランティアに参加するために年2日の特別休暇が取得可能

代表取締役の岩橋洸太氏は、ペットフレンドリーな職場環境について、「動物にとっても働く人にとっても過ごしやすい環境、さらに言えば、動物の存在が働く人の心身に良い影響を与え、私たちの生産性や幸福度が向上する環境」と説明している

ペットフレンドリーな職場づくりが採用にも好影響

先ほどの事例でも紹介したSARABiO温泉微生物研究所が実施した調査では、犬猫飼育経験者の9割以上がペット関連の福利厚生制度を導入している会社で「働きたい」、または「制度があったらいいな」と回答している。新たにペットを飼う人が増えている状況を考えると、そのように考える人の数は今後さらに増加するだろう。

一方で、同じく同研究所の調査により、ペット飼育者への福利厚生を導入している企業が全国約385万社のうちわずか22社であることもわかっている。つまり、現時点で会社にペット関連の制度を導入できれば、ペット飼育者を採用する際に、他社との大きな差別化となるわけだ。働き手にとっても、企業側にとっても、職場と動物との関係はますます重要になってくる。

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この記事を書いた人:Hiromasa Uematsu