出社が楽しみになる! 海外オフィスの魅力的なネイバーフッドスペースを紹介
IT企業やクリエイティブ系の企業を中心に、オフィスへ導入されるネイバーフッドスペース。チーム間での交流促進などを目的にしたスペースを取り入れるメリットと、海外・国内企業の導入事例を紹介する。
Design, Culture
ネイバーフッドスペースとは?
近年、IT企業やクリエイティブ系の企業を中心に、チームで仕事できるような作業環境と娯楽要素を兼ね備えた共有エリアの導入事例がある。ゲームなどのアクティビティによるフレンドリーな競争を通して、コミュニケーションを促進させるほか、他チームとの交流や情報交換から刺激し合える環境づくりが行えるからだ。
本記事ではこのような目的のスペースを「ネイバーフッドスペース」と呼び、海外・国内の事例を紹介したい。
「Neighborhood(ネイバーフッド)」は英語で「近隣、ご近所」と訳されるが、転じてアメリカのスラングでは「仲間、仲間意識」といった意味合いで使われることもある。
従業員にとっての魅力
ネイバーフッドスペースは従業員同士の共有エリアとして、作業環境のほか、娯楽、食事、休憩場所としても機能する。以下に、従業員が利用するメリットを挙げる。
・偶発的な出会いを生み出す
従業員が気軽に集まれる場所が増える。自然と同僚や他の従業員たちが顔を合わせる機会が増え、社内コミュニケーションの活性化につながる。
・従業員のストレスを軽減する
あまり知らない従業員同士でも、娯楽を通して同じ体験をすると絆が深まりやすい。また、気のおけない仲間との娯楽は、リフレッシュやストレス軽減が期待できる。
・チームの結束力を高める
ゲームやスポーツに参加すると、従業員同士のフレンドリーな競争が生まれ、チームの結束力強化にもつながる。そうした結びつきから、仕事上のコラボレーションに発展する可能性が見込まれる。
・ウェルビーイングに寄与する
デスクワーク中心の従業員にとって決められた固定席以外の場所があることは、座席を離れて体を動かすよい機会となる。デジタル疲れの軽減にもつながり、ウェルビーイング向上に寄与する。
オフィス内に娯楽があり、オフィスに楽しさや魅力を感じることは、仕事の成果を高めるようなコミュニケーション機会の創出に加え、従業員の出社意欲を向上させる効果も期待できるだろう。
海外・国内オフィスの導入事例
実際のオフィスに導入されているネイバーフッドスペースはどのようなデザインで、どういった娯楽を用意しているのだろうか。海外・国内企業における導入事例をみていきたい。
【海外事例1】Zalando Tech Hub Helsinki(フィンランド/ヘルシンキ)
ファッションやライフスタイル関連のオンライン販売を手がけるZalando。ドイツのベルリンで創業し、現在、ヨーロッパを中心に25カ国でオンラインストアを展開している。同社がフィンランドに構えるZalando Tech Hub Helsinkiには、様々なアクティビティを取り入れたスペースが設けられている。
同オフィスの特徴は、大きく2つの用途に分けた空間設計がなされている点だ。集中して作業が行える「ワークステーション」と、ネイバーフッドスペースにあたる「ゼルシンキアリーナ」である。
画像はZalandoのInstagramより
天井高8メートルの広々としたゼルシンキアリーナでは、ビリヤードや卓球、ジグソーパズルなどの気軽なゲームが楽しめ、ときには従業員同士のトーナメント試合も行われるという。こうした体を動かせるスペースがあれば、従業員のチームワークの強化やストレス発散につながりそうだ。
また、ゼルシンキアリーナには、座面にLEDライトが埋め込まれたブランコや階段席が備わっている。仕事から離れてブランコに揺られたり、目線の高い階段席でお茶したりして過ごす時間は、心のリフレッシュにつながるだろう。
画像は内装を手掛けたInterior Architects FyraのWebサイトより
一方のワークステーションには、仕事に集中できるよう仕切られた大小のスペースが複数用意されている。ゼルシンキアリーナでイベントやパーティなどを開催していても、仕事を進めたい人はいつも通りに取り組めるよう配慮がなされているのだ。こうした工夫があることで、従業員はオンとオフの切り替えがしやすく、無用なストレスをためる心配もなさそうだ。
【海外事例2】Google Zurich(スイス/チューリッヒ)
Googleのチューリッヒキャンパスは、世界中から多くのエンジニアが集まる主要拠点である。どのキャンパスも個性的なデザインで知られるGoogleだが、なかでもチューリッヒキャンパスはその手本になっているという。特にカフェテリアにつながる「すべり台」は、Googleらしい遊び心にあふれた室内設備として有名だ。
社員食堂につながる滑り台のしかけがユニーク(画像はGoogleのWebサイトより)
また、スキー場にあるようなゴンドラを設置したり、毎週金曜日の午後5時にハイジの音楽を合図に軽食を提供するサービスがあったりと、スイスならではのユニークなアプローチもみられる。また、社内の「ヒューリマンバー」なら何時でも飲食が可能だ。このキャンパスは老舗ビールメーカーのヒューリマンビールの醸造所跡地に位置し、醸造所時代の雰囲気や建物の一部が継承されている。
画像はGoogleのWebサイトより引用
ボルダリングウォールやスカッシュコートなどの運動系の設備も充実しており、オフィス全体にネイバーフッドスペースが散りばめられているかのように感じる。従業員のレクリエーションやウェルビーイングを重視する同社の姿勢が、オフィスデザインにもしっかりと体現されている。
【海外事例3】GoDaddy Tempe(アメリカ/アリゾナ州テンペ)
ドメイン登録事業者のGoDaddyは、アメリカアリゾナ州のテンペに2階建てのグローバルテクノロジーセンターを開設した。国内9拠点のうちの1つとして、800人以上の従業員が在籍するこのオフィスでは、多彩なエンターテイメントを詰め込んだスペースが用意されている。ただ働くだけでなく楽しむことを大切にし、斬新なアイデアを通じて従業員たちに豊かなオフィス体験を提供することがねらいだ。
画像は建物の天井部材を提供したArmstrongのWebサイトより
オープンスペースの一角にあるゴルフのパット練習コーナーも、そうしたスペースのひとつである。そのほか、すべり台やクライミングウォールも備わっている。仕事の作業が行き詰まった際、ここで軽く体を動かせば、心身ともにリフレッシュできそうだ。
画像はGoDaddyのWebサイトより
また、同社のオフィスで目を引くのが、通路を走行する「ゴーカート」である。オフィスの移動手段として使われており、自転車やスケボーも利用できる。同社のねらいは「楽しくてハイテクでクリエイティブなオフィススペース」を実現すること。それにより仕事に対するユニークなアプローチを示し、理想的な従業員を惹きつけたいと考えている。これだけの娯楽要素があれば、既存の従業員の出社意欲を高めるのみならず、採用活動にも有利に働くことだろう。
【国内事例】PwC Japan Otemachi Oneタワー(日本/東京)
こうした事例は海外オフィスだけに留まらない。コンサルティングサービスを提供するPwC Japanグループは、2021年2月に東京・大手町のOtemachi Oneタワー内に新しいオフィスを開設した。この新社屋では、「共創」をコンセプトに掲げ、フロアごとに「スポーツ」「アート」「アカデミック」といったテーマが設定されている。なかでも「スポーツ」をテーマにした19階は、テーマカラーにビビッドなピンクを採用。バスケットゴールやスポーツ観戦用の大型スクリーンなど、楽しい設備が用意されている。
画像はPwC JapanグループのWebサイトより
執務エリアに隣り合うようにネイバーフッドスペースを設けているのは、従業員同士が気軽にコミュニケーションをとるきっかけを増やすためだ。一緒に運動したり、スポーツ観戦をしたりすることで、従業員同士の距離感を縮めるねらいがある。その延長上に、新たなコラボレーションが生まれることを期待している。2022年に第35回日経ニューオフィス賞のニューオフィス推進賞を受賞したのも、こうしたユニークなデザインが評価されてのことだろう。
「楽しさ」のあるオフィス環境を構築しよう
多様な働き方の浸透とともに、オフィスが快適で働きやすい環境であることはもはや欠かせない要素となっている。さらにコミュニケーションやクリエイティビティを促進する役割を果たすことが今後ますます重視されていくだろう。