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ストレス低減や集中力の向上も。「マインドフルネス」の効果と国内の活用事例

心理的負担による労災認定申請が増加しており、職場のメンタルヘルス対策は重要な課題となっている。その手法として注目される「マインドフルネス」の効果や活用事例を紹介する。

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日本国内でも活用が広がる「マインドフルネス」

近年、業務による心理的負担を原因とする労災認定の申請件数が増加しており、職場におけるメンタルヘルス対策は重要な課題となっている。従業員が身体だけでなく精神的にも健康であることは、休職や退職の予防のみならず、生産性・創造性向上のためにも欠かせない。

また、ビルやオフィスなどの空間が人々の健康やウェルネスにどれだけ配慮しているかを評価する「WELL認証(WELL Building Standard)」でも、メンタルヘルスケアは重要視されており、10ある評価項目の一つに「こころ(Mind)」が設定されている。

関連記事:健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【後編】

そうした従業員のメンタルヘルス対策の一つとして、2010年代頃から欧米を中心に注目されてきたのが「マインドフルネス」だ。一時的な関心の高まりに終わらず、現在では一般的なものとなっている。日本国内でもそうした流れを受けてマインドフルネスの研修を導入する企業が増えており、経済産業省が実施する「健康経営度調査」にも、2019年度から「マインドフルネスなどの実践支援」の項目が追加された。

本稿では、マインドフルネスの定義や効果について改めて概説し、国内の企業・自治体での活用事例を紹介する。

マインドフルネスとは

まずはじめに、マインドフルネスの定義をおさえた上で、期待される効果や達成する方法、そして国外の活用状況を見ていこう。

1. マインドフルネスの定義

マインドフルネスと聞くと、座禅のように座って目を閉じて行う瞑想を思い浮かべる人も多いかもしれない。確かに、瞑想はマインドフルネスを達成する手段の一つではあるが、マインドフルネスそのものではない。

では、マインドフルネスとは何なのだろうか。日本マインドフルネス学会は、その設立趣旨に、「マインドフルネスを、“今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること” と定義する」と記載している。また、現在のマインドフルネス研究の契機となったのは、ジョン・カバットジン氏が手がけた1994年初版発行の著書 『Wherever You Go, There You Are: Mindfulness meditation for everyday life』であり、その中でも同様に定義されている。

つまり、今の瞬間にない雑念に心をとらわれることなく、今の瞬間の事実に意識を集中することで心理的負担を軽減しようというアプローチである。一般的には、このような心理状態だけでなく、それを達成するための瞑想などの方法も含めてマインドフルネスと呼ぶことが多い。

2. マインドフルネスの効果

マインドフルネスについては数多くの研究がなされており 、効果に関して科学的な裏付けが得られている。

例えば、ハーバードビジネスレビューに掲載された「マインドフルネスは脳を健全に保つ」では、サラ・ラザー氏らによる興味深い実験結果が紹介されている。マインドフルネスを実践することで、「自己制御力」、「意思決定力」、「レジリエンス」などに関係する脳の部位に変化があったというのだ。記事では、次のように記述されている。

“マインドフルネスを実践すると、知覚、身体感覚、疼痛耐性、情動制御、内省、複雑な思考、そして自己意識に関わる脳部位に変化を生じさせることも、神経科学者らは明らかにしている”

また、熊野宏明氏によると、マインドフルネスの活用は再発性を含むうつ病性障害や様々な不安障害、境界性パーソナリティー障害などに効果があることも明らかになってきているという。こうした効果により、企業においては従業員のストレス低減、ひいては集中力や生産性の向上につながるとして注目されている。

3. マインドフルネスを達成する方法

マインドフルネスになる方法として最もよく知られているのが、「マインドフルネス瞑想」だ。別名「注意力のトレーニング」とも呼ばれるもので、呼吸に意識を向け、雑念が浮かんできたらそれに気付き、再び呼吸に集中する操作を繰り返すことで、「注意力」や「自己認識力」を養っていく。

また、呼吸ではなく身体を観察する「ボディスキャン」と呼ばれる方法もある。呼吸を意識しながら、足の指先や足の甲など身体の部位に注意を向け、その状態や感覚を観察するものだ。これにより、自分の感情に気付き、制御する力が養われる。

このほかにも、頭に浮かぶことを紙に書き出す「ジャーナリング」、相手の話を聞くことに集中する「マインドフル・リスニング」、歩くことに集中する「マインドフル・ウォーキング」など、様々な手法がある。

4. 海外での活用状況

2007年に、アメリカのグーグル社がマインドフルネスに基づく「EQ(心の知能指数)」のカリキュラム「Search Inside Yourself(SIY)」を開発し、社員向けの研修を開始した。2012年には、その内容と成果を同タイトルの書籍にまとめたものがハーパーコリンズ・パブリッシャーズより出され、ベストセラーになっている。これが契機となり、マイクロソフト社やフェイスブック社をはじめ、従業員の創造性をコアバリューとする新興IT企業を中心にマインドフルネスが取り入れられていった。

また、2012年のダボス会議でもマインドフルネスが紹介され 、翌年にはセッションが設けられて人気を博した。その後も毎年、期間中の朝に瞑想会が開かれている。2020年4月には、国連が国連職員に向け、コロナ禍でのストレスマネジメントを目的にマインドフルネスを推奨したことも話題となった。

関連記事:テレワークにおけるストレスマネジメント ー 企業・チーム・個人それぞれの対策

 

国内の企業や自治体における活用事例

日本では、瞑想に対して宗教的なイメージが持たれていることもあって、企業研修として取り入れる動きは鈍かった。だが、2018年にヤフー株式会社の取り組みによる効果が話題になったあたりから、導入事例が増えてきている。

ここでは、国内の企業・自治体の取り組みから特徴のある事例を紹介する。

1. 国内での先駆的な事例「ヤフー株式会社」

ヤフーでは、2016年に「メタ認知トレーニング」という名称で、マインドフルネスの様々なワークを体験できるリーダー向けの研修を実施している。これは、グーグル社のカリキュラム「SIY」を土台としたプログラムで、7週間にかけて行われる。2017年より、社員だけでなく社外からも受けられるオープンプログラムになっている。

2018年8月に、それまでの参加者を対象にアンケートを実施したところ、週3回以上の実践者は未経験者と比較して「プレゼンティーズム(出勤しているが、心身の不調が原因で生産性が落ちている状態)」の数値に見る「業務パフォーマンス」が高く、約40%もの差が生じたという。

2. 全社員を対象に研修を実施「Sansan株式会社」

Sansanは2017年9月、全マネージャー以上の社員54名を対象に「SIY」と同じカリキュラムを実施し、参加者の8割以上から「すごく良かった」という回答を得た。そこで、2018年1月には当時の全社員約350名を対象に、カリキュラムの内容をさらに凝縮させた「マインドフルネス研修」を行っている。スペースの都合上、研修は外部の施設で約半日ずつ、2回に分けて実施された。

このマインドフルネス研修は、社員や組織の生産性向上を目的としている。同社のブログでも、「社員一人一人がマインドフルネスな状態になるためのプロセスを知ることで、会社全体としてのパフォーマンスが向上することを期待して実施しています」と語られている。

3. 日常業務の中で実践「株式会社丸井グループ」

丸井グループは、健康経営の取り組みの一環として、マインドフルネスの社員研修を実施している。研修を導入する前からも社内勉強会を開催しており、複数の店舗で瞑想コーナーを設けたり、会議前にマインドフルネス瞑想を行ったりしていたという。

同グループ健康推進部の渡辺由紀氏によれば、研修はマインドフルネスをより多くの社員に伝え、日常的に取り入れてもらうために導入しているとのこと。受講者に対するアンケートの結果、研修から1カ月経過した後も、80%の人がマインドフルネス瞑想を日常的に続けていることが明らかになっている。なお、同グループは健康経営に優れた企業として、2021年に4年連続で「健康経営銘柄」に選定されている。

4. 国内の自治体で初の取り組み「福岡県福岡市」

福岡市ではまちづくりプロジェクト「福岡100」の一環として、市内の医療・福祉関係事業者の従業員を対象に、マインドフルネスを実践できる8週間のオンラインプログラムを提供している。2020年9月の募集時には、38事業者の幅広い年齢層から300名を超えるエントリーがあったという。参加者は2時間の導入研修を終えた後、1時間のセッションを8回にかけて受講する。

プログラムは2020年10月に開始されており、4回目を終えた時点で、参加者の50%以上が週3回以上マインドフルネスを実践していたことが報告されている。全セッション終了後の2021年3月に、「ストレス度」や「プレゼンティーズム」などの指標で効果検証を行うことになっている。

このほか、株式会社NTTドコモ、カルビー株式会社、東急不動産ホールディングス株式会社なども社員を対象にマインドフルネスの研修を実施している。さらに、カルビーは新製品の訴求に「マインドフル・イーティング(食べる瞑想)」を取り入れる 、東急不動産ホールディングスは本社ビルに瞑想用の「メディテーションポッド」を設置して効果を測定するなど、事業に直結する取り組みも進めている。

マインドフルネスで、想定外の変化にも対応できる土壌づくりを

2019年に三菱地所株式会社が瞑想スタジオ事業を開始しており、最近ではミッドナイトブレックファスト株式会社のジャーナリングアプリ「muute」がApple Store のヘルスケア/フィットネス領域で1位を獲得するなどのニュースも見られ、日本国内でもマインドフルネスへの関心の高まりが感じられる。また、コロナ禍におけるストレスマネジメント対策として、個人向けのマインドフルネス講座や瞑想会も盛んに開催されており、オンラインで手軽に参加できることもあって多くの参加者を集めているようだ。

先行きの見通しが難しい時代、組織とそこで働く人々には、想定外の変化にも柔軟に対応できるような心の健やかさが求められる。その土壌づくりの手段となり得るマインドフルネスに、今後も注目していきたい。

この記事を書いた人:Fusako Hirabayashi

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