健康経営にも役立つ、効果的なランチタイムの使い方 “Lunch & Learn” とは
オフィスでは「ランチを食べながらネットを見る」人が多い日本。そんなランチタイムを「学びの時間」として有効活用する”Lunch and Learn”の取り組みを紹介する。
Culture
皆さんはランチタイムをどのように過ごして、何を食べているだろうか?また、社内のランチタイムはどのような様子だろうか?
新生銀行が毎年発行している、サラリーマンを中心とした日常生活に関する調査の最新版『2019年サラリーマンのお小遣い調査』によると、ランチタイムを取る人の間で最も多い過ごし方は「インターネットの閲覧」となっている。男女ともに20〜40代までの会社員の過半数が主にスマホでネットをみているというのが現状だ。それに次ぐのが、男性では「昼寝・休憩時間にあてる」、女性では「同僚とおしゃべりをする」。仕事から離れ、気分転換をする人が大多数のようだ。
1日約8時間の労働時間のなかで、唯一まとまった長い休憩となるランチタイム。1人でリフレッシュも悪くはないが、同僚とオフィスにいる環境を活かし、ランチタイムをインプットの機会など有効的に使うのもありだろう。特に最近では充実したカフェテリアスペースをリフレッシュ空間として取り入れる企業も増えていることから、その効果的な使い方を探っているところも多いはずだ。
そこで今回は、ランチタイムを利用した”ランチ・アンド・ラーン (Lunch & Learn)”という取り組みを紹介する。日本ではランチタイムを活用して何かをするということ自体がまだ珍しいが、欧米では健康経営の一貫として、このアプローチが頻繁に採用されている。ランチ・アンド・ラーンのメリットと共に、具体的な導入方法を紹介していきたい。
ランチ・アンド・ラーンとは?
ランチ・アンド・ラーンとは、文字通りランチタイムを利用した勉強会やセミナーを開くイベントのことである。参加者はお昼を食べながら、その日のスピーチや講演を聞き、新たな知識について学んだり、意見交換をしたりする。
ランチ・アンド・ラーンは労働時間ではない昼食時に行われる為、イベントへの参加は一般的に任意である。イベントのスタイルやトピックによって参加者も変化し、テーマによっては普段交流の少ない他部署との交流を広げる良い機会となるのだ。
画像: bantersnaps on Unsplashより
例としては、以前から度々紹介しているアメリカ・サンフランシスコのオフィスデザイン事務所、Studio Blitzでも隔週に1度ランチ・アンド・ラーンを開催している。トピックは「テック業界の働き方」など業務に関わる専門的なものがあれば、「上手にチャージできる休日の過ごし方」など仕事とは離れて誰もが参加でき、社員同士の親睦を深めるきっかけとなるものも用意するという。スピーカーや専門家のコーディネートはオフィスマネージャーの仕事の1つとして行われ、社員に良い刺激が与えられる内容が提供されるそうだ。
ランチ・アンド・ラーンによるメリット
・社内コミュニケーション
ランチ・アンド・ラーンは、所謂きちんとセットアップされたミーティングとは異なり、カジュアルな雰囲気でストレスなく学びを得るために行われる。そのため、より活発なコミュニケーションが生まれやすい。
企業や部署の規模が拡大し、社員や部署が増えると、社員同士の関わりが薄くなってしまうと悩む声をよく聞く。そのような場合に、業務以外で社員交流のきっかけを作る施策の1つとして、広くトピックを扱う社内イベントの場を設けることで、社員の仕事以外の側面を知る機会を生み出し、組織課題の解決につなげることができる。家庭の事情などで夜の飲み会に参加できない社員にも昼開催のイベントを提供できるため、より多くの社員の参加を見込むことができる。
NEW STANDARDオフィスの記事では、キッチンスペースを使ったランチ自炊文化や、毎月ビジネスパートナーや家族、友人を招待して行うパーティなどを行っていることを紹介している。この取り組みはランチ・アンド・ラーンと通じるところがあり、「どこでも働ける世界になった今、オフィスを持つ意味や価値、社員がオフィスに来たいと思わせるオフィスのあり方」を見出す方法のひとつと言える。
・インプットの機会提供
先述のStudio Blitzのように、扱うトピックを工夫することで効果的に社員のインプット機会を提供することができる。ランチタイム時間に読書を行い少しでも学びを増やすワーカーは少数派ながらにいるが、そのような意欲的な取り組みを社内で広めることができるのがランチ・アンド・ラーンのメリットの1つだ。
スピーカーは社内の人間が交代制で隙間時間で資料を準備して行うことも可能だが、より質の高いインプットの時間を提供するために会社側が予算を用意して専門家やスピーカーを外部から呼ぶケースも欧米では多い。近年企業が力を入れてつくるランチ・カフェテリアスペースをリフレッシュ目的だけでなく、学びの空間としても利用することで、空間活用性は大きく広がる。
・効率的な時間の活用
ランチ・アンド・ラーンは、お昼休みの限られた時間内でのイベントなので、仕事後や休日など就業時間の枠外で社員を拘束することがない。また基本的には参加を任意にするケースが多いため、社員に業務スケジュールを無理やり調整してもらう必要もない。働き方改革で労働時間削減が進む中でも、効率よく社員のインプットをサポートすることができる。
この点で、ランチ・アンド・ラーンは新たな企業文化づくりとして、比較的簡単に取り入れやすいだろう。また「労働時間外はプライベートや家族との時間を大切にしたい」と考える欧米において、ランチタイムを利用したイベントが人気なのも納得がいく。
・健康経営を実践
ランチ・アンド・ラーンは健康経営における取り組みの一環とすることができるため、企業としても積極的に導入しやすいイベントだ。方法は主に2つあるが、1つは取り上げるトピックに健康経営に関するものを選ぶこと。健康的な食生活や健全なメンタルヘルスについてレクチャーを行ったり、議論したりすることで、社員の健康に対する意識を高めることができる。
2つ目はランチで食べるものを健康的なものにすること。ランチの用意について下で触れているが、ランチ・アンド・ラーンでは主催者がランチを提供するケースが多い。特に社内主催の場合は会社がランチを手配するため、健康的な食事を選択して提供することで、社員の意識を高めるきっかけを直接与えることが可能だ。健康食の無料提供で社員の参加率向上も期待できるため、一定の効果が期待できる。
実際に先日紹介したサンフランシスコのスタートアップ、Segmentは社内のカフェテリアで健康的なランチを提供しながら、ウェルネスに関するセミナーも定期的に開催している。社員の栄養不足や不健康な食生活は、肥満の増加、病気のリスク、健康保険の請求や欠勤の増加、従業員の生産性の低下など、見えないコストとして後々企業に大きなダメージを引き起こすことから、同社のような取り組みをランチ・アンド・ラーンを通じて行う企業は非常に多いのだ。
ランチ・アンド・ラーンの取り入れかた
1. トピックを選ぶ
ランチ・アンド・ラーンにおいて、最も重要になるのが言うまでもなくイベントのトピックだ。イベントのスタイルやトピックはその都度異なり、外部講師を招いた講演会や社内ミーティング、専門知識を深める為のセミナーなど、数週間にわたって行われる場合もある。また、イベント内容はビジネスに限られる必要はなく、心身の健康促進やボランティア活動、アートやカルチャーに関する内容も含まれ、多岐に渡る。
また、ランチ・アンド・ラーンは社員の関心事と会社の人材育成の方向性を兼ね合わせ、新たな人材育成の1つとして利用することもできる。
トピック例
<ビジネス>
ワークライフバランスの管理方法
コミュニケーションスキル研修
タイムマネジメント研修
ビジネス系アプリを用いた仕事効率化
プレゼンテーションの組み立て方
<健康>
メンタルヘルスや生活習慣病対策
ストレスマネジメントの方法
健康診断に基づいた相談会
<その他>
アドバイスやカウンセリングを含んだ福利厚生を活用する方法
社内レストラン/カフェメニュー開発
その他社員が個人の興味として持っている知見の共有
イベントの価値を高め、より効果的なものにする為に社員に事前アンケートをとり、どんな知識やスキルを得たいか、また仕事外でどのような事柄に関心があるかなど、様々な対象者に合わせてトピックを調整できるようにするのが良いだろう。
2. イベントスタイルを選ぶ
セミナースタイル
ランチ・アンド・ラーンのなかで、よく取り入れられているのがセミナースタイルだ。セミナーは社内発信に限らず、外部から講師やスピーカーを招き、社員の新たな知識やスキルなど、学びを得られる機会や環境の提供を主な目的とする場合が多い。
冒頭でも紹介したStudio Blitzも「定期的に外部から講師やスピーカーを招いて、社員のランチも提供しながら何か学べる機会を作っている」と語るように、オフィスで「学ぶ」という環境づくりを行う企業は増えている。日本dねは「労働時間の短縮」「効率化」が叫ばれる中で、学びの時間も効率良く行わなくてはならない。
画像: Austin Distel on Unsplashより
また、セミナースタイルは外部主催のケースも多い。例えば、製品メーカーや販売代理店、販売会社など、企業紹介や新商品の営業・宣伝目的でもランチ・アンド・ラーンは開催される。以前筆者が働いていた米系企業でも様々な家具メーカーや商材メーカーがオフィスに訪れ、1週間に1〜2回程のペースでランチ・アンド・ラーンが行われていた。実際、イベント後に商品や商材のオーダーをかけたり、次のプロジェクトに関する相談が始まったりと、欧米でのランチ・アンド・ラーンは社員の学びを保証した上で、外部企業との効果的な交流の1つとしても取り入れられていた。
ミーティングスタイル
カジュアルな社内ミーティング、社内プレゼンやプロジェクト発表の場として、ランチ・アンド・ラーンが利用される場合もある。
例えば、各部署が現在取り組んでいるメインプロジェクトを多部署に向けてプレゼンする機会として利用することで、部署間の横の理解を深めることができる。また、普段プレゼンを行う機会の少ない、新入社員や若手社員が何かしらのテーマについてプレゼンテーションを行い、上司や先輩社員からアドバイスを得ながら、パブリックスピーキングを訓練するプラットフォームにするのも良いだろう。
社内文化交流
多文化共生の欧米では、外国人参加者が食べ物や飲み物を持ち寄るポットラックパーティーや社員の誕生日パーティーなど、ランチタイムを利用した交流会が頻繁に行われる。
ある企業では、新人インターンの初仕事として、自国又は地元の文化を伝えるプレゼンが行われるという。自国の言語や伝統料理、音楽やアートなど様々なアプローチでプレゼンを行い、プレゼン後には新しい文化理解に質問があがったり、共通点のある者同士が集まったり、自然と異文化交流が始まるそうだ。
日本でも年々外国人採用が増えているが、日々業務を行うなかで外国人社員の文化や言語などに触れ、理解を深める機会はなかなか少ない。そんな外国人社員との交流を深める場としてランチ・アンド・ラーンを利用し、多様性を尊重した職場づくりをしてみてはいかがだろうか。
3. ランチ内容を選ぶ
ランチ・アンド・ラーンは社員のお昼休憩を利用したイベントであり、言い換えれば「お昼のネットの時間」よりも優先して参加することになる。そのため、よりポジティブな雰囲気と共に、たくさんの社員の参加を促すため、社内発信、外部発信、どちらの場合も主催者が無料のランチを提供するケースが多い。
主催者によっては企業文化をアプローチする場として、ランチの内容にこだわりを見せる場合も少なくない。例えば、人材多様性に富む外資系企業では自国を代表するメニュー、環境保全に取り組む企業はオーガニック食材や地産地消食材を扱うメニューなど、ランチの内容から会話やプレゼンが始まるという工夫も面白いだろう。
欧米では、Uber Eatsなどの食事のデリバリーサービスが日常的であるが、ランチ・アンド・ラーンに対応したオフィス向けサービスやケータリングなどもあり、選択肢は幅広い。例えば、ニューヨークを拠点にオフィスランチのケータリングサービスを展開するSTADIUMは100店以上の飲食店と提携しており、300種以上のメニューから、ランチ・アンド・ラーン、チームミーティング、顧客ミーティング、社内ミーティングに対応したランチ内容をオフィスへデリバリーオーダーすることができる。
画像: STADIUMウェブサイトより
近年、健康経営が注目を集める日本においても、様々なオフィス向けサービスが誕生しており、『マップで解説 健康経営に役立つオフィスサービスまとめ【2019年版】』でも紹介したように、実に多くのサービスが利用可能だ。
4. フィードバックを募る
各セッションの参加者の満足度を測定し、受け取ったフィードバックに基づいて必要に応じてその後のプログラムを調整する。「多くの学びや刺激を得て、お昼休みの時間を有意義に過ごすことができた」と参加者が感じられるような企画を続けることで、会社としても社員の成長を促し続けることができるのだ。
健康経営へのポジティブな影響
ランチ・アンド・ラーンは、オフィスで社員に仕事以外のことに触れてもらうきっかけとして効果的な施策だ。日本での導入が進むとしたら、やはり健康経営が影響すると思われる。
近年、様々なかたちで健康経営を導入している企業が増えているが、「健康経営優良法人」や「健康経営銘柄」に選出されること自体を目的としたり、表面的な取り組みを行うだけでは健康経営の成功とは言えない。企業全体が社員の心身の健康維持や生活の質の向上により積極的に取り組み、社員一人ひとりの意識を高め、かつ楽しく働ける環境を整えることが必要となるだろう。
健康経営を「企業文化」として定着させるための具体的な取り組みとして、比較的取り入れやすいランチタイムを活かした新たな学びと交流の場、ランチ・アンド・ラーンの導入を検討してみてはいかがだろうか。
<その他参考記事・文献>
https://www.milkandhoneywellness.com/corporate-nutrition