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子連れ出社にやさしいオフィス環境の工夫とは? 導入企業の取り組みを紹介

子育て中の従業員のニーズに応じ、「子連れ出社」を認める企業も現れている。子連れ出社のメリット・デメリット、オフィス環境整備の工夫、運用の実際について紹介する。

子連れ出社という新たな働き方

子育て世代にとって、仕事と育児の両立は依然として大きな課題となっている。そうしたなか、子育て中の従業員のニーズから、「子連れ出社」を認める企業もみられるようになってきた。

子どもと一緒に過ごせる環境を整えておくことで、預け先が見つからない場合や、突然の学級閉鎖などがあっても、安心して業務を続けることができる。子育て世代の従業員の課題を解消することは、出産や子育てを理由とした退職の防止や新たな人材の確保に寄与することが期待される。

本稿では、多様化する働き方のひとつとして「子連れ出社」に注目し、国内企業の事例を通して、子育て世代にやさしいオフィス環境の構築方法やその運用について考察する。

子連れ出社の3つのパターン

子連れ出社には、継続的なケースと突発的なケースがある。継続的なケースとしては、保育園入園前の子どもを毎日連れてくる場合や、出勤日が預けている保育園の休園日にあたり、その曜日だけ連れてくる場合などが挙げられる。

突発的なケースとしては、学校の学級閉鎖や日頃預けている家族や親類の急病や急用などがある。そのほか、小学校の長期期間中のみ、仕事の繁忙期のみという中間的なケースもあるだろう。

子連れ出社の形態は、連れてきた子どもの居場所により大きく3つのタイプに分けられる。

①会社が運営する保育園や託児サービスに子どもを預けて働く

自社の従業員向けに、職場内や職場の近くに保育園を設置している企業もある。平成28年度に、仕事・子育て両立支援の一環として、従業員のための保育施設の設置・運営の費用を助成する制度が開始されたことで、「企業主導型保育施設」の設立が増加している。

②子連れ従業員だけが集まる専用エリアで子どもをみながら働く

子連れ勤務をする人の専用エリアを設け、従業員自身が子どもをみながら働く。子連れ出社をしている従業員が複数名いる場合は、相互保育を行うケースもある。一時的な場合は、会議室などを使用することもある。

③通常の執務エリアで子どもをみながら働く

子連れ従業員以外もいる執務エリアで、従業員自身が子どもをみながら働く。0歳児を抱っこしながらや、幼児を隣の椅子に座らせながら、小学生であれば勉強をさせながら仕事をする。

子連れ出社のメリット・デメリット

子連れ出社には、子育て中の従業員だけではなく、企業側にもメリットがある。一方でデメリットがないわけではない。それぞれ詳しくみていきたい。

【企業側のメリット】

従業員満足度の向上:家庭と仕事を両立できる職場環境を提供することで、従業員満足度が高まり、会社へのロイヤルティが向上する。離職率の低下や採用面でもプラスになる。

業務の維持・継続:学校や保育園が休みの日など、子どもを預ける場所がないことを理由に、従業員が仕事を休まざるを得ない場合がある。職場に子どもを連れて来ることができれば、出勤が可能になる。

企業のイメージ向上:子育てをしながら働きやすい環境を提供することで、企業の社会的責任(CSR)を果たしていると見なされ、企業のイメージや評価が高まる。

【企業側のデメリット】

集中力低下:従業員自身が子どもの面倒をみる場合、仕事への集中力が低下する可能性がある。また、執務エリアで子どもの面倒をみる場合には、子どものたてる騒音などが他の従業員の集中力を削ぐ可能性もある。

職場の安全性とリスク:子どもの安全を確保するための対策を講じる必要が生じる。対策を行っても、事故が発生するリスクはゼロにはならない。

コスト:企業主導型保育施設などを設けるには大きな費用負担が生じる。専用エリアや執務エリアを使用する場合も、子どもが遊ぶスペースを設けたり、子どもが安全に過ごせるように改修したりすることでコストが発生する場合がある。

子連れ出社にやさしいワークプレイス構築のポイント

実際に子連れ出社を実現するには、オフィス環境をどのように整備するとよいだろうか。先述の3つのパターン別に紹介したい。

①保育園を開設する

事業所内保育施設や企業主導型保育施設には、児童1人あたりの必要面積や必要な設備(調理室や消防用設備など)、保育士の配置基準が定められている。企業主導型保育施設の基準については、公益財団法人児童育成協会が運営する企業主導型保育事業ポータルが参考になる。

②専用エリアを設ける

衛生面・安全面に配慮し、土足厳禁のエリアを設けるとよい。危険なものを置かない、テーブルの角を養生する、子ども用の安全で使いやすい家具を設置するなどの配慮が必要となる。子どもが退屈しないように遊具や玩具コーナー、授乳や昼寝用のスペースも確保したい。

子どもの様子を見ながら仕事ができるレイアウトにして、執務エリアと同様の作業環境があることが望ましい。専用エリア内でミーティングが可能であれば、会議室に子どもを連れていく必要もなくなる。

③執務エリアを整備する

②と同様の対応が望ましいが、難しい場合は、子どもが入れるエリアをゾーニングするなどの対策をとる。業務に集中できる環境、周囲に気を遣わない・遣わせない環境の実現、子どもの状況を確認しやすい工夫などが望まれる。

導入企業にみる環境整備の工夫と運営方法

ここからは、子連れ出社を認めている国内企業の事例を取り上げ、ワークプレイス構築のポイントや運営方法の実際についてみていきたい。事例1が企業主導型保育施設、事例2が社内託児所、事例3が会議室利用、事例4が執務エリアを使用した企業の例である。

1. 株式会社東急百貨店(企業主導型保育施設)

東急百貨店は2017年に、さっぽろ東急百貨店内に「さっぽろ駅前保育園」を開設した。同社は7割以上が女性従業員であり、育児休業後の職場復帰や人材確保の観点から、保育施設の設置を決めたという。

運営は外部に委託しており、対象は0~2歳。保育時間は7:30~18:30で、20:30まで延長保育も行っている。また、定員19人のうち従業員枠が10人、地域枠を9人として地域の子どもも受け入れている。人口に対し保育施設が少ない保育ニーズの高い地域であることから、地域貢献も兼ねた取り組みとなっている。

画像は内閣府のWebサイトより

JR札幌駅から徒歩2分の好立地、かつ店舗営業に合わせて元旦以外は開園という利便性から、地域枠も埋まっている。保育園は、店舗5階のエレベーター近くのスペースを改修して設置しており、店舗内にある一般客向けのキッズスペースを雨の日の遊び場として営業時間外に活用しているという。

2. 株式会社スタイル・エッジ (社内託児所)

士業・医業向けの総合支援事業を展開するスタイル・エッジは2015年、オフィス内に専任の保育士が常駐する社内託児所「わ~ママ Style Kids」を開設した。2021年末のJR新宿ミライナタワーへの本社移転後も継続されている。

業務中にも保育の様子を見られるように、託児所はガラス張りになっている。もともとは0歳児から小学校就学前までの子どもを対象としていたが、コロナ禍での休校に合わせて小中学生も利用可能とした

画像は株式会社スタイル・エッジのWebサイトより

保育園の送迎は、忙しい毎日の中で負担の大きなタスクであり、オフィス内に預けられるメリットは大きい。また、産休育休後からの復帰の際、保育園に預けることに不安を感じる人にとって、すぐに目に入る一角に託児所があるのは心強いだろう。若手の従業員にとっては、働きながら子どもを育てるモデルケースを間近に見ることができる。

3. サイボウズ株式会社(会議室利用)

サイボウズでは、2014年に「子連れ出勤制度」の仮運用を実施した。きっかけは、長期休暇中に子どもが学童に通いたがらないという「小1の壁」や、学童の預かりがなくなる「小4の壁」に対する従業員の不安だった。

仮運用で明らかになった課題の調整を行い、社内制度に採用。現在は「学童保育に行きたがらない」「子どもの預け先がない」といった場合に臨時で利用することができる制度になっている。チームの生産性を下げないなどのルールのもと、緊急時の受け皿として機能しているとのことだ。

保育スタッフがいるわけではないため、自分の子どもは自分でみることが前提となる。仮運用時は共有スペースであるラウンジをパーティションで仕切って、子連れ出勤用スペースとしていたが、現在の東京オフィスには子連れ出勤時に利用できるバリアフリー会議室が設置されている

画像は東京都のWebサイトより

4. ソウ・エクスペリエンス株式会社(執務エリア利用)

体験ギフトの企画・販売を手がけるソウ・エクスペリエンスは、スタッフの妊娠・出産を契機に2012年から「子連れ出勤」を認めている。保育園や幼稚園に入園できるまでの間に連れてくるケースが多く、0〜3歳の子どもがほとんどだという。

親子とも執務エリアで過ごし、親が子どもをみることが原則。土足禁止エリアを設け、エリア内には刃物や誤飲の危険のある物を置かず、ローラーがない椅子を使用している。また、その土足禁止エリアを「子供単体でいていいエリア」とし、「親がいないと入ってはいけないエリア」とゾーニングしている。

画像はソウ・エクスペリエンス株式会社のWebサイトより

同社では子連れ出勤制度を導入したことで、保育園に子どもが預けられないなどの理由で職場を離れるしかなかった従業員が働き続けられるようになった。子どもを連れてくることで、その従業員の出力が下がるかもしれないが、組織にフィットした人材が在籍し続けてくれることのメリットのほうが大きいと考えている。

ソウ・エクスペリエンスの従業員数は77名。同社は子連れ出勤制度について、小さい組織でなるべくコストをかけずに利益を生むための「企業のサバイバル術」と表現している。

まずは突発的なニーズへの対応から始めてみても

子連れ出社を導入するためには、場所や制度の整備だけではなく、子どもをもたない従業員も含めた全従業員の理解が必要になる。実施にあたっては全従業員に対して研修を実施することが望ましい。研修内容や注意事項については、つくば市が作成した「つくば市型 子連れ出勤 基本マニュアル」が参考になる。

どのようなタイプの子連れ出社が適しているかは、企業の規模、業種や仕事内容、かけられるコストなどによって変わってくる。企業主導型保育施設や社内託児所を開設する場合は十分な準備が必要になるが、専用エリアや執務エリアに子連れ出社をする場合には、サイボウズ株式会社のようにまずは仮運用を行ってみるのもよいだろう。子連れ出社をする側と受け入れる側双方のニーズや課題を聞き取ることで、自社に合った運用体制の構築につながる。

まずは学級閉鎖など突発的な事態に対応できるよう、靴を脱いで過ごせる小上がりのスペースを用意しておくといった小さな取り組みからスタートし、制度の構築につなげていく方法もある。自社に適した働き方を実現するワークプレイスづくりの一環として、子連れ出社と、そのための環境整備について考えてみてはいかがだろうか。