ニューヨーク、ハドソンヤードが提唱するこれからのオフィス街とは?- 働・住・遊・交のミックスドユーズな街づくり
ニューヨークで進む巨大都市開発、ハドソンヤード。日系企業も携わるこの都市開発でオフィス街のあり方はどのように変わるのか調べてみた。
Culture
2001年の9.11以降、ニューヨークでは官民両方によるビルやインフラ、街の再開発が活発に行われている。その中で今最も注目を浴びているのが、2019年3月15日にオープンした巨大都市開発、ハドソンヤード(Hudson Yards)である。
画像: Oxford Properties Group HPより
マンハッタン・ミッドタウンウエストのリバー沿いに位置するハドソンヤードエリア。全米有数のデベロッパーであるRelated Companiesと、カナダの最大機関投資家の1つでありデベロッパーでもあるOxford Properties Groupの主導により、2005年より再開発が進められてきた。
11ヘクタール(東京ドーム2個分以上)にも及ぶ敷地面積には、250億ドル(約2兆7800億円)の巨額の総工費が投じられ、現在は第一期工事が完了した段階。約半分のエリアはまだ開発途中で、2025年に全てのプロジェクトが完了する予定となっている。1930年にオープンしたロックフェラーセンター以降、米国最大規模の民間開発事業と言われており、急速に新たな街として変化を遂げている。
ハドソンヤード開発エリア (画像: Hudson Yards Press Kit 資料より)
今回はハドソンヤードの提唱するミックスドユーズな街づくり、働・住・遊・交を曖昧にするコンセプトに注目する。そして、最新鋭のオフィス環境を構築する4棟のビルについて紹介する。
ミックスドユーズを担うエリア開発
行動の境界線を曖昧化
ハドソンヤードの広大な敷地には、実に多様な施設が計画されている。コンドミニアムやアパートの居住用スペース、ホテル、ショップ、レストランなどの複合ビル。更に、約6ヘクタールの広いパブリックオープンスペースにはユニークな文化施設や広場、公園、展望スポット、更には公立学校まで計画されている。そして、それらと共に4棟の最新鋭高層オフィスビルが建設され、ニューヨークの新たなビジネスシーンを牽引する場が誕生する。
エリア内は東西でゾーニングされており、西側のWESTERN YARDには住居施設と学校、そして東側のEASTERN YARDにはオフィスやショップ、ホテルなどパブリック施設の建設が計画される。
画像: Hudson Yards Press Kit 資料より
上のマップからも分かる通り、ハドソンヤード内ではオフィスビルと文化施設や商業施設、また公園が隣接している。その為、多忙を極めるビジネスライフであっても、隙間時間でアート鑑賞やイベントへの参加が気軽にできる。また、商業施設には高級レストランやカジュアルなカフェ、イートインまで幅広く網羅されたテナントが揃う為、大切な商談からランチミーティングまで対応できビジネスユーズにも最適だ。更に、28,000種以上の植物を含む、緑と憩いの空間という特性も兼ね備えた、希少性の高い開発エリアなのだ。
かつてのオフィス街と言えば、高層ビルが建ち並び、「平日はオフィスワーカーで賑わい、休日は静かになる」というイメージが強かった。しかし、ハドソンヤードはオフィス街のもつ曜日や時間のイメージを排除し、「時間に限らず人が集い、交わる場所」としてマスタープランが作成された。建物、街路、公園、公益事業および公共スペースを統合し、働・住・遊・交といった行動の境界線を曖昧にしようという狙いだ。これまで前例の無かったハドソンヤードのミックスドユーズなエリア開発は、21世紀の都市体験のモデルと言えるだろう。
商業施設内イメージ (画像: Hudson Yards Press Kit 資料より)
商業施設内イメージ (画像: Hudson Yards Press Kit 資料より)
IoTによる継続的な街の変化に対応
ハドソンヤードに足を踏み入れると、迫力のある建築や公共施設などハード面に注目しがちだが、ソフト面のIT技術も充実している。
オフィスワーカーや居住者、およびビジターのニーズを理解し、エリアの使われ方を分析する高度なITプラットフォームを整備。交通パターン、大気質、電力需要、気温、歩行者の流れなどをモニタリングすることで、どんな設備・空間をどの程度用意すれば良いのかを判断する。継続的なモニタリングによるビックデータを活用し、そこにいる人々のニーズや状況の変化に応じてハドソンヤード内での経験をより革新的でパーソナライズ化されたものへ変化させていく。
更に、データ速度と継続的なサービスを最適化する為に設計されたファイバーループにより、円滑なネット環境が可能となる。その為、オフィス内に制限されることなく、広大な敷地内で仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶABW(Activity Based Working)を実践することができるのだ。
IoTを積極的に活用することで、スピーディに変化していくニューヨークと共に、ハドソンヤードも進化し続ける。
商業施設内イメージ (画像: Hudson Yards Press Kit 資料より)
4棟のアイコニック最新鋭オフィスビル
ハドソンヤードを構成する4棟の高層オフィスビルには、広大な延床面積と多様なレイアウトに順応可能なOAフロアに加え、LEED認証取得を前提とした環境性能を踏まえた最新鋭のシステムが導入されている。また、ハドソン川の眺望や敷地内の公園など、周辺環境を存分に取り込む為のテラススペースが設置されている。最近のオフィスビルでは自然を感じながらで外で働く場づくりも意識されており、ハドソンヤードのオフィス群もそのトレンドに対応したデザインとなっている。
商業施設内イメージ (画像: Hudson Yards Press Kit 資料より)
各オフィスビルの概要
10 HUDSON YARDS
使用用途: COMMERCIAL OFFICE, RETAIL
デザイナー: KOHN PEDERSEN FOX ASSOCIATES (KPF)
延床面積: 約167,000㎡ (1.8M GSF)
高さ: 約273.000m (895 FT.)
工事期間: 2012 – 2016
テナント: Tapestry (Coach, Kate Spade, and Stuart Weitzman), L’Oréal USA, SAP, The Boston Consulting Group, Intercept Pharmaceuticals, Inc., Guardian, VaynerMedia, Intersection and Sidewalk Labs
30 HUDSON YARDS
使用用途: COMMERCIAL OFFICE
デザイナー: KOHN PEDERSEN FOX ASSOCIATES (KPF)
延床面積: 約1,170,000㎡ (12.6M GSF)
高さ: 約395.000m (1,296 FT.)
工事期間: 2014 – 2019
テナント: WarnerMedia, HBO, CNN, Turner Broadcasting, Warner Bros, KKR, Wells Fargo, DNB, Related Companies and Oxford Properties
10 & 30 HUDSON YARDS (画像: KPF HPより)
50 HUDSON YARDS
使用用途: COMMERCIAL OFFICE
デザイナー: FOSTER + PARTNERS
延床面積: 約269,000㎡ (2.9M GSF)
高さ: 約300.000m (985 FT.)
工事期間: 2017 – 2022
テナント: BlackRock
50 HUDSON YARDS (画像: ArchDaily Hudson Yards記事より)
55 HUDSON YARDS
使用用途: COMMERCIAL OFFICE
デザイナー: KOHN PEDERSEN FOX ASSOCIATES (KPF)
延床面積: 約121,000㎡ (1.3M GSF)
高さ: 約 m (780 FT.)
工事期間: 2015 – 2018
テナント: Point 72, SILVERLAKE, Milbank, Mount Sinai Doctors, AROSA CAPITAL MANAGEMENT, THIRD POINT, STONEPEAK, Markexess, Cognizant, Cooley, HealthCor, BSF, ENGINEERS GATE, NOKOTA
55 HUDSON YARDS (画像: KPF HPより)
上記の各テナント概要から分かるように、ハドソンヤード開発に携わる関連企業、また、テナントは実にワールドワイドな顔ぶれとなっている。この関連企業には日系企業も参加しており、50 HUDSON YARDと55 HUDSON YARDの建設は三井不動産株式会社が担当している。2棟合わせた投資額は5500億円にも及び、50 HUDSON YARDは日系企業によるマンハッタン市内のオフィスビル開発事業としては、延床面積において過去最大の事業規模となる。
また、テナント入居は非常に順調だ。既に全体の約9割の契約が完了しており、世界トップクラスのファッション、テクノロジー、コンサルティング、ビューティブランド、金融系企業や大手法律事務所などが名を連ねる。
さいごに
オフィス街やビジネス街の概念は時と共に変化し、人々の暮らしや働き方のニーズに合わせて進化し続けることが求められるようになる。ハドソンヤードは、正に時代の流れを反した都市開発だと言えるだろう。今後のニューヨークだけでなく、世界の街づくりを牽引するプロジェクトとして今後の動向に注目したい。
<その他参考記事・文献:>
HUDSON YARDS NEW YORK: http://www.hudsonyardsnewyork.com/
三井不動産株式会社: https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2018/1019/index.html