ウェルビーイングにも関わる食品ロス問題。企業事例とその取り組み
ウェルビーイングやSDGsとも深く関わる、食品ロス問題。企業や自治体の取り組みを見た上で、一般企業でも導入しやすいアプローチとして、フードバンクの活用について紹介する。
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ウェルビーイング、SDGsと食品ロス問題
農林水産省によると、日本では年間2531万トンの食品廃棄物等が出されている(2018年度推計値)。その4分の1にあたる600万トンが、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる食品ロス(フードロス)だ。内訳は、事業系食品ロスが324万トン、家庭系食品ロスが276万トンとなっている。
一方、世界では最大で8億1100万人、すなわち約10人に1人が栄養不足に陥っていると言われている。また、厚生労働省によると、2018年の時点で日本の貧困線(生活に最低限必要な収入の目安)は127万円、その貧困線に満たない世帯員※の割合は15.4%とのこと。つまり、日本人のおよそ6人に1人が相対的貧困にあり、そうした家庭ではその日の食事にも困るケースが少なくない。
※世帯員とは、世帯を構成する各人をいう。ただし、社会福祉施設に入所している者、単身赴任者(出稼ぎ者及び長期海外出張者を含む。)、遊学中の者、別居中の者、預けた里子、収監中の者を除く(厚生労働省の資料より引用)。
食は日々の生活に欠かせないものであり、人々のウェルビーイングに直結する。また、食品ロスの問題を考えることは、SDGs(持続可能な開発目標)の17目標にある「飢餓をゼロに(目標2)」「つくる責任 つかう責任(目標12)」の解決に向けた大きな一歩となる。そして、企業活動におけるSDGsへの取り組みは重要性を増している。
SDGsの17目標(画像は国際連合広報センターのWebサイトより)
さらに、コロナ禍でリモートワークが普及するなか、企業の防災計画における備蓄食品の運用の見直しも求められている。出社人数の減少による備蓄量の調整、在宅防災へのシフト、そして賞味期限が迫った備蓄食品の活用についても考える必要があるだろう。
食品ロス問題の解決は、社会全体のウェルビーイング向上につながる取り組みとも言える。今回は、食品ロスの削減を軸に企業や自治体の事例を見た上で、一般企業でも導入しやすいアプローチとして、フードバンクの活用について紹介する。
食品ロスの削減に取り組む企業・自治体の事例
まずは、食品ロスの削減に向けた世界の動きを見てみたい。食品廃棄物・食品ロスの削減に取り組むグローバル連合「チャンピオンズ12.3」は、17カ国の700企業・1200事業所が実施した食品廃棄物削減の取り組み(食品廃棄物・食品ロスの数値化および監視、食品貯蔵・加工処理の変更など)の費用と利益を分析した。その結果、ほぼすべての事業所で利益が上回り、約半数で投資に対し14倍以上のリターンがあったことが報告されている(2017年3月)。
日本国内でも、食品ロス削減に対する企業や自治体の関心は高く、すでに様々な取り組みが行われている。以下にその事例を紹介する。
1. ネスレ日本株式会社/みなとく株式会社「無人販売機『食品ロス削減ボックス』」
ネスレ日本と、食品ロス削減サービスの開発・運営を手掛けるみなとくは、食品ロス削減を目的とした無人販売機「みんなが笑顔になる 食品ロス削減ボックス」の運用を2021年6月より開始した。同ボックスには、みなとくが開発した冷蔵機能付き無人販売機「fuubo(フーボ)」を活用。出荷できる期限を過ぎて流通先が限定され、場合によっては廃棄される可能性がある「ネスカフェ」や「キットカット」製品などを、希望小売価格より安価で販売する。設置場所は、北海道1カ所、東京都2カ所、愛知県1カ所、広島県1カ所の計5カ所となっている。
2. 株式会社セブン-イレブン・ジャパン「エシカルプロジェクト」
セブン-イレブン・ジャパンは、セブン&アイグループの環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」のなかで、食品ロスを削減する「エシカルプロジェクト」を推進。販売期限が近づいたおにぎりやパンなどの対象商品に緑色の「エシカルシール」を貼り、その商品を電子マネーnanacoで購入すると、5%分のnanacoポイントを付与する取り組みを行っている。
3. 京都市「京都市食品ロス ゼロプロジェクト」
食品ロスの削減に力を入れている京都市は、「燃やすごみ」のうち特に生ごみへの対応を重視している。その背景となるのが、独自に調査した「燃やすごみ」の発生量と内訳だ。同市の2018年度のごみ処理量は40万9779トンで、1人1日あたり764グラム。「燃やすごみ」が全体の94%を占め、「燃やすごみ」のうち生ごみの割合が38.3%と最も多いことがわかっている。
ここで注目したいのが、京都市が家庭から出る生ごみの詳細な調査を行っていること。調査によると、生ごみには、調理くず、食べ残しのほか、茶がらやコーヒーかすなどが含まれており、食べ残しのうち45.6%が「手つかずの食品」であった。さらに、1世帯が廃棄する「食べ残し(手つかずの食品を含む)」の費用は、1年間で約6万1000円分に相当するという。
こうした詳細なごみの調査と分析を背景に、京都市では「京都市循環型社会基本計画(2021-2030)」を策定。2000年度に9.6万トン発生していた食品ロスを、2030年度には4.6万トンまで減らす目標を掲げている。すでに2019年度に6.1万トンまで削減しており、目標達成に向けたさらなる取り組みが期待されている。
京都市で推奨している取り組みは以下の通り。
【家庭でできる取り組み】
●買い物のときは
・「少しでも安く買う」ではなく「使い切れる量を買う」
・食材を使い切るための献立力を磨こう
・ムダ買い・買い忘れを防ぐ買い物メモを作ろう
・買い物メモを見ながら、必要なものだけ買い物かごへ
・食品店では棚の手前から取ろう
●調理のときは
・食べられる分だけ料理を作る
・食材が余ったときには、本やインターネットなどで使い切りレシピを探してみる
●保存するときは
・食べきれなかった食品は、冷蔵・冷凍を検討しよう
・冷蔵・冷凍庫内ストックの週イチ・月イチCHECKをしよう
●外食するときは
・食べきれる分だけ注文しよう
・食べ残しはお店の了解を得た上で持ち帰り、帰宅後速やかに食べよう
【事業者ができる取り組み】
・食品の販売期間を延長する
・フードバンクへの寄贈を行う
・食べ残しのお持ち帰りに対応する
・30・10(サーティ・テン)運動(※)を推進する
※30・10(サーティ・テン)運動:宴会時、乾杯後30分間は席を立たずに料理を楽しみ、お開き前10分間は席に戻って再度料理を楽しむことで食べ残しをなくす運動。
一般企業にも導入しやすい、フードバンクの活用
食品ロス削減の取り組みは、メーカーや流通業者など、食品に関わる企業以外でも実施できる。その一つが、フードバンク団体への寄贈だ。フードバンクについて、一般社団法人全国フードバンク推進協議会は、以下のように説明している。
「フードバンクとは、安全に食べられるのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品を企業などから寄贈していただき、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動です」
(一般社団法人全国フードバンク推進協議会のWebサイトより引用)
フードバンクが扱う食品には、食品関連企業による寄贈のほか、企業の防災備蓄食品も含まれる。賞味期限の迫った備蓄食品の寄贈であれば、一般企業にも取り組みやすいのではないだろうか。
日本国内にはフードバンクを運営するNPO法人などが多くあり、食品関連企業や一般企業などと連携して、食品ロス削減と困窮世帯の支援を行っている。その主な事例を以下にあげる。
1. 認定NPO法人セカンドハーベスト・ジャパン
日本初のフードバンクとして活動しているセカンドハーベスト・ジャパン。活動を開始した2002年には年間30トンだった食品取扱高は、2012年の時点で3152トンと10年で100倍以上に増えている。同団体のWebサイトでは、企業で備蓄している防災食品の買い替えに際し、賞味期限が残った食品を寄贈する方法を詳しく説明している。
2. 認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン
自然災害や飢餓などで苦しむ人々を支援する国際NGOグッドネーバーズ・インターナショナルの一員であるグッドネーバーズ・ジャパンも、Webサイト上で食品の寄贈方法をわかりやすく提示。寄贈できる食品の条件として、以下をあげている。
・賞味期限が明記されており、到着日から2カ月以上あるもの
・外装が破損していないもの、未開封のもの
・包装を他のものに差し替えていないもの
・生鮮食品など常温で保管できない食品、酒類、サプリメントなどの子どもが飲食できない食品は受け付けておりません
また、募集している食品は以下の通り。
・白米(市販、3kg以下、精米後2年以内のもの)
・乾麺(うどん、素麺、パスタなど)
・お菓子
・調味料(醤油、食用油、味噌など)
・瓶詰、缶詰、レトルト食品、インスタント食品
・ギフトパック(お歳暮、お中元、贈答品の余剰など)
・飲料(ジュース、コーヒー、紅茶など)
企業のアプローチが食品ロス問題の解決を後押しする
冒頭で述べたように、リモートワークを導入した企業では、防災計画にも変化が求められる。余剰物資については、フードバンクへの寄贈も選択肢の一つとなるだろう。もちろん、社内の啓蒙を図り、例えばランチタイムの食品の購入方法を見直すなど、従業員一人ひとりが身近な対策から着手することも重要なアプローチとなる。
日本国内でも深刻な社会課題となっている、食品ロス問題。企業として食品ロスの削減に取り組むことは、ウェルビーイングな社会の実現において、確実かつ大きな一歩となり得るのではないだろうか。