サンフランシスコの現場から見る、日本企業が改善すべき5つの悪習慣
労働の環境・スタイルの改善とは一体何なのだろうか?日本の働き方改革で解決すべき5つの課題をブランドン・ヒル氏が取り上げる。
Culture
日本でのワークスタイルの改善はやはりまだまだ大きな課題がありそうだ。先日のポスト「【ワークライフバランスはもう古い】新しい働き方、ワークライフインテグレーションとは」に対し大きな反響があった。Newspicksでは2,000近いPicksと数多くのコメントをいただいたこともあり、現在の日本における大きな課題の一つだと実感させられた。
同時に下記のコメントに代表されるように、今の日本では実施したくても、そんなに簡単に現状を変えることのできない「制度的な問題」もあることが浮き彫りになってきている。
めちゃめちゃ共感します!
ただ日本で浸透するには時間かかりそうですね。。。
では、実際にどのような事柄が日本では働き方の改革を阻んでいるのか。おそらく下記の5つの「習慣」と「決まり」がより効率的で自由な働き方を阻止してしまっているのではないかと考えられる。
1. 正社員を指名解雇できない
おそらく最大の原因がこれ。例え仕事で成果が出せなくても容易に解雇ができないため、プロセスではなく成果中心の働き方の仕組みを作りにくい。言い換えると、結果を出せないスタッフに合わせたマイクロマネージ型の仕組みづくりをしなければならなくなる。したがって、下記のNetflixの例のようなポリシーを作ることもほぼ不可能だろう。
「Aレベルの頑張りでBクラスの結果を出す従業員と、Bレベルの頑張りでAクラスの結果を出す従業員がいたとしたら、我が社は迷いなく後者を優先し、前者を続けるとクビにする可能性もあります。」
企業側としても、採用をして社員が機能しなかった場合に解雇というオプションが簡単に取れない。自ずと、なるべく採用を抑えて、既存のスタッフでどうにか仕事をこなそうとする。そうなると、無理な仕事が増え、仕事量とリソースのバランスがおかしくなりがちで、結果的に一人当たりの労働時間も長くなってしまう。
この辺は当日指名解雇もできるアメリカでは、「とりあえず採用して結果が出ない or 業績が上がらない場合は恨みっこなしで解雇すれば良い」という考えのもとで進められるため、クリアな仕事内容と目標が定めやすくなり、従業員に対して結果中心のワークスタイルを提供し、働き方自体にこだわり過ぎなくなる。
また、日本の場合、成果が出せないスタッフにもどうにか無理矢理にでも仕事を与えて労働時間としてのつじつま合わせようとしたり、自主退職してもらうために、あえて劣悪な労働環境を与えたりもする。従業員側も残業代を稼ぐために、やっているフリをしている場合もありそうだ。
そして、残念なことに下記のような記事も見つけた。これだと「仕事=意味のないガマン大会」になってしまうだろう。
参考:「残業が多い人は頑張っている人」平成生まれの6割が回答 昭和世代よりも社畜という結果に
自由な環境には解雇に関する規制緩和が必要になってくる。この点に関しては、下記のようなコメントからも理解できる。
「人材が流動的で社員を解雇しやすい労働環境だから実現できるのでしょうね。
実に羨ましいですが、日本の終身雇用を引きずった労働環境で下手に自主性を重んじる働き方を導入すると怠惰な社員ばかり増えてしまいそうです。
ワークライフバランスを考える前に日本に必要なのは会社が社員を解雇しやすくし、転職市場をもっと活発にすることであると思います。」
2. セキュリティーが厳しすぎ
よりフレキシブルな労働環境を達成するためには、場所と時間の自由性が不可欠である。ある程度「いつでもどこでも働ける」環境を得ることができれば、より効率的にストレスの少ない働き方が実現できる。
しかし、ここで問題になるのがセキュリティー的な制約。必要な部分はあるだろうが、無駄に過度であまり意味のないレベルの規定もある。例えば、会社のラップトップを持ち出せないとか、スマホで仕事できないとか、パソコンにUSBが挿せないとか。これらはセキュリティーというよりも、もはや「社員を信用していない」と思ってしまうレベル。
例えば、メールも22時以降と週末はアクセスできない仕組みにして、「時間外労働対策」をしているケースもあるようだが、そうなると結局こっそりLINEやメッセンジャーなどでのやりとりが始まってしまうので、むしろセキュリティー的にはリスクが格段に高まる。
先日、Facebookで友人が下記のようなポストをしていた。まさこれも無駄なセキュリティーの仕組みが、仕事のしやすさに対して弊害になっている例だろう。
3. クラウド系サービスを活用しきれていない
アメリカ西海岸の会社では、ここ数年でワークスタイルがガラッと変わったと感じる。その理由の一つにあるのが、数多くのビジネス向けクラウド系のサービスの出現と活用だろう。
例えば、ドキュメントは全てデジタル化し、クラウドにアップロードされているので、どこからでも取得することができるし、契約書もデジタルで署名する仕組みがどんどん一般的になっている。経費精算もスマホでレシート写真を撮り、アップロードしておけば良い。そうなってくると、わざわざオフィスに行かなくても、ある程度の仕事はリモートでこなせるようになる。実際に知人はビーチに寝そべりながらスマホ経由で億単位の契約書にサインしたと語っていた。
コミュニケーションも、メールに加え、クラウドベースのワークチャットやオンライン会議システム、顧客管理システムが複数社から提供されており、これを利用しないのはまるで鉄砲全盛の時代に必死に刀で戦おうとしているぐらい、その理由が全く理解できない。こっちのスタートアップなんかは、クラウドサービスをゴリゴリ活用して効率性の最大化を図っているし、もしそれが使えないような決まりがある会社は無駄が多すぎて、速攻スタッフがやめてしまうだろう。
前回のポストに対する 「必要なときは出社するので家で仕事させてください。」とのコメントからも分かる通り、より場所を選ばない仕事の仕方が実現できれば良いが、そのためにはクラウド系サービスの活用は不可欠だろう。
4. 新卒の就職活動/一括採用制度
そもそも日本の労働環境的問題の根本には、新卒採用制度があると思っている。それも特に大企業に対して。これは、自分自身がしたことがないので、実際はどうかわからないが、アメリカの感覚で考えると、かなり不自然な仕組みに見受けられる。
一人の学生が複数の会社をその社名、業界、就職したいランキングを元に片っ端から受ける。そして、内定をもらった中から知名度の高さ、親が安心する、合コンでモテる、などのファクターを考えて選ぶ。そして入社してから配属が決まる。
もしこのプロセスが実際に行われていたとしたら、本当に働きたいタイプの会社や、業種、チームメンバー、仕事内容に身をおくことの方が非常に難しくなり、最初から人材とポジションのミスマッチを作り出す仕組みと言わざるを得ない。自ずと自分が本当にしたい仕事ができていないケースが増え、ストレスもたまる。逆に、もし長時間労働したとしても、それが本当にやりたいことで、一緒に仕事したい人と一緒にできるのであれば、大きな苦痛にはなりにくい。それを阻んでいるの一つの原因が新卒の就活制度。
おそらく、現在の日本の状況は長時間労働に加えて、その仕事内容が好きなことではなかったり、一緒に働きたくない人たちと時間を過ごさなければならないことにも大きな問題があるのであろう。そんな環境で企業が従業員に高いパフォーマンスを求めること自体に無理がある。
5. 祝日が多すぎる
これはとても意外と思われるかもしれないが、実は日本の祝日の多さは働く人たちにとっての一つの弊害になっていると思われる。
現時点での日本国の祝日は年間17日で、年を追うごとにどんどん新しい祝日が追加されている。例えばアメリカの祝日が年間10日だということと比較してみると、非常に多いのが分かる。
おそらく、国の狙いとしては、休日をあまり取らない国民性を考慮し、「強制的に」休める仕組みを提供しているのだろう。しかし、仕事で成果を出したい人や企業にとっては、これは非常に迷惑になることもある。
その理由は単純で、みんなが一斉に同じタイミングで休むから。アメリカの場合、確かに有給休暇の取得日数が多い。しかし、スタッフごとに時期をずらし、自分の仕事をしっかり整理してから、もしくは休日中にも必要であれば最低限の対応ができるような状況で休日を取るようにしているので、企業にとっても本人にとってもストレスが少ない。
これが日本の場合、ゴールデンウィークや元旦休日などで、国全体が一斉に休んでしまうため、非常に効率が悪い。特にグローバル規模でのビジネスの場合、他の国の人たちからすると”???”という感じである。現にうちの会社でも、ゴールデンウイークに東京オフィスがしまっている事に対してサンフランシスコのスタッフは大きな衝撃を受けていた。ただ、オンラインでのやりとりは普通にできるためそのインパクトは最小限であったが。
しかし、会社によっては祝日中に一切仕事をさせてもらえないところもあるらしい。これはとても非効率で、10秒あれば返信できる内容のメッセージを数日ほっとかなければならないなんて、狂気の沙汰である。特にマネージメントや経営層の場合、スタッフの質問に対しての返信や、決断したことの連絡がメインの仕事になるため、休日でも祝日でもサクッと返信さえすれば、格段に仕事が前に進む。それが複数日に渡ってできないのは苦しいし、無駄なストレスの原因にもなる。
また、長期の祝日後の忙しさも大きなストレスを与えてしまうだろう。祝日気分がなかなか抜けなかったり、みんなで一斉に休んだ分を取り戻さなければならなかったりなどで、非効率な状況が生み出されてしまう。だいたいみんなが休んでいる時に一緒に休んでも、混雑、コスト高など、メリットが少ない。営業日の満員電車が緩和されないのも理解できる。
下記のコメントからも分かる通り、実は「仕事をしない日や時間」を画一的に制度として強引に作るのは、逆効果になってしまう。
「早く帰れとか余計なお世話だよね。」
「時間切れで職場から締め出されることにモヤモヤしか感じません。」
「本当の「働き方改革」とは何か?
少なくとも働きたい人の自由を奪う事ではない。」
まとめ:働く時間を少なくするだけでは働き方改革にならない
大きな勘違いをしているケースが、「働き方改革 = 労働時間を減らすだけで解決」という考え方。これは実は全く間違っていて、「日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント」でも説明したが、重要なのはよりストレスを少なく「遊ぶように働く」ことができるような環境と仕組みだろう。
もちろん、残業は多いより少ない方が良いし、徹夜するなんていうのは本当に非常事態の時だけにとどめておくべきである。その一方で、やりたいことを自分の意思でとことんできないのも同じくストレスが溜まる。人間、楽しければいくらでもやりたいし、しんどければ少しでもやりたくない。そもそも、「仕事=やりたくないこと」という感覚が一番の問題である。どうしたら、仕事をより楽しいものにし、仕事をしている瞬間も生活の大切な時間となるかを考えるのが重要だろう。
一緒にいたい人たちと楽しい時間を過ごし、価値のあるものを作り出し、求める成果に繋げる。これは仕事でもプライベートでも共通したゴールであることは間違いない。
筆者:Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
*本記事はfreshtraxより転載いたしました。