コロナ禍で意識したい、オフィスの特徴に合わせた換気方法とは
コロナ禍で換気の重要性が叫ばれる一方、室温低下への懸念から冬は換気がおろそかになりやすい。そこで、注目のIoTツールを取り上げつつ、オフィスの特徴に合わせた換気方法を紹介する。
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冬のコロナ対策、改めて問われるオフィスの換気
日本国内で新型コロナウイルスの感染が拡大してから、初めての冬を迎えた。オフィスにおいて危惧されているのは、「換気」が不十分になること。室内の暖かい空気を逃したくない心理から、冬場はどうしても換気がおろそかになりやすい。
新型コロナウイルス感染症対策分科会が2020年11月に発表した「緊急提言」においても、店舗や職場で実践すべき感染防止策として「換気」があげられている。具体的に推奨されているのは、機械換気による常時換気、機械換気が設置されていない場合は室温が下がらない範囲での常時窓開け、二酸化炭素濃度のモニタリングなど。第3波の到来が叫ばれる今、改めて換気の重要性がクローズアップされている。
そこで本記事では、冬の換気方法をわかりやすく整理し、オフィスの特徴に合わせた対策について今注目のIoTツールも取り上げながら紹介する。
まずは必要換気量を満たしているかチェックする
厚生労働省が2020年4月に公表した資料によると、オフィスの換気は「ビル衛生管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)」の基準に適合していれば問題ないとされている。必要換気量(一人あたり毎時30m3)を満たすことになり、「換気が悪い空間」には当てはまらないからだ。
空気環境の基準(画像は厚生労働省の資料より)
さらに、ビル衛生管理法では3,000m2以上の特定建築物において屋内の空気環境を良好に保つことが義務付けられており、2カ月内に1回、空気環境測定を行わなければならない。つまり、ビル衛生管理法に則って維持・管理されている限り、そのオフィスでは良好な空気環境が実現され、十分な換気量が確保されている可能性が高いと言える。
ただし、この解釈には注意が必要だ。
というのも、国内に数多く存在する3,000m2未満の中小規模のオフィスビルは特定建築物の対象外であり、課せられているのは「努力義務」に過ぎないためだ。実際に、『空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2018.9.12〜14 第7巻(名古屋)}』内で、二酸化炭素濃度が管理基準値の1,000ppm を上回る中小規模のオフィス、つまり換気が不十分なオフィスビルの存在が指摘されている。
また、建物自体がビル衛生管理法の基準を満たす特定建築物であっても、入居者の運用の仕方次第では、一時的または局所的に換気が不十分になるケースもあり得る。例えば、以下のケースでは注意すべきだろう。
・想定を超える在室人数により過密状態が生まれている
・室内に設置した間仕切りなどの障害物が換気を妨げている
・換気設備の汚れや電源の入れ忘れで正常に稼働できていない
以上をまとめると、ビル衛生管理法の基準に適合していない場合や、適合していても換気を悪化させるイレギュラーな状況下にある場合では、何らかの対策が必要になる。まずは、自社オフィスの換気状況を把握することが重要だ。そのうえで、「換気設備はどう運転すればいいのか」、「どんなときに自然換気を取り入れればいいのか」など、具体的な対処法を考えるといいだろう。
換気方式は「機械換気」と「自然換気」の2種類
一般的に換気⽅式は、窓などから外気を取り⼊れる「⾃然換気」と、ファン(送⾵機)などの機械を利⽤した「機械換気」の2つに大きく分けられる。
1. 自然換気
窓やドアなどの開口部を利用して、外気と室内の空気の入れ換えを行う方法。窓を開けて⾃然換気を⾏う場合、窓の位置や風向きなどの条件に左右されるものの⼀般的に換気量はかなり⼤きく、換気回数が10回/h以上になる(1時間で部屋の体積の10倍にあたる空気量を取り⼊れる)ことも珍しくない。
2. 機械換気
機械を用いて強制的に換気する方法。現在では、機械換気のみでも十分な換気量を確保できるよう設計された建築物が多い。機械換気は、さらに以下の3つに分類される。
(1) 第一種換気
給気側にも排気側にも送風機を⽤いる換気方式。換気量を確実に確保でき、様々な換気の⽬的に適合する。オフィスビルでは第一種換気が一般的。
(2)第二種換気
給気側にのみ送風機を用いる換気方式。室内が正圧(外や周りの部屋より圧⼒が⾼い状態)になるため、室外から汚染された空気が流⼊するのを防げる。クリーンルームや⼿術室など、⾼い空気清浄度が要求される特殊な部屋に適している。
(3)第三種換気
排気側にのみ送風機を用いる換気方式。室内が負圧(外や周りの部屋より圧⼒が低い状態)になるため、室内の空気が室外に流出するのを防げる。住宅で多く採用されており、トイレや浴室、キッチンなど、においや蒸気が発生しやすい場所での換気に適している。
併せておさえておきたい3つのポイント
1. エアコンでは換気できない
ダイキン工業株式会社のウェブサイトによると、エアコンは「室内の空気を吸い込んで」、その空気を冷たくしたり温かくしたりした後に「室内に戻す」ことで、快適な環境をつくる機器である。そのため、エアコンだけでは換気できず、エアコン以外の方法を用いる必要がある。
2. 冬期の低湿度問題
湿度にも注意が必要だ。ビル衛生管理法で定められている相対湿度の基準は「40%~70%」。冬季の低湿度状態はインフルエンザの罹患リスクを高めることから、下限値は40%とされている。前述の論文では、オフィスビルの規模に関わらず、冬期の相対湿度は40%を下回りやすいことが指摘されている。換気対策とともに、加湿器の設置なども検討したい。
3. 有害物質に起因するシックハウス
建築基準法やビル衛生管理法により、ほとんどの建物において有害物質への対策はなされている。ただし、テナントが新たに設置した機器が有害物質を放出する可能性もあるため、注意が必要だ。
オフィスの特徴に合わせた換気上の注意点
オフィスの形態は様々で、個別の対応が求められる。そこで、オフィスのタイプを3つに分け、それぞれに有効な対策を整理しておきたい。基本的な考え方については、前述したダイキンのウェブサイトが参考になる。
1. 住宅をオフィスに転用する場合
個人事業主などを中心に、戸建住宅やマンションが事務所を兼ねているケースも少なくない。また、テレワークなど自宅で業務を行うケースもあるだろう。住宅では主に第三種換気が採用されており、24時間換気システムの活用が中心となる。
(1)24時間換気システムを利用する
建築基準法の改正により、2003年7月以降の新築建築物には24時間換気システムの設置が義務化された。24時間換気システムには、1時間で室内の空気を半分以上入れ替えることが求められている。
ただし、寒いからと給気口を閉じたり家具で塞いだりすると、当然ながら換気機能は低下する。正常に稼働するよう環境を整え、ホコリがたまりやすいフィルターなどはこまめな清掃を心がけたい。
(2)窓を開けて空気の通り道をつくる
補助的な換気として、窓を開けての自然換気も有効だ。1時間に10分程度が目安になる。ただし、効果は窓や風向きなどの条件に左右されるため、どの程度の換気であれば感染リスクを抑えられるかは明言できない。
(3)キッチンの換気扇を活用する
排気量が大きいキッチンの換気扇も、補助的な換気として活用できる。同時にキッチンからなるべく離れた窓を開けると、空気の通り道ができるためより効果的だ。
2. 窓を開けられるオフィスビルの場合
(1)換気設備が正常稼働しているか確認する
オフィスビルでは第一種換気が中心となる。ビル衛生管理法の基準を満たしていれば換気量が十分確保されている可能性は高いが、換気設備が正常に稼働していることが前提となるため、まずはその点を確認しておきたい。
中型オフィスでビルの管理会社が換気設備を操作している場合は、運転状況やメンテナンスについて問い合わせの上、現状を把握しておく必要がある。小型オフィスでは自社で管理する場合もあるが、換気能力が低下しないよう定期的に清掃し、正常に稼働する状態を保ちたい。
なお、全熱交換器では、エアコンと換気が連動していることもある。その場合、エアコンを切ると換気も止まってしまうので注意が必要だ。
(2)状況に応じて自然換気を併用する
在室人数が多い時やオフィス内のレイアウトを変更した時など、換気が不十分な状況が生まれた場合は窓やドアを開け、自然換気を併用したい。自然換気の目安は1時間に10分程度だが、1時間につき10分の換気を1回行うよりも、1時間につき5分の換気を2回行うほうが効果は高いと言われている。
ただ、冬場は外気の取り入れにより、室温が急激に低下することが懸念される。それを抑えるのが、「二段階換気」という換気方法だ。まず人がいない部屋の窓を開けて外の空気を入れ、その空気を人がいる部屋に取り入れるという二段階方式で換気すれば、室温が一気に下がるのを防げる。また、窓を全開にせずに少しだけ開け、時間をかけて換気するのも有効な方法だ。
3. 窓が開かないオフィスビルの場合
オフィスビルの中には窓が開かない高層ビルもあるが、人がかなり密集した状態でも問題のない換気設備を設置することが、建築基準法では定められている。オフィス内の換気は、例えば小会議室に大人数で集まるような想定外の密集を避け、ドアを開けるなどして適宜対応したい。
注意が必要なのは、決まったスケジュールで換気設備が自動制御されているケース。残業や休日出勤の時間帯が稼働時間外となっていることもあるため、管理会社などに運転状況を確認しておくといいだろう。
二酸化炭素濃度に注目したIoTツールも登場
コロナ禍でのニーズの高まりに合わせ、二酸化炭素濃度を測定して密集状態と換気状況を可視化するIoTツールも続々と登場している。
二酸化炭素濃度を使った3密状態確認システム(画像は蓼科新湯温泉ウェブサイトより)
長野県の蓼科新湯温泉では、大浴場などパブリックスペース利用時の密を避けるため、二酸化炭素濃度を測るセンサー使った確認システムを導入している。これまで個人の感覚・判断に委ねるしかなかった3密を、「見える化」する取り組みだ。
株式会社リンクジャパンが提供する「eAir」は、会議室などオフィス内の密になりやすいスペースで役立つツール。スマートフォンのアプリと連携させれば、離れた場所からでも設置場所の二酸化炭素濃度や室温、湿度を測定できる。
cynaps株式会社の「hazaview」は、二酸化炭素濃度・温度・湿度の複合センサーを搭載した換気アラートシステム。ボールドライト株式会社のサービスと連携した「プラチナマップAir」では、大規模屋内施設内のゾーンごとの換気状況も、デジタルフロアマップ上で確認できる。まずは自治体や観光関連施設・イベント会場向けの運用とのことだが、汎用性はありそうだ。
こうしたIoTツール以外に、「新型コロナウイルス感染症対策用換気シミュレーター」も紹介しておきたい。日本産業衛生学会がウェブ上で無償提供しているもので、部屋の広さや人数、換気装置などの条件を入力するだけで、簡単に二酸化炭素濃度を推定できる。こちらも、換気のタイミングを考える上で一つの目安となるだろう。
換気状況の可視化により、人々の意識はさらに高まるか
パンデミックの影響を受け、換気状況の可視化は、IoT技術の進展と相まって今後トレンドとなる可能性はある。導入には費用面など多少のハードルはあるものの、普及すれば国や各種団体、空調メーカーなどが推奨する換気方法に関して、より説得力・実効性が生まれると思われる。将来的には可視化に留まらず、換気設備・空調・窓とも連動した自動運転やスマートフォンでの遠隔操作も夢ではなく、引き続き動向に注目していきたい。