アルムナイネットワークとは。企業が退職者とのつながりを重視する理由
海外の有力企業で活用され、日本でも注目され始めたアルムナイネットワーク。その目的やメリット、企業が退職者とのつながりを重視する理由について、事例を交えて解説する。
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アルムナイネットワークとは
昨今、アルムナイネットワークを活用する企業が増えている。アルムナイネットワークとは、退職した社員と企業がつながりをもつ退職者ネットワークのことだ。アルムナイは英語でalumniと表記し、「卒業生」や「同窓生」を意味する言葉である。そこから派生して、企業の退職者やOGという意味でも使用されるようになった。
アルムナイネットワークは欧米企業では一般的で、その背景として平均勤続年数が短いことが挙げられる。独立行政法人労働政策研究・研修機構が作成した「データブック国際労働比較2023年」を見ると、2021年の日本の平均勤続年数は12.3年である一方、アメリカは4.1年であり3分の1の短さだ。こうした人材の流動性の高さから、欧米企業ではアルムナイネットワークを構築し、再雇用やコラボレーションに生かしているのだ。
例えば、世界有数の総合コンサルティング企業であるアクセンチュアは、「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」を組織している。全世界30万人以上の退職者が在籍する巨大ネットワークであり、多くのアルムナイが復職したり、アルムナイ同士または現社員とコラボレーションしたりしている。
日本では外資系企業での導入が中心だったアルムナイネットワークだが、近年になり株式会社電通やヤフー株式会社、富士通株式会社、日本郵政グループが導入するなど、徐々に活用する企業が増えてきている。
アルムナイネットワークが日本でも普及してきたのは、「終身雇用の崩壊」と「転職者の増加」の影響からだろう。2019年にはトヨタ自動車株式会社の豊田章男社長(現会長)が、一般社団法人日本自動車工業会の会長会見で「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言し話題となったが、実際に日本企業でも早期退職やリストラが行われることは珍しくなくなってきている。また転職者のほうも、コロナ禍で一時は減少に転じたが、2022年にまた増加している。欧米ほどではないにしろ、人材の流動化が日本でも活発になってきたことで、日本企業も退職者の囲い込みを行う必要が出てきたと考えられる。
アルムナイネットワークを活用するメリット
それでは、アルムナイネットワークを活用するメリットとは何だろう。企業側と退職者側でみてみよう。
企業側のメリット
アルムナイに特化したSNS「Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)」を運営する株式会社ハッカズークによると、企業側のメリットとして以下の6つが挙げられている。
・再雇用
・業務委託
・採用ブランディング
・オープンイノベーション
・顧客・パートナー
・リファラル採用
アルムナイは自社製品やサービスの理解度が高いため、即戦力人材として再雇用や業務委託契約が行える。また、退職後も良好な関係を維持することで好意的な口コミをしてもらえたり、退職後のキャリアパスが可視化されることによる採用ブランディングの強化にもつながると考えられる。さらにアルムナイからの紹介によるリファラル採用は、条件やカルチャーにマッチした人材の雇用につながるだろう。
退職者側のメリット
アクセンチュアが組織する「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」を参考にすると、退職者側のメリットには以下がありそうだ。
・ネットワークの拡大(人脈づくり)
・復職チャンス
・コラボレーション(協業)
一番のメリットは人脈づくりだ。同僚や退職者とのつながりでネットワークが拡大し、お互いに情報交換を行うことで、現職の仕事で人脈を生かせる可能性がある。また、アルムナイ同士や現役社員とコラボレーションすることで、新しい知識や革新的なアイデアが生まれることも期待できる。
前出のSNS「Official-Alumni.com」を導入している電通では、アルムナイネットワークに約600人が登録しており、実際に異業種間でのネットワークが構築され、コラボレーションにつながっている。
電通のアルムナイで、経営コンサルティングを手掛ける株式会社ケント・チャップマンを起業した大久保祐介氏は、電通アルムナイネットワーク内で投稿された案件に応募し、鳥取県内の複数企業のビジネス戦略支援に携わっている。アルムナイネットワークのメリットについて大久保氏は「社員の時に知り合えなかった人と出会える点にもある」と語っている。
アルムナイネットワークを導入した日本企業の事例
次に、実際にアルムナイネットワークを構築している企業の事例をみていこう。
1. ヤフー株式会社「モトヤフ」
ヤフーには、退職した人材が所属する「モトヤフ」というアルムナイネットワークがある。同社を傘下にもつZホールディングス株式会社のオープンコラボレーションハブ「LODGE」のメンバー(現役社員)とモトヤフ生(退職者)が事務局を担当。現役社員とモトヤフ生との交流会やビジネスマッチングのイベントなどを開催している。
画像はヤフー株式会社のブログより
同社では、そうした交流により現役社員とモトヤフ生との間に生まれるコラボレーションや刺激を大切にしており、実際にモトヤフ生が起業したプロジェクトにヤフーの現役社員が副業で参画するケースも生まれている。
2. 富士通株式会社「FUJITSU Alumni Network」
富士通も「FUJITSU Alumni Network」というアルムナイネットワークを組織している。登録者には、同社の最新情報や求人情報、アルムナイ同士の親睦と交流の場が提供される。
画像は富士通株式会社のWebサイトより
また同社では「カムバック採用」も行っている。対象は育児や介護、配偶者の転勤などで退職した社員や、学業・転職などによるキャリアアップのために退職した社員で、一度退職してもまた同社で働くというキャリアパスを積極的に呼びかけている。
人手不足で注目される再雇用
最後に紹介した富士通のように、再雇用を積極的に行う企業も増加している。株式会社パーソル総合研究所の調査によると、従業員数5000名以上の企業の20.2%が再入社制度を設けていると回答しており、再雇用への関心が大企業で高いことがうかがえる。
こうした時流を受け、カムバック採用を支援するサービスも登場している。株式会社リクルートが運営する「Alumy(アルミ―)」は、退職者の情報を一元管理する退職者情報管理システムを提供し、退職者への案件紹介やヒアリングを行うカムバック採用代行サービスだ。
画像はAlumyのWebサイトより
同サービスは現在、実証実験を行っているところであり、実際に導入した日本郵政グループは、同サービスを活用することにより約5カ月で退職者協働プラットフォームを構築。退職者から多様な協働意向が寄せられているという。
人手不足を背景に転職市場は「売り手市場」となっており、人材流動性は今後さらに活発化していくことが予測される。労働人口減少を避けて通れない日本企業にとって、退職後も優秀な人材をつなぎ留め、再雇用も視野に入れたアルムナイネットワークは今後さらに重要性を増していきそうだ。