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2019年に日本で注目を集めたオフィストレンドは?注目記事を振り返る

今年多く読まれた記事を振り返り、2020年の日本のワークスペースの行方を推測する。

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師走も後半に入った働き方改革元年の2019年。Worker’s Resortでは今年も海外のトレンドを中心に働き方やワークプレイスに関する最新情報を発信してきた。今回は今年多く読まれた記事を振り返り、日本でどのような情報が注目を集めたのか、来年のトレンド予想も兼ねて見ていく。

フリーアドレスの浸透は進む

今年も多くの企業がオフィス移転や改装を行い、「フリーアドレス化」の文字をメディアなどで多く目にした。その影響もあったためか、昨年に引き続き今年も「オシャレで便利!女子が選ぶフリアドにおすすめ収納アイテム徹底比較」記事が多くの注目を浴びた。

オフィスの利用効率を高めるために導入されるフリーアドレスだが、実際のユーザーとなる従業員にとって一番気になるポイントはデスク周りの私物や小物をいかに上手に収納できるかにある。今まで固定席だった自席に多くの物を置いていた人ほどフリーアドレス化に合わせて断捨離を行いながら、個人に与えられた1ロッカー内ですべての物の収納を完結させる必要がある。物が少なく整理整頓が行き届いた環境を実現しやすいフリーアドレス化。せっかくならおしゃれな収納アイテムを知っておくと、オフィスを管理する総務側にとっても便利だろう。

ちなみに社員が誰一人として個人占有のデスクを持たない「完全フリーアドレス化」が近年日本で進んでいるが、従業員満足度を向上させる目的では要注意だ。社員間の交流を促す上では効果が期待できる完全フリーアドレス化だが、やはりオフィスに来た時に自分専用のデスクがあることを好むのが人間である。

AirbnbでReal Estateチームのシニア・プロジェクト・マネージャーを務めるティム・クラーク (Tim Clark) 氏によると、アメリカでも最も高い賃料のサンフランシスコ市内に広々とした本社を構える同社でも在宅勤務やリモートワーク制度があることからデスクのフリーアドレス化が検討されたが、従業員からの強い反対があり固定席を維持したという。Airbnbは従業員数以上のワークステーションを用意し、固定席とは別に作業できる空間も提供しているため、満足度を維持しながら自由な働き方の実現を可能にしている。フリーアドレス化を検討している企業はぜひ参考にしてほしい。

Airbnb本社の執務スペース

オフィスでも昼寝できる時代が到来

今年興味深かった点の1つが、オフィスでの昼寝文化に多くの関心が集まったこと。「増える「昼寝推奨」企業、アメリカ事例から現状を探る」記事や「昼寝を促す環境は健康経営の証 – 昼寝専用チェア「エナジーポッド」CEO取材」記事が大きく閲覧数を伸ばした。働き方改革の影響で生産性の向上、残業時間の短縮などで高い効率性が求められるようになったことで、人間の脳を短時間でリフレッシュさせるパワーナップが一気に注目を集めたと推察する。

今年筆者が訪問した企業の多くでは、既存の休憩室を昼寝部屋に転用する例や、オフィスの移転や改装で新たにナップルームをつくる例が見受けられた。「昼寝専用の部屋」と聞くと、小さいプライベートルームにベットが置かれると予想されるが、衛生的な観点からベッドよりもリラックスできるチェアを導入するケースが増えている。GoogleやFacebookのオフィスでよく見かけられる昼寝専用のイス「エナジーポッド」が今年日本にも上陸したが、もっと気軽に導入してみたい企業は市販のリラックスチェアをいくつか試して検討してみるのも良いだろう。

ちなみに海外ではパワーナップ用に30分から40分ほど仮眠室を提供するサービスが都市部に次々と誕生しており、そのような空間と睡眠を誘導するヨガや照明プログラムを提供するサービスも後を追うように生まれている。ワーカーのパワーナップが認められるようになった日本でも似たようなサービスが少しずつ街中で増えているのも読者の皆さんが目にするところだろう。もともとパワーナップ用の空間として欧米から高い関心を集めていたカプセルホテルが多い日本だからこそ、普及の可能性は大いに考えられる。

ウェルビーイングへの関心がオフィスに緑を増やす

社員の健康やウェルビーイングをテーマにオフィスをつくり変える企業が増えたのも今年の特徴の1つ。その結果は、オフィスのおける緑や植栽の増加という形で表れ、「ワークプレイスと自然の調和、バイオフィリックオフィス5事例」記事や「海外バイオフィリックオフィス事例:Segmentサンフランシスコ本社」記事に注目が集まった。

エドワード・ウィルソン教授が1980年代に提唱した「人間には生まれ持って自然とのつながりを 求める本能がある」という意のバイオフィリア理論。数十年にわたり人間におけるストレス軽減やリラックス、集中力向上といった効果の科学的研究の裏付けを積み重ね、2000年代からオフィスへの積極的導入が始まり、現在に至る。オフィスにおける緑の重要性は、いち早くバイオフィリックデザインのオフィスに巨額の投資を行ってきたGAFA企業の姿からも一目瞭然だろう。

Facebookがメンローパークに構えるオフィスビル・MPK 21の屋上には200本以上の木が植えられ公園を構成しており、またAppleの本社Apple Parkにはそれを上回る3,000本が植樹されている。さらに”植物園オフィス”として有名なAmazonの球体型ワークスペース・Amazon Spheresでは、同社のオフィス担当者が「現代の働く空間に足りないものは緑」とした上で、イギリスの王立植物園であるキューガーデンをオフィスで再現することをテーマに50ヶ国から40,000以上の植物を取り入れている。このGAFAのケースをはじめ多くの企業で緑は導入されており、日本にも「バイオフィリックデザイン」の波がたどり着いた。

FacebookのMPK21ビルの屋上ガーデン

日本でバイオフィリックデザインの実践を検討する際、オフィス担当者の多くがその科学的な効果に一番の興味を示す。しかし、アメリカ西海岸の企業が緑を取り入れる最大の理由は、実は科学的根拠よりも彼らが人材獲得戦略で狙うミレニアル世代が緑を好む傾向にあるからだ。現在の20代後半から40手前の人材はその前の世代よりもアウトドアやキャンプを好む傾向があり、自宅に緑を取り入れる人や園芸を始めた人の数が統計的に増えている(※1)。この傾向は日本の若者世代においても例外ではないように思う。

WELL認証もウェルビーイングには欠かせない

人間にとっていかに健康的な建物であるか、その認定を行うWELL認証への注目もウェルビーイングへの関心とともに年々高まっている。筆者が最近日本で参加したイベントでもWELL認証を知っている人の割合が去年に比べて圧倒的に増えたのはとても印象的だった。

つい最近までは、建物が環境にとってエコフレンドリーであるか、またサステイナブルであるかを認定するLEED認証が主流で、日本でも認定を受ける建物が現在多く存在している。しかし、WELL認証となると話は別で、日本国内でWELL認証を獲得したプロジェクトの数は2019年6月時点でたったの19。イギリスやアメリカでは1000を超えるプロジェクトがすでに認定を受けており、中国でも300以上のプロジェクトがWELL認証の合格基準を満たしている。人間の健康に配慮した建物・内装空間であることを証明する世界的認証の獲得に日本はまだまだ遅れを取っているという現状だ。

実のところ、日本では「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」」を認定する健康経営優良法人の認定取得の方に注目が集まっている。この流れが続いて世界基準でも健康的なオフィス環境が増えるために、WELL認証への関心も引き続き伸びることを願いたい。

健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【前編】
健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【後編】
【WELL認証を取るには?】ゴールド認定を受けたオフィス3事例

アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW) も日本で増えるか

家具メーカーのイトーキがABWの祖・Veldhoen+Companyのコンサルテーションのもと、日本初の本格的ABWのオフィスを構築してから今年12月で丸1年が経過した。この1年での「もっとよく知りたいABW、創設者Veldhoen + Company社の歴史と背景を探る」記事の閲覧数増加が表す通り、ABWに対する日本の注目度は飛躍的に上がった。

日本ではフリーアドレスとABWの違いが混同されることがまだ多々ある。詳しくは「ABWの導入はHackから」記事を読むとわかるが、要は均一のデスクを並べて席の選択肢を与えてもフリーアドレスを呼べるのに対し、空間ごとにグループ作業用や個人作業用のスペースを用意し、ワーカーが常に働く内容に合わせて空間の選択肢を複数持っている状態にすることがABWである。これを家に例えるとわかりやすいだろう。1つの家に複数のソファがに並べられて、寝るのも食事するのもどのソファを使っても良いとするのがフリーアドレスに対し、家にベッドや食卓が存在し自らの睡眠や飲食の行動に合わせて空間を自由に選べるのがABWである。

1つのデスクですべての作業を行うことに慣れている日本のワーカーにとって、作業内容に合わせて働く空間を選ぶという行動はまだ難易度が高い。その背景にあるのは、これまで日本人にとって働く空間が会社から「与えられるもの」だったからという点が1つに挙げられるだろう。与えられるものだからこそ、自分の好き嫌い、働きやすい・働きにくいは関係なく、そこで仕事を進めることが当然とされてきたことが今日本で従業員が求めるオフィスをつくりにくい理由にもなっている。社内でオフィス環境に対するアンケートを取ってみても、理想的なオフィス像よりも直して欲しい部分や文句が社員からあがることの方がよっぽど多いだろう。

GAFAのような海外の巨大テクノロジー企業やスタートアップ企業が大学キャンパスのようなオフィスを構築するのは、この事情を反映しているからでもある。これらの企業に入る優秀な学生たちは大学キャンパスという環境の中で直感的に自らが効率よく勉強できる環境を理解し、その中で作業を進める。企業側はこのようなキャンパス型のオフィスを構築してしまえば、社会人になった時に1つの空間で作業することを教育することなく、そのままベストなパフォーマンスを発揮するように促すことができる。

ABWを十分に考慮したオフィスが海外で従業員満足度が高く、かつ生産性の高い空間として注目を集めるのは、そのような背景があるからだ。実のところ、日本での浸透がどの程度進むのか不安であるが、この注目度の高さがどのような結果に繋がるのか期待したい。

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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