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「組織内よそ者」が企業組織をエンパワーする。人と人の関係を追求する編集者に聞く「編集思考」のキーポイント

企業組織も地域も人が協働する場なのだから、活発な地域コミュニティの作り方にこれからのワークプレイスづくりのヒントがあるのではないか? そのような仮説を胸にWorker's Resort編集部が訪ねたのは、小路を挟んで住宅が密集する東京・上池袋エリア。昔ながらの木造アパートに、まちを編集する出版社「千十一編集室」が拠点を構えています。文書や書籍の枠を超え、人や地域のつながりを編み出す新しいタイプの編集者の影山裕樹さんに、創造的なコミュニティづくりや「編集思考」のキーポイントなどについて伺いました。

Design, Culture, Research Community

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人と人の関係をつなぎ直し、まちを編集する

――影山さんが代表を務めている「千十一編集室」は“まちを編集する出版社”と銘打たれていますが、どのようなことを手掛けていらっしゃるのでしょうか?

影山 全国のさまざまな地域にあるローカルな文化やコミュニティに関わる本を自社で出版したり、メディアに関する研究・執筆、講演活動というのが、編集者として一番イメージしてもらいやすいと思います。情報発信に限らず、地域発のメディアやイベントのコンセプトを設計したり、ブランドを根づかせたりするコンサルティングのような仕事もしています。

――出版物に限定しない、より幅広い取り組みをされているのですね。本や文章の編集と地域のブランディングなどの取り組みには、どのような共通点があるのでしょうか?

影山 いいところを引き出してエンパワーする、つまり活力を与えるという点が共通しています。本の編集であれば、著者が本当に伝えたいことや魅力的なメッセージを引き出してどうすれば売れるかを考えるのが仕事ですし、地域の価値を引き出して発信し、内外の人に魅力を感じてもらえるようにすることもまた編集の仕事ですね。

そのためには人の話を聴いて、文化人類学者のように背景やストーリーを掘り下げていくことが重要になります。

――まちや地域の編集に携わるときに、どのようなことを意識されていますか?

影山 地域の本質を捉えてストーリー化していくのは「3次元の編集」なんですよ。2次元の平面に言葉などを載せた文章やウェブの記事を作るだけではなく、人と人のつながりや関係をつなぎ直す作業なんですね。

地域だと同じエリアに住んでいるというだけで、職業や年齢層や考え方が異なる人同士がいやでも顔を合わせなくてはならないわけですよね。そうすると仲のいい人同士で固まって、関係性が固定化しがちです。「異なるコミュニティをつなぐ」というのが会社のコンセプトなのですが、固定化した関係性の中によそ者として入り込むことで、分断されたコミュニティの間に橋を架けることを意識したプロジェクトづくりを心がけています。

橋が架かってお互いに対する理解やリスペクトが生まれると、一緒に何かをする土壌ができて、新しい発想やイノベーションが生まれるようになります。そのためにふさわしいメディアや場はどのようなものかを考えて企画するのが、地域での僕の仕事です。異質なコミュニティ同士をかき混ぜて、多様性を担保する仕事とも言えますね。

よいコミュニティには多様性とリスペクトがある

――「異なるコミュニティをつなぐ」というときの「コミュニティ」とはどのようなものでしょうか?

影山 いろいろな属性の人たちが同じ時間や場所、経験を共有していることが特徴です。地域ではさまざまな人がいやでも顔を合わせないといけないと先ほど話しましたが、異なる属性の人同士がある種暴力的に同じ空間にいるというのがコミュニティです。

同じ志向性を持つ集団の中にも、切り口を変えるといろいろな属性の人がいます。例えば、企業組織は共通のビジョンや業績目標を追っている集団で、その中には営業や総務といった部署がありますよね。部署の区切りはひとつの組織といえるのですが、切り口を変えると同期入社の人同士で部署を横断したコミュニティができていたりだとか、同じ趣味の人たちの集まりができていたりします。

同じ組織や地域の中にもいろいろと共通点のある人がいて、その塊がまるで泡のように重層的に重なり併存しているのが、コミュニティの特徴ですね。

影山さんの活動拠点である上池袋の木賃アパート「山田荘」

――コミュニティの中にも、いい状態のものとそうでないものがあるのでしょうか?

影山 あると思います。多様な人同士がお互いを尊重し合いながら協働できていて、ギリギリ対立しない状況にとどまっていることが健全な状態のひとつではないでしょうか。先に話したように、お互いへの理解とリスペクトがあると新しい取り組みやイノベーションが生まれやすくなります。

ところが、最近では都市に異質な人たちを受け入れる寛容さがなくなっているように感じます。例えば、最近の渋谷は買い物をするという目的がはっきりした人しかいられないような印象を受けます。逆の見方をすると、買い物をしない人は排斥されるような機能分化が進んでいるともいえますね。このような分化が進むと、例えば買い物客とホームレス、あるいは若者と高齢者といったように属性による分断がどんどん進み、その固定化された関係の中でコミュニティが同質化するようになります。

同質的な人同士で固まり、自分たちにとって都合の悪い人は見ないようにしたり排除したりする状態は、よい状態のコミュニティとはいえないと考えています。

異なるコミュニティをつなぐキーマンは「組織内よそ者」

――企業をさまざまな属性の人が同じ空間で仕事をする場と捉えたときに、お互いを尊重し合いながら協働できる状態を実現するには、どのような点が大切になるのでしょうか?

影山 やはり、異なるコミュニティの間に橋を架ける働きかけが重要になってくると思います。そのときに、とりあえずまぜこぜにして交流しましょうというやり方はあまりうまくいかないんですよね。

例えば営業部署の人と開発部署の人にいきなりコラボレーションしましょうと持ちかけても、普段の仕事や働き方も違うので互いの理解が生まれにくいです。そのようなときは、お互いが興味があることや、反対に両者ともに困っていることなどの共通点を見出していくことが、橋を架けるうえで有効になります。また、違う部署の人同士でも、「同い年」や「関わっている商品が一緒」といった、違う切り口での共通点を見出すことでも関係をつなぎやすくなります。

部署や上司・部下のような区切りは固定的なものではなく、いろいろな切り口で捉え直せるものだという視点は大切ですね。

――実際に地域に入って企画を行うときに、どのようなことを重視して実践されていますか?

影山 僕は基本的によそものとして入り込むことになるので、もちろん仲良くするための努力はするんですが、どこまでいっても地元の人として振る舞うことはできないんですよね。

そこは潔く割り切りつつ、「地域内よそ者」を見つけるようにしています。

例えば、その地域から都会の大学に進学し、社会人経験を経てキャリアやスキル、人脈を身につけてUターンしてきたような人ですね。この人たちは地元のルールをよくわかっているし、一方で外の世界のことも経験しているので、僕のような外部の人間の意見をうまく翻訳してくれるんですよ。

地元の人たちとも信頼関係があるので、僕が言うと反発が起きるようなことでも、その人が言うのならと理解してもらいやすくなります。このような両方の気持ちがわかる人がクライアントにいるとめちゃめちゃ仕事が速くなりますね。

企業の中でも、例えば開発部署から営業部署に異動してきたような人は、「組織内よそ者」として部署間に橋を架けるキーパーソンになるのではないでしょうか。

開かれたワークプレイスを「編集」するには

――企業組織でのコミュニティ間の橋渡しを促進するために、オフィスやワークプレイスにはどのような工夫ができるでしょうか?

影山 先ほど都市の話をしましたが、この場所ではこれをしなくてはならないという機能分化が進んだ場所は、窮屈でアイデアを出すには向いていませんし、同じ目的を持った人としか出会わなくなってしまいます。

誰がいても、何をしていてもとがめられない開放的な場が、都市にもオフィスにももっと必要なのではないでしょうか。

この編集室の近くにコミュニティスペース兼カフェがあって、そこに編集者としても関わっているのですが、もともと公園と地続きの“半屋外空間”を作って、地域の人をはじめ誰もが気を遣わずにいていい場所にしたかったんですよ。企業のオフィスでも屋上や屋外スペースのような場所を活用して、社内の人はもちろん、もっといえば地域の人や学生などが気軽に入ってきて接点を持てるような、いわば公園的な空間を設けるのはどうでしょうか。

異なる属性の人同士が接点を持ち、自由な発想からイノベーションが生まれやすくなると思います。

コミュニティスペース兼カフェ「くすのき荘」。写真右手に公園が隣接している

――オフィスや総務というとどうしても組織の内側に閉じるイメージがありますが、外に開くという考え方が大切なのですね。

影山 はい。オフィスで開かれた場を作るには、外部の人や組織内よそ者のような、ある種異質な人をあえて組み込む発想が重要になると思います。これは内外の人と人をいかにつなげていくかという極めて編集的な考え方なんですね。

ですから、コミュニティをつなぐという視点でワークプレイスを捉えると、組織の内外に目配りができることが重要になってきて、それは設備や備品の管理に限らないクリエイティブな役回りになるのだと思います。

――「よそ者」の視点を活かして、異なるコミュニティの人同士の共通点を見出したり、属性の切り口を変えたりして橋渡しをするのですね。オフィスマネージャーは単なる管理者ではなく、編集者のように創造性を発揮できる仕事なのだなと気づかされました。

影山 そうですね。僕自身は世の中のクリエイターのスキルが十分に活かされていないという課題意識を持っており、それこそ出版社でキャリアを積んだ編集者が、メディアや広報の仕事にとどまらず、働く環境づくりに関われるとよいのではないかと思います。

組織環境をクリエイティブに改善したいと考えるオフィスマネージャーがコラボ先の「よそ者」を必要としたときに、この人に依頼できたらいいなと思える選択肢に僕もなりたいですね。

地域でも企業組織でも、そこで活動する人に力を与える=エンパワーする役割の人がいます。地域であれば例えば行政の人だったり経営者だったりしますし、企業であればオフィスマネージャーや管理部門などの人ですね。そのようなエンパワーする立場の人をエンパワーできる存在が実はあまりいない。数値ではなく目に見えない“関係”を紡ぎ、そこからイノベーションのきっかけを生む人々。そういう“関係の編集者”が地域にも組織にも必要だと思いますね。

Text:Iori Egawa
Photo:Satoshi Nagare

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