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「服装自由化」にどう向き合うか。公務員出身イメージコンサルタントに聞く、ワークウェア最前線

オフィスカジュアルといってもどう着こなせばいいのか自信が持てない――。服装自由化が進む昨今、そんな悩める社会人は少なくないだろう。ワークウェアのあれこれを、イメージコンサルタントの古橋香織さんに伺った。

時代の移り変わりとともに変化する、働き方やワークウェア。スタートアップのトップがカジュアルスタイルでイベントに登壇し、大手企業でもスーツにネクタイのスタイルがもはやスタンダードではなくなってきています。今回、元東京都職員でイメージコンサルタントの古橋香織さんに、Worker’s Resort編集部の大前敬文がインタビュー。これまで、そしてこれからのワークウェアについて、さらに企業ブランディングとの関係について話を伺いました。

定義がふわっとしている、オフィスカジュアル

大前 今回、イメージコンサルタントという職種を初めて知ったのですが、その仕事内容を教えていただけますか?

古橋 イメージコンサルタントは、服装や立ち振る舞いなど、装い全般をはじめとしたアピアランス(外見)の力によって、対象の人が他者に示したいイメージを具現化していく仕事です。端的に言えば、「見た目の参謀」といったところでしょうか。

大前 前職で東京都職員だった古橋さんがなぜイメージコンサルタントに転身されたのでしょうか?

古橋 公務員とファッションって、全然結びつかないですよね(笑)。東京都職員のとき、東京都議会を運営する部署に異動になりまして・・・・・・。そのときに都議会議員の方からネクタイの色やスーツの着方などについて意見を求められることが増えたのです。

大前 それでファッションに興味が湧いて、学ばれたということですか?

古橋  はい。公務員として働きながら、ファッションはもちろん、提案の仕方やメイクなどについて半年から1年かけて学び、2020年1月に独立しました。元東京都職員というイメージコンサルタントはほとんどおらず、珍しい肩書きだからか自治体向けはもちろん、最近では民間企業からの研修の依頼をいただく機会が増えています。

大前 僕たちがこの記事を企画した段階でも、「そもそもオフィスカジュアルって何?」という議論がありました。例えば、企業が面接をする際、採用する側の人事と応募者の間でも「オフィスカジュアル」の認識には違いがあるはずです。ですから、単に「オフィスカジュアル」というだけでは、定義やルールがなくて服装はバラバラになってしまうのではないかと。

古橋 最近、民間企業や自治体で服装の自由化(ドレスコードフリー)が進んでいます。その結果、ワークウェアの選び方がより難しくなっています。これまでスーツを着ていれば取りあえず大丈夫だったのが、場所によってはスーツだと浮いてしまうことも。オフィスカジュアルの定義がふんわりとしていて、一般的な共通認識がまだ確立されていないからです。私はワークウェアを「普段着ではなく仕事用に手入れされた服」と定義しています。

イメージコンサルタントの古橋香織さん

スーツはもう古い? 流動的なワークウェアの概念

大前 僕が所属する会社には、いわゆるドレスコードはありません。ただ、なんとなく無地がいいかと思って選んでいる場合が多いですね。でも「プリントTシャツもありかな?」と思ったりもします。日本での「ワークウェア=スーツ」という考え方はいつごろから始まったのでしょうか?

古橋 おそらく高度成長期ぐらいだと思います。背広をビシッと着て通勤することに価値を見出すような風潮がありました。でも最近では、そうした価値観は崩壊しつつあります。逆にスーツで働きたくないという人が増えてきています。ワークウェアの概念は流動的です。

大前 流動的というキーワードが出てきましたが、ファッション業界では毎年、流行色が出ますよね。あれはどうやって決まっているのですか?

古橋 国際流行色委員会(International Commission for Color)がトレンドの色を決めます。流行色が決まると、その情報がハイブランド、一般的なブランドへと流れていき、私たちが手に取る服に反映されるわけです。色はもちろん、デザインや着こなしなども、川上で人為的に生み出されたものを私たちが享受するという形でトレンドはつくられています。

大前 時代が変わってもその流れは変わらないのでしょうか?

古橋 最近ではSNSが普及したことで、インフルエンサーが着ている服が流行することもあります。そんな自然発生的なトレンドなど、状況は少し変わってきていますね。

Worker’s Resort編集部の大前敬文。カラーチャートでワークウェアの基本を教えてもらった

ワークウェアに欠かせぬ3要素――①似合う②TPO③着心地

大前 服装自由化が進められていくなかで、企業が対応すべきことはありますか?

古橋 服装自由化に関する方針や考え方を共有している企業は、比較的うまくいっているようです。例えば、服装自由化の目的や意図、最低限のルールなどを言語化して共有するといったことです。企業はもちろん自治体もそうなのですが、接客業でない限り、身だしなみの研修は行わないですからね。

大前 確かに身だしなみについての研修はないかもしれませんね。

古橋 身だしなみのあり方も時代の流れに応じて変わるので、服装自由化にあたってチェックリストを配布し、各社員に自らの現状を認識してもらうのもいいかもしれません。企業にとっては手間かもしれませんが、共通認識があるかないかで後々の総務業務の負荷は変わるはずです。なお、私が提案するワークウェアは、次の3本柱で構築されています。

  1. ファッションに自信がなくても自分に似合うと思えるもの
  2. TPOや仕事内容にふさわしいもの
  3. 着心地のいいもの

1~3でそれぞれ丸を描いたとき、真ん中を射抜けるようなスタイルを目指して提案するようにしています。

服装の「守破離」。自らのたたずまいに責任を

大前 次に経営者目線で企業ブランディングや人材採用を視野に入れた場合、ワークウェアに関して気をつけるべきことはありますか?

古橋 企業規模によって異なりますが、伝統的な企業の場合は、既にブランディングが確立されているので、ワークウェアへの対応はそこまで喫緊の課題ではないかもしれません。一方、スタートアップの場合は、創造性を発揮していくというポジショニングや、フットワークの軽さを表現することなどから、カジュアルなスタイルをあえて選ぶケースもあります。いずれにしても経営者は装いだけでなく、会社のあり方や社会からどう認知されたいかなどについて、社員に共有することが大切ではないでしょうか。

イメージの共有がないと、社員によっては「社長がああいうスタイルだからこれでいいだろう」などとなりかねません。でも社長の場合、個性が確立し、独自のスタイルをつくり上げている人が少なくありません。ですから、一般社員が真似ても同じ印象になるかというと難しいのが現実です。

それに服装には「守破離(しゅはり)」があると思っています。若い社員の場合、社会人としての基礎固めの時期に服装で個性を立たせようというのは、ちょっと違いますよね。

大前 もう少し詳しく「守破離」について教えていただけますか?

古橋 一般的に仕事をするとき、基本の型があって、それを身につけた後に自分なりにアレンジを加えていきますよね。それと同じように服装にも守破離があります。いきなり個性全開にするのではなく、まずは身だしなみの基礎を固めてからアレンジをしていくのがいいのではないでしょうか。服装自由化は、自らのたたずまいに責任を負うこともセットになりますから。

大前 「服装が自由だ!」と喜ぶだけでは、落とし穴にハマってしまうということですね。それに確かに基礎がないとアレンジしていくのも難しそうです。

服装とは「相手への敬意を示すもの」

古橋 ファッションは自己表現の一面がありますが、仕事に適さない服装の社員を注意したのに、その人が服装を正さずに会社に不利益を与えてしまった場合、労働法上でもNGです。

大前 労働法に触れてしまうということですか?

古橋 労働法上、労働者の身だしなみについての基準は、業務遂行上の必要性が認められる場合に拘束力を持つとみなされています。一方で、労働者側にも自己決定権や表現の自由が保障される必要があるため、自由を過度に侵害してはいけません。さまざまな権利が絡み合う複雑な領域なのです。

とはいえ、企業はワークウェアについて社員に手取り足取り指導するわけではありません。ですから、服装自由化になったら、自分自身でTPOをわきまえるようにしたり、素敵だと思う先輩の服装を真似たりするなどして、情報収集をしていく必要があります。これからの時代、何を着るかということを含めてアウトプットする力が求められますから。

大前 社員みんなが考える力を持つべきなのですね・・・・・・。もしくは企業がワークウェアを考えるきっかけになるような機会を社員に提供していくといいのかもしれませんね。そのほかに、ワークウェアを選ぶうえで大切にすべきことはありますか?

古橋 「服装は相手への敬意を示すもの」という視点ですね。もう1つは、先述しましたが、何を着るかに個々が責任を問われるようになったということです。それらの視点が欠けると、楽な服装に流れていってしまいますので、企業は周知を徹底することが重要になります。

大前 なるほど。相手への敬意、それは大事な考え方ですね。

古橋 「ワークウェア=気分を切り替えるためのスイッチアイテム」ということも、うまく利用していただきたいです。私は仕事をするときに必ずメイクをします。メイクで仕事のスイッチを入れるのです。一方で、メイクをする気力がないときは、気持ちに余裕がないときと自覚もできます。メイクは心のバロメーターにもなっています。

大前 メイクで仕事モードにもなるし、自分の体調もわかるということですね。

古橋 厚生労働省のWebサイトでも、メンタルヘルスの状態が悪くなると身だしなみに気が使えなくなるという記述があります。身だしなみを見るだけで、社員の心の状態まである程度わかるということです。

ワークウェアは本当にいろいろな論点があって奥深いものです。ですから、企業はワークウェアを経営の重要な要素と認識して、積極的に対応していってほしいと思っています。

この記事を書いた人:Noriko Matsuba