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オフィス回帰は時代遅れ? アマゾンの出社義務化を巡り賛否の声

米アマゾンが今年9月に発表した、週5日出社を義務づける方針が波紋を呼んでいる。オフィス回帰をめぐる賛否両論には、双方に根拠があるようだ。

今年に入り、社員にオフィス勤務の再開を求める気運が広がりつつある。さらに北半球の国々では、日増しに日が短くなる秋の訪れとともに、出社義務化の動きに弾みがついている。

その流れを作ったのは、アマゾン。アンディ・ジャシーCEOは全社員に来年1月からフルタイムのオフィス復帰を求め、週5日出社を義務づける方針を示した。ジャシー氏の言葉を借りれば、同社は「コロナ禍前のような勤務体制に戻る」ことになる。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に浸透した柔軟な働き方を元に戻す決断をした企業は少なくない。アマゾンは、先に出社義務化を打ち出した英ドラッグストアチェーンのブーツや、ゴールドマン・サックスと同様、方針を厳格化しようとしている。ただ、ルール変更の衝撃を和らげるためか、ジャシー氏はスタッフ宛の文書で、新勤務体制でも全員にオフィス内のデスクを確保すると約束した。

テック企業のズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom)は、自社開発のWeb会議ツールにより何百万人もの人々の在宅勤務を可能にした。ハイブリッドワーク時代の進展を支えてきた同社は、意外にもオフィスでの対面による協業の重要性を訴えており、本社から半径50マイル(約80 km)以内に居住する社員に、少なくとも週2日出社するよう求めている。同社の最高製品責任者、スミタ・ハシーム氏は、8月15日付のBBCの記事によると「顧客企業がオフィスに復帰するなら、わが社もそれに倣う」と述べたという。

転職の動き――アマゾン、スタッフ30%が離職の可能性

今、従業員にオフィス勤務再開を強制する企業に対し、予想通り反発の声が上がっている。旧Twitter(現X)の欧州部門バイスプレジデントで企業文化の専門家として英国で活動中のブルース・デイズリー氏は、アマゾンの新方針の影響で「以前より若い社員の割合が増え、白人と男性が多くを占める組織が生まれる」と予想し、出社義務化が、職場における多様な人材活躍の阻害要因となる可能性を示唆した。

デイズリー氏は、米スタンフォード大学のニック・ブルーム教授の見解を引用し、「新ルール導入の決定により、アマゾンスタッフの30%が離職するおそれがある」と述べている。アマゾンで働くある中間管理職は、デイズリー氏にこう語ったという。「われわれの大半が、明日からすぐにでも働ける職場を探していると言っていい」

組織心理学の権威で「プレゼンティーズム(presenteeism)」(従業員が心身の不調により生産性が低下している状態)という造語を考案した英マンチェスター大学のケリー・クーパー教授は、アマゾンを含め、コロナ禍前と同様の出社勤務を強制する雇用主に批判的だ。The Guardian掲載の記事でクーパー教授は、そうした企業のCEOたちを「時代の変化に取り残された恐竜」と形容した。同教授によると、雇用主に尊重され信頼されていると感じている社員はパフォーマンスが上がり、会社への忠誠心を維持し、ストレスに起因する疾患にかかりにくい傾向があるという。

今年7月に発足した英国の労働党政権も同意見のようで、ビジネス貿易相のジョナサン・レイノルズ氏はThe Timesの取材に応え、「フレックス勤務により生産性が高く忠誠心が強い従業員が生まれる」と述べた。スターマー政権が10月10日、雇用法改正案として提出した「雇用権利法案」には、時間外の業務連絡を制限する「つながらない権利(right to ‘disconnect’」や、1週間の所定労働時間は変えずに就業日数を減らす勤務形態など、労働者の権利拡大が盛り込まれている。英国ではすでに、今年4月に施行された雇用関係法で、労働者が入社初日からフレックス勤務を申請する権利が保障されている。

オフィス回帰――出社は週3.5日に

政府の労働政策の変化にもかかわらず、企業間ではオフィス勤務の再開に向けた動きがさらに進む可能性がある。WORKTECH Academy会員・パートナー限定コンテンツの最新レポート(2024年第3四半期動向レポート)はマッキンゼーのヤン・ミシュケ氏の発言を引用し「ハイブリッド勤務時代の今、オフィス出社日数は世界平均で週3.5日になった」と報告している。

The Economistの9月12日付の記事は、出社勤務について、物理的な距離の近さをうまく活用すればメリットが生まれると述べている。さまざまな学術研究の結果、明らかになったメリットとしては、労働生産性の向上のほか、現場でのきめ細かな対応や、メンタリングによる人材育成の効果などが挙げられる。

「企業がオフィス回帰をどこまで推進すべきか、結論は出ていない」

「旧来の勤務形態」対「多様性の促進」の議論において、企業がオフィス回帰をどこまで推進すべきかについてはまだ結論が出ていない。業務の一部で在宅勤務の選択権を保障する法改正が進むなか、従業員から柔軟な働き方を奪う出社勤務の強制はリスクがあると指摘する専門家もいる。一方、ジャシーCEO率いるアマゾンのように強気の姿勢でフルタイムの出社勤務に踏み切る企業もあり、触発されて追随する大企業も出てくるだろう。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生からまもなく5年が経とうとしている。ひとつ確かなのは、ハイブリッド勤務のあり方をめぐる合意形成への道のりは、まだまだ遠いということだ。


※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「Should the back-to-the-office brigade be branded as dinosaurs?」を翻訳したものです。

この記事を書いた人:Jeremy Myerson