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グリーン・スキルは、職場から。オフィスで実践できる、食品廃棄物の再利用

職場で実践できるサステナブルな取り組みの一つに、食品廃棄物対策がある。欧米を中心に注目が集まる「グリーン・スキル」の一例として、海外事例も交えて紹介する。

企業のサステナビリティーへの意識は高まる一方、具体的なアクションにどう落とし込むかは悩みどころ。そんななか、欧米を中心に、持続可能で資源効率の高い社会を実現するための知識や能力、価値観などを意味する「グリーン・スキル」に注目が集まっている。企業の総務やオフィスマネージャーが現場ですぐに実践できることはないか――。本記事では、グリーン・スキルの実践例として、職場での食品廃棄物に焦点を当て、サステナビリティーにつながる具体的な取り組みを海外企業の事例も交えて紹介する。

食料不足に苦しむ人々と、毎日捨てられる10億食

食品廃棄物は世界的に見ても深刻な問題だ。国連環境計画(UNEP)が発表した食品廃棄指標報告2024によれば、人類の約3分の1が食料不足に苦しむなか、毎日10億食分に相当する食料が毎日、廃棄されているという。2017年度以降、日本での食品ロス*¹は減少傾向にあるものの、2022年度には依然として年間427万トンの食品が廃棄されている。この量は、世界中で飢餓に苦しむ人々への年間食料支援量(2022年で年間480万トン)とほぼ同等だ。

オフィスでも、さまざまなシチュエーションで食品廃棄物が発生する。社員食堂での調理過程や残飯、会議やイベントで提供されるケータリングの余り、個々の社員が持ち込む昼食やおやつの食べ残しなどがその例だ。また、賞味期限が過ぎた備蓄食品や、自動販売機の売れ残りも考慮すると、日々膨大な量の食品がオフィスで廃棄されていることが想像できるだろう。

食品廃棄物の再利用がもたらすプラスの効果

オフィスにおける食品廃棄物の再利用は、単なる環境保護だけでなく、企業にとって経済的、社会的、そして労働環境の面でメリットをもたらしてくれる。

まず、食品廃棄物の適切な管理は、衛生環境の向上に寄与する。悪臭や害虫の発生源となり得る廃棄物を適切に管理し、再利用することで、職場の清潔を保ち、従業員の健康と安全を守る役割を果たすことができる。

食品廃棄物の再利用は、企業の社会的責任(CSR)を実践する手段としても効果的だ。環境に配慮した取り組みを行うことで、企業のイメージアップや従業員のモチベーション向上に寄与することができ、特に若い世代の社員にとって、環境保護への取り組みは企業に対する信頼や誇りを感じる要素となり得るだろう。

ほかにも、余剰食料の有効活用は、社員食堂をもつ企業にとって、資源の無駄遣いを防ぐとともにコスト削減の効果も期待できるだろう。

オフィスで実践できる食品廃棄物の再利用法

UNEPでは、「食品廃棄物(食品ロス)の問題の解決策はとてもシンプル。食べものを無駄にせず、捨てないようにすること」と述べられている。適切に管理して廃棄量を減らしつつ、再利用することが重要となる。では、オフィスでできる食品廃棄物の再利用には、どのような方法があるだろうか。

1. 気軽に始められる、社内のフードシェアリング

はじめに、特別な設備や高度な技術を必要とせず、実施が簡単な方法として、オフィスでのフードシェアリング(食品の再分配)を提案したい。この方法は、例えば、会議やイベント後に余った食品を社員食堂や共有スペースに置くだけなので、コストも時間もかからず、気軽に取り組める。

無料で食品を享受できる機会は、従業員にとって自社の福利厚生に対する満足感を高め、モチベーションが上がる要素となる。また、共有スペースでの食品シェアがきっかけとなり、自然と会話が生まれ、社員同士のコミュニケーションの促進も期待できる。企業規模にかかわらず取り組めるフードシェアリングは、単なる資源管理の手段を超えて、オフィス全体の持続可能性へのコミットメントを示す一歩としておすすめだ。

2. コンポストが育む、サステナブルな循環

「コンポスト」とは、生ごみや落ち葉などの有機物を、微生物の働きにより発酵・分解してつくられる堆肥を指す。それら有機物を分解してコンポストをつくる過程をコンポスト化(堆肥化)と呼び、食品廃棄物が肥料に生まれ変わる持続可能なアプローチの一つだ。

米ワシントンD.C発のウェブデザイン会社Vigetでは、2015年から3箇所のオフィス全てでコンポストをオフィスライフの一部に導入する取り組みを開始した。視覚的に目立つよう、キッチンやカフェエリアの中央に専用のコンポストビンを設置し、堆肥化可能な有機廃棄物とそれ以外の廃棄物を分けるサインを掲示。毎週金曜日の全社ランチでは、コンポスト可能な食品についての情報を繰り返し共有することで、数週間後にはほとんどの従業員がコンポストを実践する習慣を身につけることができたという。

近年、アメリカの一部の州やフランスでは、家庭や事業者で排出される食品廃棄物のコンポスト化が義務化されている。日本国内でも、自治体が主体となりコンポスト専用の施設を整備したり、オフィスや家庭で手軽に使えるコンポスター(堆肥をつくる容器や装置)が普及している。コンポストを導入することで、食品廃棄物の再利用や削減にとどまらず、栄養豊富な堆肥をオフィスの庭園や植栽、さらには社員の家庭菜園に活用することもできる。

より身近となったコンポストツールを活用し、社員とともに持続可能な資源活用に取り組んでみるのはいかがだろうか。

3. フードバンクに寄付し、食品ロスを減らす

食品廃棄物、特に食品ロスの社会的に有益な活用策として挙げられるのが、フードバンク*²やチャリティー団体への食品寄付だ。例えば、社員食堂で余った食材やイベント後の残り物など、まだ食べられる食品を専用のコンテナや収集ポイントに寄付し、これらを地元や提携先のフードバンクに提供する。さらに、食品の保存方法や搬送スケジュールの調整を通じて食品の質と安全性を確保しつつ、持続的な支援を実現することで、受け手のニーズに適切に応えることができるだろう。

アメリカ最大の飢餓救済団体Feeding Americaは、GoogleやAmazonなどの大手企業から地元密着のローカル企業まで、全米200以上のフードバンクネットワークをもつ。例えば、アメリカの大手スーパーTargetはFeeding Americaとの提携を20年以上続けており、オフィスや店舗からの余剰食品を定期的に寄付している。2022年には8,500万食以上の食事を提供し、災害時の備蓄食料や飢餓に苦しむ家庭を支援している。

日本ではお中元やお歳暮といった文化があるが、せっかく頂いたものを倉庫に保管したまま、ということもあるだろう。そんなときは、フードバンクやチャリティー団体への寄付を検討してみてはいかがだろうか。地域社会との協力関係を強化するとともに、食糧不安や災害時の支援に寄与し、企業の社会的責任を具体的に実践できるだろう。

食品廃棄物対策、社員の意識向上がカギ

オフィスにおける食品廃棄物の再利用には、社員一人ひとりの意識向上が不可欠だ。例えば、教育プログラムやワークショップを通じて、食品廃棄物の現状や環境影響に関するデータを共有したり、どのように食品廃棄物の再利用に貢献できるかを考える機会を設けたりすることで、問題意識を高めることができる。また、食品廃棄物を再利用するための新しいアイデアの提案や実質的な廃棄物削減の達成、教育・啓発活動の推進、コミュニティとの連携活動など、積極的な社員の姿勢を評価することで、さらなるモチベーションアップが期待できるだろう。

社員全体の意識を高めることで、日常の業務の中での食品廃棄物削減を習慣化し、持続可能なオフィス環境への一歩を踏み出してはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri