世界のZ世代が重視する企業の「グリーン貢献度」と「グリーン手当」
欧米のZ世代の若者には、就職活動の際に企業の持続可能性への貢献度を重視する傾向がある。これに対し企業が導入を始めている「グリーン手当」や「グリーン雇用契約」について紹介する。
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高まるZ世代の影響力
これからの社会を支え、ビジネスを担っていくのは「Z世代」だと言われている。Z世代とは、1996年から2010年の間に生まれた世代を指す。日本は少子高齢化の影響でZ世代の割合が多くはないが、マッキンゼーアンドカンパニーのレポートによると、2025年までにアジア太平洋地域の人口の4分の1をZ世代が占めることになるという。彼らの価値観や趣味嗜好を無視できない世の中になっていくのだ。
同レポートでは、Z世代は環境問題への意識が高く、将来の気候変動に対して不安を抱えていると指摘している。そんな彼らの環境意識は、就職活動にも反映されている。本記事では、世界のさまざまな調査からZ世代の傾向を読み解き、海外の企業が人材獲得のために始めている「グリーン手当」や「グリーン雇用契約」について紹介する。
Z世代の優先事項とは?
昨今の複数の研究から、欧米の若者が就職先を選ぶ際に持続可能性を重要視する傾向にあることがわかっている。2022年に欧州投資銀行が行った調査では、欧州の20~29歳の若者の76%が「将来の雇用主が持続可能性を優先することが重要である」と回答している。
さらに、雇用主が持続可能性を優先しているかどうかが企業を選ぶ際の「最優先事項」になると述べた若者は22%にのぼる。福利厚生などの自分が恩恵を受けられる条件よりも、企業の環境意識を重要視する若者が2割を超えるということだ。
驚いたことに、この傾向は求職者の政治的志向や所得レベルに関係なくみられるのだという。それほどまでに欧州では浸透した考え方になっているのだ。
また、企業が環境に貢献するなら、給与が低くなるのもいとわないという層も存在する。アメリカのイェール大学が2022年に行った調査によると、世界のビジネススクールに通う学生2035人のうち半数以上(51%)が、「企業が環境に配慮していれば、給与が安くても受け入れる」と答えている。さらに、回答者の26%は「環境に悪影響を及ぼす活動を行っている企業での仕事は受け入れない」と回答していた。
これからの時代、優秀な若者を採用するためには、給与のみならず自社の環境活動を顧みる必要があるといえるだろう。
グリーン貢献度次第では転職も
ベルギーのHR(人的資源)サービス会社・アセルタが2022年に2000人以上の従業員を対象に行った調査では、前述の欧州投資銀行の調査同様、従業員の61%が「気候変動に関する方針の有無が就職活動の際に新しい雇用主の選択に影響を与える」と回答している。
そして79%もの人が、「自分が勤めている会社が気候変動に対して行動を起こすことが非常に重要である」と回答していた。驚くのは、従業員の5人に1人近くが「雇用主が気候変動対策をまったく行わないか、不十分な場合には会社を辞める用意がある」との意向を示したことである。既に働いている企業であっても、グリーン貢献度いかんで見切りをつけられてしまう可能性があるということになる。
イギリスで企業のネットゼロ達成サポートを手がけるスーパークリティカルが会社員2000人を対象に行った調査でも、「雇用主が二酸化炭素排出量の削減のための努力をしなければ退職を検討する」と35%が回答していた。
上記2つのアンケートは若者世代に限ったものではないが、環境問題に敏感なZ世代ではより一層その傾向が強まることが考えられる。優秀な従業員を確保できたとしても、転職を回避するためには企業の環境への姿勢が重要なのだ。
欧州で導入の進む「グリーン手当」
では、具体的にどのようなことに取り組めばグリーン貢献度が高い企業と認識されるのだろうか。欧州には、「グリーン手当」といわれる新たな制度が生まれている。例えば、そのひとつが「自転車手当」だ。二酸化炭素を排出しない移動手段である自転車での通勤を奨励するための施策である。
ドイツやベルギー、オランダには「自転車手当」という税制が存在する。これは雇用主が通勤のすべて、または一部を自転車で行う従業員に支給するキロメートル手当だ。ベルギーでは、走行距離1kmあたり0.25ユーロまでの自転車手当が非課税となっている。オランダでは1kmあたり0.21ユーロまでが非課税だ。
企業によっては、独自にそれ以上の自転車手当を支給しているところもある。オランダ放送協会(NOS)はオランダの大手通信会社KPNが2023年6月、自転車1kmあたり40ユーロセントを受け取ることができる新制度を発表したと報じている。
これはマイカー利用者が受け取るよりも、1kmあたり17ユーロセント多い額であり、同社はこの制度と自転車リースを組み合わせて、従業員の自動車から自転車への乗り換えを促したい考えだ。
「グリーン雇用契約」が登場
オランダではさらに、グリーン手当を雇用条件に明示した「グリーン雇用契約」も登場している。これは弁護士のサバンナ・クーメン氏と彼女の事務所・パトローンリーガルデザインが2021年12月に発表した雇用契約モデルだ。オランダの現在の労働基準法に抵触しない範囲で可能な限りのグリーン手当が盛り込まれている。一部の例を以下に挙げてみる。
・(飛行機や自家用車ではなく)電車や自転車を利用して旅行に出かける場合、休日手当が8%から8.2%になる
・電車や自転車を利用して旅行に出かける場合、2日間の追加休暇を取得できる
・環境のためのボランティア活動やデモに参加するために年間1日の追加休暇を取得できる
・残業するごとに、木を1本植える
グリーン雇用契約の条件を視覚化したタームシート。契約の要点を箇条きにしたもの(画像はパトローンリーガルデザインのInstagramより)
このように、グリーン手当を盛り込んだ労働協約を締結する企業は増えてきており、例えば、保険会社のアクメアは、2023年から全従業員(約1万2000人)に2500ユーロの気候変動対策予算を年に一度支給するグリーン労働協約を締結したとオランダの大手メディアRTL.nlが伝えている。
従業員はその予算を持続可能性に貢献する製品やサービスに使用できる。例えば、自宅への断熱材の導入、エネルギー効率の高い洗濯機や通勤用の自転車の購入などで、用途は従業員自身で決められる。こうした魅力的なグリーン手当は、環境意識の高い従業員をひきつけることだろう。
雇用条件にサステナブルの要素が欠かせない時代に
オランダ最大の雇用主ネットワークであるAWVNが、344人の雇用主を対象に行ったアンケートによると、ほぼ半数の雇用主が「既に自社の雇用条件の一部をよりサステナブルなものにした」と回答している。そして36%が「これから雇用条件をよりサステナブルなものにしたい」と答えている。
オランダではすでに多くの雇用主が、人材獲得の戦略として、環境に配慮した雇用条件が欠かせないものと理解しているのだろう。今後、オランダのみならず欧州においてこの傾向は続くと筆者は予想している。日本でこうしたグリーン手当を先駆けて導入すれば、若者世代をひきつけるアピールポイントになるのではないだろうか。