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クリエイティビティを刺激する、海外の個性的なオフィス5選

企業間の競争が激化するなか、「クリエイティビティ(創造性)」が重要なキーワードとなっている。本記事では従業員のクリエイティビティを刺激する、海外の個性的なオフィスを紹介する。

Z世代ほどクリエイティビティにオフィスデザインを重視している

企業のイノベーションへの取り組みが活発化するなか、「クリエイティビティ(創造性)」が企業間競争における差別化の重要なキーワードとなっている。

アメリカのオフィスデザイン会社Steelcaseでは、世界6ヵ国のワーカー4802人を対象に、職場における「創造性」に関する意識調査を行っており、それによると74%のワーカーが、職場において毎日または週1回は「創造性」を求められていると回答している。

また同調査では、創造性への障壁となっているものについて、「組織のプロセス(37%)」、「仕事量(36%)」、「テクノロジー(20%)」、「スペース(20%)」が回答を集めていた。

これには世代による差がみられ、最も多い回答が、Y世代(21-~35歳)とZ世代(18-20歳)は「仕事量」、X世代(37~52歳)とベビーブーマー(53~69歳)では「組織のプロセス」であった。さらにZ世代では「組織のプロセス」と同等に、職場での「スペース」を問題としていることもわかった。これは、若年層にとって職場の空間デザインが創造性にとって重要な要素であることを意味している。

では、クリエイティビティを刺激するようなオフィスとは、どのようなデザインを指すのだろうか。その明確な答えはないが、従来の「よくあるオフィスデザイン」は、創造性を刺激するには退屈すぎるだろうということは想像がつく。

そこで本記事では、クリエイティビティを刺激するような、一見すると「オフィスらしくない」海外の個性的なオフィスを紹介したい。

海外の個性的なオフィス5選

1. LEGO(デンマーク/ビルン)

世界的に有名なブロック玩具「レゴブロック」を製造するLEGO。同社はデンマーク発祥であり、今でも本社はデンマークのビルン(Billund)に置かれている。そのビルン本社が5年間の計画と建設を経て2022年に新しい姿に生まれ変わった

新社屋の外観はレゴブロックを連想させる斬新なデザイン(画像はLEGOのWebサイトより)

LEGO Campusと呼ばれるビルン本社では、エントランスや階段など多くの人が利用するスペースにレゴブロックの世界観をそのまま踏襲したデザインを採用。レゴブロックのようにカラフルで、おもちゃ箱の中に迷い込んだかのようなワクワクする造りになっている。

レゴブロックカラーのらせん階段
おもちゃ箱の中のようなホール(画像はすべてLEGOのWebサイトより)

一方で、落ち着いた執務スペースや打ち合わせスペースはぐっとシックなデザインになっている。それでも随所にLEGOらしいエッセンスも忘れていない。

落ち着いたデザインの執務エリアにも随所にレゴブロックが飾られている(画像はLEGOのWebサイトより)

自社の製品を連想させるデザインと、集中を促すシンプルな執務エリア。ところどころちりばめられた遊び心が、このLEGO Campusの特徴といえる。

2. Inventionland(アメリカ/ピッツバーグ)

アメリカのピッツバーグにある「Inventionland(インベンションランド)」のオフィスは、「オフィス」の概念を根底からくつがえすようなデザインだ。発明家支援や教育事業を行うこの会社は、年間2000件以上のアイテムを発明し、3日ごとに1つの新製品の特許を取得している。この数字を見ただけで、どれだけクリエイティビティに富んだ企業なのかが想像できるだろう。

まるでテーマパークのようなオフィス(画像はInventionlandのFacebookより)

このオフィスは「ディズニーワールドのようなオフィス」として知られ、6万平方フィート(約5574平方メートル)の広大な施設にアトラクションのような16のセットがデザインされている。

セットは、お菓子の家に海賊船、サーキット場、城、巨大靴など、まるでおとぎ話の世界に迷い込んでしまったかのようなデザインだ。これは創業者の「最高の作品は遊び心から生まれる」というモットーからきているという。

メルヘンな雰囲気のお菓子の家の中にデスクが見える
サメのいる海で難破した海賊船がテーマのセット
サーキット場を模したセットでは自動車製品の開発が行われている(画像はすべてInventionlandのWebサイトより)

楽しく創造的なデコレーションだけでなく、施設には最先端のサウンド・映像設備を整えたスタジオや、試作品づくりための作業スペースなども完備されている。

面白いのが、同社の従業員は「クリエイショニア(Creationeer)」という、クリエイションとエンジニアを合わせた造語で呼ばれており、白衣を着用しているところ。これもまたオフィスらしくない、クリエイティビティを刺激する演出といえそうだ。

3. DUTCH CHARITY LOTTERIES(オランダ/アムステルダム)

オランダの首都アムステルダムで見つけたのは、子ども時代に誰もが一度は憧れたであろうツリーハウスを思わせる、「DUTCH CHARITY LOTTERIES」(慈善宝くじ運営会社)のオフィスだ。

ぶどう棚のような外観
広々とした吹き抜けのホール(画像はすべてBenthem Crouwel ArchitectsのWebサイトより)

思わず目を奪われる美しいキャノピー(天蓋)は、木の幹のような柱で支えられている。天井は磨かれたアルミニウムの「葉」で覆われており、直射日光を分散させ、壁や床に木漏れ日のような光を写しだす。

建物をデザインした「Benthem Crouwel Architects」によると、建物の中を歩く場所や時間によって、色や光の強さ、雰囲気が変わるのだという。こんなオフィスなら、長時間滞在しても新鮮な気持ちで作業ができそうだ。

キャノピーからの自然光が差し込むツリーハウスのようなワークスペース(画像はBenthem Crouwel ArchitectsのWebサイトより)

建物の中に居ながら、森の散歩を楽しんでいるかのような気分になれる。ここなら子どものように自由な発想が生まれるのではないだろうか。

4. Crunchyroll (アメリカ/サンフランシスコ)

続いては、まるで東京の路地裏にいるような錯覚をおぼえるオフィスを紹介しよう。アメリカのサンフランシスコにあるアニメ配信大手の「Crunchyroll(クランチロール)」の本社である。

日本のアニメを数多く配信するCrunchyrollでは、オフィスを構築する際に、日本にインスパイアされた空間を特徴とすることを決め、没入型の空間づくりを得意とするMuse & Co.にオフィスデザインを依頼した。依頼を受けたMuse & Co.は、「日本の文化、建築、スタイルに浸らなければ、本物の日本体験を生み出すことはできない」と考え、準備のために日本へ視察に訪れたのだという。

東京の路地裏を思わせるオフィス
まるで日本の飲み屋街のようなリフレッシュスペース
ゲームセンターのようなプレイエリア(画像はすべてMuse & Co.のWebサイトより)

8万平方フィート(約7432平方メートル)の広大なスペースは4フロアに分けられ、1階が日本の雰囲気を体験できるフロアとなっており、上層階には落ち着いたワークスペースや会議室が用意されている。

落ち着いた雰囲気のワークスペース(画像はMuse & Co.のWebサイトより)

アニメの聖地ともいえる日本を再現した遊び心あるエリアで刺激を受け、作業は落ち着いた空間で集中して行える。アニメの仕事に携わる従業員にとって理想的な職場といえるだろう。

多様な魅力に富んだCrunchyrollの本社オフィスは、3Dウォークスルービューで散策することができる。

5. Etsy(アメリカ/ブルックリン)

ハンドメイド作品のオンラインマーケットを展開する「Etsy(エッツィ)」は、市場の拡大にともないアメリカ・ブルックリンの本社を拡張移転した。

クリエイターと消費者をつなぐプラットフォームを提供する同社らしく、地元のアーティストや Etsy の販売者の手で作られた家具や照明が採用され、随所にアート作品が取り入れられている。

イベントスペースの天井を地元デザイナーのアートインスタレーションが飾る
オフィスに散りばめられた大胆なアート作品(画像はすべてEtsyのWebサイトより)

オフィスの構築にあたっては、オープンで美しく、インスピレーションを与える空間がめざされた。また、従業員の意見を取り入れ、従業員の働き方に合わせたスペース設計を心がけたという。

静かで緑豊かなライブラリーや、ヨガや瞑想を行うための部屋、屋外スペースなど、気分転換やウェルネスのための空間が意図的に設けられているところも特徴的だ。

明るい日差しと植物に満ちたグリーンライブラリー(書籍は映っていない)
気分を変えたいときには屋外スペースへ出て、外の空気や光を感じながら仕事ができる(画像はすべてEtsyのWebサイトより)

仕事のインスピレーションを得るには、創造性への刺激のみならず、自分と向き合う静かな時間も重要になる。数多くのアーティストやデザイナーと協働してきた同社だからこそ実現できたオフィスといえるだろう。

クリエイティビティ=奇抜なデザインではない

今回は、クリエイティビティを刺激する、個性あふれるオフィスの事例を紹介した。共通するのは、デザインが特徴的な一方で、居心地が良さそうなところだ。自社製品やそこで働くワーカーへの愛が感じられる。また、気分や仕事の内容によって居る場所(雰囲気)を選べるところも共通していた。クリエイティビティを高めるオフィスとは、奇抜なデザインを取り入れることではなく、従業員のウェルビーイングへの配慮から始まるのかもしれない。

この記事を書いた人:Naoko Kurata