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従業員リソースグループ(ERG)とは? 従業員主導でダイバーシティ&インクルージョンを推進

共通項をもつ従業員が集まり、連帯して自主的な活動を行う「従業員リソースグループ(ERG)」。ダイバーシティ&インクルージョン施策としても注目されるERGのメリットや実施のポイント、企業事例を紹介する。

従業員リソースグループ(ERG)とは何か

リモートワークの普及に伴い、相対的に価値が高まっているのが「従業員同士のつながり」だ。人と人とのつながりが、いかに企業文化や職場へのコミットメントに関わっていたのかを、多くの企業が実感していることだろう。

そこで注目されているのが、従業員リソースグループ(Employee Resource Groups:ERG)である。ERGとは、特定の共通項(性別、国籍、障がいなど)をもつ従業員が集まり、連帯して自主的に活動するコミュニティを指す。

ボストン大学ワーク&ファミリーセンターのレポートによると、ERGは1960年代のアメリカで、人種間の緊張の高まりを背景に始まった。ゼロックス社のCEOジョセフ・ウィルソン氏が黒人社員にERGの設立を促し、1970年に「National Black Employee Caucus」を発足。その10年後に「Black Women’s Leadership Caucus」を立ち上げた。

このように黒人や女性のためのリソースグループから始まり、LGBTQ+がそれに続き、現在では介護者、文化的多様性/地域、信仰、世代、子どもの有無、妊活中、管理職など、企業により多様なERGが発足されている。

ERGは、マイノリティがネットワークを築き、経験や課題を共有して、働きやすい職場環境を築くことを目的としている。近年は、そうした職場環境の改善による従業員エンゲージメントの向上のみならず、企業のブランディングやイノベーションの創出にも貢献するものへと進化している。

ERGが企業にもたらすメリット

ERGはボトムアップ型の草の根活動であり、メンバーが自分たちでアジェンダを作成し、ミッションとゴールを設定して活動する。ミーティングを定期的に行うほか、事業や社内制度のアドバイザーとなったり、イベントを開催したり、地域でのボランティア活動を行うグループもある。ERGの活動で重要なのは、こうした取り組みを社内で発信して可視化し、関心のある他の従業員を巻き込んでいくことだ。

ERGの存在感が大きくなれば、商品開発やマーケティング、業務プロセスの改善などについての話し合いの場にもなり得ることから、従業員・企業の双方にういてさまざまなメリットが期待できる。

特に近年の企業経営においては、多様な属性の人材が活躍できる組織構築をめざす「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」が欠かせない観点となっている。このD&Iと、従業員が自分らしく振る舞える環境の構築をめざすERGとは親和性が高く、企業にもたらす価値は大きい。代表的なメリットは次の通りだ。

①従業員のモチベーションの向上
従業員がお互いを尊重しながら、共に学ぶ姿勢が重視されるERGは、従業員の個人的な目標やキャリアプランのサポートになり得る。自ずと仕事へのやりがいや刺激が得られるため、高いモチベーションをもって業務に取り組む従業員の増加が期待できる。結果的に、離職率の低下にもつながるだろう。

②多様性を受け入れる企業文化の醸成
ERGでは、グループの取り組みが社内に報告・発信される。従業員同士がそれぞれの立場について理解を深めることで、自然とダイバーシティ教育がなされる。多様性を認め合う企業文化が醸成されれば、企業全体のインクルージョン推進が広がることはもちろん、従業員の企業に対する信頼度もアップする。

③新しいビジネス機会の創出
VUCA(不確実性)の時代に企業が競争優位を獲得するためには、変化を察知し、新たなビジネスを生み出すイノベーションが必要である。同質的な組織ではイノベーションが生まれにくい。さまざまなキャリアや価値観をもつ多様な人材を活かすERGのようなグループは、ビジネス戦略や事業運営に重要な貢献をするグループへ発展することが期待できる。

ERGの活動のポイントと企業事例

従業員主導の社内改革への活用も期待できるERGであるが、円滑に進めるには以下の点がポイントとなる。

・従業員のモチベーションが向上するようなプログラムの導入
・積極的なリーダーシップによるサポート
・コミュニケーションの促進に向けた活動

これらに加えて、ERGの目標の明確化、活動内容の共有なども求められる。これらのポイントをおさえて活動している、企業のERG事例を紹介しよう。

1. 世界76カ国470を超える支部でERGを展開する「Dell Technologies」

アメリカのコンピューターテクノロジー企業大手のDell Technologiesは、「より良い職場を実現する成長力」としてERGを活用している。同社には13のERGがあり、76カ国の470を超える支部で活動が行われている。2030年までに社員の50%がERGに参加することを目標としているが、すでに47%、5万4000人以上が少なくとも1つのERGに参加しているという。

画像はDell TechnologiesのWebサイトより

同社のERGは、「地域社会への貢献」「ビジネスイノベーション」「プロフェッショナルの育成」「チームメンバーの経験」の4つの主要な柱を中心とした年次プログラムに重点が置かれており、こうしたプログラムとイニシアチブの効果が社内外に認識されるまでに至っている。この成果は明確な目標設定と、全社をあげての推進により得られたものと考えられる。

ここまでERGが発展すると、そのパワーは同社のカルチャーを形づくる力をもち、社員エンゲージメントの向上を通じて、ビジネスに積極的に貢献する基盤となるだろう。

2. より細分化したERGが発足し、多くの従業員を巻き込む「株式会社みずほフィナンシャルグループ」

連結従業員数5万2420人の銀行持株会社・みずほフィナンシャルグループ。同グループでは、「新たな企業価値の創造には、多様な視点をもった社員のコネクティビティが不可欠である」という考えからERGの運営を支援している。2022年3月時点で、国内では約3000名、グローバルベースで約4000名の社員が活動しているという。

同社が国内で展開する主なERGは、女性社員のグループ「M–WIN(Mizuho Women’s Initiatives Network)」、LGBT+アライの社員グループ「M–LAN(Mizuho LGBT+ & Ally Network)」、国籍などさまざまなバックグラウンドをもつ社員グループ「MGCC(Mizuho Global Communication & Connectivity Club)」、障がいの有無にかかわらず、社員一人ひとりが最大限活躍する組織となることをめざす社員グループ「One’s Best」などである。

「MGCC」では定期的に多言語コミュニケーションや多文化理解のイベントを開催(画像はみずほフィナンシャルグループのWebサイトより)

そのほか、管理職の女性が中心となり、それぞれがもつ知見や人脈、経験などを生かして、後進の育成とサポートにつながる活動を行う「MIW–Net」や、ネットワーキングやナレッジ共有を通じて若手社員のエンパワーメントを行う「新米」など、より細分化したグループも発足している。

アイデンティティや共通の関心のもとに従業員が集い、目的達成のための自己啓発活動を通じて、自らを成長させながら所属グループの成長にも貢献する。そんな好循環の兆しを感じさせる事例だ。

3. トップダウンとボトムアップの両方でERGを支援する「アクサ生命保険株式会社」

世界50の国と地域で保険・資産運用サービスを提供するアクサ生命保険。同社は2022年11月、LGBTQ+などのセクシュアルマイノリティへの取り組みの評価指標「PRIDE指標」において、最高位の「ゴールド」を受賞した。同社の「ゴールド」受賞は3年連続となる。

受賞の理由は、LGBTQ+当事者が働きやすい職場づくりを目的とした人事制度が用意されていること、社員によるERGを中心としたLGBTQ+への理解を深めるための勉強会やセミナーの開催といったボトムアップでの活動などが評価されたものだという。

ちなみに、同社の​D&Iの推進体制は、経営トップの強いリーダーシップによるトップダウンのアプローチと、部門や現場での現状と課題を経営陣に伝えるボトムアップのアプローチの双方を重視している。

アクサ生命保険株式会社のインクルージョン&ダイバーシティの推進体制(画像はアクサ生命保険株式会社のWebサイトより)

上図の通り、スポンサーを務めるCEO、議長の人事役員および数名の役員からなる「Inclusion & Diversity Advisory Council(インクルージョン&ダイバーシティ諮問委員会)」という組織があり、ERGの活動への承認やアドバイスを行う。ERGからは同機関に報告を行うとともに人事制度やビジネスに関する提案をすることもでき、相互に密に関わる体制が築かれている。

同社の保険商品は2015年8月より、保険契約の指定代理請求人として同性パートナーを指定できるようになっている。また、公式WebサイトにLGBTQ+当事者へのQ&Aを掲載するなど、セクシュアルマイノリティの生活の質向上を支援する取り組みを強化している。ビジネスにもERGの取り組みが反映され実行されている背景には、トップダウンとボトムアップの合わせ技による強固なガバナンスがあるに違いない。

ERGには従業員の主体性を高める効果も

ボトムアップ型のダイバーシティ推進策であるERGの魅力のひとつは、従業員の主体性を自然と高められる点にあると感じる。ERGの活動を通して、役職者を巻き込んだり、活動の効果をデータで可視化してグループ外の社員に共有したりすることで、目的に向かって積極的にコミュニケーションをとる姿勢が身につくからだ。

ERGを初めて組織内で立ち上げる場合、まずは社内SNSなどを活用して、同じ立場や関心をもつ従業員同士のグループをつくってみるのも一案だ。オンラインも有効活用しながら、小さくともERGを始めてみてはどうだろうか。