LEGOがつくるハイブリッドワーク・オフィスと、新しい働き方 | WORKTECHレポート
柔軟なワークスタイルが広がる中、働く場所と働き方の見直しが課題となっている。この記事では、WORKTECH TOKYOのセッションからLEGOのオフィス事例と、新しい働き方として注目を集める週4日勤務がもたらす成果について紹介する。
Culture
ワークライフバランスの改善へ
働き方は時代に合わせて常に変わり続ける。新型コロナウイルスによる働き方の変化に加え、Z世代の嗜好が後押しするこれからのワークプレイスとはどのような形なのか。
2022年12月12日から18日までオンラインで行われたWORKTECH TOKYOでは、ワークプレイス・不動産・テクノロジー・イノベーションなど多様な分野から、国内外で活躍するスピーカーが集まり、14のセッションが行われた。各セッションを通じて浮き彫りになったのは、時代は、柔軟な働き方によるワークライフバランスの改善にシフトしているということだ。世界各地で続く新たな働き方の模索に加え、日本企業が抱えるイノベーションの課題を紹介する。
世界が注目するレゴ・キャンパス
リモートワークが普及したパンデミックを経て、多くの企業が手探りで最適なハイブリッドワークの形を追求する中、今回、注目を浴びたプレゼンテーションのひとつが、2022年4月にオープンし、話題となったレゴ・キャンパスの紹介だろう。
LEGO Workplace ExperienceのTim Ahrensbach氏によると、レゴ・キャンパスの計画が始まった2016年時点では、各地に点在するオフィスを一つにまとめ、コラボレーションの向上やオフィススペースの効率化、コミュニティの構築を行う予定だったという。
しかし、パンデミック中にリモートワークが広がったことで構想を練り直し、新たなコンセプト「Best of Both」に至った。社員の生活状況と好みの働き方をとりいれつつ、ワークプレイスを通じた企業カルチャーの維持も可能にしていることから、「両方のいいとこ取り」を意味するこのコンセプト名がついた。
現在、レゴでは原則週3日はオフィスで働き、残り2日間は働く場所を選択できるハイブリッドな働き方をグローバルで実施している。
ワーカーはオフィスワークに何を求めるのか
リモートで働いても生産性は下がらなかったのに、なぜオフィスに来て働かなければならないのか。パンデミックを経てこうした疑問を社員から投げかけられることもあったという。しかし、レゴでは組織の一員である限り同僚を尊重しチームを支える責任があると捉え、オフィス出勤を完全に無くす考えはなかった。
ワーカーにとってこれは納得できる回答にはならない。そこでAhrensbach氏のチームは、オフィスで働くからこそ得られる利点を洗い出すことから始めた。
レゴがパンデミック期間中に社員を対象に行った調査では、オフィスで働くことの長所として、「同僚とのインタラクション」「コラボレーション」「アジャイルワーク」「対面のミーティング」「クリエイティブ思考」が上位に選ばれた。いずれもコラボレーションに関わる項目で、ボストンコンサルティングを含む他の機関が行った調査でも似たような結果が出たという。
また、ワークプレイスで行う重要な活動としては、「ソーシャルインタラクション」「コラボレーション」「企業と企業バリューとのつながり」「クリエイティブ思考」「グループでの学び」が上位に挙げられた。こちらもオフィスで働く長所の延長線上にあり、交流やコラボレーションに関わっていることがわかる。
最適なハイブリッドワークを実施するためには、ワーカーがオフィスワークに求めるものを明確化した上で、物理的スペースだけでなく、組織としても対応する必要がある。レゴでは調査結果をもとに、オフィスが適した業務とリモートでできる業務をリスト化し、各業務をいつ、どこで、どのような形で遂行するのが最適かを整理した。
「Best of Both」がコンセプトのレゴ・キャンパスは、デスク、コラボレーション、ソーシャルスペースが1:1:1の割合で設計されている。(画像はLEGO GroupのWebサイトより)
ハイブリッドワーカーとオフィスワーカー両方の働き方を考慮して行き着いたのが、作業用のデスクスペース、チームでのコラボレーションスペース、交流用のソーシャルスペースが同等の割合で振り分けられたプランだった。従来のオフィスでは、デスクスペースが床面積の大半を占めていたことを考えると大胆なシフトである。
レゴ・キャンパスのソーシャルスペースが果たす役割
レゴ・キャンパスで語られる「ソーシャルスペース」とは、どのような場所なのだろうか。1万2000平方メートルにもわたるこの空間は、社員の交流のために設けられた。レゴのブランドはブロックにとどまらず好奇心や遊び心が軸にある。そのため、このスペースは社員がクリエイティブな活動を通じて、会社のバリューとつながることができる空間となっている。
また、ワーカー同士が自然な交流を通して、一緒に学ぶ場所としても機能することが期待されている。こうした活動を後押しするため、ソーシャルスペースには距離感を縮めるためのデザインが施されているほか、アクティビティを通じてワーカーのコミュニティづくりを支援するフルタイムのスタッフが2人おかれている。
オフィス内には、レゴブランドをさまざまな形で体感できる工夫が施されている。(画像はWORKTECH ACADEMYのWebサイトより)
これらの工夫の結果、ワーカーのウェルビーイングが高まっただけでなくエンゲージメントも向上した。レゴ・グループで働いていることを実感し、企業ブランドやバリューとのつながりを感じるためにも、オフィス勤務が必要だとワーカーに感じてもらえるようになったという。
新たな時代を象徴するレゴ・キャンパスの哲学には、他企業にとっても参考になるアイデアが詰まっている。Ahrensbach氏は最後に、今後も社員からのフィードバックをいかしてより良い形に変えていくと語り、セッションを締めくくった。
今後は、ワークプレイスへの企業文化の反映が必要に
企業にとって、レゴ・キャンパスのようなワークプレイスの変貌はなぜ必要なのか。ひとつは優秀な人材確保のための企業ブランドの確立だ。
Landor & Fitchのアジア太平洋地域エクスペリエンス・クリエイティブ・ディレクターのApolline Picot氏によると、パンデミックにより、多くの人がそれまでの伝統的とも言える働き方に見切りをつけ、より柔軟な仕事の仕方を求めているという。2020年には起業する人の数が世界的に上昇し、自分の好きなときに働けるギグワーカーへと転向する人も増えた。そのため、企業にとっては優秀な人材の確保・保持が大きな課題となっており、競争はさらに激しくなると予想されている。
このような状況を受けてPicot氏は、個人の生活スタイルに合わせた働き方を提示できることが、今後は重要性を増すと語っている。ここで大切なのが、必ずしも「柔軟な働き方=ハイブリッドワーク」ではないということだ。
例えば、介護や育児を行いながら働いている人と、扶養家族のいないZ世代では求めるものが異なる。前者にとっては、働き方や働く場所の柔軟性に加え、休職後も復職しやすい体制があることが理想的だ。一方、後者であるZ世代は仕事に目的や使命感を求める傾向が強く、コミュニティの一員という実感を得られるワークスペースでの活動も重視する。また彼らにとっては柔軟に休暇を取れることも大切だ。
そこで重要となるのが企業文化の構築だという。Microsoftでは「成長のマインドセット」が企業文化とマッチすると考え、社員がさらに学び、コミュニケーションを通してアイデアを交換するにはどうしたらいいのかを追求。ワークプレイスのデザインに工夫を施し、学びやコミュニケーションを促す空間を設置している。さらに、Studio O+AのPrimo Orpilla氏も、ワークプレイスには企業文化やブランドを的確かつ効果的に伝えるためのストーリーテリングが重要だと述べた。
週4日勤務の導入でより魅力的な企業へ
新たなワークプレイスの形に加え、勤務時間に関しても再考が必要な時期にきているのかもしれない。そう問いかけるのは、Perpetual Guardianの創設者、Andrew Barnes氏だ。
オープンプランのオフィスなどでは平均11分おきに仕事が中断され、元のペースに戻すには22分かかるという研究結果がある。Barnes氏は、週5日から週4日勤務に切り替えることでこうした時間のロスを防ぐように仕事のやり方を効率化でき、1日余分にプライベートの時間を充実させることができるのではないかと考えた。
そこで、2018年初旬にPerpetual Guardianでは8週間限定で週4日労働制のトライアルを実施。その結果、「生産性が120%アップ」「スタッフのストレスが15%ダウン」「職場が活性化し向上心が40%アップ」「リーダーシップ、コミットメントが飛躍的に改善」「仕事と家庭のバランスが改善」「チームワークが改善」などの驚くべき効果が得られたという。
週5日分の仕事を4日で完了させるためにどうすれば良いのかを考えたことで、変化に対応する力やチームのクリエイティビティ、パフォーマンスなどが大きく改善したのだ。こうして培われた対応能力は、パンデミック下でもいかされ、生産性に問題が出なかったばかりか、同社では過去最高益も記録した。
この実験以来、Perpetual Guardianでは週4日労働を続けている。「100%の給与、80%の時間で100%の仕事をする」というルールに則り、自分のペースで週32時間、フレキシブルに働く。3日休む と仕事に支障が出る場合は半日出社を2日に分ける、もしくは短縮出社を5日に振り分けるのもありだという。
社員たちは、40時間分の仕事をどのようにして32時間で完了させているのだろうか。Barnes氏によると一日のうち高い生産性を保てるのは3時間だが、これを45分伸ばすことで5日分の仕事量を補えるという。これは、仕事に没頭できる静かな環境と邪魔をされない時間の設置、そして無駄な会議の廃止で可能であることがわかった。
週4日勤務の取り組みは次第に他の企業にも広がりはじめ、世界中の企業で実施されているほか政府機関でも検討が行われている。実施した企業では従業員が健康でハッピーかつリラックスした状態で仕事ができるようになり、充分な休息が取れるためミスが少なくなったという結果もある。また、病気による欠勤が減り、採用申し込みが増えた企業も複数ある。ワークライフとホームライフのバランスをとることで生産性が上がり、企業としての魅力も増すのだ。
「長時間働く」=「一生懸命働く」だったのはすでに前時代の発想だとBarnes氏は語る。若いZ世代にとっては、「効率よく働く」ことこそ「一生懸命働く」と同義なのである。
イノベーションに関する日本企業特有の課題とは
最後に、「異なるアプローチによる持続可能なイノベーションとは」を議論したパネルディスカッションで挙げられた、日本企業の課題を紹介しよう。モデレーターは、東京をベースに活動する、People Focus Consulting の組織開発コンサルタントでポッドキャスト「Humans at Work with Michael Glaze」クリエーター兼司会のMichael Glaze氏が務めた。
日本の現状について、パネリストのBentoBox Innovation創設者・CEOのTom Pedersen氏はイノベーションが足りていないと語った。また、FinMiraのジェネラル・パートナーであるSteve Monaghan氏はこうした状況の原因として、ITをはじめとした教育が確立されておらず、役員クラスにおいても経験が足りていないことを挙げている。
そのため新しいアイデアが出ても、決定権を持つ者が理解できないために承認せず、知ろうとせずに却下してしまうのだ。時代の流れに合わせて新しいテクノロジーを採用するものの、自社事業には役に立たず、無駄になるケースも少なくないという。
また、新たな事業案が持ち上がると日本企業では長期におよぶ広域かつ綿密な調査を行う傾向があるが、これは根本的に間違った対応だと指摘する。そうした調査は実現不可能であるばかりか、特に進化の早いテクノロジーの分野においては決定した時点ですでに時代遅れとなってしまうのだ。
日本企業が陥りがちな状況の打開策として、Pedersen氏はシンガポールのDBS銀行の例を紹介した。DBSではサービスの大改革を行うため、テクノロジーに精通した新入社員を経営陣のメンターとして採用。ソーシャルメディアの使い方をはじめとする最新のテクノロジー事情を率先して学ばせた。その結果、デジタルネイティブが提案するアイデアを正しく理解・判断できるようになり、イノベーションに成功したという。
基本的なテクノロジー能力を有する人材が2025年までに43万人不足するとされる「2025年の崖」問題に直面する日本。ワーカーの言葉に耳を傾け、柔軟な対応によって企業文化を育むべきときが来ているのではないだろうか。そのためのヒントが多く得られたWORKTECH TOKYO 2022だった。