デザイン思考の実践に役立つ4つのオフィスアイテム
デザイン思考に興味を持つ、または取り入れ始めたばかりの企業にお勧めしたいオフィスアイテム4つを紹介する。
Facility
「デザイン思考」という言葉が世間に浸透しつつあり、ワークショップを通じてその考え方を導入する企業が増えているが、実はそのワークショップを行う環境もまた重要である。今回はアメリカ西海岸の超有名スタートアップをはじめ、様々な企業でより活発な議論を促進するために用意されているデザイン思考の環境作りを紹介する。
デザイン思考を再確認
デザイン思考を理解する上で大前提として必要なのは、ここで使われる「デザイン」の意味を把握することである。その定義は1つに収まらない。
「デザイン」と聞いて最初に思い浮かぶのが、「見た目の良さを追求する行為」。デザイナーによる自己表現の場としてのイメージが最初に来る人が多いのではないだろうか。
「デザイン思考」という時に使われている「デザイン」という言葉はそういったデザイン作業そのものではなく、ユーザーや顧客を深く理解し、問題解決を行うというデザインの本質的な意味合いやデザイナーのマインドセットの部分を指す。そのため、技術起点やビジネス起点で開発をするのではなく、常にユーザーを中心に考え、彼らの問題解決に向けてプロトタイプと改善を繰り返して、常により良いプロダクトを目指すのが大きな特徴である。
Hasso Platnner Institut d.schoolのウェブサイトより引用
デザイン思考と環境づくりの関係性
このようにデザイン思考は、ユーザーとの密なインタラクションを基に得た情報を社内で整理した上で、彼らの問題を解決するためのアイデアを活発に出していくという作業が中心になることから、通常の会議室とは少し異なるクリエイティブな環境が必要になる。デザイン思考発祥の地、d.schoolでもその特徴を前面に押し出したスペースを用意しており、先日別の記事でも紹介した書籍『Make Space』に彼らの環境づくりの取り組みが事細かに書かれている。
この本の冒頭において、職場における上下関係がオープンな会話を妨げるとして、いかに社員全員が対等に会話できるような環境を目指したか、という記述がある。「d.schoolの教室をのぞいて見ても誰が教授で誰が学生か見分けるのはほぼ不可能だと思う」とあるように、目標はあくまでユーザーが抱える問題の解決であって、それを達成するために皆が平等な関係でブレストを行っていくというのは重要項目の1つだったようだ。
そのような環境をどのように作ることができるのか。実はその環境を作ることは決して難しいわけではなく、身近なオフィス用品で整えることができる。
デザイン思考を進めるのに必要な4つの道具
必要なものは基本的に次の4つである。
・付箋
昔からアイディエーションでよく使われてきたこのアイテムは、個人のアイデアをグループで共有するときに最適なものである。ポストイットが代表的なものであり、今では大きさにもバリエーションがあって、それぞれ用途にあった使い方が可能である。
・マーカー
これは説明不要だろう。付箋に書く文字を太くすることでアイデアの共有もスムーズになる。
・アイデアペイント
アイデアペイント公式ウェブサイトより引用
壁に塗料を塗って自作で「書ける壁」を作ることが可能。ホワイトボードよりも幅広いスペースに書き込むことができるためアイデアを膨らませやすい。もちろんホワイトボードでも代用できる。
余談であるが、先日インタビューを行った世界的オフィスデザイナー、Primo Orpilla氏はこのアイデアペイントを移動型バンの車内に施し、実際にアメリカ国内の様々な場所でアイディエーションを行ったという。
関連記事:【Primo Orpillaインタビュー#1】Studio O+AのPrincipalに聞く、西海岸流オフィスデザインの原点とは
・イーゼルパッド
アマゾンの商品ページより引用
巨大版ポストイット。イーゼルとはもともとデッサンで使われるスタンドのことを指すが、ここでも個人用キャンバスになる。また上記のアイデアペイントやホワイトボードで書くスペースがなくなったときには、壁に貼り付けて付箋を貼ったりマーカーで書き込んだりするスペースを増やすことができる。
「4種の神器」の活用例
上記のものがデザイン思考プロセスの中でどのように使われているのか。実際にサンフランシスコのワークショップで使われている様子を紹介する。
上の写真はエンパシー・マップを作成している様子である。エンパシー・マップとは、ユーザーが見聞きし、考え、実際に行動していることを仕分けし、情報を整理する時に使用するフレームワークのことである。
デザイン思考のプロセスにおいて、ユーザーのためのプロダクトを作るには、ユーザーの潜在的ニーズを掘り起こすことが重要になる。特定のユーザーが抱えている問題を自分で体験してみる、彼らがどのように生活しているかを観察もしくは直接話を聞いてみる、といった方法を通して、彼らが抱えているニーズを洗い出すのである。
そしてこの整理した情報から「ユーザーが不都合・苦痛に感じるだろう」というものを”Pain”リストに、逆に「ユーザーが喜び、便利だと感じるだろう」というものを”Gain”リストにそれぞれ書き込むことで、解決すべき問題を特定する。
この事例からエンパシー・マップ作成において、上で挙げた4つのアイテムを実際に使っているのがわかる。まずアイデアペイントに図を書き込み、そこに全員で付箋を貼っていく。
付箋に書かれた文字にはある程度個人の筆跡の特徴が出るものの、誰のものかまでは特定しづらい。同じ色の付箋にそれぞれ書き出すことで自身の発言力等に物怖じすることなくアイデア出しをすることができる。平等な発言権を確保できる環境を演出しやすい。
もしワークショップ形式で参加者全員がそれぞれ自身のビジネスのターゲットユーザーへの共感を行うのであれば、イーゼルパッドに図を描いて付箋を貼っていくことも可能。アイデアペイントのスペースを全員に提供しなくても開催できる。
付箋は貼り直していくことが可能なので、出たアイデアを最終的にカテゴライズをすることで情報を整理し、すぐに議論に移ることができる。目の前で出たアイデアを全員で確認しながら、効率の良いミーティングを行うことが可能だ。
これはデザイン思考ワークショップのほんの一部であり、この後もこの4つのアイテムを駆使しながらアイデアを膨らませていくことになる。
このように身近なものを使ってデザイン思考の環境を整えることができる。デザイン思考に興味を持ち始めた、取り入れ始めた企業にこそ、ぜひ会議室にこれら「4種の神器」を取り入れることをお勧めしたい。