サウナブームがオフィスにも? 導入企業5社にみるサウナの価値
近年のサウナブームの影響から、オフィスにサウナをつくる企業も出てきている。サウナを導入した企業5社の事例を紹介し、期待される効果を解説する。
Culture
コロナ禍を経てもサウナブームは継続
近年、さまざまなメディアで目にする機会が増えた「サウナ」。ドラマや漫画などの題材にもなり、人気を博している。
2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞」では、サウナに関連する「ととのう」という言葉がノミネートされた。「ととのう」とは、サウナ、水風呂、休憩を繰り返すことにより多幸感が得られた状態のこと。この感覚を求めてサウナに通う愛好家の間でよく使用される言葉だ。
では実際のところ、サウナの利用者は増えているのだろうか。 一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所が毎年行っている「日本のサウナ実態調査」よると、サウナ利用者はコロナ禍の影響を受けて減少している。
画像は一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所のプレスリリースより
しかし、その内訳をみると、減少したのは「ライトサウナー」といわれる年に1回以上サウナに入る層が中心であった。月に1回以上サウナに入る「ミドルサウナー」と月に4回以上サウナに入る「ヘビーサウナー」では微減にとどまっており、根強いサウナ愛好家がいることがうかがえる。
また、ソーシャルワイヤー株式会社が行ったTwitter投稿調査によると、「サウナ」というワードを含む月間のTwitter投稿数は、2020年1月に21万6582件であったのに対して、2022年6月には61万66件に増加しており、約280%の大幅な増加をみせている。
同社は、コロナ禍を経てもサウナブームは継続しており、新たに個室型サウナという業態が誕生したこと、サウナを楽しむ女性が増加傾向であることから、サウナ市場全体が拡大しているとみている。
サウナが仕事にもたらす効果
サウナの本場であるフィンランドでは、どの家庭にもサウナがあり、小さなワンルームマンションであってもサウナが備えられているという。また、オフィスや官庁、市役所、学校、病院などにも共用サウナがあることが珍しくない。
日本でも、サウナブームの高まりを受け、オフィスにサウナを設ける企業が現れ始めている。心身のリフレッシュが期待されるサウナが仕事にもたらす効果として、以下のようなことが挙げられる。
1.ワーカーのウェルビーイングに貢献
「ウェルビーイング」とは、身体的・精神的・社会的に良好で幸福な状態を表す概念のこと。オフィスでサウナを気軽に利用できる機会をワーカーに提供することは、ひとつの福利厚生となる。採用活動におけるアピールポイントにもなり得るだろう。
2.社内外のコミュニケーションを円滑化
フィンランドには「サウナ外交」という言葉がある。要人たちが狭くて暑い濃密な空間を共にしながら親交を深めることで、国内外の論争を解決してきたそうだ。企業運営においては、社内のチームビルディングはもちろん、社外のビジネスパートナーのおもてなしにも活用できる。
3.非日常的な空間がイノベーション創出に寄与
サウナ空間ではデジタルデトックスができるほか、マインドフルネスの機会にもなる。余計なものがない研ぎ澄まされた室内で自分に向き合うことで、普段は思いつかないようなビジネスアイデアが浮上することもあるかもしれない。
導入企業5社にみる「オフィスサウナ」活用法
実際にサウナをオフィスに導入した企業では、サウナをどのように活用しているのだろうか。事例を紹介しながら活用法を考察したい。
1. フィンランド式サウナで働きがいを促進「株式会社タマディック」
自動車や航空・宇宙分野における総合エンジニアリング企業・タマディック。同社は2021年、東海エリアの事業拠点である愛知県名古屋市に建築家・坂 茂氏の設計による木質免震構造オフィスビル「タマディック名古屋ビル」を竣工した。その8階には、社員誰もが利用できるフィンランド式サウナが設置されている。
画像は坂茂建築設計のWebサイトより
タマディックでは、「働きがいのある職場の実現」と「健康保持・増進」を重点施策として、健康経営に取り組んでいる。サウナ導入の目的についても、社員の健康促進効果、社員間のコミュニケーション活性化、集中力の向上などによるエンジニアリング業務の効率化を挙げている。
NewsPicksトピックス「フィンランド通信: サウナからmoi!」によると、代表取締役社長の森實敏彦氏はサウナ愛好家であり、自らフィンランドまで赴き、現地企業のサウナを視察。「世界幸福度ランキング」で常に上位に入るフィンランドの働き方とサウナ文化の双方にインスピレーションを受け、オフィスへの本格導入を決意したという。
日本初のフィンランド大使公認オフィスサウナとなった同社のサウナには、視察見学やメディア取材の依頼が相次いでいる。サウナが、同社の働きがい促進や健康経営への姿勢を象徴するアイコンになっているともいえそうだ。
・サウナでステークホルダーとの関係性を深める「株式会社はたらクリエイト」
長野県上田市に本社を構え、オフィス業務代行サービスを提供するはたらクリエイト。同社の佐久オフィスには、信州の大自然が感じられるテラスや焚き火台とともに、サウナ小屋が設置されている。
画像は株式会社はたらクリエイトのWebサイトより
はたらクリエイトのサウナは、社員が自由に利用できることはもちろん、クライアント企業や同社に興味をもったワーカーによるワーケーションや社内研修などを歓迎しているところが特徴だ。同社では、社員をはじめ同社を応援する人たちにサウナ愛好家が多く、またIT系ビジネスパーソンを中心としたサウナブームも考慮して、社外との関係性をさらに強化するためのツールとしてサウナを導入したという。
同社のメインサービスである「banso.」は、社外に専属チームをつくる感覚で利用できるオフィス業務代行サービスだ。クライアント企業に伴走するチームであるために、まずはスタッフ同士でチームビルディングやコミュニケーションを活性化するための取り組みを積極的に実施しており、サウナもその一環となっている。オンラインで完了するコミュニケーションが増えるなか、広大な自然の中で、サウナや焚き火を通したリアルな交流によって得られるものは大きいだろう。
・オフィスに「働く」以外の付加価値を提供する「TheaterWww」
「泊まれる映画館」をコンセプトにしたホステルの企画から運営までを行うなど、新しい感性で不動産企画開発を手掛ける蒼樹(ソーウッド)株式会社。同社が2022年4月、東京・東日本橋にオープンしたのが、サウナ併設のライフスタイル型オフィス「TheaterWww(シアターウー)」だ。
TheaterWwwは「働くがととのうオフィス」をコンセプトに、人とのつながりを広げるコミュニケーションサウナ、家のようにくつろげるリビング型オフィス、自然豊かなコワーキングスペースなどを設置。オフィスをただ働くための場所ではなく、人生を豊かにする舞台と捉え、暮らすように働くスタイルを提案している。
画像は蒼樹株式会社のWebサイトより
併設のサウナは、最大3名と最大6名の個室があり、肩まで浸かれる水風呂も設置。通常は貸し切りプライベートサウナとして運営しており、特定の時間帯のみオフィス入居者に限定して開放している。茶室に見立てた独創的な空間デザインで、新たなアイデアが浮かんだり、仲間との絆が深まったりといった効果が期待されている。
また、定期的に入居者向けのサウナ内でのミートアップを実施。参加者同士がつながるためのきっかけづくりも行っている。リモートワークなど新しい働き方が定着するなかで、オフィスに行く意義をサウナを通じて発信しているところが特徴だ。
・アウトドアサウナでビジネスパートナーをもてなす「三星グループ」
テント型サウナやトレーラー式サウナ、サウナ小屋など、近年、アウトドアサウナの人気が高まっている。企業でもこれを導入する動きがあり、その先駆けが岐阜県羽鳥市に本社を構える三星グループだ。
テキスタイルメーカーの三星毛糸株式会社と樹脂加工を行う三星ケミカル株式会社を中核とする同グループでは、除草目的で羊を飼うほど広大な敷地を所有。テント型サウナを設置して、訪問するゲストにサウナ体験を提供しているという。
画像は三星毛糸株式会社より提供
テント型サウナは、サウナで火照った体を自然の解放感の中で冷ますことで、心身のリラックスを得られる点が魅力とされる。同社ではこれに加え、天然地下水のシャワーを用意したり、敷地内で収穫した甘夏を使ったサイダーを提供したりと、アウトドアならではの楽しさでゲストをもてなしている。
本場フィンランドでは商談や接待をサウナで行うことがあるというが、アウトドアサウナを通じたコミュニケーションは、キャンプの魅力もあいまって、ビジネスパートナーとの絆をさらに深める効果がありそうだ。
・移転プロジェクトをサウナで盛り上げた「株式会社ジンズホールディングス」
アイウェア事業を展開するジンズホールディングスでは、2023年の本社移転にあたりサウナを導入する計画を立てている。本社移転プロジェクトがめざす「もっと自由なオフィスに」「来たくなるオフィス」という方向性を踏まえ、代表取締役CEOの田中仁氏が提案したものだ。
同社では、本社移転の経緯や進捗を自社Webサイトで連載記事として公開。サウナ構想についても詳細にレポートしており、社内で開催した、サウナに詳しい医師を招いてのサウナ講習会の様子も記事化している。
同イベントには現地参加のほか、グローバル支社からのリモート参加もあり、およそ200名の社員が参加したという。オフィス移転という一大プロジェクトにおいて、「オフィスサウナ」というユニークなアイデアが社員の関心を呼んでいることがうかがえる。
検討を経て同社では、もともと事業部オフィスを予定していた最上階の9階部分を、社員用サウナにあてる計画を立てている。6人用と1人用のサウナを導入し、フィットネスやヨガができるスペース、ゆったりくつろげるラウンジも用意する予定だという。サウナ構想が、新オフィスのコンセプトを実現する起爆剤となった一例だ。
新たなコミュニケーションツールとしてのサウナ
今回紹介したオフィスへのサウナ導入事例から見えてきたのは、サウナがコミュニケーションツールとして機能していることだ。サウナ愛好家にはIT関連のワーカーが多いともいわれているが、オンライン中心のワークスタイルが浸透するにつれ、濃密に同じ空間を共にするサウナのような体験の価値が相対的に上がっているのかもしれない。
また、取り上げた事例では企業トップがサウナ愛好家であるケースが多く、それがサウナに関心をもつ社員やクライアントとの接点になっていることも興味深かった。まさに“裸の付き合い”となるサウナ内では、上も下もない、フラットな関係性がつくりやすいのだろう。今後、働き方の多様化がさらに進めば、サウナはより存在感を発揮するはずだ。